タイプライターに魅せられた男たち・番外編第1回

タイプライター博物館訪問記:菊武学園タイプライター博物館(1)

筆者:
2015年9月10日
菊武学園文化センター

名鉄瀬戸線の尾張旭駅から北西に徒歩10分、菊武学園文化センターのタイプライター博物館を訪問してきました。ここには、菊武タイピスト専門学校や富士タイピスト専門学校から引き継いだ200台にのぼるタイプライターが展示されていますが、筆者のいちばんのお目当ては「Sholes & Glidden Type Writer」です。

菊武学園の「Sholes & Glidden Type Writer」
菊武学園の「Sholes & Glidden Type Writer」

菊武学園の「Sholes & Glidden Type Writer」は、美しい装飾を施した、いわゆるデコレーション・モデルで、E・レミントン&サンズ社が1878年以降にリリースしたものだと考えられます。44キーのキー配列は、「M」が「L」の右横に、「C」が「X」の左横にあることから、1882年以前のものだろうと思われます。また、「A」の左横に「£」(ポンド)が見えることから、イギリス輸出用のモデルだった可能性があります。初期モデル(1874年発売)の特徴であるフットペダルは無く、その代わり、右側面にキャリッジリターン・レバーが付いています。

右側面のラインフィード・ホイールとキャリッジリターン・レバー
右側面のラインフィード・ホイールとキャリッジリターン・レバー

上面のプラテンを持ち上げると、中には44本のタイプバー(活字棒)が見えます。タイプバーはそれぞれがキーにつながっており、キーを押すと対応するタイプバーが跳ね上がってきて、プラテンを下げた状態ならば、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。

プラテンを持ち上げてタイプバーを見る
プラテンを持ち上げてタイプバーを見る

「Sholes & Glidden Type Writer」は、いわゆるアップストライク式のタイプライターで、プラテン下の印字面がオペレータからは見えません。行頭から48字打ったところ(右端から4字手前)でベルが鳴る、というタイプライター独特の機構も、印字面が見えない以上、必須の機構だったと考えられます。ただし、大文字しか打てない「Sholes & Glidden Type Writer」は、当時としてもあまり実用的なものではなく、もっぱらコレクターズ・アイテムとして売買されてきたのでしょう。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。