地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第21回 田中宣廣さん:テレビの方言活用

筆者:
2008年11月1日

第11回で『岩手弁 方言詩の世界』を紹介しました。岩手県の各放送局は,方言の高い価値をよく理解するとともに,その活用にも積極的です。

【じゃじゃじゃフライデー/じゃじゃじゃTV】

【写真1 「じゃじゃじゃフライデー/じゃじゃじゃTV」】

IBC岩手放送(テレビ)では,毎週金曜日朝の「じゃじゃじゃフライデー」,毎週土曜日朝の「じゃじゃじゃTV」(「TV」は「ティーヴィー」と発音)で,番組名に「方言ネーミング」を採用しています(写真1 IBCのwebより)。「じゃじゃじゃ」とは,盛岡市を中心に使用されている方言で,驚いたときの感嘆詞です(主に男性。女性は「さささぁ」が多い)。東京では「あっ」また「えっ」などと声を発するだけか,ことばを言わないこともあります。東北地方では,驚いたときことばを言い,それが各地で異なります。だから,驚きのことばにその地域を端的に表す効果があるのです。

【『おばんですいわて』】

【写真2 『おばんですいわて』】

NHK盛岡放送局では,毎週月曜日から金曜日の,昼に『ひるっこいわて』,夕方に『おばんですいわて』があります(写真2 NHK盛岡のwebより)。「ひるっこ」は,「昼」にこのシリーズの第1回で紹介した「っこ」を付けました。「おばんです」は,夕方から夜のあいさつの「こんばんは」です(似た名まえの「OHバンです」が,宮城県の宮城テレビにあります)。

【「がんすけどん」と「なはんちゃん」】

【写真3 「がんすけどん」と「なはんちゃん」】

NHK盛岡局には,「方言キャラクター」のオリジナルキャラクター「がんすけどん」と「なはんちゃん」が最近登場しました(写真3 NHK盛岡のwebより)。「がんすけ」は,盛岡など岩手県中部で丁寧の意を表す「-ガンス」からです。「そーでガンス」(そうでございます)などと使います。NHKのwebで絵にカーソルを当てると,用例「よがんすか」(ようございますか)が出てきます。「なはん」は,ほぼ同じ地域に使われる間投助詞また終助詞です。「それでーナハン,あのー,まさる君も…」,「そして,今,せんせ(先生=医師)ナハン,外国さ 講演だって 外国さ 行ってるんだよ。」,「よく来たナハン。」,「そうしたっけナハン。」(そうしたんだよね)などと使います。webで出る用例は「ほだなはん」(そうだね)です。

【『週刊ことばマガジン』】

【写真4 『週刊ことばマガジン』】

岩手朝日テレビには,「方言エンターテイメント番組」があります。宮城県の東日本放送が制作している『週刊ことばマガジン』(写真4)で,毎週土曜日朝の放送です。番組内に地元の人による「方言パフォーマンス」が必ず入ります。私も解説者として出たことがあります。

【岩手めんこいテレビ】

【写真5 「岩手めんこいテレビ」】

「岩手めんこいテレビ」(写真5 フジテレビ系列)は,日本の全国ネットの放送局でただ一社,社名が「方言ネーミング」のテレビ局です。「めんこい」は「かわいい」という意味の有名な方言ですね。

ところで,テレビの「方言ネーミング」には,けっこう歴史があります。『番頭はんと丁稚どん』が,大阪の毎日放送により,昭和34年(1959)から翌年にかけて放送されました。大阪の「方言ネーミング」ドラマには,ほかに『あかんたれ』や『どてらい男(やつ)』もありました。

【「おれがこんなに強いのも,当たり前だのクラッカー」】

【写真6 「てなもんや三度笠」】

テレビの「方言ネーミング」で,全国的ヒットの最初は,『てなもんや三度笠』(写真6 コロンビア社DVDより)でしょう。今の40歳代後半より上の人はよく知っています。「てなもんや」とは大阪方言で「…ということだ。」という意味です。大阪の朝日放送からTBS系で,毎週日曜日夕方,昭和37年(1962)から昭和43年(1968)にかけて放送され,『てなもんや一本槍』~『てなもんや二刀流』が昭和46年(1971)まで続きました。番組内ドラマは,全体が,大阪,江戸,名古屋などの方言による「方言パフォーマンス」になっていました。10年間,毎週,全国の家庭に「方言ネーミング」の「方言パフォーマンス」が放送されていたのです。若い人にも,有名な劇中CM「おれがこんなに強いのも,当たり前だ(前田)のクラッカー」は,知っている人が多いようです。

テレビの方言活用を,皆さんも気をつけてさがしてみてください。見つけたら,私たちに教えてください。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。