WISDOM in Depth: #25

2008年 4月 8日 火曜日 筆者: 赤野 一郎
【編集部より】
辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます。第25回は編者の赤野一郎先生の5回目です。

コーパスが英和辞典を変える (5)

類義語を使い分ける

意味の似た語を類義語 (synonym) という。たとえばoccurとhappenは「〈出来事が〉起こる」という意味で類義語だが,まったく同じ意味とは言えず,何らかの点で異なる。1億語のイギリス英語コーパスBritish National Corpusで,書きことばと話しことばにおける使用頻度と分布を調べてみると,下の図1,図2のようになる。

図1graph-happen-occur.jpg

図2graph-w-s.jpg

全体としてhappenはoccurにくらべ使用頻度が圧倒的に高く,比較的話しことばで好まれ,反対にoccurは話しことばより書きことばで好まれる傾向がある。といっても書きことば全般では図2が示すように,happenの使用頻度の方が高く,occurが4に対しhappenが6の比率である。occurの書きことばで好まれる傾向をさらに調べるために,書きことばの領域を自然科学・純粋科学および社会科学に限定し,happenとの分布の比率を調べてみると,occurが6割を占めhappenが4割になり,逆転する。つまり,occurは学術文書などのかなり堅い書きことばで特に好まれ,文脈を精査すると,特に化学や医学において現象などが「生じる,発生する」の意味で使われることがわかる。一方happenは,主語にthing, something, anythingなどをとり,とにかく何かが起こったことを述べるのに適している。happenの類義の囲み記事「happenとoccur」をご覧いただきたい。他の辞書の類義解説には見られない両者の意味上の相違についての解説が与えられている。

xmhfurfj37hwgtdoquzvrnu4_400.png

このように使用領域によって頻度が異なる類義語もあれば,用法の異なる類義語もあり,外国語として英語を学んでいるわれわれにとって特に用法の違いを知ることが重要で,それによって使い分けが可能になる。類義語の意味の差は用法,特にコロケーションの差になって現れる。類義語におけるコロケーションの差は,コーパス分析の得意とするところである。たとえばalmostとnearlyを同時に検索し,右1語目で各列をアルファベット順に並べ替えると,almostとnearlyの両方と連結する語,almostと連結するがnearlyとは連結しない語,あるいはその逆の傾向を持つ語が即座にわかる。

いずれの語とも連結するケース
xmhfurfj37hw7swevmxexrcc_400.png

almostとのみ連結するケース
xmhfurfj37hw9j5vjkfjvk3o_400.png
xmhfurfj37hwb2oj3lmrxni8_400.png
xmhfurfj37hwbrj3g4bpqkpi_400.png
xmhfurfj37hwc96khlcdaypu_400.png

nearlyとのみ連結するケース
xmhfurfj37hwd5wzpxhjyzsv_400.png

almostの類義の囲み記事「almostとnearly」はこのようなコーパスに基づく分析結果に基づき作成されたものである。上に示した「almostのみと連結するケース」は(1a)~(1e)に対応していることに注意されたい。

xmhfurfj37hwituugh9ep0zx_400.png


【筆者プロフィール】
赤野 一郎  (あかの・いちろう)

京都外国語大学教授。
専門は語用論,コーパス言語学,辞書学。
編著書には『英語コーパス言語学』(研究社出版)など多数。


WISDOM in Depth: #24

2008年 4月 1日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第24回は,編者の井上永幸先生の8回目です。

コーパスで検証する (3)

−語義と訳語:putの場合−

英和辞典の利用目的の多くを占めるのが語義・訳語の確認であろう。ところが,特別な専門用語を除いて,複数の言語間で対応する語や語義が完全に一致することはまれである。たとえば,pneumoniaと「肺炎」,influenzaと「インフルエンザ」といった医学用語では,英語と日本語が全く同一語義でずれるところがないが,comeやgoといった例では,それぞれ「来る」や「行く」は訳語のひとつでしかなく,英語と日本語における物理的意味や文化的意味の分布に大きな違いが見られる。

このことは,それぞれの語を同規模の英和辞典と国語辞典を引き比べてみれば一目瞭然である。外国語学習の際にやっかいなのは,このように外国語と母語で対応する単語の意味用法にかなりの差が見られるものがあることである。特に,外国語に対応する母語の意味・用法や訳語が多岐にわたる場合は,早期から外国語の意味分布を概念化して,場面に応じた母語で表現できるようにしておくことが必要である。

たとえば,putの場合,「置く」というのはあくまで基本的概念であって,「載せる」,「入れる」,「付ける」,「しまう」など,「置く」の守備範囲をはるかに超える訳語を文脈に応じて使い分ける必要がある。putを使いこなすには,そのような文脈をより多く経験するしかないが,『ウィズダム英和辞典』では,語義の一部として与える訳語だけではなく,語源,コーパス頻度ランク,用例,表現欄などによって,全体像をつかみやすくする工夫を凝らしている。

xmhfurfj378p95xngxfit53m_400.png
xmhfurfj378pb2s66bgopjqn_400.png


【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


WISDOM in Depth: #23

2008年 3月 28日 金曜日 筆者: 成田 あゆみ
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第23回は,好評のコラム「読解のポイント」を担当した成田あゆみ先生です。

「譲歩」について〜「保留し、判断しながら」英語を読むために

前回の本コラムでは、論理展開を示す表現 (however, on the other hand など) が、文脈に依存せずに意味を決定できるほとんど唯一の語であるため、英文の文脈判断の出発点になることを述べました。

しかし、こうした表現のなかでもとりわけ重要な「譲歩」表現に限っては、文脈によって意味が決定します。今回はこの「譲歩」についてご紹介したいと思います。

「譲歩」とは何か

「読解のポイント」では「譲歩」を、「筆者の主張の前に、筆者の主張と対立する事実・意見を置くことで、筆者の主張により説得力を持たせる論理展開の型」という意味で使っています*。例えば、

Teaching computer skills may help to develop creativity among children, but firsthand experience should be emphasized above all in children’s education.

では前半部分、Teaching computer skills may help to develop creativity among children が「譲歩」にあたります。
この部分は but を介して、firsthand experience should be emphasized above all in children’s education という主張をより際立たせる働きを持っています。そして、筆者が前半部分を「譲歩」と意図していることは、may の存在が示しています。

* 論理展開中のこうした段階を「譲歩」と呼ぶべきかどうかは、迷うところがありました。英文法では no matter how SV(「どんなに…であろうとも」)を「譲歩節」と呼んだり、また Poor as he was の as(「…であるが」)を「譲歩のas」と呼ぶのが一般的です。しかし、アカデミックライティングの本でこうした機能が言及される場合、to concede と呼んでいるものもあることから、「読解のポイント」でも「譲歩」と呼ぶことにしました。

「譲歩」の表現は、文脈によっては「主張」を表す

しかし、論理展開において譲歩の表現のほとんどは、「主張を控えめに述べる」際にも使用されます。例えば、

Oil consumption levels remain high. Therefore, in the near future it is likely that known oil reserves will be used up.

では、is likely that が、主張を控えめに表す文で使われています。

文中に may が出てきたとき、それが譲歩の意味で使われているのか、それとも筆者の主張を控えめにしているのかは、どうやって判断するのでしょうか。それは「後に逆接表現があるかどうか」がカギとなります。続く部分に however や but があれば、その前にあった may を含む文は「譲歩」であり、ある程度先に読み進めても逆接表現が登場しなければ「控えめな主張」である。そう判断することができます。つまり、may が「譲歩」かどうかは、逆接表現の存在いかんにかかっており、文脈に依存していると言えます。

「読解のポイント」で譲歩を説明する難しさ

このように、譲歩を表す表現はほとんどの場合、主張も表しますが、このことをどう説明すべきかは、「読解のポイント」執筆上最も難しい点でした。may など特定の単語に、「譲歩」と「主張を控えめに述べる」の2つの意味があると説明するのであれば問題ありません。しかし「読解のポイント」は単語ではなく、論理展開の機能別に項目を立てています。そのため「譲歩」という項目を立て、「譲歩表現には may, can, could . . . がある」と書いてしまうと、こうした表現が主張を控えめに述べる働きを持つという情報が伝わらない恐れがありました。

そこで、「読解のポイント」では、「推量・可能性の表現」という項目を立て、そこで「譲歩→逆接→筆者の主張」の展開で、推量・可能性を表す表現が、(a)譲歩、または(b)筆者の主張の目印となることがある、と説明することにしました。

「推量・可能性の表現」、言いかえれば譲歩も主張も表しうる表現として、「読解のポイント」では以下をあげています。

●推量・可能性の表現

  • may
  • can
  • could
  • might
  • would
  • seem
  • likely
  • perhaps
  • possibly
  • presumably
  • probably
「譲歩は文脈依存的である」と教えることの意義

may が「譲歩」と「主張を控えめに述べる」の2つの意味を持ち、その意味は文脈によって決定する。この説明は、切れ味がいまひとつであることは確かです。しかし、この一見したところの分かりにくさこそが、生徒にとっては、英語の理解を深めるきっかけになるようです。

譲歩表現を教えることの意義には、以下があります。

(1) 筆者の意図した通りに、英文が読めるようになる。
筆者は明確な意図をもった上で、譲歩表現を使っています。そうである以上、読み手の側でも譲歩表現に関する知識を持って読むことは、筆者の意図を把握するためには非常に有用です。

(2) 助動詞全般の理解を深めるきっかけになる。
譲歩の表現には接続詞もありますが、最も多いのは may や might, could, would などの助動詞です。
助動詞、特に推量の助動詞は、英語学習者にとって正確なニュアンスを把握しづらい分野です。なかには、助動詞の存在をほとんど無視する学習者もいます。そんななか、譲歩表現に注意を喚起することは、文中の助動詞全般に注目させるための一歩となり、この点でも有用と言えます。

(3) 「保留・予測しながら読む」という姿勢につながる。
最大の意義として、「後に however があるから、さかのぼって前出の may を譲歩とする」という考え方は、英文読解全般に不可欠な「保留・予測して読む」姿勢につながる点があります。

「この文には may が使われている。この段階では、この文が〈譲歩〉か〈主張〉かわからないが、判断を保留したまま先に読むと、次の文に however があり、その次の文に〈主張〉と思える内容があった。だから先ほどの may はさかぼって〈譲歩〉と判断する」
と説明したとき、ある生徒に
「そういうふうに『解釈を保留したまま先に読む』のは、英語すべてに見られることですよね、which が来たらどこで節が終わるのだろうかと思ったり、Sが来たら間に挿入が入ってもいずれはVが来ると予測したり…」
と指摘され、驚かされたことがあります。

確かに、英文を読むというのは、判断を保留して先に読み、予想があたって最終的な解釈としたり、予想が外れて判断を修正したりの繰り返しです。しかもこれを、論理展開に加えて、構文や文脈判断のレベルでも行う必要があります。英語を読むには「判断を保留して読み進める」という、主体的で姿勢が欠かせません。そのことに気づくためにも、譲歩表現の文脈依存度について知ることは重要な一歩となるようです。


【筆者プロフィール】
成田あゆみ(なりた・あゆみ)

『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』の執筆者。
英日翻訳者、英語講師。
大学受験予備校のほか、企業英語研修、翻訳学校で授業を行っている。
著書に『ディスコースマーカー英文読解』『[自由英作文編]英作文のトレーニング』(以上共著)『大学入試 英語総合問題のトレーニング』、訳書に『ハーゲドン 情熱の生涯』(共訳)など。


WISDOM in Depth: #22

2008年 3月 25日 火曜日 筆者: 赤野 一郎
【編集部より】
辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます。第22回は編者の赤野一郎先生の4回目です。

コーパスが英和辞典を変える (4)

機能語を「知っている」とは?

単語は内容語 (content word) と機能語 (function word) に大別することができる。内容語とは,事物の名称,性質,状態,動作,様態などを表す語で,品詞で言えば,名詞,形容詞,動詞,副詞に相当する。機能語とは,内容語と異なり意味内容が希薄で,文法構造上の関係を示す語で,前置詞,接続詞,冠詞に当たる。

では後者の機能語を「知っている」とはどのようなことを意味するのだろうか。接続詞 that を例に考えてみよう。「接続詞thatの意味は何ですか」と問われても戸惑う。でもその働きは何ですかと問われれば,「that は名詞の働きをする従属節を作ります」と答えることはできる。このように機能語を「知っている」ということは,まずその働きを知っているということを意味する。たとえば ‘the fact that . . .’のように同格節を導く名詞について,文法書 (Quirk et. al. A Comprehensive Grammar of the English Language) には次のような解説が見られる。

appositive that-clause: the head of the noun phrase must be general abstract noun such as fact, idea, proposition, reply, remark, answer and the like.

同格節を伴う名詞は意味範囲の広い抽象的な名詞であること,fact, idea, proposition, reply, remark「など」がその例であることがわかる。文法書ではこの解説で十分だが,これら5つの単語以外の名詞が同格節を伴うかどうかについては,文法書は教えてくれない。‘. . . and the like’(「…など」)の中身が重要になる。機能語を「知っている」とは,その働きとコロケーションを知っているということなのである。

コーパスを活用すると,同格節を導く名詞のコロケーションの中身がたちどころにわかる。『ウィズダム英和辞典』では,「語法」の囲みで以下のように提示し,特に頻度の高い語は太字で示されている。

xmhfurfj36yo7zaycxavrj7t_400.png

また「作文のポイント」では,日本人学習者がいかにも間違いそうな事例を示し,注意を促している。

xmhfurfj36yobfrzoblyy6l5_400.png


【筆者プロフィール】
赤野 一郎  (あかの・いちろう)

京都外国語大学教授。
専門は語用論,コーパス言語学,辞書学。
編著書には『英語コーパス言語学』(研究社出版)など多数。


WISDOM in Depth: #21

2008年 3月 18日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第21回は,編者の井上永幸先生の7回目です。

コーパスで検証する (2)

−語法注記: if A should [were to] do, . . . −

語法注記はコーパスを活用した研究成果を最も発揮しやすいところである。『ウィズダム英和辞典』では,そのようなコーパスを活用した研究成果ならではの情報には[コーパス]というレーベルをつけて表示している。ここには,従来からある説明をコーパスでより詳細に検証したものから,コーパスで検証中に遭遇した新たな発見に至るまで,いろいろなものが扱われている。今回は後者の例を紹介しよう。

if A should do . . . と if A were to do . . . は高校英語では必須の文法項目であるが,両者は「万一…すれば」のようにほぼ同じ意味で用いると説明されたり,上級者向けのやや詳しい解説では,were to の方が should より実現可能性が低い場合に用いられるといった説明が見られる。このことを検証しようと,if 節の中に were to が現れる用例と should が現れる用例を観察していると,興味深い現象に気づく。were to を含む if 節の帰結節では,would,might,could などの仮定法過去形が一般的であるのに対して,should を含む if 節の帰結節では,would,should,might をはじめ,be going to,will,命令文,法助動詞を含まない形などが現れることも少なくない。仮定法過去を使うより,当然これらの表現を使う方が確信度は高まる。

  • If something should happen, just call this number.
  • If something should happen to us, the Navy will at least have partial records of what happened.
  • If anything should happen, I’m going to be fine and everything’s going to be all right.
  • If anybody should be doing this, it’s you.

『ウィズダム英和辞典』(第2版)(s.v. if (接) 5a (類義)(3))では,こういった事情を配慮した説明となっている。

xmhfurfj36o8ghzccxabyazn_400.png

【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


WISDOM in Depth: #20

2008年 3月 14日 金曜日 筆者: 成田 あゆみ
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第20回は,第2版で初登場した好評のコラム「読解のポイント」を担当した成田あゆみ先生です。

「読解のポイント」について~文脈把握の出発点として

『ウィズダム英和辞典』では、英語の書き言葉で用いられる論理展開を示す表現を「読解のポイント」という欄で解説しています。接続語・接続表現・つなぎ言葉・論理マーカー・ディスコースマーカー等々、さまざまな呼び方がありますが、どれも基本的に意味は同じです。「読解のポイント」では接続語だけでなく成句も幅広く含める形で、以下の展開を示す表現を解説しています。

■「読解のポイント」一覧

  • 強調 (actuallyの項で、以下同)
  • 列挙・追加 (in ADDITION)
  • 逆接 (but)
  • 例示 (for EXAMPLE)
  • 対比 (on the other HAND)
  • 推量・可能性 (may)
  • 時の対比 (now)
  • 類似 (similarly)
  • 結果・結論 (therefore)
  • 言い換え (in other WORDS)

これ以外にも、例えばhoweverのように
(→but 【読解のポイント】)
と参照を示したものを含めると、100近い語・句にこうした「論理展開を示す語」としての役割について説明を加えています。学習用英和ではもちろん、英和辞典全体として見ても、本邦初の試みです。

■英文の論理展開のルール

論理立った英文には明確な「型」があるとはよく言われます。こうした型は英語ネイティブと言えども自然に体得することはなく、高校や大学などの「アカデミック・ライティング」の授業等を通じて学習した後、レポートや論文でその型を使って実際に書いていくことで身につけるものです。この型の詳細については、アカデミック・ライティングについての教科書に譲りますが、日本の高校生・大学1~2年に教える場合、以下の6点に集約することができます。

(1) 1つのパラグラフでは、1つのことしか述べてはならない

(2) パラグラフ内、また本論の各パラグラフ間は、原則として「抽象的な内容から具体的な内容」の順に論を展開する。(主張が先、根拠が後)

(3) 上記の最大の例外として、「そのパラグラフで最も言いたいこととは逆の内容を一度提示してから、それを否定する形で自説を述べる」というものがある 
(譲歩→逆接→主張→理由の展開)

(4) これに似たものとして「対比」の存在がある。すなわち、言いたいことことを際立たせるために、対比的な内容を先に述べてから自説を展開する。特に時の対比(昔は……一方今は……)はよく使われる

(5) 「抽象→具体」以外の論理展開については、論理の転換を示す語を正しく使う必要がある。一方、「抽象→具体」の論理展開は英文の基本形なので、論理の転換を示す語は不要だが、あってもよい(for example、becauseなど)。

(6) 論文の場合、序論・本論・結論 (Introduction/Body/Conclusion) の三部構成とする

読解のポイントは、上記の(5)を、役割別に詳解したものと位置付けることができます。

■接続表現は、文脈把握の出発点である

こうした英文の論理展開の説明をすると必ず受ける反論の一つが、「こうしたことは日本語だろうと英語だろうと、何かを読むときには無意識のうちにやっていることなのだから、あえて英文読解のなかで教える必要はない」というものです。

でも本当にそうなのでしょうか。もちろん、一部の優秀な人はあえて指示されなくても自然に論理展開に注意しながら読めるのかもしれません。が、そもそも英語のネイティブスピーカーでさえ、論理展開の型は母語の話し言葉のように自然に習得することはありません。ましてや外国語として英語を学ぶ日本の高校生や大学生に、接続表現への注意を喚起することは、助けにこそなれ、害になることは決してないでしょう。

しかし、英文の論理展開において接続表現に注意が必要な最大の理由は、これとは別にあります。

それは英語という、多義語が非常に多い言語において、一部の専門用語を除いてほとんど唯一「文脈に依存せずに意味を決定できる語」が、こうした接続表現だという点にあります。上にあげた接続表現は、いわば「文脈判断の出発点」なのです。

英語が多義語の多い言語、言いかえれば文脈依存度の高い語が多いことはよく知られています。
例えばoperationという単語ひとつとっても、
1 手術  2 活動  3 企業  4 演算処理  5 作動  6 軍事行動
と分野によって大きく異なる意味を持ちます。

このため、he had an operation / our operation here began in 2004
だけでは、上記のどの意味で使われているのか、定かではありません。

しかし、これが

  • My father had a heart attack; however, he had an operation and is totally fine now.
  • Our operation here began in 2004, and now we are planning to set up a new plant in the suburbs of Shanghai.

という文脈とともに示されたとき、読み手は
「heart attackと〈逆接〉でつながるようなoperationなのだから、このoperationはきっと『手術』のことなのだろう」
「2004年にoperationが始まり、現在は上海郊外に新工場を検討中という〈時の対比〉なのだから、このoperationは「操業、企業活動」といった意味だろう」
という具合に思考を働かせます。

論理展開を示す語の文脈依存度が低いということは、文脈によって意味がぶれないことを意味します。そのため、これらの語を文脈判断の出発点にして、文脈依存度の高い語の意味を決定していくというのが英語の読み方です。
こうしたことから、英文においては接続表現に注目することが非常に重要であり、読み手は接続表現の意味を手助けにしながら、文脈のなかでの単語の意味を決定していくのです。

このことをよりよく理解するため、日本語の文と比較してみたいと思います。

上記の文を日本語にした場合、
「父は心臓発作を起こした[ ]、手術を受けて今は元気だ」
「当地での操業は2004年にスタートした[ ]現在は上海郊外に新工場を計画している」
となります。

[ ]には「そして」も「が」も入りますし、何も入れないことも可能です。接続表現はほとんど意味を持っていないことがわかります。

日本語は個々の単語の意味が非常に具体的で細分化されているので、単語が文脈を決めていくようなところがあります。接続表現は使われていてもあまり意味がなく、少なくとも英語における「文脈把握の出発点」のような重要性はありません。

英語と日本語の接続表現は一対一対応しているように見えますが、実は文脈把握における重要性は英語と日本語とではまったく異なります。「英文では、接続表現こそが文脈把握の出発点になる」。このことを特に学習者に強調することは、英文の内容把握を助けるという点で非常に有意義であり、また英語と日本語の単語の意味範囲の違いに目を開かせるきっかけともなることでしょう。


【筆者プロフィール】
成田あゆみ(なりた・あゆみ)

『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』の執筆者。
英日翻訳者、英語講師。
大学受験予備校のほか、企業英語研修、翻訳学校で授業を行っている。
著書に『ディスコースマーカー英文読解』『[自由英作文編]英作文のトレーニング』(以上共著)『大学入試 英語総合問題のトレーニング』、訳書に『ハーゲドン 情熱の生涯』(共訳)など。


WISDOM in Depth: #19

2008年 3月 4日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,編者・編集委員・執筆者の先生方にお書きいただきます。第19回は,編者の井上永幸先生の6回目です。

コーパスで検証する (1)

-語義配列順: make-

WISDOM in Depthの#1で述べたが,コーパスを活用した研究には,特定の仮説をコーパスに基づいて検証するコーパス基盤的な(corpus-based)立場がある。これから数回は,この立場からの事例をご紹介してゆく。

『ウィズダム英和辞典』では,検索時のヒット率を上げるため,語義を原則として頻度順に配列するようにしている。「原則として」と書いたのは,学習の便を考慮してその原則が曲げられることがあるからである。

makeといえば「…を作る」の意がすぐに頭に浮かぶが,最も頻度の高い用法は「…を作る」ではなく,make a decisionのように,主に動詞派生の名詞を目的語にとって,その名詞が表す行為を「する」ことを表す。もともと動詞makeが持っていた意味は軽く希薄となるため,このような働きをする動詞のことを軽動詞(light verb)と呼ぶこともある。

さて,問題は頻度順語義配列で,このような事例をどのように扱うかである。makeの語義の冒頭がいきなり「[[make a A]] Aをする, 行う」という語義で始まるのも抵抗があるであろうし,かといって頻度順語義配列という原則でこの辞典を編集する以上,この軽動詞の用法がmakeの用法の中で頻度順の上位を占めることを何らかの方法で示す必要がある。そこで,多義の項目で語義のまとまりを示すサインポスト(【 】)と,新設した「コーパス頻度ランク」を使って処理することとした。まずは,学習の便を考慮して【作る】のグループを先に挙げ,その後,軽動詞用法の【…する】のグループを挙げる。その上で,コーパス頻度ランクで,「makeは『…を作る』が基本の意の(動)だが, 目的語に(動)の名詞形を伴うと『〈特定の行為〉をする』ことを表し,この用法が頻度の上で上位を占める.…」といった説明を入れることとした。「頻度順」と簡単に言うが,その裏には種々の苦労が隠れていることを知っていただければ幸いである。

xmhfurfj364npacng28ozgqf_400.png
xmhfurfj364nqsgqsdeeshjv_400.png
xmhfurfj364o0fjoeloxhuz2_400.png


【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


WISDOM in Depth: #18

2008年 2月 29日 金曜日 筆者: 神谷 昌明
【編集部より】
『ウィズダム英和辞典』の紙面には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,執筆者の先生方にお書きいただきます。第18回は語源を担当していただいた神谷昌明先生のご登場です。

一人の作家が単語の意味を変える
–「原義」と「語源」そして「初例」の提示–

「原義」と「語源」の定義

「原義」は現在使用されている最初の語義(意義),即ち一番古い意味を表し,「語源」は現在使用されていない元の語義(意義)を表す。『ウィズダム英和辞典』は使用頻度順語義配列のため,「原義」が第1語義になるとは限らない。そのために「原義」を示し各語義の派生関係を分かり易くした。

gay

xmhfurfj35yunucaprpntsqc_400.png

gayの最初の意味(原義)はフランス語源の「陽気な」であるが,現在では「同性愛者の,ゲイの」の意味でよく使用される。「ゲイの」の初例は1935年の Geycat (a homosexual boy) に遡る。フランス語 (gai, gaie) でも近年「ゲイの」の意味で使用されるが,英語 gay(ゲイの)からの転用である。

『ウィズダム英和辞典』における語源情報の取り込み方の新機軸の一つに「初例」の提示をあげることができる。学習英和辞典で「初例」を提示したのは『ウィズダム英和辞典』が初めてであろう。英語学習者の文化的・歴史的知識を喚起させ,vocabulary building の観点から,語彙学習が楽しくなるように配慮したものである。

sex

xmhfurfj35yupczvtfhk3rwb_400.png

sex の最初の意味(原義)は「性別」であるが,D.H. Lawrence が作品 Pansies(1929年『三色すみれ』)の中で sex を「性交」の意味で使った。日本では,D.H. Lawrence は Lady Chatterley’s Lover(1928年『チャタレイ夫人の恋人』)の著者であまりにも有名である。もし D.H. Lawrence が「性交」の意味で使わなければ sex の語義は「性別」のままであったかもしれない。100年も経過していないのに一人の作家の影響で「性交」が使用頻度上,「性別」を駆逐したことは注目に値する。

wink

xmhfurfj35yuu9q1wnhry5xa_400.png

wink は本来語(ゲルマン語; (独)winken)であり,元の意味(語源)は「(物理的に)目を閉じる」であった。現在では「(親しみのために)ウインクする」の意味で使用される。

初例は1837年,C. Dickens の作品 Pickwick Papers(『ピクウィック・クラブ』)からである。C. Dickens が比喩的転用で「(親しみのために)ウインクする」を使わなければ wink の語義の派生は今とは異なる道を歩んだであろう。

以下に初例を提示した語彙を簡潔に示す。

◆campus [「平原」>「大学の構内」; (1774年)プリンストン大学(米国)の構内が最初の例]
◆high school [初例は1531年スコットランド・エディンバラの学校]
◆pub [<public house; 初例は1859年]
◆scoop [原義は「小シャベル」;「特ダネ」の初例は1874年(米)]
◆screen [原義は「(熱などを)仕切るもの」; 映画の初例は1915年雑誌Film Fun]
◆seat [議席の意味の初例は1774年米]
◆shoot [「(球技の)シュート」の初例は1816年,クリケット(cricket2)]
◆software [soft(柔らかい)ware(陶器); ソフトウエアの初例は1960年,COBOL]
◆spectrum [スペクトルの初例は1671年 Newton; Newton による発見は1666年]
◆speculate [原義は「熟考する」; 「投機する」の意味は1785年 Thomas Jefferson から]
◆summit [語源は「最も高い(sum)所」; 「首脳会議,首脳陣」の初例は1950年,英国の政治家 W. Churchill から]
◆supermarket [最初のスーパーは米国テネシー州の Piggly Wiggly(1916年)]
◆technique [<フランス; 元は芸術の技法; 初例は1817年,英国の詩人 Coleridge の詩学の手法]
◆web [Web(ウェブ)の初例は1994年,雑誌 American Scientist から; World Wide Web は1990年から]
◆whiskey [語源は「生命の水」; ウイスキーの初例は1715年,スコッチ・ウイスキー]

以下は『ウィズダム英和辞典』には載っていないが参考までに。

◆star [スター(人気俳優)の初例は1779年 Warner in Jesse]
◆culture shock [カルチャーショックの初例は1940年,田舎者が都会生活で感じる苦痛]


【筆者プロフィール】
神谷昌明 (かみや・まさあき)
国立豊田工業高等専門学校教授
専門は英語学,英語史 『ウィズダム英和辞典』執筆者(語源担当)


WISDOM in Depth: #17

2008年 2月 26日 火曜日 筆者: 赤野 一郎
【編集部より】
辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます。第17回は編者の赤野一郎先生,3回目のご登場です。

コーパスが英和辞典を変える(3)

基本語を「知っている」とは?

現行の学習指導要領では中学校における英語の必修単語は900語という総数が定められている。教科書によって900語の内容は異なるが,いずれの教科書も共通して扱っている語がある。名詞に限っても,wind, way, ideaなど英語における基本語といわれるものである。これらの単語を「知っている」とはどのようなことを意味するのだろう。それぞれの単語の意味が「風」,「方法,道」,「考え」だと言えれば,これらの単語を「知っている」と言えるのだろうか。では「風が吹く」,「風が強まる」,「風がやむ」は英語でどのように表現するのか。多くの中高生は「風が吹く」を除いて答えることができない。単語を「知っている」とは,その語の意味が認識できるだけでなく,その語にまつわる状況を表現できて初めてその語を「知っている」と言えるのである。windと言えば,blow (吹く), pick up (強まる), die down/stop (やむ) が即座に思い浮かばなければならない。『ウィズダム英和辞典』ではこのような語と語の典型的な結びつき,すなわちコロケーション情報を「表現」の囲みで提供している。

xmhfurfj35tyu7o0npxzf9dn_400.png

さらに基本語を「知っている」と言えるためには,上で述べた語彙的パターンであるコロケーションだけでなく,基本語が持つ文法的パターンを知ることも重要である。その抽出と分析にコーパスが威力を発揮する。たとえば,wayという語はコーパスで分析すれば,‘限定詞+(形容詞)+ of doing’, ‘限定詞 +(形容詞)+ to do’, ‘in + a/an +(形容詞)+ way’, ‘the way + that節’, ‘動詞 + one’s way + 前置詞句’などの多様なパターンを有することがわかる。その1つが‘the way + 節’で,以下のコンコーダンスデータが示すように,このパターンには4つの意味用法があることがわかる。

xmhfurfj35tzphwmi3ws49le_400.png

『ウィズダム英和辞典』ではこの分析結果をwayの語義2に反映させている。

xmhfurfj35tyx3z2xecgayxs_400.png

頻度の観点から2番目にもってきたことと,a~dの4つに分けて詳述できたのは,コーパス分析のたまものである。現代英語の使用実態を反映しているという点で,この用法にこれほどのスペースと重要性を与えた辞書は他にないと自負している。


【筆者プロフィール】
赤野 一郎  (あかの・いちろう)

京都外国語大学教授。
専門は語用論,コーパス言語学,辞書学。
編著書には『英語コーパス言語学』(研究社出版)など多数。


WISDOM in Depth: #16

2008年 2月 19日 火曜日 筆者: 井上 永幸
【編集部より】
辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます。第16回は編者の井上永幸先生です。井上先生の連載は隔週火曜日に掲載しています。

Corpus-BasedからCorpus-Drivenへ (5)

−略式連語表記: 「すべて」を表す語−

単語はすべて知っているものばかりなのに,文全体の意味がどうもわからないということを経験することがある。下に挙げる文は,学期の始めに私が授業で取りあげるもののひとつである。

My grandfather remembers everything from the movie he saw last week to where he put his glasses.

学生の多くは,知っている単語ばかりなのに,文全体の意味がとれないことに歯がゆい思いをする。そこで,特定の単語と相性のよい単語があること,もちろんその相性には意味が大きく関わっていることを話す。everythingで「あらゆること」を表し,その後に続くfrom . . . to . . . がその範囲を明示していることにふれ,以下のようなKWIC(Key Word in Context)表示を示す。

xmhfurfj35jufd6qga1l3bzo_400.png

このような機能語との連語関係を示す文法的連語〔grammatical collocation〕に関しては,『ウィズダム英和辞典』では略式連語表記と称して〔→p. viii,「本書の使い方」(6.5)〕,語義とともに記述している。従来の辞書でも動詞や形容詞についてはかなり詳細な記述が行われるようになっているが,『ウィズダム英和辞典』(第2版)では,それ以外の品詞の語に関しても,コーパスを分析してできる限りこのような情報を与えておいた。 everythingの場合,「《…から…まで/…についての》すべての事[物]; ありえるすべての事; あらゆる状況, 万事《from . . . to . . . /about》」といった具合である。

なお,from . . . to . . . を従える特徴は,all,every〔everythingなどを含む〕,any〔anythingなどを含む〕など,他の「すべて」を表す語にも見られる。

xmhfurfj35jx426ttcmxtnk3_400.png


【筆者プロフィール】
井上 永幸 (いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。


« 前のページ次のページ »