地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第221回 田中宣廣さん: 「盛岡弁の自販機でがんす」
(「子ども向けの方言の拡張活用」付け足し)

筆者:
2012年9月29日

(写真は,クリックで全体表示)

【写真1】盛岡弁自販機(宮古市)
【写真1】盛岡弁自販機(宮古市)

方言をしゃべる自動販売機につきましては,この連載でも第9回で紹介されました。それらは,大阪弁や名古屋弁など,勢力の強い方言でした。地方には,大阪弁ほどの勢力のない方言でも,方言自販機は,活躍しています。今回は,岩手県の県庁所在地,盛岡市の方言による自販機を紹介します。

それは,第9回にも紹介のあるダイドードリンコ株式会社のもの(参考:方言自販機のサイト=//www.dydo.co.jp/corporate/jihanki/communication/talk/morioka.html)です【写真1】。代金を入れるとき,商品を選んでボタンを押したとき,また,お釣りがあるときは,お釣りの出たとき,の2回または3回,方言が聞かれます。普通の利用者の多くが気がつかないと思われますが,2パターンあります。以下に紹介します(パターン呼称の「A」と「B」はここだけのもの)。

[A]音声が流れます(クリックで再生:多く聞かれる)

マーイド アリガトゴザンスー。ヒャッケ ノミモノワ イカガデゴザンス。(購入)ソレ ウメガンスヨ。(お釣り)アリガトガシタ。マダオデァッテクナンセ。オズリッコ トリヤンシタスカ?

〔共通語訳〕毎度ありがとうございます。冷たい飲み物は,如何でございます。~ それ,美味しいですよ。~ ありがとうございました。またいらしてください。お釣り,お取りになりましたか?

[B]音声が流れます(クリックで再生:数回に1回聞かれる)

マーイド アリガトゴザンスー。キョーワ アズナッスー。ヒャッケ ジュースデ リフレッシュ シテクナンセ。(購入)アリガトガシタ。マダオデァッテクナンセ。(お釣り)オズリッコ トリヤンシタスカ?

〔共通語訳〕毎度ありがとうございます。今日は,暑いですね。冷たいジュースで,リフレッシュしてください。~ ありがとうございました。またいらしてください。お釣り,お取りになりましたか?

皆さんは,どのくれぁ わがりやんしたすか?

(写真は,クリックで全体表示)

【写真2】遊んでみっぺす(釜石市)
【写真2】遊んでみっぺす(釜石市)

《第216回の付け足し》
 子ども向けの方言の拡張活用例の付け足しです。岩手県釜石市の中妻体育館の催し『親子のあそび広場』のチラシに「さぁ、思いっきり遊んでみっぺす!」の誘いの方言メッセージがあります【写真2】。なお,この企画の主催者は復興庁です(裏面に明記)。つまり,これは,国の機関の広報に,方言メッセージが使用された珍しい例,としても特徴的なものです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。