台湾の言語事情は複雑です。電車(台北捷運MRT)の車内アナウンスの4言語が象徴的です。①「国語」としての中国語(北京語)のほかに、②閩南(ミンナン、ビンナン)語(福建語・ホーロー語とも)、③客家(ハッカ)語、④英語が使われているのです。録音を聞いてください。善導寺(Shandao temple)駅です。
北京語は戦後国民党政権がもたらしました。閩南語が一番多く使われ、「台湾語」とも呼ばれます。客家語は中国南部から移住した人々のことばです。北京語が標準語・共通語だとすると、閩南語は、台湾の代表的方言と言えます。北京語と発音が違っていて、漢字で表わせないことばもあります。
(画像はクリックで拡大します)
そこで書き方に工夫をこらしているのですが、その一つがアルファベットの活用です。【写真1】のように、中華料理店のメニューや八百屋の値札には「A菜」と書いてあります。食べたらすなおな味でした。漢字で書けば“萵仔菜”で、台湾の方言では「エ・ア・ツァイ」のように発音するのですが、北京語で発音した「Aツァイ」のほうが日常生活でよく使われているそうです。
また屋台の看板に「Q」「QQ」などと書いてあります。日本語の「しこしこ」「きゅっきゅっ」(弾力のある食感)にあたる擬態語です。また台北駅付近には「K書中心」という施設があります。クーラー付きの自習室です。「K書」は勉強、がり勉という意味で、啃書(ken shu)または看書(kan shu)からきているそうです。
次に、台湾語を表すのに、注音字母を使うこともあります。カタカナに見かけが似た文字で、子音と母音と声調を示します。【写真2】のメニュー末尾の注音字母は「バブ」と読んで、アイスクリームを売るときのラッパの音を表したものだそうです。台湾風アイスクリームの意味です。これはまだ食べていません。
このように、民衆の話しことば、台湾語(方言)は文字に記され、街角でも見られるようになりました。近年は台湾独立運動の波に乗って、台湾語をローマ字で表わす動きもあります。これからの変化が楽しみです。
なお台湾の方言については第89回「海外の方言事情(台湾語の看板)」でも取り上げられています。