歴史で謎解き!フランス語文法

第39回 フランス語の季節名の語源はなに?

2022年12月16日

もうすぐ今年も終わり……。そんな季節の流れを感じるこんな時、ふと、フランス語の季節名の語源が気になったりしませんか? というわけで、今回はフランス語の季節名がどこからやって来たか、先生と掘り下げていきましょう。

 

学生:こんにちは、先生。もう1年の終わりの12月になってしまいましたね。

 

先生:日の落ちるのも早くなったし、寒くなったね。

 

学生:でも私は1年の季節のなかでは、冬が一番好きなんですよ。北国育ちなので寒さにはもともと強いし、冬にはクリスマスやお正月といった楽しいイベントがありますからね。

 

先生:へえ、そうなんだ。ところで四季をそれぞれフランス語で言えるかな?

 

学生:いきなりフランス語のテストですね。冬は hiver、春は printemps、夏は été、秋は automne です。

 

先生:おお、すらすら出てきたね。正解だ。今日はフランス語の季節名の語源について話をすることにしよう。まず君が好きな hiver「冬」から始めようか。hiver の語源がなにか知っているかい?

 

学生:hiver の語源ですか? たぶんラテン語が語源だと思うのですが。

 

先生:古典ラテン語では「冬」は hiems。でも hiems は、hiver の直接的な語源ではないんだ。hiver は、「越冬する、冬を過ごす」を意味するラテン語の動詞 hiberno の完了分詞に由来する形容詞 hibernus「冬の」に由来するんだ。tempus hibernum「冬の季節」という言い回しの形容詞 hibernum の部分だけで「冬」を意味するようになり、俗ラテン語の時代に hiems に置き換わってしまったんだ。そして hibernum がフランス語化したのが hiver だよ[注1]。hiver のフランス語の初出は11世紀だね[注2]。hiver から派生した語には何があるかな? 辞書で調べてごらん。

 

学生:えーっと、形容詞 hivernal「冬の、冬向きの」、動詞 hiverner「冬を越す、 越冬する、冬ごもりする」、それからその現在分詞に由来する hivernant「冬季リゾート客、避寒客」、そして名詞 hivernation「越冬措置」、hivernage「越冬」が見つかりました。

 

先生:そうだね。今、君が挙げた語はすべてフランス語の名詞 hiver から派生した語だけれど、実はラテン語の形容詞 hibernus に関わるフランス語の単語は他にもあるよ。探せるかな?

 

学生:あ! ありました。形容詞 hibernal「冬眠の、冬季の」、動詞 hiberner「冬眠する」、hiberner の現在分詞に由来する hibernant「冬眠中の、冬眠動物」、そして名詞 hibernation「冬眠」。 *hibernage という語はないみたいですが、それ以外は v を b に置き換えた語がありますね。いったいこれはどういうことなのでしょうか?

 

先生:こんなふうに語源が同じだけど、形態や意味が違う語を「二重語」doublet と言うんだ。君がさっき見つけた綴り字が v でなくて、b になっている単語は、歴史的音韻変化によってラテン語からフランス語になったわけでなくて、古典ラテン語から直接借用されて、フランス語の語彙に取り込まれた語だね[注3]。こうした語は「学者語」mot savant と呼ばれているよ。学者語は古代ギリシア・ラテンの著作の翻訳が盛んになった近代以降に増えてくる。TLFi の記述によると、hibernal の最初の用例は1532年、hiberner は1805年、hibernant は1808年、hibernation は1838年だね。

 

学生:なるほど、学者語には学術的な用語が多いみたいですね。でも hiver の形容詞の hivernal もあまり見たことがないような気がします。

 

先生:確かに春夏秋冬の季節名はフランス語にもよく出てくるけれど、その形容詞形はそれほど頻繁に使われていないような感じがあるね。「ウィンター・スポーツ」という語も、sport hivernal ではなくて、sport d’hiver だよね。ちなみにラテン語で冬を意味する hiems から派生した語として形容詞 hiemalis「冬の」もあって、 これが借用されてフランス語の hiémal になっている。hibernal とほぼ同じ意味だけれど、特に学術用語として、「動物の冬眠」sommeil hiémal や「冬に成長する植物」plantes hiémales について使われるみたいだね[注4]

 

学生:先生はどの季節が好きなんですか?

 

先生:私が好きなのは夏だね。フランス語の「夏」été は、古典ラテン語の aestās の対格形 aestātem が語源だよ。1080年、武勲詩の『ロランの歌』La Chanson de Roland のなかで ested というかたちで出てくるのが最初の用例だ[注5]。ちなみにラテン語の aestās は女性名詞なんだけど、フランス語の été は男性名詞だ。他の季節名に合わせて男性名詞になったらしい[注6]

 

学生:être の過去分詞 été と同じかたちですが、夏を意味する été となにか関係があるのでしょうか?

 

先生:être の過去分詞 été は、ラテン語 sto「立つ」の完了分詞 status に由来するので[注7]、語源はまったく別だね。歴史的な音韻変化の結果、たまたま同じかたちに行き着いただけだね。

 

学生:そうだったんですね。ちなみに、hiver と同じように、été にも形容詞形はあるのでしょうか?

 

先生:フランス語の été から派生した形容詞はないね。「夏の」を意味するフランス語の形容詞は estival だけど、これは古代ローマ帝政期のラテン語の形容詞 aestīvālis の借用だね[注8]。夏に関わる動詞には、estiver「〔家畜を〕夏の間、山で放牧する」という動詞があるけれど、これは古典ラテン語の動詞 aestivāre「夏を過ごす、避暑する」が語源だね。プロヴァンサル語経由でフランス語に入ってきたみたいだ。estiver の現在分詞に由来する estivant「夏季リゾート客、避暑客」という語は、1920年頃から使われるようになったみたいだね[注9]

 

学生:夏のバカンスは楽しそうだけれど、私は暑いのは苦手ですね。夏が終わって秋になるとホッとします。automne もラテン語に語源があるのですか?

 

先生:automne はラテン語の autumnus 「秋」の借用だね。中世では農民や軍人の活動の季節である夏 été と無為と困窮の季節である冬 hiver が人々の活動の上で重要で、秋と春はこの2つの季節の単なる移行期間としかとらえられていなかった[注10]。フランス語で automne が季節名として現れたのは、hiver や été よりかなり後の13世紀前半だ[注11]。あとラテン語の autumnus は男性名詞で、フランス語の automne も通常は男性名詞なんだけど、女性名詞として扱われる場合も時にあるみたいだね[注12]。automne の形容詞形の automnal「秋の」はラテン語の autumnalis の借用で、初出は1119年だけれど、どちらかというと point automnal「秋分点」のような学術用語で使われているね。

 

学生:はじめ、automne がこの綴りで [otɔn] と発音することに戸惑いました。

 

先生:automne の m は黙字なので、読まないよね。古フランス語では mn という子音の連なりが単子音として m もしくは n と発音されるようになっていて、automne には autonautom などいくつかの綴りのパターンがあった。でも最終的には語源のラテン語の綴りを復元した automne が定着したんだけど、m は発音されなかったんだ。automne とその派生語 automnal 以外では、damner「〜を地獄に落とす」、comdamner「〜に有罪判決を下す」とその派生語のdamnation「地獄の罰」、comdamnation「有罪判決」で m が黙字になっているよ[注13]

 

学生:残るは「春」 printemps ですね。これも語源はラテン語ですか?

 

先生:いや、ラテン語の春は vēr で、printemps の語源ではないね。フランス語の printemps は、ラテン語の prīmum tempus「最初の時期」から借用された prins tans という表現が結合してできた語だ。printans のかたちで1200年頃の用例が確認されている[注14]。そもそもは独立した季節ではなくて、prin (= premier) temps de l’été、すなわち「夏のはじめのころ」を示していたらしい[注15]

 

学生:ラテン語で春を示す vēr は、フランス語には引き継がれなかったんですね。

 

先生:16世紀ぐらいまではラテン語と同じ綴りで春を意味する ver がフランス語でも printemps と競合していたんだけどね[注16]。イタリア語やスペイン語では春のことを primavera と言うけれど、中期フランス語でも primevère という語があって、やはり春を指していた。これはラテン語の primum ver「春の早い時期、早春」の借用だね。現代フランス語では primevère は季節ではなく、早春に咲くサクラソウのことだね[注17]。ところでフランス語で「春の」を意味する形容詞形は何だか知っているかい?

 

学生:ちょっと待ってください、辞書を調べますから。あ、あった。printanier ですね?

 

先生:そう。printanier の初出は1552年で、だいぶ後になってからだね[注18]。ちなみにラテン語の「春」vēr から派生した形容詞 vernālis から借用した vernal という形容詞もある。vernal は automnal 同様、学術用語として、point vernal「春分点」や春に開花する植物について用いられることが多いね。

 

[注]

  1. GOUGENHEIM, Georges, Les Mots français dans l'histoire et dans la vie, Paris, Picard, 1977 (2e éd.), t. I, p. 54.
  2. REY, Alain, Dictionnaire historique de la langue française, Paris, Le Robert, 2018 ; Diagnonal SAS, application pour iOS (v. 3.0), 2021, art. « hiver ».
  3. TLFi (http://atilf.atilf.fr/), art. « hibernal ». 古典ラテン語で母音に挟まれたb が v に変化することについては、 LANORDERIE, Noëlle, Précis de phonétique historique, Paris, Armand Colin, 2015 (2e éd.), pp. 62 et sq. を参照。
  4. Le Petit Robert, application pour iOS, Diagonal SAS, 2022, art. « hiémal ».
  5. REY, op. cit., art. « été ».
  6. GOUGENHEIM, op. cit., p. 54.
  7. 本コラムの「第8回 不規則活用って、どうやってできたの?」(2019年11月15日)を参照。(最終アクセス日:2022年12月16日)
  8. TLFi, art. « estival ».
  9. Ibid., art. « estiver ».
  10. MATORÉ, Georges, Le Vocabulaire et la société médiévale, Paris, PUF, 1985, p. 88.
  11. TLFi, art. « automne ».
  12. GREVISSE, Maurice et GOOSSE, André, Le Bon Usage, Louvain-la-Neuve, De Boeck, 2016 (16e éd.), § 482-5.
  13. TLFi, art. « automne ».
  14. REY, op. cit., art. « printemps ».
  15. GOUGENEIM, op. cit., p. 54.
  16. Cf. DMF (http://zeus.atilf.fr/dmf/) , art. « ver2 ».
  17. TLFi, art. « primevère ».
  18. Ibid., art. « printanier ».

筆者プロフィール

フランス語教育 歴史文法派

有田豊、ヴェスィエール・ジョルジュ、片山幹生、高名康文(五十音順)の4名。中世関連の研究者である4人が、「歴史を知ればフランス語はもっと面白い」という共通の思いのもとに2017年に結成。語彙習得や文法理解を促すために、フランス語史や語源の知識を語学の授業に取り入れる方法について研究を進めている。

  • 有田豊(ありた・ゆたか)

大阪市立大学文学部、大阪市立大学大学院文学研究科(後期博士課程修了)を経て現在、立命館大学准教授。専門:ヴァルド派についての史的・文献学的研究

  • ヴェスィエール ジョルジュ

パリ第4大学を経て現在、獨協大学講師。NHKラジオ講座『まいにちフランス語』出演(2018年4月~9月)。編著書に『仏検準1級・2級対応 クラウン フランス語単語 上級』『仏検準2級・3級対応 クラウン フランス語単語 中級』『仏検4級・5級対応 クラウン フランス語単語 入門』(三省堂)がある。専門:フランス中世文学(抒情詩)

  • 片山幹生(かたやま・みきお)

早稲田大学第一文学部、早稲田大学大学院文学研究科(博士後期課程修了)、パリ第10大学(DEA取得)を経て現在、早稲田大学非常勤講師。専門:フランス中世文学、演劇研究

  • 高名康文(たかな・やすふみ)

東京大学文学部、東京大学人文社会系大学院(博士課程中退)、ポワチエ大学(DEA取得)を経て現在、成城大学文芸学部教授。専門:『狐物語』を中心としたフランス中世文学、文献学

編集部から

フランス語ってムズカシイ? 覚えることがいっぱいあって、文法は必要以上に煩雑……。

「歴史で謎解き! フランス語文法」では、はじめて勉強する人たちが感じる「なぜこうなった!?」という疑問に、フランス語がこれまでたどってきた歴史から答えます。「なぜ?」がわかると、フランス語の勉強がもっと楽しくなる!

偶数の月の第3金曜日に公開。どうぞお楽しみに。