地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第77回 井上史雄さん:イギリスの方言みやげ ― ヨークとニューキャッスルの訛り
Dialect souvenir in England ― Accent of York and Newcastle

筆者:
2009年12月5日

外国の方言みやげは、これまでいくつか紹介されました(第12回「外国の方言みやげ」第19回「韓国の方言事情」第67回「リトアニアの方言区画」第74回「ドイツの方言(ベルリン編)」)。今回は英語の例をお見せします。1989年にイギリスで方言みやげを見つけました。いずれもイギリス(イングランド)北東部の、訛りがきつい地域のものです。

【写真1 ヨークシャ方言のテーブルクロス】
【写真1 ヨークシャ方言のテーブルクロス】
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【写真1】はヨークで手に入れたテーブルクロスです。「ヨークシャ方言」は有名です。単語や短文で訛った発音を示そうとしています。

ニューキャッスルの方言エプロン
【写真2 ニューキャッスルの方言エプロン】
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【写真2】はジョーディーGeordie方言のエプロンpinnyです。同じデザインのテーブルクロスもあります。ジョーディーというのは、タインTyne川流域ニューキャッスルの方言のことです。こちらも綴りを変えて発音の違いを示し、面白おかしいことを書いています。

方言みやげは、人々の意識を反映します。英語の訛りの強さは、イギリス(イングランド)の北のほうに際立ちます。これについての英語の論文の一つは、インターネットでダウンロードして読めますし、印刷もできます。English Papers by Fumio Inoueで検索すると出てきます。V章19b論文 “Subjective dialect division in Great Britain” の167ページの地図で場所が分かります。また170ページのグラフで学生の意識が分かります。

実はEnglish Papers by Fumio Inoueは三省堂のサーバーで見ることができます。学術論文を探すには、Google Scholarが便利で、またCINIIやGENIIも役立ちます。でも上の論文は今のところ検索されません。

日本で英語の本を出版しても、高くついて、一部の人しか(だれも?)買いません。インターネットで公開したので、無料配布と同じ効果があります。でもサービスしてくれた三省堂の人は「出版社としては複雑な気持ちだ」と言っていました。せめて三省堂のほかの本が売れるといいのですが。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。