タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(16):Densmore Typewriter No.2

筆者:
2017年9月28日
『Illustrated Phonographic World』1894年6月号

『Illustrated Phonographic World』1894年6月号

「Densmore Typewriter No.2」は、デンスモア・タイプライター社が1893年に発売したタイプライターです。デンスモア・タイプライター社は、1891年にエイモス・デンスモア(Amos Densmore)が創業した会社ですが、彼は1893年10月14日に亡くなっており、上の広告の時点では、弟のエメット・デンスモア(Emmet Densmore)が後を継ぐとともに、ユニオン・タイプライター社の傘下に入っていました。

「Densmore Typewriter No.2」の特徴は、全てのキーと活字棒(type bar)の可動部分に、ボールベアリングが使われていることです。エイモス・デンスモアが、バロン(Walter Jay Barron)およびワーグナー(Franz Xavier Wagner)とともに発案したこの機構は、滑らかなキータッチを実現するという点で、デンスモア・タイプライター社の売りとなっていました。ただし、「Densmore Typewriter No.2」の印字機構は、いわゆるアップストライク式で、印字はプラテンの下に置かれた紙の下側におこなわれます。打った文字をその場で見ることはできず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。活字棒の先には活字が2つずつ埋め込まれていて、キーボード左下の「UPPER CASE」キーを押している間は大文字や記号が、離している間は小文字や数字が印字されます。

「Densmore Typewriter No.2」のキー配列は、いわゆるQWERTY配列で、42個のキーに84文字が収録されています。キーボードの最上段は、大文字側に“#$%_&’()◊が、小文字側に23456789-*が並んでいます。次の段は、大文字側にQWERTYUIOP+が、小文字側にqwertyuiop=が並んでいます。その次の段は、大文字側にASDFGHJKL:@が、小文字側にasdfghjkl;¢が並んでいます。最下段は「UPPER CASE」キーが左端にあり、大文字側にZXCVBNM?.§が、小文字側にzxcvbnm,/!が並んでいます。デンスモア・タイプライター社がユニオン・タイプライター社の傘下に入ったことから、「Densmore Typewriter No.2」のキー配列は、「Remington Standard Typewriter No.2」のキー配列を、ほぼ完全に踏襲していたのです。

なお、上の広告の「Densmore Typewriter No.2」は、フロントパネルに「No.2」の表記がありません。下に示す別の広告によると、この時点では、従来の76文字のモデルを「No.1」、新しい84文字のモデルを「No.2」と呼んでおり、上の広告の図が「Densmore Typewriter No.2」、下の広告の図が「Densmore Typewriter No.1」ということになります。

『Phonographic Magazine』1893年1月1日号

『Phonographic Magazine』1893年1月1日号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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