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地域語の経済と社会 第312回 お菓子の外来語―新潟市のロシア語 Loanwords of cakes — Russian language in Niigata City

2014年 9月 27日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第312回 お菓子の外来語―新潟市のロシア語
Loanwords of cakes — Russian language in Niigata City

 今回は地域と結び付いた外来語が使われたみやげを取り上げます。1980年代に新潟駅ビルのみやげもの店で入手したお菓子二つを紹介しましょう。

(画像はクリックで全体表示)
【写真1】
【写真1】「はらしょ」
【写真2】
【写真2】「すぱしーぼ」

 まず「はらしょ」【写真1】。ひらがなとロシア文字で記してあります。「すばらしい」「ワンダフル」の意味です。「ハラショー」は、終戦後厳しいシベリア抑留生活を経験した人が、引き揚げで日本に持ち帰ったロシア語です。

 「すぱしーぼ」【写真2】もひらがなに小さなロシア文字が添えてあります。「ありがとう」という意味です。こちらは、各国の感謝のあいさつが並べられるときに使われます。

 この2種類、21世紀に入ってからは見かけません。「はらしょ」の発売元丸屋本店にメールで問い合わせたら、「販売開始は1964年頃から」で、「以前のトヨ型の形状から、小型羊羹に」変えて、作り続けているそうです。一方「すぱしーぼ」を出した香月堂は2009年に閉店したそうです。写真は、レアものです。中身を入れたまま冷凍庫で保存していたら、超レアものでしょうが。

 昔は新潟とロシアのハバロフスクを結ぶ空路がありました(今は夏だけです)。ハバロフスクからシベリア鉄道に乗り継いでモスクワまで行くのが安いルートでした。また1990年前後にはロシアの船員が新潟港で中古車買い付けをすることもありました。ロシアと交流があったおかげで、新潟市内の観光案内板でも日英中韓以外にロシア語が使われることがありました。この動きを経済的に活用したのが、上のお菓子2種です。

 なおShunsuke Ogawa (2010)の以下の論文には、九州の外来語みやげが載っています。

On the decay, preservation and restoration of imported Portuguese Christian missionary vocabulary in the Kyushu district of Japan since the 16th century(http://kuscholarworks.ku.edu/dspace/bitstream/1808/7333/1/SC.2010.1.150-161.pdf)(PDFファイルが開きます)

 「クルス」「バテレン」「ザビエル」で、江戸時代以前の日欧交流を反映したものです。日高貢一郎さんの私信によると、九州各地と山口県に類例があります。かつての開港地函館には「トラピストクッキー」があります。横浜と神戸にもきっとあるでしょう。

 このシリーズのテーマは「言語経済学」です。その実用講座が11月10日に開かれます。日本で(世界で?)はじめての試みです。この三省堂のシリーズ「地域語の経済と社会」がきっかけになったものです。以下のウェブページをご覧ください。

日経ビジネススクール:ビジネスに活かせる「多言語化社会」対応講座~訪日観光客2000万人時代の経済言語学~ 案内ページへ(http://www.nikkei-nbs.com/nbs/seminar/141110Ld.html)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『ことばの散歩道』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』『ことばの散歩道』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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2014年 9月 27日