タイプライターに魅せられた男たち・番外編第3回

タイプライター博物館訪問記:菊武学園タイプライター博物館(3)

筆者:
2015年10月8日

菊武学園タイプライター博物館(2)からつづく)

菊武学園の「Caligraph No.2」
菊武学園の「Caligraph No.2」

菊武学園タイプライター博物館には、「Caligraph No.2」も展示されています。ボディに「16257」の刻印があり、この「Caligraph No.2」の製造番号の可能性があります。初期の「Caligraph No.2」(1882年発売)と同じく72キーで、大文字26種類・小文字26種類・数字8種類と、記号12種類[&()”/-£?=:,.]を搭載しているものの、キー配列がいわゆるQWERTYです。その点で、通常の「Caligraph No.2」のキー配列とは全く異なっています。

菊武学園の「Caligraph No.2」キーボード左半分
菊武学園の「Caligraph No.2」キーボード左半分

ただし、「P」が「M」の右横にあり、その点が、一般的なQWERTY配列とは微妙に異なっています。また、記号の中に「£」が含まれていることから、イギリス輸出用のモデルだった可能性があります。

菊武学園の「Caligraph No.2」キーボード右半分
菊武学園の「Caligraph No.2」キーボード右半分

プラテンの下には、72本のタイプバー(活字棒)が円形に配置されています。タイプバーはそれぞれがキーにつながっており、キーを押すと対応するタイプバーが跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。「Caligraph No.2」は、いわゆるアップストライク式のタイプライターで、プラテン下の印字面がオペレータからは見えません。

菊武学園の「Caligraph No.2」後面
菊武学園の「Caligraph No.2」後面

「Caligraph No.2」は、1882年の生産開始から1900年頃の生産終了まで、一貫してアメリカン・ライティング・マシン社が製造販売をおこないました。経営者は次々に代わっていったものの、アメリカン・ライティング・マシン社は、「Caligraph No.2」のデザインを、生産開始から生産終了までほとんど変更していません。そのため、「Caligraph No.2」の製造時期の同定は、かなり難しいのが現実です。この「Caligraph No.2」に刻された「16257」が、仮に製造番号だとすると、1885~1886年頃に製造されたモデルの可能性が高いのですが、断定はできません。というのも、「Caligraph No.2」にQWERTY配列を搭載したモデルは、そんな古くまでは遡ることができないので、あるいはリストア時にキー配列を変更した可能性が疑われるのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。