地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第171回 田中宣廣さん:動く「方言エール」~東日本大震災復興の方言メッセージ(4)

筆者:
2011年10月8日

146156166の3回にわたり,東日本大震災に関連する「方言エール」について紹介してきました。

【写真1 方言エールTシャツ初期の例】
【写真1 方言エールTシャツ初期の例】
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【写真2 大きく「がんばっぺ」】
【写真2 大きく「がんばっぺ」】
(クリックで拡大+ステッカーも)
【写真3 ローマ字でも「Ganbappe」】
【写真3 ローマ字でも「Ganbappe」】
(クリックで拡大+袖も)
【写真4 Tシャツを見る人も頑張ります】

【写真5 まさしく復興メッセージです】

上:【写真4 Tシャツを見る人も頑張ります】
下:【写真5 まさしく復興メッセージです】
(クリックで拡大)
【写真6 高速バスの「けっぱれ」】
【写真6 高速バスの「けっぱれ」】
(クリックで全体を表示)

今回は,“動く”方言エールを紹介します。ポスターや看板などの,場所が固定された掲示物と異なり,動くので,見る人も多くなります。

まずTシャツです。第156回に「②F がんばっぺす! みやこ(Tシャツ)」【写真1】(第156回での写真はクリックでエールの部分だけ表示されます)を紹介しましたが,最近,方言エールをプリントしたTシャツが多く見られます。Tシャツなので,着ている人が動けば,方言エールも一緒に動きます。

方言エールは,胸側,背中側の両方ともあります。第156回で紹介した例は左胸に小さく(楕円の長径約10cm)ですが,最近のものは,胸側でも背中側でも大きく描いています。

描かれる方言エールは,基本的なもので,上の「がんばっぺす! みやこ」や「がんばっぺ東北」【写真2】があります。「がんばっぺ東北」は関連するステッカー類も発売されています【写真2~クリック】。

また,ローマ字の「Ganbappe 3.11」【写真3】もあります。袖にはかなと漢字の表記もされ,やはり,ステッカーもあります【写真3~クリック】。

派生形もあります。たとえば,近年流行の当て字的な書き方による「顔晴っぺ宮古」です。読み方は,「ガンバッペ」ですが,この書き方には,顔が晴れ晴れするように,悲しみを乗り越えて,の意味があるといいます。

別のことばでは,「負げねぞ釜石」や「がんばっつぉ!! 宮古」【写真4】があります。

方言ではなく,なんと英語も登場しました。「REVIVE MIYAKO」(私の訳で『よみがえれ宮古』とします)【写真5】です。岩手県宮古市に救援に駆けつけた各都道府県警察に感謝したTシャツです(「MPD」は,Metropolitan Police Department=警視庁=東京の警察)。

“動く”と言えば,バスもありました。高速バスの後ろに「けっぱれ! 東北!!」とありました【写真6】。

現在,Tシャツは,10枚程度から,オリジナルを注文して作成できます。ユニフォームにしているグループも多くあります。つまり,方言エールTシャツは,いくらでも作ることが可能なのです。バスに出会うことがあるかもしれません。皆さんも見つけましたら,私たちに教えてください。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。