地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第339回 札埜和男さん:「おま!」―人気俳優と方言―

筆者:
2015年10月17日

「事務所も心広いねえ」「岡田クン仕事選ばへんなあ,ようやるヮ」

ここは大阪府にある遊園地・枚方(ひらかた)パークの園長資料室。V6・岡田准一クンのCM資料が揃えられており,来園者が訪れては記念写真を撮っています。目につくのは【写真1】のように「おま」という現在殆ど使われない大阪弁を言語景観として活かした岡田クンのポスターです。

【写真1】
【写真1】「おまバウアー」で、おま。

「新園長おまフェスト」「わいでおま」「オ…オアシスで…お…ま…」「わいを育てたプール。でおま」「ただいま。でおま。」「ひらパーの新アトラクションは、まさかの『おま』と叫ぶだけ。絶叫おまライド おまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」等々。

「おま」は「あります、ございます」の意「おます」が短くなった大阪弁,「わい」は「私」の意で男性使用の大阪弁です。2013年3月大阪で行われたコンサートで「超ひらパー兄さん」園長就任発表後,岡田クンのCMは関西で話題になっています。

しかし共通語を使う俳優として活躍する岡田クンと,大阪弁「おま」は相容れない組み合わせです。枚方市出身で郷土愛に溢れる岡田クンに,ボランティアに近い形で事務所から出演の承諾を得たものの,ローカル遊園地と岡田クンのイメージギャップをどう埋めるかが悩み所でした。岡田クンは大阪人ですが上京後言語を矯正されており,大阪イメージが抜けていました。低予算でCM出稿量も少ない中どうするか? 広告会社と協議して出した案は岡田クンに大阪弁を喋らせることでした。しかも「一度聞いたら忘れない,誰も使わないが,汎用性があり映画等の番宣でパッとやれる短い言葉」という条件を備える必要がありました。結果選ばれたのが「おま」です。両者のギャップを繋ぐ媒体が方言だったのです。前園長はブラックマヨネーズの小杉サンでしたが,彼が「わいでおま」と言っても不自然さはありません。岡田クンが言うからこそインパクトがあるのです。実際に大河ドラマ『軍師官兵衛』の番組宣伝に際しTVで「官兵衛兄さんでおま」と言って,それがトップツイートにもなりました。

【写真2】
【写真2】園長の延長コード、ほんまに売ってます。

就任2年目の2014年「年間来園者100万人達成できなかったらさようなら」宣言をしたところ「おま」方言戦略による経済効果もあって見事100万人を突破,2015年度の「園長、延長。」が決定し,春には,「延長コード」に身を包む岡田クンが「これからも枚方を明るくするで,おま」と宣言するポスター【写真2】が京阪沿線を飾っていました。

 

《謝辞》調査にあたっては(株)京阪レジャーサービスひらかたパーク事業部の広報担当・石川真吾氏に大変お世話になりました。有難うございました(ちなみに氏は静岡出身です)。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 札埜 和男(ふだの・かずお)

高校国語科教員、社会言語学者。1962年大阪府生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2008年『法廷における方言―「臨床ことば学」の立場から』で博士号(文学・大阪大学)取得。方言学・社会言語学専攻。現在,京都教育大学附属高等学校国語科教諭。
 著書に『大阪弁看板考』(葉文館出版 1999年8月),『大阪弁「ほんまもん」講座』(新潮新書 2006年3月),『法廷における方言―「臨床ことば学」の立場から』(和泉書院 2012年12月),『法廷はことばの教室や! 傍聴センセイ裁判録』(大修館書店 2013年7月)などがある。

『大阪弁看板考』『法廷はことばの教室や! 傍聴センセイ裁判録』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。