地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第212回 井上史雄さん:方言ういろの全種類入手法
How to get all the packages of dialectal Uiro cakes

筆者:
2012年7月28日

名古屋駅で短時間、方言みやげを探しました。名物ういろ・ないろのケースに方言が書いてありました。色は4種類。大人買いのつもりで4個を手に取りましたが、下の箱を見たら書いてあることばが違います。並べてみたら、19種類ありました。これから行くところに、手土産としてたくさん持って行っても、配る先はあるでしょう。思い切って全種類を買い込み、証拠写真を撮ったあと(図1)、バッグに詰めて運びました。

全種類が入手できたのか?
 ホームページ//www.osu-uiro.co.jp/food/index.htmlには載っていません。メールで問い合わせたら、すぐに返事がありました。24種類でした。

【写真1】大須、白ういろの5種
【写真1】大須、白ういろの5種(クリックで拡大表示)

「実際の売場(店舗)では、名古屋弁のパターンを基本とした商品管理は行っておらず、弊社工場からの出荷及び、店舗への納品はランダム(無作為)に行っております。」とのことでした。こどものころのお菓子のおまけと同じで、全部そろえるのは、大変です。でも、親切に、全種類の名古屋弁と標準語のリストが添えてありました。貴重な資料なので、転載しましょう(【写真2】、許可済み)。

【写真2】名古屋弁リスト(PDF画像)
【写真2】名古屋弁リスト(PDF画像)(クリックで全体を拡大表示)

メールには「名古屋弁及び解説(標準語)については、弊社内にて自主編集いたしました」とありましたが、発音の特徴をよくとらえているし、単語の選び方がたくみです。メッチャンコ(第209回)も入っています。会話文ですから、依頼、勧誘、禁止などの表現も、分かります。産地の大須は、方言イベントでも有名なところです。さすがです。

なお買ったういろのうち4種類は自宅に持ち帰って、味わいました。おいしかったです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。