タイプライターに魅せられた男たち・番外編第22回

タイプライター博物館訪問記:菊武学園タイプライター博物館(18)

筆者:
2016年7月14日

菊武学園タイプライター博物館(17)からつづく)

菊武学園の「Blick No.7」
菊武学園の「Blick No.7」

菊武学園タイプライター博物館には、「Blick No.7」も展示されています。「Blickensderfer No.5」と同様、ブリッケンスデアファーが、コネチカット州スタンフォードで製造していたタイプライターです。菊武学園の「Blick No.7」は、トップカバーが黒く、かつ、トップカバーのネジ止めが左右それぞれ2つずつであることから、1900年から1907年までの間に製造されたモデルだと考えられます。銘板には「9 & 10 CHEAPSIDE LONDON. MADE IN U.S.A.」とあり、イギリス向けの輸出モデルだったことがわかります。

菊武学園の「Blick No.7」のタイプ・ホイール
菊武学園の「Blick No.7」のタイプ・ホイール

「Blick No.7」の特徴は、「Blickensderfer No.5」と同様、タイプ・ホイールと呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・ホイールには84個(28個×3列)の活字が埋め込まれており、このタイプ・ホイールが、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。菊武学園の「Blick No.7」のタイプ・ホイールでは、上の列に、小文字の活字がzxkg.pwfudhiatensorlcmy,bvqjの順序に、上から見て時計回りに埋め込まれています。真ん中の列には、大文字の活字がZXKG&PWFUDHIATENSORLCMY?BVQJの順序に埋め込まれています。下の列には、記号や数字の活字が“()-%/_¼!1234567890½+¾=£;*’:の順序に埋め込まれています。この「Blick No.7」のキー配列と同じ順序であり、上段のキーほど、タイプ・ホイールが大きく回転する仕組みになっているのです。大文字はキーボード左端の「CAP」キーを、記号や数字は「FIG」キーを、それぞれ押すことで印字され、タイプ・ホイールの高さが変わる仕掛けになっています。

キーボード左端の「CAP」と「FIG」キー
キーボード左端の「CAP」と「FIG」キー

「Blick No.7」のもう一つの特徴は、巨大なスペースキーです。下段中央「T」と「E」の間に始まるスペースキーは、そのまま左右に下段のキー全体を覆う形で広がり、あたかもキーボードの外枠であるかのような形をしています。デザイン的には美しいのですが、入力スピードには寄与していないようです。なお、菊武学園の「Blick No.7」の右側銘板には、ブリッケンスデアファーのアメリカ特許に関して、特許番号と特許成立日が記載されています。イギリス向けの輸出モデルのはずなのに、アメリカ特許を記載しており、少しチグハグだったりします。

菊武学園の「Blick No.7」の右側銘板
菊武学園の「Blick No.7」の右側銘板

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。