国語辞典入門:辞書の使い方 辞書に書いてある記号、符号、略号

2010年 7月 21日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第27回 追い込み項目に注意せよ

 国語辞典を開いてみると、見慣れない記号や略号がたくさん書きこまれています。あれはいったい何の役に立つのか分からない、という声を聞きます。

 記号などの意味は、冒頭の「凡例」にすべて解説してあるのですが、小さな字でぎっしり書いてあって、読みにくいのも事実です。電器製品のマニュアルや、クレジットカードの約款を思わせます。凡例が読みにくいせいで、国語辞典の基本的なルールを知らないまま使い続けているという人も多いはずです。

 私としては、一般読者向けの凡例はぐっと簡略化し、国語辞典を使うために最低限必要な知識だけを示せばいいと思っています。編集方針や、専門家向けのより細かい凡例は、じゃまにならない所に、ひっそりと記しておくだけでもいいのです。

 では、国語辞典を使うための最低限の知識とはどんなことか。今から、それを私のことばで説明しようと思います。いわば、私なりの「より抜き凡例」です。

 まず、「追い込み」の話から始めましょう。多くの国語辞典では、紙面節約のために、上の部分が共通することばは1か所にまとめてあります。たとえば、「社会」の項目には、〈――あく[社会悪](名)〉〈――うんどう[社会運動](名)〉などと、いくつもの「小見出し」がぶら下がっています。この処理のことを「追い込み」と言います。

追い込み項目の画像

 この追い込みのことを知らずに、あるいは考えずに辞書を引いて、「目当てのことばが載っていない」と早合点をすることは、よくあることです。

 『三省堂国語辞典』の小学生の読者から、「ライトノベル」ということばを載せてほしいという要望のはがきが来ました。でも、『三省堂』には、「ライトノベル」はすでに載っているのです。おそらく、この読者も、早合点をしたのだと思います。

 『三省堂』の「らいどう(雷同)」と「ライトモチーフ」の間には、たしかに「ライトノベル」はありません。でも、前のページの「ライト」を見ると、〈――ノベル(名)〉のように、追い込みの形で項目が設けてあります。

 追い込みは、小学生用の学習国語辞典にはないものです。小学生の投書者が知らなかったのは、やむをえないことかもしれません。

「意地悪」が載ってない!

 追い込みという処理方法を知っている読者でも、まだ勘違いするおそれは残っています。国語辞典によって、追い込みのしかたに微妙な違いがあるからです。

 私自身がたまに失敗するのは、こんな場合です。『三省堂』で「いじわる(意地悪)」を引くと、「いしわた(石綿)」と「いしん(威信)」の間に出ています。そのあとで、ほかの辞書の記述も参考にしようとして、「意地悪」を調べてみると、なんと軒並み載っていない、などということがあります。

 たとえば、『岩波国語辞典』の「石綿」の次はすぐ「威信」です。『新選国語辞典』(小学館)『新明解国語辞典』(三省堂)などもそうです。これらの辞書が「意地悪」を載せていないはずはありません。そこで気がついて、2、3ページ前の「意地」の項目を開いてみると、「意地っ張り」「意地悪」などが、ちゃんと追い込みになっています。

 つまり、こういうことです。『三省堂』では、追い込みにするのは、上のことばが3音以上の場合と決めてあります。たとえば、「ライト・ノベル」は「ライト」が3音なので、「ライトノベル」は追い込みにします。一方、「いじ・わる」は、「いじ」が2音なので、「意地悪」は追い込みにしません。このように、音数主義で徹底しています。

 『旺文社国語辞典』なども、『三省堂』に近い方針をとっています。

 一方、『岩波』『新選』『新明解』などは、方針が違います。『岩波』では、和語・漢語・外来語ごとに規則があり、漢語では、熟語にさらにほかの語がついた場合を追い込みにします。「意地」は漢語の熟語であり、したがって、「意地悪」は追い込みになるわけです。『新選』以下の辞書でも、ほぼ同じ理由で追い込みになっています。

 もっとも、「和語の場合」「漢語の場合」などと説明されても、戸惑う読者が大部分でしょう。実際には、「これは長い熟語だから、追い込みになっているだろう」といった、だいたいの見当で探しているはずです。私は、それで十分だと思います。

 大事なことは、ことばが載っていないと思ったときは、追い込みの可能性の有無を確認することです。それさえ忘れなければ、細かいことにはこだわらなくて大丈夫です。

 ちなみに、まったく追い込みをしない方針の辞書もあります。最大の国語辞典『日本国語大辞典』(小学館)のほか、『現代国語例解辞典』(同)などがそうです。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
これまで「『三省堂国語辞典』のすすめ」をご執筆くださった飯間浩明先生に「国語辞典の知っているようで知らないことを」とリクエストし、「『サンコク』のすすめ」が100回を迎えるのを機に、日本語のいろいろな辞典の話を展開していただくことになりました。
辞典はどれも同じじゃありません。国語辞典選びのヒントにもなり、国語辞典遊びの世界へも導いてくれる「国語辞典入門」の始まりです。


国語辞典入門:小学生向け辞典 選ぶ観点 基準

2010年 6月 30日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第24回 学習辞典を特徴づける対立軸

 学習国語辞典(学習辞典)を選ぶときに、どういう点に注目すればいいかについて、基本的なところを述べてきました。この話題のしめくくりとして、主要な点について、対立軸を設定してみます。実際に辞書を選ぶ時の参考にしてください。

 ●デザイン――マンガが多いか、少ないか
 デザインは学習辞典ごとにくふうをこらしていますが、あえて対立軸を設けるなら、紙面にマンガやキャラクターの絵が多いものと、少ないものとに分けられます。前者は、低年齢の子や、学習習慣の不十分な子にはいいかもしれません。そうでない子には少々うるさいでしょう。そのほか、大きさや重さ、表紙の材質なども判断材料になります。

 ●本文書体――教科書体か、ほかの書体か
 本文には、筆写体に近い教科書体を使うのが、多くの学習辞典の方針です。私はこれがいいと思います。デザインの面では、もっとかっこいい書体もあり、それを使う辞書もありますが、字形の学習にはふさわしくありません。学習辞典は、子どもが文字を書くときの規範になるべきです。手書きの楷書体を添えてもいいと思います。

 ●ルビ――総ルビか、パラルビか
 目下の情勢としては、学習辞典はみな総ルビ方式に向かっており、パラルビ(部分ルビ)方式は消えつつあります。ただ、総ルビにしさえすればいいと、いささか安易に考えられているふしもあります。同じ総ルビでも、内実はいろいろであることは述べました。また、高学年になれば、パラルビのほうが読みやすいと思う子もいるはずです。

 ●漢字表記――表外字を仮名にするか、漢字で書くか
 多くの学習辞典の表記欄では、常用漢字表に入っていない漢字(表外字)は仮名で書き、必要に応じて漢字を添えています。どういう場合に「必要」と考えるかは、辞書によって微妙に異なります。一方、表外字であってもすべて漢字で示す辞書も、少数ながらあります。むずかしい漢字を知りたい子にとっては、このほうが役に立ちます。

 表記欄では、学習漢字は無印、常用漢字は「○」、表外字は「×」など、区別を示してあるのがふつうです。こうしてあれば、どの漢字から学べばいいかが分かり、便利です。

複数の辞書を比べながら使うといい

 ●語釈――多くの行数を取るか、短くまとめるか
 辞書の語釈は、一般に、長く書いてあるものが好まれます。でも、語釈にまず求められるのは、その事物を的確に定義することです。誰にもぱっと分かる語釈なら、短くても十分だし、要点をつかんでいない語釈なら、長く書いてもだめです。ある辞書の「オーストラリア」の項目で、タスマニア島にまで言及していることを評価する人がいます。でも、タスマニア島に触れなくても、オーストラリアを定義することは十分できます。

 その辞書の語釈の傾向を知るには、「比較語リスト」が有効です。私の示した例も参考に、できれば10語以上のリストを作って、辞書売り場に持って行くといいでしょう。

 ●語数――多くを求めるか、抑え気味にするか
 どのくらいの語数の入った学習辞典が適当かということは、子どもの持つ語彙量によって変わります。学校や日常生活で出合うことばを引いて、載っていれば、その辞書はまず問題なく使えると考えていいでしょう。幼稚園の子が見るアニメに「あこぎ」「戦歴」「討伐」などのことばが出てきて、それが学習辞典にないと指摘する人がいます。これはアニメが学習範囲を超えているのであって、辞書を批判するのは酷な面もあります。

 ●例文――最後に示すか、最初に示すか
 ほとんどの学習辞典は、例文を最後に示しています。ことばの使い方を示すのも辞書の大切な役割であることを考えれば、例文を最初に示す行き方はあっていいと思います。ただし、語釈と例文とが紛れないように、デザインを十分くふうすべきです。

 以上のような対立軸について学習辞典をチェックしてみると、すべての点で望みどおりの辞書を得ることは、なかなかむずかしいものです。そこで、1冊だけではなく、複数の辞書を使うという方法が有効になります。

 最初は1冊の辞書をとことん使い込むべきことはもちろんですが、やがて不満も出てきます。その頃に、もう1冊の辞書を加え、両方を比べながら使うといいでしょう。

 何かの研究発表をする時、1冊の辞書に基づいて説明するだけでは、丸写しになります。でも、2冊の辞書を比べて、どちらがより適当と考えるかを述べれば、それはささやかながらも「考察」です。複数の辞書を使うことには、こんな学習上の効果もあります。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
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【編集部から】
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国語辞典入門:幼児向けの辞典・事典 絵じてん

2010年 6月 23日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第23回 絵じてんで親子コミュニケーション

 学習国語辞典(学習辞典)についての話題も、そろそろ締めくくりに近づいています。このあたりで、絵じてんについて触れておいてもいいでしょう。

 絵じてんとは、カラーのさし絵を使って、ことばの意味を子どもにも分かりやすく示した辞典(または事典)のことです。対象年齢は、ざっと幼稚園入園前の子どもから小学校低学年といったところです。

 私の娘も、幼稚園に通い始める頃から、絵じてんがお気に入りになりました。彼女はほとんど病院に行ったことはありませんが、「びょういん」のページで、「ほうたい」「しっぷ」「ガーゼ」といったことばを、絵とともに覚えたりしています。

 子どもの行動範囲はごく狭く、新しいものごとに触れる機会はわりあい限られています。絵じてんは、子どもの体験を擬似的に広げてくれる道具のひとつです。

 ことば一般を扱う絵じてんとして、『三省堂こどもことば絵じてん』、『三省堂ことばつかいかた絵じてん』、『くもんのことば絵じてん』(くもん出版)、『小学館ことばのえじてん』、『レインボーことば絵じてん』(学研)などがあります。このほか、漢字絵じてん、ことわざ絵じてん、けいご絵じてんなど、各社がアイデアを競っています。

 絵じてんの編集のしかたは、大きく分けて、ことばを意味ごとに分類したもの(分類体)と、五十音順に並べたもの(五十音引き)とがあります。どちらを選ぶかは、子どもの性格や好みにもよりますが、年齢がひとつの目安になります。

 分類体の絵じてんは、ひらがなが読めるか読めないかという年齢の子でも入っていけます。「びょういん」「どうぶつえん」「ごはんを たべる」「かいすいよくへ いく」などと、見開きが1つの絵になっていて、さまざまな事物が描きこまれ、名前が添えられています。じてんという意識もなく、絵本と同じ感覚で読むことができます。

 五十音引きは、もう少し成長した子どもにとって、よりふさわしいでしょう。1ページが8つ程度のコマに分割され、その1つ1つにさし絵つきでことばの説明が載っています。「からだ」「くだもの」「さかな」などの基本的な項目では、絵を大きくして、関連する事物を描き、分類体ふうにしてあるページもあります。

美しく正確なじてんを

 絵じてんに注文したいことは、2つあります。ひとつは、動詞の扱い方です。

 絵じてんでは、動詞は、「たべる」「おきる」などの終止形を見出しに掲げてあります。それはいいとして、絵に添えてある例文までも、「ごはんを たべる」「あさ はやく おきる」など、すべて終止形になっています。ところが、幼児の言語生活では、こういった終止形は必ずしも多く使われません。

 ある絵じてんを見ると、「たべる」の項目に描かれているのは、実際は、子どもがご飯を「たべている」ところです。「おきる」に描かれているのは、子どもが今「おきた」ところです。親が説明するとき、「これは『ごはんを たべる』だよ」と言うよりも、「ごはんをたべているね」と言い直したほうが、子どもにはよく分かります。

 終止形も大事ですが、見出しだけで十分でしょう。例文は、状況に合った語形を使ってほしいと思います。終止形の続く例文は、読んでいて単調でもあります。

 もうひとつは、より重要なことです。絵じてんの絵は、美しく正確であってほしいということです。

 子どもは勉強しようと思って絵じてんを見るのではなく、まずは絵が美しいから、楽しいから読むのです。絵本と同じで、絵の美しくない絵じてんは、子どもの注意を引き止めません。わが家に数種ある絵じてんのうち、娘がいつも読んでいるのは、私の目から見ても絵の美しい本です。

 美しい絵と、正確な絵というのは少し違います。たとえうまく描いてあっても、漫画的に誇張されて、不正確になっている場合もあります。虫や鳥がそんな描き方だと、「これはバッタだよ」と、そのまま教えていいものか、ためらわれます。

 形だけでなく、色も重要です。娘に「オレンジジュース」と書いてある飲み物の絵を指して、「これは何色」と聞くと、「赤」と答えました。たしかに、その色はオレンジよりも赤に近い色です。やむをえず、トマトジュースということにしてしまいました。

 絵が美しく、例文もよく練られた絵じてんを選んだとすれば、あとは、それを生かすも殺すも親次第です。「これは何?」「これは前に食べたね?」などと質問したりして、ことばを媒介に、親子のコミュニケーションを深めていければ言うことなしです。

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【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
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国語辞典入門:辞書の例文(実例や不自然な例)、表記

2010年 6月 16日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第22回 例文の扱い方にもいろいろ

 学習国語辞典(学習辞典)の中には、例文を一番最初に持ってくるという、独特の編集方法をとるものがあります。『くもんの学習国語辞典』(くもん出版)、『小学新国語辞典』(光村教育図書)がそうです。たとえば、「うすうす」を引くと、こんな具合です。

 〈うすうす【薄薄】(例文)そのことは薄薄知っている。(意味)はっきりとではないが、ぼんやりとわかっているようす。〉(くもん)

 〈うすうす【薄薄】[例]友達の気持ちにはうすうす気づいていた。 [意味]はっきりしないが、なんとなく。かすかに。《参考》ふつう、かな書き。〉(小学新国語)

 私は、これはなかなかおもしろい試みだと思います。ことばの意味を知るということは、同時に、ことばの使い方を知ることでもあります。とすれば、使い方を示す例文を重視して、前に持ってくるという行き方は、たしかに理屈に合っています。

 ただし、引くたびにまごつくことも事実です。「例文」「例」とは表示してあるものの、一般の辞書に慣れた目には、その例文が語釈のように見えます。いちいち、「そうだ、この辞書は最初に例文が来るんだっけ」と、ルールを思い出さなければなりません。

 しかも、中には例文のない項目もあって、その場合はすぐに語釈になるのですから、混乱します。『くもん』で「薄曇り」を引くと、〈空全体にうすい雲がかかって……〉とあるので、これが例文かと思うと、〈……かかっていること。また、そのような天気。〉と続き、語釈だったことに気づきます。もう少し、使い勝手に配慮がほしいところです。

 このことは、デザインをくふうすれば解決できるはずです。『くもん』も『小学新国語』も、「例文」「例」と「意味」の表示が同じデザインなので、ほとんど区別がつきません。それぞれの違いが際だつようにすればいいのです。例文を「 」に入れるだけでも、だいぶ違います。改善案の一例を示します。

  うすうす【薄薄】「そのことは薄薄知っている。」▽意味 はっきりとではないが、ぼんやりとわかっているようす。

 かなり読みやすくなったと思いますが、どうでしょうか。例文が最初にあるのがよくないのではなく、例文と語釈とがまぎらわしいのがよくないのです。

見慣れない表記、不適切な例文

 例文については、ほかにも注目したい点があります。ひとつは、表記の問題です。「うすうす」は、見出しでは「薄薄」とあります。一方、例文では「薄薄」「薄々」「うすうす」など、いろいろです。これでは、どの表記に従えばいいのか分かりません。

 ふつう、「薄薄」と漢字を重ねることは少なく、「薄々」と書きます。「薄薄」式の辞書の表記には疑問を呈する発言もあります(小駒勝美氏)。そもそも、「うすうす」のような副詞は、ひらがなで書くのが標準的です。そこで、見出しには「うすうす・薄々」の2つを掲げ、例文では「うすうす」を使ってはどうでしょう。たとえばこんな感じです。

  うすうす【うすうす・薄々】「そのことはうすうす知っている。」

 こんなふうに実際の表記を反映した辞書は、一般の国語辞典にもまだ多くありません。実際の表記をどのように取り入れるかは、すべての辞書にとっての課題です。

 もうひとつの注目点は、例文に適切な文を選んでいるかということです。「そのことは薄薄知っている」という『くもん』の例文は、この点で不満を残します。

 辞書の例文は、語釈で表現しきれないニュアンスなどを示すものです。「うすうす」は、事情・実情・真相などをぼんやり知る場合に使います。例文をつけるなら、「事情はうすうす察していた」など、何を察するのかが分かるように書くべきです。

 用法が不自然な例文も、学習辞典には散見されます。たとえば、『チャレンジ小学国語辞典』(ベネッセ)の「何くれとなく」の項には、次の例文が出ています。

 〈おじさんは何くれとなく相談相手になってくれる。〉

 「何くれとなく」は「あれこれと。いろいろと」という意味ですから、一見、これでもよさそうです。でも、ふつうは「何くれとなく世話を焼く(面倒を見る)」の形で使うものです(他辞書の例文は、おおむねそうです)。上の例文は、間違いとは言えないまでも、少なくとも不自然です。頭の中だけで例文を考えると、えてして、不自然なものが生まれます。例文は、実例に基づいて作ることを基本にすべきです。

 学習辞典には、例文の中に、やたらに父母や兄弟が出てくるものがありますが、あまり感心しません。「妹が友だちとむつまじく遊んでいる」などとあると、「そんな言い方するだろうか?」と思います。こういうものも、頭で作り出した例文のようです。

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国語辞典入門:小学生向け辞典 語数と子どものことばの発達

2010年 6月 9日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第21回 学習辞典は何万語必要か

 国語辞典を買うとき、何万語のものを選べばいいかということは、常に読者の関心事となります。学習国語辞典(学習辞典)も、事情は同じです。

 先に、国語辞典というものは、必ずしも語数が多ければいいわけではないと述べました(第4回第10回)。もし、語数が辞書の良し悪しの尺度になるなら、語数が6万語台で比較的少ない『岩波国語辞典』や『現代国語例解辞典』(小学館)は、8万語以上を擁する『新選国語辞典』(小学館)や『旺文社国語辞典』にかなわないことになります。でも、実際は、『岩波国語』も『現代国語例解』も、すぐれた代表的な国語辞典です。

 語数と辞書の優劣が一致しない理由について、なお念を押しておくなら、こんな言い方もできます。けっこうな読書家でも、ふだん疑問に思って辞書で調べることばの大部分は、せいぜい6万語の範囲に収まります。そのため、それ以上の語彙を載せても、乱暴な言い方をすれば、あまり大勢には影響がないのです。6万のことばをしっかり説明してあれば、それだけでも、その辞書はきわめて有用な辞書になります。

 では、学習辞典はどうでしょうか。学習辞典の収録語数は、1万数千語から3万数千語までの幅があります。このうちどれを選ぶのがいいかは、子ども本人の持つ語彙量(理解できることばの数)に応じて異なってきます。

 子どもの語彙量の発達については、実は、ほとんど研究がありません。よく利用されるのは、戦前の1937年の調査結果です(坂本一郎『読みと作文の心理』牧書店)。それによれば、子どもは9歳頃までに約1万語の語彙量を獲得します。その後、12歳頃までに約2万語、15歳頃までに約4万語、18歳頃までに約5万語の語彙量に達します。

 この数字は参考にはなりますが、人によって個人差が大きいことも事実です。今の子どもは、これよりもさらに多くの語彙量を持っていると思います。その子にとって、「やや語数が多いかな」という程度の辞書を選んで、ちょうどいいくらいでしょう。

 私が小学校高学年の頃、大人向けの実用辞典を使っていたことは記しました(第1回第2回参照)。べつに、私がひねくれていたのではありません。この年頃ともなれば、中高生向けから一般向けの辞書に進んでも、決して早くないと考えます。

開始年齢を前倒ししてもいい

 小学生用の学習辞典は、従来は、小学3年生頃から卒業まで使うことが想定されていました。でも、今では、使用開始の年齢をもっと前倒しして、1年生から使ってもまったく問題ありません。このことは、中部大の深谷圭助さんの報告でも明らかです。

 小学1年生で使う学習辞典は、何万語のものでもいいと思いますが、1万数千語もあれば十分です。このレベルの辞書は、幼稚園の年長組からでも使えます(そういう早期教育がいいかどうかは、別問題です)。

 やがて、子どもの語彙量は、1万語、2万語と増えていきます。本を読んでいて、辞書を引いてもないことばが多くなれば、その辞書は買い換え時期を迎えたことになります。

 たとえば、大石真さんの児童文学の傑作『ミス3年2組のたんじょう会』(偕成社文庫、原著は1974年)を読むと、次のようなことばが出てきます。

  うら道 大通り おめかし かくれんぼ 立会人 ビフテキ もうちょうえん

 2万数千語収録のA辞典には、これらは載っていません。3万数千語収録のB辞典には載っています(ただし「立会人」はなく「立ち会い」が載っている)。そうすると、そろそろA辞典は卒業で、B辞典に移ろう、ということになります。

 ただ、B辞典を買っても、やはり載っていないことばがあります。

  かいぞえ人 ごきげんとり 五目そば たなご でめきん 番台 まるがり 

 これらは、この作品にあって、B辞典には見当たらないことばです。

 こんなことを言うと、「なんだ、B辞典もだめではないか」と速断する人がいます。でも、大人の小説だって、大型辞書にもないことばが何十語も出てきます(第5回)。書物の扱う世界は広く、1冊の辞書で覆いきれない部分はどうしても出てきます。「五目そば」などは、一般向けの辞書にもあまり載っていません。

 本を読んでいて、辞書にないことばが数語にとどまっているうちは、まだその辞書は現役で使えます(上に7つも「ない語」の例を挙げたのは、私がしらみつぶしに調べたからで、ふつうはこんなには見つかりません)。また、語数の多い辞書に切り替えてからも、古い辞書を捨てるには及びません。2つの辞書の説明を比べながら使うことによって、多くの発見があるからです。

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国語辞典入門:小学生向け辞典 語釈と語数の関係

2010年 6月 9日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第20回 語数を減らせば、語釈が親切に?

 先に、語釈の不親切な学習国語辞典(学習辞典)は困る、という話をしました(第17回)。語釈をより親切にすることに反対する人は少ないはずです。でも、親切な説明をすれば、それだけ字数・行数が増えるのではないか、と心配する人はいるかもしれません。辞書の編集にくわしい人ほど、この点が気になるのではないかと思います。

 たとえば、「提唱」ということばを次のように説明する学習辞典があります。

 〈意見や考えを言いだすこと。〉

 これでも間違いではありませんが、不親切です。「提唱」というのは、今まで言われなかった新しいことを世間に提案することです。そこで、次のように改めてみます。

 〈意見や考えを発表して、人々に呼びかけること。〉

 これなら合格です。ところが、もとの13字が22字になり、1.7倍に増えてしまいました。この調子で、すべての項目の字数を増やせるかというと、どうもむずかしそうです。

 もし、全体の字数を1.5倍程度に増やしたとすると、単純計算で、1000ページの辞書は1500ページになります。学習辞典の本文はせいぜい1300ページが限界で、それを超えると、分厚くて重くて、実用的でなくなります。すでに1000ページを超えている辞書が、項目当たりの記述を1.5倍とか2倍とかに増やすのは、現実には困難です。

 ページ数に上限を設けて、その中で語釈をくわしくしようとするなら、収録語数を減らすという方法が考えられます。かりに、同じページ数で3万語の辞書と2万語の辞書があったとすると、これも単純計算では、後者のほうが項目当たり1.5倍のスペースが確保できることになります。

 書店に行って比べてみると、ページ数はほぼ同じでありながら、収録語数が3万数千語の辞書もあれば、2万数千語の辞書もあります。実に1万語の開きがあります。字の大きさなどの条件が同じだとすれば、後者のほうがくわしい記述をしているのではないかと、ふつうには思われます。

 もしそうだとすると、語釈の親切さで学習辞典を選びたい子どもには、収録語数の少ない辞書を薦めたくなります。本当のところはどうなのでしょうか。

語数と親切さに関連なし

 実際に、収録語数の少ない辞書は語釈が長くなるかどうか、調べてみます。約3万5千語を載せるA辞典(本文約1200ページ)と、約2万5千語を載せるB辞典(本文約1100ページ)とを取り上げます。2冊に共通する192項目を選び、語釈をパソコンに入力します。それから、字数を自動的に計算させます。

 結果として、A辞典の語釈は平均30.8字、B辞典の語釈は平均31.1字でした。どちらもほとんど同じ字数です。このことから、必ずしも、収録語数が少なければ語釈が長くなるとは限らないことが分かります。

 ページ数がほぼ同じで、1万語の開きがある2冊を比べて、語釈の字数があまり変わらないのは不思議です。これは、主に、1行の字数や1ページの行数など、レイアウトが微妙に違うことが理由でしょう。また、用例の長さなども関係しているようです。

 収録語数が少なくて、語釈のくわしい辞書も、もちろんあります。その一方、語数が多くて、なおかつ語釈に力を入れている辞書もあります。収録語数が多いか少ないかということと、語釈が親切かどうかには、関連がないのです。

 根本的なことを言えば、語釈を短く切りつめたからといって、不親切になるわけでもありません。今回は、「親切な説明のためには、多くの字数・行数が必要」という前提で話をしたのですが、実は、その前提があやしいのです。私は、これまでも、簡単な語釈だからといってだめな語釈だとは言えない、と繰り返してきました(第8回など)。

 先に掲げた「提唱」の語釈は、くわしく書き換えると1.7倍に増えました。でも、同じ字数で、より的確に書き換えることもできます。別の辞書の「提唱」はこんな語釈です。

 〈新しい考えを言いだすこと。〉

 先の辞書では〈意見や考えを……〉でしたが、ここでは、〈新しい考えを……〉になっています。この「新しい」という要素を入れただけで、「提唱」の語釈としては、簡潔ながら十分なものになりました。

 このように、「親切な語釈」は、辞書の収録語数や語釈の字数にかかわらずに実現できます。「それなら、語数を少なくする意味がない」と言われそうですが、低年齢の児童のためには、語数を抑えた辞書も必要です。このことについては、次回に考えます。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
これまで「『三省堂国語辞典』のすすめ」をご執筆くださった飯間浩明先生に「国語辞典の知っているようで知らないことを」とリクエストし、「『サンコク』のすすめ」が100回を迎えるのを機に、日本語のいろいろな辞典の話を展開していただくことになりました。
辞典はどれも同じじゃありません。国語辞典選びのヒントにもなり、国語辞典遊びの世界へも導いてくれる「国語辞典入門」の始まりです。


国語辞典入門:小学生向け辞典 自分に合う辞書の探し方、比較方法

2010年 5月 26日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第19回 語釈の「比較リスト」の作り方

 学習国語辞典(学習辞典)の語釈について、大まかなところを述べました。そっけない語釈もあれば、くわしくていねいな語釈、あるいは、簡潔ながら要を得た語釈もあります。中には、くわしいか簡潔かという以前に、ほかの辞書をまねたのではないかと疑われる語釈もあります。

 以上は、あくまで総論です。これだけでは、どの学習辞典にどのタイプの語釈が多いかまでは分かりません。辞書ごとのタイプの違いを知るには、どういった語に注目して辞書を比較すればいいかという「比較語リスト」を作っておくと便利です。

 リストなしで、思いついたことばを片っ端から引き比べるというのでもかまいませんが、基づくものが何もなければ、公平な比較にならないおそれがあります。

 たとえば、「作曲」をA辞典・B辞典で引いてみると、こんな具合です。

 〈曲を作ること。〉(A辞典)

 〈音楽の曲をつくること。また、詩にふしをつけること。〉(B辞典)

 また、「悲哀」はこんな具合です。

 〈悲しみ。あわれ。〉(A辞典)

 〈〔しみじみとかんじられる〕かなしさやみじめさ。〉(B辞典)

 この結果からは、「A辞典は語釈が簡単、B辞典はくわしい」と考えたくなります。でも、それは早計です。次に、2つの外来語を比べてみます。まず、「キー」はこうです。

 〈1 かぎ。2 問題などを解く手がかり。3 オルガン・ピアノ・コンピューターなどの、指でおす所。〉(A辞典)

 〈1 かぎ。2 ピアノ・オルガンなどの、指でおすところ。けんばん。〉(B辞典)

 また、「リンク」はこうです。

 〈1 いくつかのものごとを結びつけること。2 インターネットで、ホームページなどから別のページに移ることができるようにすること。〉(A辞典)

 〈むすびつけること。連結させること。〉(B辞典)

 形勢が逆転し、今度はA辞典がB辞典よりもくわしいという結果になりました。

ことばの種類ごとに比較する

 これはどういうことでしょうか。「作曲」「悲哀」など、一般的な二字熟語は、A辞典よりもB辞典のほうがくわしい場合がやや多い感じです。一方、情報機器の発達などで新しい意味が生まれている場合、A辞典はそれをすくい取っていることがあります。つまり、学習辞典ごとに、どんな種類のことばに重点を置いているかが、微妙に違います。

 辞書ごとの重点の違いを知るために使うのが、「比較語リスト」です。いくつかの単語を紙に書いて、それをもとに、店頭で辞書を比較します。リストは、あなた自身が作ります。以下に、どういう種類のことばをリストアップすればいいか、アイデアを記します。

 (1)二字熟語 漢字2字を音読みすることばです。「作曲」「悲哀」もそのうちです。硬いことばが多く、意味も抽象的なものが大半です。「威嚇」「空転」「挑戦」「輪郭」など、考えつくことばをリストに加えてみてください。「作曲」は「曲を作ること」という説明で十分か、さらに説明を加えるべきかは、人によって意見が分かれるところでしょう。

 (2)感情や様子を表すことば 感情などの微妙な特徴が、うまく説明されていてほしいと思います。「こわい」「おそろしい」の違いが分からない辞書が多いことは述べましたが(第17回参照)、必ずしもそんな例ばかりではありません。「うらやましい」「いら立つ」「しゃくに障る」などの説明が、自分の語感に合うかどうか確かめてください。

 (3)新しいことば 社会の変化に伴って、最近使われるようになったことばです。外来語がかなりの部分を占めます。上に述べた「キー」「リンク」の新しい意味もこれに含まれます。必ずしも最新のことばを多く載せる辞書がいいとは思いませんが、情報通信分野などの新語が分かりやすいかどうかは、その辞書のひとつの評価基準になるでしょう。

 (4)百科語 理科や社会科など、主に国語以外の授業で習うことばです。たとえば、「小笠原国立公園」「カバーガラス」「砂防ダム」「蜜栓」など。お宅にある学習参考書の索引を使えば、候補がリストアップできます。ただ、現在のところ、百科語を十分にカバーする学習辞典はありません。こういうことばは、百科事典で調べるのが筋だとも思います。

 このほか、「そわそわ」「にやにや」などのオノマトペ、「打つ」「掛ける」など多くの意味を持つことば(多義語)がどう説明されているかも知りたいところです。実際に紙に書き出さなくても、これらの注目点さえ頭に入れておけば、比較の作業はできます。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
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これまで「『三省堂国語辞典』のすすめ」をご執筆くださった飯間浩明先生に「国語辞典の知っているようで知らないことを」とリクエストし、「『サンコク』のすすめ」が100回を迎えるのを機に、日本語のいろいろな辞典の話を展開していただくことになりました。
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国語辞典入門:小学生向け辞書を選ぶ観点(2) ふりがな(ルビ)

2010年 4月 14日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第14回 総ルビがよさそうだけれど…

 学習国語辞典(学習辞典)の紙面を見渡したとき、本文の書体に続いて気になるのは、ルビ(振り仮名)をどれだけ振ってあるかです。ルビには2種類あって、全部の漢字に振る方式を「総ルビ」、必要に応じてぱらぱら振る方式を「パラルビ」と言います。

 近年は、総ルビにする学習辞典がほとんどです。辞書の説明は、子どもが読めなければ何の意味もないので、総ルビにすることは当然とも言えます。私も、人に学習辞典を薦めるときは、「総ルビのものを」と言ってきました。

 ただ、総ルビの中でも、さらに方式が分かれています。1つは、総ルビにはするけれども、できるだけ漢字を使わず、仮名を多くするもの。もう1つは、総ルビにするからには、ふつう漢字で書くことばは、少々むずかしくても漢字で書くものです。

 たとえば、「世評」という項目について、3種の学習辞典の記述を比べてみます。

 〈よの中(なか)のひょうばん。うわさ〉(A辞典)
 〈世(よ)の中(なか)の評判(ひょうばん)。〉(B辞典)
 〈世の中の評判(ひょうばん)。うわさ。〉(C辞典)

 A辞典・B辞典は総ルビ、C辞典はパラルビ(かつ、2行に書く「割ルビ」)です。A辞典は、仮名が多くやさしい印象がありますが、せっかく総ルビなのですから、「よの中」「ひょうばん」は、B辞典のように漢字にしてもいいはずです。子どもが漢字を覚える助けにもなります。C辞典は、「評判」のみにルビを振っていますが、「世評」というむずかしいことばを調べるほどの子なら、「世の中」はルビなしで読めると考えたのでしょう。

 もう1例挙げると、「合法」の説明も、同じような表記のしかたになっています。

 〈ほうりつや規則(きそく)にあっていること〉(A辞典)
 〈法律(ほうりつ)や、決(き)まりに合(あ)っていること〉(B辞典)
 〈法律(ほうりつ)に合っていること〉(C辞典)

 A辞典で「ほうりつ」と仮名にしてあるのは不自然で、やはり、B辞典や、パラルビのC辞典のほうが適切です。A辞典は、中・高学年で習う漢字はあまり使わない方針なのかもしれませんが、それにしては、5年生で習う「規則」は漢字になっていて、不統一です。

「りょう鉄鉱」では分からない

 私は、仮名の多い説明を批判するのではありません。むずかしいことばを避けた結果として仮名が多くなったとすれば、それは好ましいと考えます。たとえば、A辞典の「刀」の項目は、そのいい例です。B辞典と比べてみます(以下、ルビは省略)。

 〈むかし、さむらいがこしにさしていた長いはもの〉(A辞典)
 〈片側に刃をつけた細長い武器。日本刀〉(B辞典)

 どちらの説明も悪くありませんが、A辞典のほうが、ぱっとイメージが浮かびます。「武士」ではなく「さむらい」、「武器」ではなく「はもの」と言うことで、漢字を使わずにすんでいます(「ぶし」「ぶき」とはしていません)。ちなみに、かつての『三省堂小学国語辞典』でも、〈さむらいが、こしにさしていた はもの〉としています。

 このように、漢字をむやみに使わないことで、説明がくふうされることもあります。だからといって、何でもひらがなにしてしまうと、意味不明になる場合もあります。

 A辞典を読んでいて、意味が取れなかったのは、「鉄鉱石」の説明でした。

 〈鉄の原料となる鉱石。磁鉄鉱・赤鉄鉱・りょう鉄鉱など〉

 最後の〈りょう鉄鉱〉が分かりません。そういう項目も立っていません。実は、「菱鉄鉱」で、菱形に結晶する鉄鉱石のことです。漢字で書いてあれば、それをもとに意味を推測したり、調べたりすることもできますが、ひらがなではお手上げです。この場合、あえて「りょう鉄鉱」を例に出す必要はないでしょう。

 あるいは、「ガラス」の項目にも、同様の問題があります。

 〈けいしゃ・炭酸ソーダ・石灰石などのこなをまぜ、高い温度でとかし、〔後略〕〉

 冒頭に、いきなり〈けいしゃ〉ということばが出てきます。この辞書の項目には「傾斜」しかないため、混乱する子どもも出てきそうです。一般向けの国語辞典で「珪砂」を引いて、はじめてのみこめます。こんな説明をするよりは、別の学習辞典のように、類義語の「石英」を使ったほうがいいでしょう。

 総ルビという点では同じでも、表記のしかたは辞書によって異なります。漢字で書いてほしい部分が漢字になっているかどうか、確かめておくことが必要です。子どもの年齢や理解力によっては、パラルビのほうがいい場合もあることも言い添えておきます。

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 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
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国語辞典入門:小学生向け辞書を選ぶ観点(1) 大きさ 重さ 表紙 書体

2010年 4月 7日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第13回 デザインがどうかも、ばかにならない

 いささか前置きが長くなりました。では、ここで一気に場面を変えて、書店の辞典コーナーに移動しましょう。あなたは、小学生のお子さんとともに、学習国語辞典(学習辞典)を買いに来たところです。書棚を見渡せば、色とりどりの学習辞典が並んでいます。このうちどれを選べばいいか、実際にページを繰りながら考えましょう。

 まず目に飛びこんでくるのは、デザインです。内容もさることながら、デザインがどうかということも、辞書を使う意欲を左右します。

 たとえば、ドラえもんのことが心底から好きな子なら、『例解学習国語辞典 ドラえもん版』(小学館)を選べば、学習意欲が上がるかもしれません。ドラえもん版とは、表紙にキャラクターの絵がついている版のことです。内容は通常版と同じです。

 辞書は、使う本人が気に入ることが一番大事です。「どうしてもドラえもん」と言う子に、ほかの辞書を押しつけるのは考えものです。この場合はこれで購入決定となり、以下の私の説明は不要になります(なお、「楽しく学べる」と称して、マンガ形式の解説を入れる学習辞典が増えていますが、マンガの助けがなければ楽しくならないのか、疑問です)。

 もし、子どもが一目で気に入った辞書が特にないなら、次の点の検討に移ります。

 大きさ――同じ辞書でも、大型版と小型版と2種類用意されていることがあります。「A辞典の内容は気に入ったが、大きさが気に入らない」というとき、別の大きさの版がないか確かめてください。大型版の長所は、文字が見やすいところ。小型版の長所は、いつも持って歩きやすいというところです。

 重さ――見落としがちですが、同じ大きさ、似た厚さの辞書でも、重さが異なることがあります。しじゅう手に取って使うことを考えれば、軽いにこしたことはありません。重さを比べるときには、目をつぶって両手に1冊ずつ辞書を載せ、さらに、何度か左右を入れ替えて載せてみると、よく分かります。

 表紙――材質が、紙か、ビニールかということです。私は、ビニールで決まりだと思います。紙の表紙は、何度も引いているうちに折れてしまって、不便です。もっとも、大型版の場合は、紙のほうが造本がしっかりするという長所はあります。

本文は教科書体にしてほしい

 次に、表紙を開いて、中を見ましょう。デザインのうちで、内容に深く関わるのは、何といっても、書体に関する部分です。

 一般の国語辞典は、本文を明朝体で組んでいますが、学習辞典の多くは、教科書体を採用しています。教科書に使われる、手書きに近づけた書体のことです。文字の形を正しく覚えさせるためには、教科書体で組むことが絶対に必要です。できれば、実用辞典のように、手書きの楷書体を添えれば、なおよいと思います。

 ところが、学習辞典の中には、本文が教科書体でないものがあります。広告などでよく目にする、丸ゴシック系などの書体を使っています。これは、どう考えても不適切です。いくら内容がよくても、書体のおかげで台なしです。

 あえて、私の好きな辞書を例に挙げます。『下村式 小学国語学習辞典』(偕成社)は、編者・下村昇さんの国語教育に関する識見が反映された、すぐれた辞書です。たとえば、漢字は簡単なパーツに分け、口で唱えて覚えたほうがいいという考えから、筆順欄で漢字を分解して示しています。「層」は「コノソ田日」。「総」は「糸ハム心」といった具合です。

 項目の選び方にも、独自色が出ています。「甘い汁を吸う」「生き血を吸う」などということばが立項されていますが、ほかの小学生向けの学習辞典には見当たりません。作り方が、ほかの辞書とはかなり違っていることが分かります。

 このように見るべきところの多い辞書でありながら、なぜか、本文が丸ゴシック系で組まれているのです(表記欄だけは教科書体)。せっかくの辞書の価値を減じてしまっています。これはぜひ改善してほしい点です。

 では、『下村式』は選ぶべきでないのかというと、そんなことはありません。『下村式』に限らず、どの辞書にも長所と短所があります。1冊の学習辞典だけを見ていては、そのよさも悪さも気づきにくいものです。学校用と家庭用、または、兄弟それぞれ用に別々の辞書を買ったりして、お互いに短所を補い合うようにすればいいのです。

 この後も、私は特定の辞書の長所や短所を取り上げることがあるはずですが、そのことによって、その辞書を勧めたり、勧めなかったりするわけではありません。人間と同じで、全能の辞書というものはなく、補い合って読者の役に立つのです。

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国語辞典入門:小学生用国語辞典 大人用との違い

2010年 3月 31日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第12回 さきがけとなった『三省堂小学国語辞典』

 今や国語辞典の売り上げを牽引する勢いの学習国語辞典(学習辞典)ですが、これらのさきがけとなったのはどんな辞書だったのか、まず触れておきます。

 小学生用の本格的な学習辞典は、1959年の『三省堂小学国語辞典』に始まります。それ以前にも皆無ではなかったものの、〈おとなの辞典の焼き直しとも思われるものが少なくありません〉(同書冒頭)という状況だったようです。

 『三省堂小学』の初版は、体裁は今の学習辞典とそう変わりませんが、紙がやや厚く、収録語数は1万7000語しかありませんでした。今の学習辞典の半分ほどです。それでも、そのユニークさは、今の目から見ても著しいものがあります。

 一番の特色は、一般向けの国語辞典に載っていなくても、日常よく見聞きすることばは、積極的に載せているところです。たとえば、「それもそうだ」「それもそのはず」などという項目が『三省堂小学』にはありました。よく使う言い回しなのに、一般の多くの辞書にはいまだに載っていません。辞書の作り手にとっても、学ぶところの多い辞書です。

 当然のことながら、この辞書は、後に続く学習辞典に大きな影響を与えました。その様子は、現在の学習辞典の項目からもうかがい知ることができます。

 たとえば、現在の学習辞典には、「言い合わせたように」という項目が載っています。「言い合わせたように、みんなが反対した」などと用いる言い回しです。この項目は、私が見たところ、6種の学習辞典に採用されていますが、一般の国語辞典にはまず見当たりません(「言い合わせる」ならあります)。いわば、学習辞典特有の項目です。

 不思議な感じがします。「言い合わせたように」は、今ではやや古さの感じられる表現です。用例の数で言えば、むしろ「申し合わせたように」などのほうが、ずっと多いのです。教科書にも「言い合わせたように」は出てきません。したがって、現代の辞書を編集する時、項目として選ばれる優先順位は高くないはずです。

 そんなことばが、多くの学習辞典に出てくるのはなぜか、と追究していくと、『三省堂小学』の影響力に行き着きます。同書には「言い合わせたように」があります。現在に至るまでの学習辞典は、その項目を大いに参考にしているものと考えられます。

前例踏襲、横並び意識はないか

 もうひとつ例を挙げます。「素知らぬ顔」という言い方は、一般向けの辞書では、「素知らぬ」の用例として示されます。ところが、学習辞典では、「素知らぬ顔」で1つの項目としているものが7種あります。子どもになじみ深い言い方だからとも言えますが、「素知らぬふり」などもあるので、「素知らぬ」という項目を立てたほうがいいはずです。

 そこで、『三省堂小学』を見ると、「素知らぬ顔」の項目があります。ここでもまた、後続の辞書がこの項目を参考にしたことがうかがわれます。

 このような例から、『三省堂小学』がいかにリスペクト(尊敬)されているかが分かります。もっとも、『三省堂小学』そのものがリスペクトされているのか、それとも、それを参照した辞書がさらに別の辞書に参照されているのかは、微妙なところです。

 ここで目を転じて、現代の学習辞典同士を比べてみると、ある辞書の内容を、他の辞書が取り入れているとみられる例は、ときどきあります。たとえば、出版社の異なるA辞典とB辞典の「現在」という項目を比べると、よく似ています(書式を改めて示します)。

 〈1 今。「兄は、―旅行中です」2 その時。「二時―の気温は三〇度です」〉(A辞典)
 〈1 今。「父は―旅行中です」2 (時を表すことばのあとにつけて)その時。「午後二時―の気温は十度です」〉(B辞典)

 例文までがほとんど同じです。偶然には起こりにくいことであり、一方が他方を参考にしたものと考えられます。だとしても、例文の細部までを参考にする必要はないはずですから、むしろ、無批判な引き写しと見られてもやむをえないでしょう。

 複数の辞書の記述が似通っている場合、どちらが先に記したかは、前の版や、前身の辞書にまでさかのぼらなければ分かりません。不用意な断定は控えるべきです。ただ、辞書によっては、気になる記述の目立つものがあるというのが、私の正直な感想です。

 『三省堂小学』以来、学習辞典は、先行辞書のすぐれた点を取り入れたり、それまでにない点をつけ加えたりして、進歩してきました。一方で、安易な前例踏襲や、「ほかの辞書もそうだから」という横並び意識の入りこんだ部分はないか――というのは疑いすぎでしょうか。ほかの辞書はどうあれ、自分はこうする、という気概が、『三省堂小学』にはありました。この気概は、辞書作りの上で忘れてはならないと、自戒をこめて思います。

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国語辞典入門:小学生向け辞典のおすすめ 選び方

2010年 3月 24日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

第11回 学習辞典抜きで国語辞典は語れない

 前回までは、主に、私の個人的な体験に基づいた話を書いてきました。今回からは、もうちょっと話を一般化したいと思います。実際に書店に国語辞典を買いに行くとき、どんなことに気をつければいいかといった、実践的な内容を扱います。

 チェック項目を並べて国語辞典を点数化したくないというのは、最初に述べたとおりです。特定の辞書だけがいいと思われるような書き方は避けます。それよりも、読者が「自分ならこういう辞書を選ぶ」と、自由に判断するのを助けるような材料を記すつもりです。

 話の中心にしたいのは、児童・生徒が学校で使う学習国語辞典(以下、学習辞典)です。特に、小学生向けのものを取り上げます。

 なぜ急に学習辞典の話になるのか、と思われるかもしれません。理由は、大人が自分用の辞書を選ぶときよりも、子どもに選んでやるときのほうが、ずっと頭を悩ませるものだからです。辞書ひとつで学習意欲が左右されるかもしれないわけで、責任は重大です。

 子どもの辞書の選び方が分かれば、その応用で大人の辞書も選べます。大人用の辞書については、必要に応じて補足をします。

 私自身は、小学生の時、例の『広辞典』(集英社)という実用辞典を愛用していたためもあって、リアルタイムで学習辞典を使った記憶はほとんどありません。学校の図書館にあったものを、授業で何度か使った程度です。その後も、学習辞典とは縁がないままでした。

 ところが、2004年のこと、NHK教育テレビの小学生向け国語番組の制作に参加してから、事情が変わりました。語彙や文法から文章表現にいたるまで、ことばに関するもろもろの内容を、小学生に分かるように説明する必要が出てきました。

 私は、その手法を学習辞典に求めました。学習辞典は、やさしい説明が命です。たとえば、「概念」は、一般向けの『新選国語辞典』(小学館)では、〈多くの観念のうちから、共通の要素をぬきだし、それをさらに総合して得た普遍的な観念〉と説明しています。これでも十分ですが、子ども向けの『例解学習国語辞典』(同)では、さらにかみ砕いています。

 〈多くの物ごとから、にたところをとりだしてつくられる考えのまとまり〉

 たしかに、分かりやすい。こうして、私は、学習辞典を熟読するようになりました。

学習辞典選びは自分の目で

 その後、「子どもの国語辞典をどう選んだらいいか」と取材を受ける機会も、何度かありました。インタビュアーの話から、世間では、学習辞典の選び方に悩む親御さんが非常に多いらしいことも知りました。

 実際、学習辞典に対する需要は高まっているようです。〈辞書の売れ行きはこの10年で約半分に落ち込んだが、小学生向けの辞書に限っては販売部数が伸びている〉(『産経新聞』ウェブ版 2009.4.21、三省堂宣伝広報部長談)というのですから、よろこばしい話です。

 「amazon.co.jp」の「国語辞典」というカテゴリーで、売れている順番にリストを並べてみると、一般向けを抑えて、学習辞典が上位に来ます。今や、学習辞典を無視しては、国語辞典は語れない状況になっています。

 学習辞典人気の功労者は、言うまでもなく、立命館小学校の深谷圭助さんです。小学1年生から日常的に辞書を引かせるという、従来にない指導法を取り入れました。子どもたちは、調べたことばに付箋をつけていき、そのうち、付箋の厚みで辞書がふくれあがります。調べた量が視覚化され、自信につながります。

 この指導法は、画期的であると同時に、いたって正攻法であり、支持を広げました。辞書出版社もまた、この指導法を支持し、かつ、競うかのように宣伝しています。宣伝それ自体は、辞書の活用を促すことにつながり、たいへんけっこうなことです。

 ただ、その結果、〈深谷先生も推奨されている辞書〉という理由で、いくつかの特定の学習辞典を選んだり、勧めたりする人も出てきました。インターネット上では、そういう書きこみが目につきます。これは判断停止であり、好ましいことではありません。

 深谷さん自身は、〈辞書によって書いてあることが違うと知るのも大切な学びですから、最初の辞書は当校ではあえて指定していません〉(『プレジデントFamily』2009.4)と明確に語っています。著書にも、辞書の名前は記してありますが、例示にとどまります。判断は、あくまで辞書を買う側がすべきものです。

 どの先生が推薦しているからとか、アマゾンのレビューでほめてあったからという理由で子どもの辞書を選ぶのは、さびしい気がします。せっかくなら、自分の目で選びたいではありませんか。そのために役立つことをお話ししたいと思います。

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◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」

筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
これまで「『三省堂国語辞典』のすすめ」をご執筆くださった飯間浩明先生に「国語辞典の知っているようで知らないことを」とリクエストし、「『サンコク』のすすめ」が100回を迎えるのを機に、日本語のいろいろな辞典の話を展開していただくことになりました。
辞典はどれも同じじゃありません。国語辞典選びのヒントにもなり、国語辞典遊びの世界へも導いてくれる「国語辞典入門」の始まりです。


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