ドナルド・マレー(1)
2012年 1月 26日 木曜日 筆者: 安岡 孝一タイプライターに魅せられた男たち・第23回

遠隔タイプライターの父、マレー(Donald Murray)は、1865年9月20日、ニュージーランドのインバーカーギルに生まれました。オークランド・グラマー・スクールで中等教育を終えたのち、マレーはリンカーン農業カレッジに進学したのですが、どうも農業が肌に合わなかったらしく、そこを2年で退学しています。その後、ヨーロッパを2年間ほど放浪したマレーは、オークランドに戻ってニュージーランド・ヘラルド紙の記者として働きはじめ、タイプライターの技術を身につけました。同時に、ニュージーランド大学のオークランド・カレッジに入学し、1890年12月にニュージーランド大学の学士号を取得しました。
翌年2月、マレーはオーストラリアに渡り、シドニー大学文学部の論理学・心理学・倫理学・政治哲学科(School of Logic, Mental, Moral and Political Philosophy)修士課程に編入学します。そこでマレーは、電信技術を学ぶことになりました。シドニー大学には当時、文学部以外に、法学部と医学部と理学部があり、電磁気学の授業も開講されていたのです。モールス電信の原理を知ったマレーは、タイプライターを電信に応用できないか、と考えました。この頃マレーは、シドニー・モーニング・ヘラルド紙の編集者としても働き始めていたのですが、各支局と電信をやりとりするためには、いちいちモールス電信のオペレーターを介する必要がありました。でも、タイプライターを送受信機にできれば、モールス電信には素人の記者や編集者でも、直接、記事のやり取りがおこなえるはずだ、と考えたのです。
電流の+と-の組合せでアルファベットを表そうとした場合、たとえば「P」に対しては「-++-+」という5つの電流で表すということにすれば、最大32種類の組合せが可能なので、A~Zの26種類には十分なはずです。そこで、回路上は5つの電流で1文字を表すことにしておいて、それとタイプライターのシフト機構を組み合わせれば、小文字a~zの26種類や、あるいは他の26種類の文字を、どんどん切り替えて送受信することも可能になるはずです。このアイデアを、マレーは、シドニー大学在学中の1892年11月2日、アメリカ特許として申請しました。そして、1892年12月にシドニー大学の文学修士を取得した後も、オーストラリアに残って、シドニー・モーニング・ヘラルド紙の編集者を続けたのです。
(ドナルド・マレー(2)に続く)
【筆者プロフィール】
安岡孝一(やすおか・こういち)
京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)、『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。
http://slashdot.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。
編集部から
安岡孝一先生の新連載「タイプライターに魅せられた男たち」は、毎週木曜日に掲載予定です。
ご好評をいただいた「人名用漢字の新字旧字」の連載は第91回でいったん休止し、今後は単発で掲載いたします。連載記事以外の記述や資料も豊富に収録した単行本『新しい常用漢字と人名用漢字』もあわせて、これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。







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