地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第184回 山下暁美さん:広島の方言

筆者:
2012年1月14日

勢い良く自転車を走らせているのは、競輪のポスターです【写真1】。「ぶちカマシチャリんさい。」の広島弁の説明も書かれていたのでそれを参考にご紹介します。「ぶち」は「すごく、とても」など、強調の表現で「ぶちはがええ」(すごく腹が立つ)などと言います。

「カマシ」はチャンスをねらって一気にスパートをかける戦法を意味します。また「~シチャリんさい」は「~してあげなさい」というやさしい命令形です。親しい相手を励ましているようです。「チャリ」(自転車・チャリンコの略・詳しくは第43回参照)と「~シチャリ」(~してやり)をかけています。

(画像はクリックで拡大します)

【写真1 「太平洋ぜよ」】 【写真2 「のりんさいくる」】
左:【写真1 「ぶちカマシチャリんさい。」】
右:【写真2 「のりんさいくる」】

「のりんさいくる」【写真2】もよく似た例です。「乗りんさい」(乗りなさい)と「サイクル」(自転車)に方言をじょうずに乗せています。

さて、次の【写真3】はおみやげとして販売されていました。真っ赤な布にハートマークの鯉が泳いで、「恋じゃけえ」と書かれています。宮島のもみじも描かれています。広島弁は「じゃけえ」「じゃけん」「じゃけえの」(だから)などを文末に使います。

【写真3 「恋じゃけえ」】 【写真4 「はんざき」】
左:【写真3「恋じゃけえ」】(クリックで拡大)
右:【写真4「はんざき」】(クリックで全体を表示)

「はんざき」【写真4】というのは「オオサンショウウオ」の別名ですが、広島市に日本一大きいオオサンショウウオの標本があることから、「はんざき」のいろいろな動作が広島の方言絵葉書で紹介されています。「はんざき」とは、からだを半分に裂いても生きていそうだからとか、からだが半分にさけるほど口が大きいなどという由来があります。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。