歴史で謎解き!フランス語文法

第38回 どうして不定詞の語尾が -ir なのに、第2群規則動詞ではない動詞があるの?

2022年10月21日

フランス語の動詞は活用のタイプによって、不定詞の語尾が -er で終わる第1群規則動詞、-ir で終わる第2群規則動詞とそのほかの不規則変化動詞に分けられることが多いです。今回は第2群規則動詞に関わるお話。-ir で終わる動詞には、finir「終わる」、choisir「選ぶ」、réfléchir「よく考える」などがあり、これらはすべて第2群規則動詞ですが、同じく -ir で終わる dormir「寝る」、servir「仕える」、partir「出発する」などは第2群規則動詞とは別のタイプの活用をします。同じ語尾の動詞なのに、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?

 

学生:先生、最近小テストが多いです。特に動詞の活用のテストが多いので、だんだん辛くなってきましたよ。

 

先生:毎週大切な動詞の活用が出てくるから、正確に覚えてもらいたいと思ってのことだよ。次回のテストは、dormir「寝る」と servir「仕える」と partir「出発する」の直説法現在形の活用だけれど[注1]、これらの動詞の活用を確認せずに進むと、期末テストで、第2群規則動詞の活用と混同してしまうから、そうならないように、ここでしっかりと確認しておこう。

 

学生:finir をはじめとする第2群規則動詞を勉強して、語尾が -ir の動詞の活用はこれで完璧! と思ったのに、なんだか騙されたような気持ちになってしまいました。語尾が -ir で終わっている動詞なのに、別のタイプの活用になってしまっているのは、どういうことですか?

 

先生:ははは。まあ、そう言わないで。でも、「どうして別のタイプの活用になったのか?」という質問には、第2群規則動詞も、もともとは、dormir 型の動詞の仲間だったんだけれど、そこから独立したからだ、と答えることができるよ。

 

学生:えっ、第2群規則動詞の方が後からできたんですか?

 

先生:そう。第2群規則動詞の大部分と、dormir 型の動詞は、古典ラテン語の動詞の第4変化(不定詞の語尾が -īre になる規則動詞)に由来する。現代フランス語の finir と dormir にあたる古典ラテン語の動詞 fīniō(ラテン語の辞書では動詞は直説法現在の1人称単数が見出しになっている。不定詞は fīnīre)と dormiō(不定詞は dormīre)の直説法現在形の活用は、次の通りだ。ラテン語では動詞の活用に主語代名詞をつけて書くのは一般的でないので、1人称単数形から3人称複数形まで左から右に並べて書くよ。

 

fīniō - fīnīs - fīnit - fīnīmus - fīnītis - fīniunt

dormiō - dormīs - dormit - dormīmus - dormītis - dormiunt

 

学生:語尾を見ると、まったく同じ形ですね。

 

先生:一方、現代フランス語の finir と dormir の活用は次の通り。

 

je finis - tu finis - il finit - nous finissons - vous finissez - ils finissent

je dors - tu dors - il dort - nous dormons - vous dormez - ils dorment

 

学生:あれ、ラテン語の fīniō には、フランス語の第2群規則動詞の nous, vous, ils の活用に特徴的な -iss- にあたるものが出てきませんね。

 

先生:その通り。現代フランス語の finir の活用形の語源は、実は fīniō ではなく、これに -scō という動詞を「起動相」にする語尾が加わった、俗ラテン語の *finisco(不定詞 *finiscere)にあると推測されている。その活用を見てみようか。-sco の語尾が加えられた動詞は、ラテン語の第3変化の活用をするので、次のようになるよ。

 

*finisco - *finiscis - *finiscit - *finiscimus - *finiscitis - *finiscunt

 

   1, 2人称複数形に -sci-([ski] と読む)という部分があるね。この -sci- が、俗ラテン語から古フランス語への音韻変化の規則に従って、-is(s)- に変化する。これが、フランス語の第2群規則動詞にみられる -iss- の由来だよ[注2]

 

学生:「起動相」って何ですか?

 

先生:言語学の用語で「〜し始める」ということだよ。

 

学生:つまり、*finisco は、「終わり始める」ということですか?

 

先生:もともとはそういう意味があったのだろうけど、やがて -sco は起動の意味を失って、ラテン語の第4変化由来の動詞一般に付けられるようになった。こうして生まれたのが、フランス語の第2群規則動詞だというわけ。同一のタイプの活用をする dormir, servir, partir は、同じくラテン語の動詞の第4変化に由来しているんだけど -sco の語尾が俗ラテン語の段階で加わることがなかったので、第2群規則動詞にならなかったものなんだ[注3]

 

学生:どうせなら、dormir, server, partir も第2群規則動詞になればよかったのに。

 

先生:ラテン語の第4変化に由来しながら、第2群規則動詞にならなった動詞としては、dormir, servir, partir の他にも、sortir「外出する」、sentir「感じる」、mentir「噓をつく」、se repentir「反省する」などがある。いま挙げた動詞は、dormir, servir, partir の活用をマスターすれば、同じように活用できるようになる[注4]。とはいえ、同じくラテン語の第4変化動詞由来でも、古フランス語の段階から、これまでに述べたものとは違う活用をするようになったものもある。初級フランス語の教科書に出てくる動詞では、couvrir「覆う」、offrir「捧げる」、ouvrir「開く」、venir「来る」、mourir「死ぬ」がそうだね[注5]。その上、tenir「持っている」や courir「走る」のように、不定詞は -ir で終わっても、語源はラテン語の第4変化ではなくて、古フランス語の段階で語尾が -ir に置き換えられた、というものもある。

 

学生:なんだか、ますます大変ですね。

 

先生:先は長いということだ。他の動詞の活用形の由来については、もっと勉強が進んでから学んでもらうことにして、今日は、dormir, servir, partir の活用に話を限定しよう。

 

学生:そうしましょう。実は、復習していて、dormir, servir と、partir が同じタイプの活用だということがわからなくなってしまったんです。

 

先生:どういうこと?

 

学生:だって、dormir の直説法現在の活用はこうじゃないですか。

 

je dors - tu dors - il dort - nous dormons - vous dormez - ils dorment

 

   3人称単数形で、不定詞にある m が消えていますよね。1, 2人称単数形もそうですが。これに対して、partir は3人称単数形で、不定詞にある t がそのまま残っています。

 

je pars - tu pars - il part - nous partons - vous partez - ils partent

 

先生:なるほど。まず、授業での説明を繰り返すと、単数の人称では -ir とその直前の子音を外して、1, 2, 3人称にそれぞれ -s, -s, -t をつける。

dor + -s, -s, -t

par + -s, -s, -t

 

   一方、複数の人称では、-ir だけを外して1, 2, 3人称にそれぞれ -ons, -ez, -ent をつける

 

dorm + -ons, -ez, -ent

part + -ons, -ez, -ent

 

   ということだけど。

 

学生:あ、大事なことを聞き逃していたようです。partir の3人称単数形の t は、不定詞の -ir の前にある t ではなく、活用語尾の t だったのですね。つい混同してしまいましたが、テストの前に理解できて助かりました。ありがとうございます。1, 2, 3人称単数形では、-ir の前にある m や t が消えるんですね。でも、どうして消えてしまったのですか?

 

先生:それは、俗ラテン語がフランス語に変化する際に被った音韻変化による。古典ラテン語の dormiō の2人称単数形と3人称単数形は、さっき説明したように、dormīs - dormit だけれど、2音節以上の俗ラテン語の最終音節の母音は、a 以外は、7世紀から8世紀に消えてしまう[注6]。すると、次のように、活用形の中で子音3つの連続ができてしまうんだ。

 

2人称単数 dormīs > *dorms

3人称単数 dormit > *dormt

 

   これでは発音しづらいので、一般的には後ろから2つめの子音から消えていくというのがルールだった[注7]。dormir の場合は、m の音がそれにあたるね。この変化が、古フランス語が誕生する9世紀までに完了した結果[注8]、2人称単数形と3人称単数形は、dors - dort になったよ。

 

学生:現代フランス語の綴りと同じですね。1人称単数形ではどうですか?

 

先生:古典ラテン語の dormiō は、初期の古フランス語だと、dorm もしくは dor という形になったけれど、やがて、2人称単数形にならって dors という形がとられるようになった。これは、他の活用で1人称単数形が2人称単数形と同じ語形をとることが多かったことに起因するアナロジー(類推)によるものと説明できる[注9]

 

学生:そうなると、綴りの上では、現代フランス語の je dors と同じ形ですね。

 

先生:そうだね。語末の子音の s や t は、12世紀半ばには発音されなくなったけれど、その後も活用語尾として綴りには残ったということだ。以上の説明は、servir にもあてはまるよ。

 

学生:なるほど。後は、partir ですね。これは、dormir や servir とは違うんですか?

 

先生:語源からの変化という観点から言えば、partir には別の説明が必要になる。partir の語源は、俗ラテン語の *partio[注10]。2人称単数形と3人称単数形の活用は、それぞれ *partis - *partit だから、dormir と同様に最終音節の i がなくなると、parts - *partt となる。2人称単数の語尾の ts は、英語の it's の [ts] と同じように発音される破擦音で[注11]、中世の写本では、z と綴られたと前に説明したよね[注12]。また、3人称単数形は同音の繰り返しなので、7世紀以降に一音にまとめられた。表にすると、以下の通りだね。

 

2人称単数 *partis > parts = parz

3人称単数 *partit > *partt > part

 

   いちばん右が、古フランス語の語形だよ。

 

学生:ということは、古フランス語では partir の2人称単数形に t の音の名残があった、ということですね。3人称単数形でも、まとめられたとはいえ、語末の t は消えてはいません。

 

先生:そう。語末に置かれた破擦音の [ts] が [s] になったのは、 1200年頃のことだよ[注13]。これが現代フランス語の tu pars という綴りのもとだね。

 

学生:1人称単数形については、dormir の場合と同様に、2人称単数形と同じ語形が採用されたということですか?

 

先生:そうではない。partir の場合、1人称単数形は、語源である俗ラテン語の *partio から規則的な音韻変化を遂げて、je pars という形になった。ちょっと難しいけど、聞くかい?

 

学生:はい。

 

先生:*partio の語末の母音 o の前に置かれた i は、半母音の y になるんだけど[注14]、音節のはじめにある t がこの音を従えると、硬口蓋音化(palatalisation)という現象が起こって、結果として2世紀の段階で破擦音の [ts] に変化したんだ[注15]。その後、上の例と同様、7世紀から8世紀にかけて、語末の母音 o が消滅した。表にすると、以下の通りだよ。

   *partio > *partyo > *partso > parts = parz

 

学生:過程はよくわかりませんが、1人称単数形でも、2人称単数形と同じ parz という形で古フランス語に入り、その後で2人称単数形と同様に、parsという形になった、ということですね。

 

先生:その通り。さきほど挙げた sortir, mentir などの動詞も、-ir の前の子音は t だから、同じ音韻変化だよ。

 

学生:なるほど、dormir, servir と partir とでは、現代フランス語での活用の上では同じグループということになるけれど、そこに至るまでの過程は違うということですね。

 

先生:そう。君が、dormir, servir と、partir とでは、同じ活用の気がしないように感じたことには、決して理由がないわけではない、ということだね。実際、辞書によっては、dormir, servir と、partir, sortir とでは、別の活用番号が割り当てられていることがある[注16]。難しいとか変だと思うのは、大切な発見につながるから、諦めないでフランス語の勉強を続けよう。

 

学生:ありがとうございます。言葉には歴史があるということを実感しました。理解できるようになるまで、頑張ってみます。

 

[注]

  1. 後に述べるように、辞書によっては、動詞活用表で、dormir, servir と partir には別の番号が振られているが、初級のフランス語の教科書でこれらの動詞が同時に取り上げられていることが多いことに鑑みて、ここでは同一カテゴリーのものとして取り扱うこととする。
  2. 本コラムの「第16回 活用の語幹で nous と vous が他と較べて変化するのはなぜ?」(2020年7月17日)で、第2群規則動詞の由来について、他の人称についても説明している(最終アクセス日:2022年10月20日)。その注3を補足するに、1人称単数の -sco と 3人称複数の -scu- については、 s と c が転置された結果、c の表す [k] が硬口蓋摩擦音のヨッド(フランス語の発音記号なら、半母音の [j])に変化して、-is(s) が生じた。BOURCIEZ, E. et J., Phonétique française, Paris, Klincksieck, 1989, pp. 145 et sq. (§136, Rem. II) を参照。
  3. NYROP, Kristoffer (Christopher), Grammaire historique de la langue française, Genève, Slatkine reprint, 1979, t. II, (reproduction de la troisième édition de Copenhague, Gyldendalske boghandel, Paris, Picard, 1960), pp. 51 et sq. (§67, 68)を参照。
  4. Ibid., p. 52 (§68) でニュロップに、ラテン語の第4変化から最低限の変化でフランス語に入った動詞(« conjugaison simple »)として数えられているものを挙げた。ニュロップは、古フランス語の段階で « conjugaison simple » だった動詞として、dormir の他に、assaillir, bouillir, cueillir を挙げているが、これらの動詞では、直説法現在形の語幹の音が、他の人称の活用からの類推(assaillir と cueillir の場合)や、接続法現在形からの類推(bouillir)によって変化したため、現代フランス語では、dormir, servir, partir とは別のタイプの活用になっている。
  5. これらの動詞を古典ラテン語の第4変化動詞との関連で分類すると、①語末に「子音 + r」の音のグループが残ったがゆえに、直説法現在形の1, 2, 3人称単数で、 r の後に中舌の e が支えとして挿入されて、あたかも第1群規則動詞のような活用形になったもの(couvrir, offrir, ouvrir)、②直説法現在形の単数1, 2, 3人称、複数3人称で、語幹の母音がアクセントをもって強く発音されたために、音韻変化を被ったもの(venir | mourir)ということになる(動詞の間に挟んだ「|」は、これらが別の活用に属していることを示す)。
  6. BONNARD, Henry, Synopsis de phonétique historique, Paris, SEDES, 1982, p. 14を参照。例外についての詳しい解説は、JOLY, Geneviève, Précis de phonétique historique du français, Paris, Armand Colin, 1995, pp. 65-72.
  7. BONNARD, op. cit., pp. 31 et sq. を参照。子音が消滅していく中で、r 音は消滅しにくかったとも記されているが、dors - dort の r が残ったのはこのことによる。
  8. 本コラムの「第1回 フランス語はいつから話されていた?」(2019年4月19日)と「第2回 中世のフランス語」(2019年5月17日)を参照。(最終アクセス日:2022年10月20日)
  9. LANLY, André, Morphologie historique des verbes français, Paris, Bordas, 1997, p. 282.
  10. 古典ラテン語では、形式受動態動詞 partior が用いられたが、俗ラテン語では能動態の形に転じて用いられた。その意味も古典ラテン語では「分割する」であった。REY, Alain, Le Dictionnaire historique de la langue française, Paris, Le Robert, 2018, « partir1 ».
  11. 閉鎖音と摩擦音の結合からなる子音(この場合は、閉鎖音の [t] と摩擦音の [s])のこと。マルンベリ、ベルティル(大橋保夫訳)『音声学』〔改訂新版〕、白水社(文庫クセジュ)、1976年、pp. 65 et sq. を参照
  12. 本コラムの「第28回 なぜ grand-mère は « grande-mère » にならないの?」(2021年8月20日)を参照。(最終アクセス日:2022年10月20日)
  13. BONNARD, op. cit., p. 31.
  14. 発音記号だと [j] の音。歴史音声学で綴り字に混ぜて表現する際には、y の字をあてる。読み方は「ヨッド」。
  15. JOLY, op. cit., pp. 125 et sq. ; LABORDERIE, Noëlle, Précis de phonétique historique (2e édition), Paris, Armand Colin, 2015, pp. 80 et sq.
  16. たとえば、三宅徳嘉・他『新スタンダード仏和辞典』、大修館書店、1987年は、servir と dormir に活用番号19、partir に活用番号21をあてて、後者に、「語幹始末音 [t] 」が「直現3人で人称語尾 -t と一つになる」という説明をつけている(pp. 1966 et sq.)。

筆者プロフィール

フランス語教育 歴史文法派

有田豊、ヴェスィエール・ジョルジュ、片山幹生、高名康文(五十音順)の4名。中世関連の研究者である4人が、「歴史を知ればフランス語はもっと面白い」という共通の思いのもとに2017年に結成。語彙習得や文法理解を促すために、フランス語史や語源の知識を語学の授業に取り入れる方法について研究を進めている。

  • 有田豊(ありた・ゆたか)

大阪市立大学文学部、大阪市立大学大学院文学研究科(後期博士課程修了)を経て現在、立命館大学准教授。専門:ヴァルド派についての史的・文献学的研究

  • ヴェスィエール ジョルジュ

パリ第4大学を経て現在、獨協大学講師。NHKラジオ講座『まいにちフランス語』出演(2018年4月~9月)。編著書に『仏検準1級・2級対応 クラウン フランス語単語 上級』『仏検準2級・3級対応 クラウン フランス語単語 中級』『仏検4級・5級対応 クラウン フランス語単語 入門』(三省堂)がある。専門:フランス中世文学(抒情詩)

  • 片山幹生(かたやま・みきお)

早稲田大学第一文学部、早稲田大学大学院文学研究科(博士後期課程修了)、パリ第10大学(DEA取得)を経て現在、早稲田大学非常勤講師。専門:フランス中世文学、演劇研究

  • 高名康文(たかな・やすふみ)

東京大学文学部、東京大学人文社会系大学院(博士課程中退)、ポワチエ大学(DEA取得)を経て現在、成城大学文芸学部教授。専門:『狐物語』を中心としたフランス中世文学、文献学

編集部から

フランス語ってムズカシイ? 覚えることがいっぱいあって、文法は必要以上に煩雑……。

「歴史で謎解き! フランス語文法」では、はじめて勉強する人たちが感じる「なぜこうなった!?」という疑問に、フランス語がこれまでたどってきた歴史から答えます。「なぜ?」がわかると、フランス語の勉強がもっと楽しくなる!

偶数の月の第3金曜日に公開。どうぞお楽しみに。