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地域語の経済と社会 第294回 カレンダー2種(京都とミラノ)

2014年 3月 1日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第294回 カレンダー2種(京都とミラノ)

 今回は京都方言とミラノ方言のカレンダーを紹介します。どちらも方言をイメージしてレトロ調です。

(画像はクリックで拡大)
【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

 京都方言のカレンダー(株式会社第一紙行発行)は昨年末文具屋さんで見つけたものです。このカレンダーは、謄写印刷のようにかすれ、ムラを生かしたカレンダーです。1か月に一つ方言が紹介されていますが、小文字でその表現を用いた会話もあります。

 【写真1】は今年の5月で「どないしょ」です。下の隅に〈「どうすればいい?」を意味する京言葉。もちろん逡巡や挫折の質疑表現ではあるが、むしろ自問に近い。解決法は見えているが、その方法を採りたくないときに使う。〉と説明書きがあります。常識的な訳に加えて京都人の心理を説明しています。

 制作者は、『京都人だけが知っている』『京〈KYO〉のお言葉』などの著者入江敦彦氏です。シェークスピアの作品「ハムレット」の台詞で“To be or not to be, that is the question…”は有名な独白ですが、入江氏は「どないしょー、どないしょかなぁ。…どないしょォ?」と京都語(入江氏による)に訳しています。京都語には幅があり、また曖昧で、相手に解釈を預けてしまう言葉であると述べています(『イケズの構造』新潮社より)。5月がなぜ「どないしょ」なのかは「京都人だけが知っている」のでしょう。

 イタリアの方言カレンダーについては、第122回でトリノ周辺のピエモンテ方言の例がとりあげられました(『魅せる方言』三省堂 p.194)。【写真2】は、イタリアの輸入品を扱っている店で買ったものです。今回紹介するのはトリノから東へ約120キロ離れたミラノ(トリノから特急で1時間半)のロンバルディア方言のカレンダーです。

 イタリア語は大きく6つの方言に大別され、ミラノで話されている言葉はロンバルディア方言と呼ばれています。ロンバルディア州とトリノのあるピエモンテ州は隣接していますが、カレンダーを見比べると異なった点が見られます。第238回では10月がとりあげられていますので比較するためにロンバルディア方言のカレンダーも10月にしました。

 曜日の呼び方などに違いがあります。標準イタリア語(以下(標))で日曜日は、“Domenica”ですが、ロンバルディア方言(以下(ロ))では、“Domenega”, ピエモンテ方言(以下(ピ))では“Dumìnica”です。同様に水曜日は、“Mercoledì(標)” “Mercoldi’(ロ)” “Mèrcor(ピ)”、土曜日は、“Sabato(標)” “Sabet(ロ)” “Saba(ピ)”です。

 カレンダーの上の左から2つ目のコラムは10月にちなんだことわざです。 そういえば、沖縄の日めくりカレンダーにもことわざが書かれていました。“Se fà bell el di’ de san Gall, el fà bell finn’a Natal.(10月16日St.Galloの日がよい天気ならクリスマスまでよい天気が続くだろう)”と書かれています。

 カレンダー関連の記事は、第238回第205回第177回第170回にあります。

 ミラノのことばについて、浦安市の山口瑠美さんに情報をいただきました。お礼を申し上げます。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2014年 3月 1日