「津軽弁」はいくつあるか、と聞かれたら、さぁ何と答えたらいいでしょうか?
青森県の津軽地方で話されている方言のことだと考えれば、「大きく見れば1つだろう」とも言えるでしょうし、この地域で使われている「ジョッパリ」〔強情っ張り、意地っ張り〕など津軽らしさを表現した特有の単語だと考えると、地元の人でも「はて、いくつあるものやら……」と考え込んでしまいそうです。
が、今回話題にしようとしているのは、実はその方言のことではなく、弘前市の弁当業者が共同して売りだしている弁当の統一ブランド=『津軽弁』のことです。いかにも津軽らしい食材を取り入れたり、伝統的な調理法で作ったごはんやおかずを入れたりと、津軽ならではの持ち味を活かして、個性化を図っています。
旅に出ると、いつもとは違うこと=「非・日常」に出会いたいと思うのが普通でしょう。見るもの、聞くもの、食べるもの、……、できるだけこれまでに自分が体験したことのない珍しいものに出会いたい、触れてみたいと思います。
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そういう期待に応えようと作られたのがこの『津軽弁』で、21の団体が集まった「駅弁・空弁・津軽弁プロジェクト実行委員会」で工夫・検討を重ね、東北新幹線が「新青森」まで延びるのに合わせて、平成22年4月に、4社7種類でスタート。その後さらに数が増え、平成26年3月1日現在、5社24種類の弁当が『津軽弁』として販売されています。
JR弘前駅2階の自由通路(駅の東口と西口を結ぶ通路が、道路の歩道橋のように、線路をまたぐ形になっています)、その名も「あずましロード」には毎日販売コーナーを設けています。「あずましい」とは当地の有名な方言で、〔快適な、心地よい、満足な〕といった意味のことばです。のぼりが立ち並び、オレンジ色の揃いのハッピを着たお姉さんたちが笑顔で迎え、たくさんあってどれにしようか迷っていると、それぞれの特徴を説明してアドバイスもしてくれます。その他、青森空港などでも販売しています。
名前にも『ばっちゃ御膳』〔おばあちゃん〕の意、『鯛めしとイガメンチ』イガ〔烏賊〕の脚ゲソを使った昔からの家庭料理、『青森やっぱり ほたてだべー』〔やっぱりホタテでしょう〕、『津軽マッコ弁当』マッコは〔馬〕で馬肉を使った弁当、など、方言にちなんだものがあり、入っている食材・料理とも相まっていっそう津軽らしさをアピールしています。
『ばっちゃ御膳』には、包み紙の裏に、方言の紹介も交えて、写真入りで材料や調理法の解説まで付いています。
なお、弁当や駅弁に『○○弁』と名付けた例では、これまでにこの連載で取り上げたものでは、第62回「方言駅弁「ずうずう弁」がありました。その他、方言関係の本には、全国各地に『べごっこ弁当』(べごっこ=〔牛〕肉の弁当。山形駅)、『よかっぺ寿司』(よかっぺ=〔いいでしょう〕、水戸駅)、『いずも弁ちょんぼしせっと』(人気のある弁当を「ちょんぼし」〔少しずつ〕小分けにして3種類をセットにしたもの。松江駅)、などといった、方言にちなんだ名前の弁当があることが紹介されています。
《参考》
弘前観光コンベンション協会のホームページに『津軽弁』の紹介があります。
http://www.hirosaki-kanko.or.jp/web/details.html?id=CNT00408271503267921