タイプライターに魅せられた男たち・第131回

ジェームズ・デンスモア(24)

筆者:
2014年5月15日
「Caligraph No.3」
「Caligraph No.3」

1883年3月、アメリカン・ライティング・マシン社は、コリーに生産工場を増設しました。新たに78キーの「Caligraph No.3」を発売するにあたり、マンハッタンの工場では手狭になってきたからです。ただし、コリーの工場は、あまりうまくいきませんでした。アレンにもハーモンにも技術力がなかった、というのも一因ですが、そもそもコリーでは、腕のいい工員が集まらなかったのです。それに加えて、コリーは、ニューヨークからもシカゴからも離れているため、どうしても輸送費が高くついてしまいます。ヨストとデンスモアは、生産工場の新たな移転先を、東海岸に探すことにしました。

一方、ウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社は、「Remington Standard Type-Writer No.2」と「Caligraph No.2」の比較広告を、雑誌や新聞に続々と掲載していました。この比較広告を、少し引用してみましょう。

「Standard」タイプライターは「Caligraph」に較べ、ほんの少しだけ高価だが、しかし「Caligraph」は、安価な競合機という需要に合わせただけのものだ。
前方で蝶番状に固定されたキーレバー、キーレバーの真ん中にあるキーボタン、開放された後方に取り付けられた活字、で構成される「Caligraph」のシステムは、レミントンの特許に対する支払いを避けるためのもので、動作が遅く、感触がバラバラで、覚えにくく、非常に貧弱なキーボードという結果に終わっている。この「必要の子供」をアメリカン・ライティング・マシン社は、「Caligraph」と命名したのだ。
「プラテン・シフト」機構の特許を避けるべく、72種類の活字を有する「Caligraph」は、76種類の活字を有する「Standard」タイプライターに較べ、ほぼ2倍もの数の部品が必要となっている。これら2倍もの数の部品は、値段を下げるべく、軽くてチープな素材で作られているのだ。

ウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社の比較広告(『Brown & Holland Shorthand News』1884年4月号)
ウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社の比較広告(『Brown & Holland Shorthand News』1884年4月号)

しかも、この比較広告と同様の内容を、『The Cosmopolitan Shorthander』誌1884年9月号に、ウィックオフが署名入り記事として寄稿しました。ウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社の社長みずからが、「Caligraph No.2」を讒誣したのです。これに怒ったデンスモアは、『The Cosmopolitan Shorthander』誌の翌月号に、長文の反論を寄稿しました。

ジェームズ・デンスモア(25)に続く)

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。とりあげる人物が女性の場合、タイトルは「タイプライターに魅せられた女たち」となります。