タイプライターに魅せられた男たち・第132回

ジェームズ・デンスモア(25)

筆者:
2014年5月22日

デンスモアのウィックオフに対する反論は、結論において以下の7点にまとめられていました。

  1. 「Caligraph」は「Type-Writer」より軽いが、それはメインフレームに可鍛鋳鉄を使用しているからである。可鍛鋳鉄はネズミ鋳鉄に較べ、同じ剛性を得るのに、より軽くすることができる。「Type-Writer」も、その形状による限り、もっと軽くできるし、コンパクトにできるはずである。
  2. 「Caligraph」は、安価な機械として設計されたわけではない。最初から一定の価格を維持する、という約束の通りだ。
  3. 「Caligraph」の代理店は、事実を広く述べているだけである。もちろん、野卑だったり、誇張が入っていたり、ある見方の下では間違っていたりするが。ウィックオフ氏が、あわて狼狽するのも無理はない。ただ、同じやり方で反対陳述をおこなって、引き分けに持ち込もうとするのは、間違った方法ではあるまいか?
  4. 「Caligraph」には、一貫した原理もなく、各部品に本質的なメリットもない、というウィックオフ氏の主張は誤りだ。「Caligraph」と「Type-Writer」は、同一の原理に基づいていて本質的に同じものであり、違いはほんの少しだ。「Caligraph」は「Type-Writer」と同様に、実用的で高速で耐久性もある。理論的に両者は、同じレベルで作られたなら、同じぐらい良いものとなる。「Caligraph」の工夫のいくつかは、「Type-Writer」のそれより優れているし、「Type-Writer」の工夫のいくつかは、「Caligraph」のそれより優れている。しかし、もし同じように作られたなら、両者は本質的に同じものとなる。
  5. 現時点では、「Type-Writer」の方が良い機械である。よく出来ているし、耐久性も高く、満足度も高い。同じ論点で言えば、「Caligraph」は安価なために売れていない。「Caligraph」の生産者は、過去に「Type-Writer」が経験したのと同じ問題に直面している。「Caligraph」のプロモーターは、その事実に学び、さらなる改良を続けている。そして、改良に成功したならば、価格は上がる。必要に応じて上がる。この5年近くで、出荷量はどんどん増えているにもかかわらず、いまだ利益が出るに至っていないのだ。
  6. 私個人は、両者の特許使用料に浴している。大半が「Type-Writer」で、「Caligraph」はごく一部だ。両者ともまだまだ伸びしろがあって、いずれミシンのように世界中で使われるようになるだろう。
  7. 「Type-Writer」の方が、そのコンパクトさにおいて「Caligraph」に勝っている。ただ、持ち味が違うのだ。「Type-Writer」は、1つのキーに2つの活字が取り付けられており、「Caligraph」は1つのキーに1つの活字が取り付けられている。ちょっとした違いだが、根本的な差でもある。どちらにもファンが付くだろうし、ファンは各々好きな方を応援するだろう。現時点では、両方に秀でている者はいないし、したがってどちらが、より良いのか判断できる者はいない。

デンスモアとしては、「Caligraph No.2」にだけ肩入れするわけではなく、タイプライターの市場全体が発展することを期待していたのです。しかしその夢は、これまで同様、棘の道でした。

ジェームズ・デンスモア(26)に続く)

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。とりあげる人物が女性の場合、タイトルは「タイプライターに魅せられた女たち」となります。