国語辞典入門:小学生向け辞典 自分に合う辞書の探し方、比較方法
2010年 5月 26日 水曜日 筆者: 飯間 浩明第19回 語釈の「比較リスト」の作り方
学習国語辞典(学習辞典)の語釈について、大まかなところを述べました。そっけない語釈もあれば、くわしくていねいな語釈、あるいは、簡潔ながら要を得た語釈もあります。中には、くわしいか簡潔かという以前に、ほかの辞書をまねたのではないかと疑われる語釈もあります。
以上は、あくまで総論です。これだけでは、どの学習辞典にどのタイプの語釈が多いかまでは分かりません。辞書ごとのタイプの違いを知るには、どういった語に注目して辞書を比較すればいいかという「比較語リスト」を作っておくと便利です。
リストなしで、思いついたことばを片っ端から引き比べるというのでもかまいませんが、基づくものが何もなければ、公平な比較にならないおそれがあります。
たとえば、「作曲」をA辞典・B辞典で引いてみると、こんな具合です。
〈曲を作ること。〉(A辞典)
〈音楽の曲をつくること。また、詩にふしをつけること。〉(B辞典)
また、「悲哀」はこんな具合です。
〈悲しみ。あわれ。〉(A辞典)
〈〔しみじみとかんじられる〕かなしさやみじめさ。〉(B辞典)
この結果からは、「A辞典は語釈が簡単、B辞典はくわしい」と考えたくなります。でも、それは早計です。次に、2つの外来語を比べてみます。まず、「キー」はこうです。
〈1 かぎ。2 問題などを解く手がかり。3 オルガン・ピアノ・コンピューターなどの、指でおす所。〉(A辞典)
〈1 かぎ。2 ピアノ・オルガンなどの、指でおすところ。けんばん。〉(B辞典)
また、「リンク」はこうです。
〈1 いくつかのものごとを結びつけること。2 インターネットで、ホームページなどから別のページに移ることができるようにすること。〉(A辞典)
〈むすびつけること。連結させること。〉(B辞典)
形勢が逆転し、今度はA辞典がB辞典よりもくわしいという結果になりました。
ことばの種類ごとに比較する
これはどういうことでしょうか。「作曲」「悲哀」など、一般的な二字熟語は、A辞典よりもB辞典のほうがくわしい場合がやや多い感じです。一方、情報機器の発達などで新しい意味が生まれている場合、A辞典はそれをすくい取っていることがあります。つまり、学習辞典ごとに、どんな種類のことばに重点を置いているかが、微妙に違います。
辞書ごとの重点の違いを知るために使うのが、「比較語リスト」です。いくつかの単語を紙に書いて、それをもとに、店頭で辞書を比較します。リストは、あなた自身が作ります。以下に、どういう種類のことばをリストアップすればいいか、アイデアを記します。
(1)二字熟語 漢字2字を音読みすることばです。「作曲」「悲哀」もそのうちです。硬いことばが多く、意味も抽象的なものが大半です。「威嚇」「空転」「挑戦」「輪郭」など、考えつくことばをリストに加えてみてください。「作曲」は「曲を作ること」という説明で十分か、さらに説明を加えるべきかは、人によって意見が分かれるところでしょう。
(2)感情や様子を表すことば 感情などの微妙な特徴が、うまく説明されていてほしいと思います。「こわい」「おそろしい」の違いが分からない辞書が多いことは述べましたが(第17回参照)、必ずしもそんな例ばかりではありません。「うらやましい」「いら立つ」「しゃくに障る」などの説明が、自分の語感に合うかどうか確かめてください。
(3)新しいことば 社会の変化に伴って、最近使われるようになったことばです。外来語がかなりの部分を占めます。上に述べた「キー」「リンク」の新しい意味もこれに含まれます。必ずしも最新のことばを多く載せる辞書がいいとは思いませんが、情報通信分野などの新語が分かりやすいかどうかは、その辞書のひとつの評価基準になるでしょう。
(4)百科語 理科や社会科など、主に国語以外の授業で習うことばです。たとえば、「小笠原国立公園」「カバーガラス」「砂防ダム」「蜜栓」など。お宅にある学習参考書の索引を使えば、候補がリストアップできます。ただ、現在のところ、百科語を十分にカバーする学習辞典はありません。こういうことばは、百科事典で調べるのが筋だとも思います。
このほか、「そわそわ」「にやにや」などのオノマトペ、「打つ」「掛ける」など多くの意味を持つことば(多義語)がどう説明されているかも知りたいところです。実際に紙に書き出さなくても、これらの注目点さえ頭に入れておけば、比較の作業はできます。
◆連載を続けてお読みになる方は⇒「国語辞典入門」アーカイブ
◆記事のタイトルからお探しになる方は⇒「国語辞典入門」目次へ
◆飯間先生のもう一つの連載は⇒「『三省堂国語辞典』のすすめ」目次へ
◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」
筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
これまで「『三省堂国語辞典』のすすめ」をご執筆くださった飯間浩明先生に「国語辞典の知っているようで知らないことを」とリクエストし、「『サンコク』のすすめ」が100回を迎えるのを機に、日本語のいろいろな辞典の話を展開していただくことになりました。
辞典はどれも同じじゃありません。国語辞典選びのヒントにもなり、国語辞典遊びの世界へも導いてくれる「国語辞典入門」の始まりです。







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