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地域語の経済と社会 第142回 勧誘表現「らっしぇ」「らっせ」の方言差

2011年 3月 19日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第142回「勧誘表現「らっしぇ」「らっせ」の方言差」
Dialectal differences of Solicitation expressions “rasshe” & “rasse”

 人に誘いかける言い方は、方言差が豊かでした。今は使われなくなったその勧誘表現が、新たな価値を持って、商品名や施設の名などに使われています。

 伊豆半島の稲取温泉には、「くわっせ」というお菓子があります。「食べなさい」の意味です。一方この地域のパンフレットなどでは「こらっしぇ」という言い方が使われます。インターネットのGoogle mapで検索すると、稲取温泉の店の宣伝やクチコミ以外に、他の地域でも使われることが分かります【下図参照】。

図 Google mapの「らっしぇ」
【図 Google mapの「らっしぇ」】(画像はクリックで拡大します)

 またGoogle mapでは、似た言い方の「らっせ」「らんしょ」などの分布も分かります。このような表現は、方言集にはあまり出ませんが、インターネットで集められるのです(Google地図の保存方法については、第127回をご覧ください)。

 これまでのシリーズでも、第13回第143回で東北や九州の施設で似た発想の方言が使われていることが指摘されています。また第39,44,49,54,59,64,69回で扱われた各地の「もてなしの方言」にも、似た表現が混じっています。

 商品名やクチコミの用例でなく、店名施設名として確立した勧誘表現は、電話帳で分かるはずです。様々なインターネット全国電話帳を見ましたが、Yahoo電話帳http://phonebook.yahoo.co.jp/が便利で、全国の店名が一覧できます。

 「らっしぇ」を使っている施設名は、福島県の一つでした。
   JA会津みなみ藤の郷直売所よらっしぇ

 それにひきかえ、「らっせ」は、あちこちの施設で使われています。「道の駅 らっせぃみさと そばの郷」は、岐阜県恵那市三郷町にあります(ホームページhttp://www.rassei.com/)。

 他に以下の店が見つかりました。
   宇都宮餃子「来らっせ」【池袋餃子スタジアム】
   こらっせ新庄(山形県)

 インターネットを使うと全国(ときには全世界)の様子が分かります。これは面としての情報で、鳥瞰図にあたります。研究者が偶然目にする、または足を運んで確かめるという調査法は、点としての情報で虫瞰図と言えます。

 今回の東日本大震災の津波被害は、立体航空写真の撮影技術を持った民間機と自衛隊機と自治体が連携すれば、被害の様子が全地域総なめで分かるはずです。これも鳥瞰図のレベルの情報です。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2011年 3月 19日