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‘Hang [Hold] on.’―『英語談話表現辞典』覚え書き(57)―

2011年 10月 13日 木曜日 筆者: 内田 聖二

前回は‘Wait a moment.’を中心に「ちょっと待ってください」という意の言い方を考えてみました。この表現は文字通り「待ってくれ」という直接的に要請するものですが、次のように、電話口で待機を要請する表現としても用いられます。本辞典からの引用です。

5 〈電話で〉ちょっと待ってください:“I want to speak to the manager, please.” “Wait a moment, please. He isn’t here now, and I’m afraid he is at the meeting.” 「部長さんとお話がしたいのですが」「少々お待ちください. ただ今席をはずしておりますので, 会議中ではないかと思います」.

電話口での同じような意味は hold を使って表すこともできます。基本的な表現は‘hold the line’という言い方です。次は三省堂コーパスからの用例を改変したものです。

‘Hello, is Harry Bild there?’ ‘I’ll see if he’s in the office. Who’s calling?’ ‘George, George Jobs.’ ‘Hold the line, please.’ 「もしもし、ハリー・ビルドさんはおられますか」「在室かどうか確認してみます。どちら様でしょうか」「ジョージ、ジョージ・ジョブズです」「お待ちください」

‘the line’を省略した‘hold on’のほうがよく使われます。同じく三省堂コーパスからのものです。

(電話している母に)‘I’m going out for a few hours.’ (電話の相手に)‘Hold on a minute.’ (出かけようとしている息子に) ‘Where you going?’「しばらく出かけてくるよ」「ちょっと待ってね」「どこへ行くの?」

この電話口での言い方には‘hang on’という表現のほうも頻繁に用いられます。これは電話を受話器に置かないように要請する‘hang on the line’という言い回しからきています。本辞典からの引用です。

1 〈電話で〉切らずにそのまま待つ(◆しばしば命令文で):“Hello.” “Hello. Is Linda there?” “Hang on a second.” 「もしもし」「もしもし. リンダさんはおられますか?」「ちょっとお待ちください」 《サリーへの電話を取り次いで》 Sally is on the other phone. Would you like to hang on? サリーは別の電話に出ています. このままお待ちになりますか?

この hang on はほかにもいろいろな意味で広く用いられます。以下も本辞典からのものです。

2 待ってくれ(◆命令文で):Hang on! I’ll be with you in a minute! ちょっと待ってよ! すぐ行くから.

3 〈相手の言い方に抗議して〉ちょっと待ってよ, その言い方はないでしょう(◆命令文で):Hang on, who are you calling a liar? ちょっと, 誰をうそつき呼ばわりしてるのよ.

4 〈話題を転換して〉あれ, おやちょっと(◆命令文で):Good morning, Mr. Jones. Hang on, you’ve got something on your shirt. おはようございます, ジョーンズさん. あれ, シャツに何かついてますよ.

いずれも hold on で言い換え可能ですが、三省堂コーパスで‘Hang on a minute.’と‘Hold on a minute.’の頻度を比較してみますと、前者のほうがやや頻度が高いという結果が出ました。また、イギリス英語とアメリカ英語という観点からみますと、‘Hang on a minute.’ではほぼ互角ですが、‘Hold on a minute.’ではアメリカ英語のほうで頻度が高いようです。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

【編集部から】

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2011年 10月 13日