著者ごとのアーカイブ
地域語の経済と社会 第88回
2010年 2月 27日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第88回 高知県四万十市の「あきついお」
このほど“日本最後の清流”として知られる高知県の四万十川に出かけ、四万十市内にある博物館「あきついお」を訪ねました。
「あきついお」とは……? ちょっと変わった名前ですが、実は、「あきつ」と「いお」からなり、四万十川流域を中心とした、昆虫のトンボと、川魚とを集めた学習・観光施設です。
「あきついお(四万十川学遊館)」という名前と表記からもわかりますが、楽しく遊びながらしっかり学んでもらいたいという思いが込められています。
設立者は「社団法人・トンボと自然を考える会」です。四万十川流域には約90種のトンボと、約200種の魚がいるということですが、「あきついお」には日本はもとより、海外まで含めてトンボの標本1000種、3000点、魚300種、2000点が展示されています。
トンボのことを、日本では古くは「あきづ」(蜻蛉、秋津)、のちに「あきつ」(中古以降)と言ったことが知られています。
トンボを意味する方言は、『日本方言大辞典』(徳川宗賢ほか編、小学館、平成元年=これまでに全国各地で発行された方言集や方言辞典、およそ1000冊を集大成し、約20万語もの方言での言い方を収録した、日本で最大の方言辞典)によると、全国でこれまでに知られているだけでも、実に189種類にものぼります。
この辞典をベースにして、共通語形から引けるようにしたのが『標準語引き 日本方言辞典』(佐藤亮一監修、小学館、平成16年)ですが、同書によると、トンボのことを「あきつ、あけず」などと言う(言った)地域は、主に北の東北地方と、遠く離れた南の九州・沖縄です。「ゐなかには、いにしへの言の残れること多し」(本居宣長『玉勝間』)と言われる、その例のひとつです。
国立国語研究所編『日本言語地図』(全6巻)にもこの項目があり、その一般向けの簡略版ともいうべき『日本の方言地図』(徳川宗賢、中公新書)にも全国の分布図と解説があります。
インターネットの「Web水族館 全国水族館ガイド」には「高知県の言葉で「あきつ」はトンボ、「いお」は魚で、「あきついお」の名称となっている」とありますが、『高知県方言辞典』(土居重俊)には、「いお」(=魚)はありますが、「あきつ」は見られません。
そうなると、館名の「あきついお」は、古語+方言と見るべきでしょうか。
なお、同様の命名をしたのが、鹿児島市にある「いおワールド かごしま水族館」です。魚を意味する「いお」と、その多様な世界=「ワールド」を見てもらおうと名づけられたものです。
《参考》高知県四万十市の「あきついお」はhttp://www.gakuyukan.com/index2.html、鹿児島市の「いおワールド」はhttp://www.ioworld.jp/ の、各ホームページを参照。
写真提供:「あきついお」、「いおワールド」
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第83回
2010年 1月 23日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第83回 NHK宮崎放送局の「いっちゃがTV」
全国各地の放送局には、地元の方言を活かしたユニークで個性的な番組があります。
NHK宮崎放送局には、平日夕方の地域情報番組「いっちゃがTV(テレビ)」があり、番組名が方言で名付けられています。
平成12年4月から放送されており、まもなく丸10年。県内各地の多様で多彩な情報が得られると好評を博しています。(総合テレビ、月~金、午後5:05~6:00放送 )
「いっちゃが」とは〔いいんだよ〕という意味あいの語で、「いい」+「と」+「じゃ」+「が」の変化したものです。共通語の「良い+の+だ+よ」に相当します。
メインキャスターは宮崎市出身の百野 文(ひゃくの・あや)さんで、彼女が番組内で使うことばは基本的には共通語ですが、相手や状況に応じて、宮崎の方言も交えて話せるのが強みです。明るいキャラクターとも相まって、番組発足以来、キャスターを続けて、番組を支えています。
「宮崎県民を愛し、宮崎県民に愛される番組をめざす」というのがこの番組のねらいで、毎回その話題にゆかりの人たちが生放送のスタジオに……。毎年、800人から1000人近い人がこの番組に登場するということです。
番組で取り上げている代表的なトピックとしては、宮崎の旬の食材、話題の人物インタビュー、大学・商店街めぐり、中学校紹介、町おこしの話題、手芸・園芸講座、ライブ演奏、カルチャー情報、医療情報、県内各地のイベント紹介……などがあり、バラエティーに富んでいます。
「方言」関係では、月に3回、水曜日には「宮崎弁研究所」というコーナーがあり、西都市出身の寺原重次さん(宮崎県語り部の会会長)が宮崎方言の魅力や意味・用法などについて解説をしています。
またその研究員で、劇団「いもがら」の役者、中所美紀(なかじょ・みき)さん(日南市出身)が宮崎方言を駆使して「げなラップ」を作り、振り付けも考えて、保育園・幼稚園の子供たちから、友人どうし、家族そろって、職場のメンバーなど、番組でいっしょに踊るグループを募集し、画面で紹介しています。
「げな」はひとから聞いたこと=伝聞を表す〔~だそうだ〕という意味です。
また、第1~3木曜日放送の「てげてげ休日」というコーナーは、暮らしを豊かにする趣味や実用に関するノウハウを紹介しています。
「てげてげ」は第78回で取り上げた「てげてげ運転」と同様です。「あくせくせずに、のんびりほどほどに、楽しく休日を過ごしましょうよ」という提案と呼びかけの意味あいが込められています。
以上のように、番組名や各コーナーに方言でネーミングをし、また話題としても方言を取り上げることによって、地元の視聴者によりいっそう身近に感じ、親しみを持ってもらおうという意図が伝わってきます。
《参考》NHK宮崎放送局のホームページに「いっちゃがTV」の概要が写真入りで紹介されています。中所さんが踊っている「げなラップ」の動画も見ることができます。
写真提供:NHK宮崎放送局
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井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第78回
2009年 12月 12日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第78回 宮崎県警の「てげてげ運転」追放運動

【写真1 「てげてげ運転」追放を
呼びかける電光掲示】
宮崎県の道路を、夜、車で走っていたら、道路の上に「交通安全」を呼びかけるメッセージが電光掲示板に表示され、目に飛び込んできました。
そのひとつ、県北・日向市の国道10号線で見かけたものが、【写真1】です。
「てげてげ運転 追放運動 実施中」とありますが、「てげてげ」は宮崎県の方言です。共通語に訳すなら、〔いいかげん、適当、ほどほど、まあまあ、そこそこ、…〕といった意味あいのことばです。
ですから、「てげてげ運転」とは、言うならば、「慎重運転」「きびきび運転」の反対語に当たります。
同じ掲示板には、その他に「みんなで なくそう 交通事故」「ストップ! 脇見 ぼんやり運転」という警告もあり、これらが一定の時間ごとに次々に点灯してメッセージを送り、運転者に注意を呼びかける仕組みになっています。
「てげ」は「大概」の変化したもので、宮崎の方言では「てげ ぬきー」〔非常に暑い〕、「てげ しんきなー」〔非常にイライラする(じれったい、くやしい)〕といったように、〔非常に〕という強調の意味で使われる代表的なことばです。(同様な語として「大概には」の転じた「てげにゃ」「てげな」もありますが、同じ意味です)
ところが、それが2回繰り返されて「てげてげ」となると意味が変わり、先のような意味あいに転じます。
この「てげてげ」は、宮崎県人の県民性を表現するときにもしばしば引き合いに出されます。宮崎県は、夏、毎年のように台風に襲われることを除けば、気候も温暖で、農産物や水産物も多く、暮らしやすい土地柄だけに、あくせく汲汲とすることなく、のんびりほどほどに暮らせばいいではないか、という気風が強いと言われます。その気分にぴったりなのが、この「てげてげ」だというわけです。
「だろう運転」ということばがあります。「このまま進んでも大丈夫だろう」「たぶん相手のほうが避けてくれるだろう」「黄色信号でも何とか通過できるだろう」といったように、自分に都合のいいように考え、楽観的に行動してしまう、そういう運転態度のことですが、宮崎県の「てげてげ運転」はまさにそれと軌を一にします。
が、それでは交通違反や交通事故はなくならない! そう考えた宮崎県警察本部が、てげ頑張って呼びかけているのが、「てげてげ運転 追放!」というわけです。
《参考》Wikipedia「だろう運転」=自動車の運転において、事故に繋がるような楽観的予測に基づいた運転を戒める日本語の慣用句。(中略)日本の自動車教習所や警察などでは「だろう運転」という言葉で総称し、運転者に対してより注意深く予測や行動を行うことを啓蒙している。
(引用:2009.12.7 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A0%E3%82%8D%E3%81%86%E9%81%8B%E8%BB%A2)
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井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第73回
2009年 11月 7日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第73回 大分県豊後高田市の「方言まるだし弁論大会」
大分県の北部、丸く突き出た国東半島の付け根に、豊後高田市があります。
最近は、「昭和の町」=古い町並みと外観がそのまま残る市内中心部の商店街=が、観光地として有名になってきています。
ここに、毎年10月に開催され、名物行事になっている方言のイベントがあります。
「なんでんかんでん言うちみい 大分方言まるだし弁論大会」がそれで、昭和58年にスタート。ことしは10月18日(日)に開催され、数えて第25回。四半世紀の歩みを重ねてきました。(途中、“充電”のために2回ほど休んだ期間がありましたが…)
国東半島は、「六郷満山」と言われ、「仏の里」とも呼ばれて、仏教関係の史跡や観光スポットの多い地域ですが、地元の若者たちが、暮らしのことば=方言を活かして何か面白いことをやろうではないか、と“よだって”〔企画して〕始めたのがこの大会でした。
弁士1人の持ち時間は5分で、高校生以上なら誰でも応募できます。まずは発表する内容の要旨を400字詰め原稿用紙1~2枚に書いて応募し、原稿審査のうえ、毎年10人程度が本選に出場し、壇上に上ります。
420人を収容する市内でいちばん大きな会場=中央公民館は、早くから詰め掛けた人・人・人で、超満員。大ホールに入りきれない人のためにロビーのテレビモニターにも同時中継し、そこでもまた大勢の人が画面を見つめます。
審査のポイントは大きく分けて2つあり、「表現力」と「方言力」。弁論大会ですから、各自の言わんとする論旨を聴き手にわかりやすく訴えて、なるほどとうなずかせる「表現力」と「説得力」が必要なのは当然のことですが、この大会は「方言」の弁論大会です。従って、とりわけ「方言力」とその「活用力」が求められます。
いくら共通語でいいことを主張しても高い評価は得られません。さりとて方言は確かにふんだんに出てきたが何を言いたいのかよくわからない、というのではこれまた高い得点にはなりません。方言ならではの持ち味を十分に活かしながら、説得力のある話をしなければいけないわけで、「方言」をベースにしつつ、そのバランスを取るのがひと苦労です。
出だしは方言でスムーズに話し始めて快調に進んだものの、話が佳境に入るといつの間にか共通語になってしまい、ハッと気づいて慌てて方言に戻そうとするがうまく切り替えられずに四苦八苦。会場の爆笑を誘うシーンもまま見られますが、それもご愛嬌。
次々に登壇する弁士による、熱のこもった方言での弁論が続きます。
この大会は、暮らしのことば=方言のもつユーモアやバイタリティー、気取らず飾らず、本音を率直に吐露するリアリティーなど、ふだんあまり意識することのない「方言」の持ち味や特長を、改めて見直す、得がたい機会になっています。
《参考》豊後高田市公式ホームページの「今日の出来事」 = http://www.city.bungotakada.oita.jp/dekigoto/hougenmarudasibenron_20091018.jsp
に写真入りで紹介されています。
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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
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日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第68回
2009年 10月 3日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第68回 「津軽ひろさき検定」と方言
近年、全国各地で「ご当地検定」が盛んに行われており、人気を博しています。
そのひとつ、青森県の「津軽ひろさき検定」では、“シンボルキャラクター”として、「おべさま」という方言が活用されています。【写真1】
「おべさま」は地元の方言で、〔もの知り〕という意味で、「さま」という敬称が付くことからもわかるように、尊敬の意味あいがあり、こういうご当地検定の合格者を言うには大変ふさわしい方言といっていいでしょう。
津軽人の性格や傾向を評した「津軽の三ふり」は、よく引き合いに出されます。
「えふり〔=いいふりをする。見栄っ張り〕、あるふり〔=お金などがないのに、あるふりをする〕、おべだふり〔=よく知らないのに、知ったふりをする〕」の「おべだふり」には〔知ったかぶり〕という非難のニュアンスがありますが、「おべさま」はそれとは意味あいが異なります(「おべ」は「覚え」、「おべだ」は「覚えた」の転でしょう)。
「おべさま」は、弘前公園の桜として全国的に有名な、桜の花びらをベースに図案化してあり、もの知りの人のイメージを重ねて、ひげを蓄え、眼鏡をかけています。
ことしは第3回で、前回の第2回からは「中級」ランクもスタート。中級の合格者は「おべ博士」と呼ばれますが、これには角帽がのり、さらに立派なあごひげも加わっています。【写真2】
検定は、個人参加の他、4人ひと組のチーム戦(おべさまカップ)もあり、会場も、地元弘前の他に、東京会場も設けられています。また、合格回数積算制度もあって3回合格者は「おべさまマスター」に認定されるなど、参加しやすいよう、また何度でもチャレンジする意欲を引き出すよう、工夫や配慮がなされています。
この試験に備えるための『公式テキスト』も刊行されていますが、ことしからはさらに『津軽ひろさき・おべさま年表』も発行されるとのことです。
初級(=おべさま検定)の試験終了後、検定問題に関する地域や施設などを巡り、検定の答え合わせをし、弘前を再発見する半日のツアーも用意してあります。
また、この検定合格者の知識をさらに有効に「観光ボランティアガイド」にも活用しており、そのうち、女性だけのボランティアグループの名前は「アパ・テ・ドラ」という由。
一見、外国語のようですが、実は「アパ」は津軽の方言で〔奥様〕、「テドラ」は〔お手をどうぞ〕という意味だとのこと。ここでも方言がしっかり活用されています。
主催者によると、ゆくゆくは、子供たちを対象にした「ジュニア検定」や「上級」ランクの構想もあるとのことです。
より詳しくは、「弘前観光コンベンション協会」電話0172-35-3131、URL http://www.hirosaki.co.jp などを参照してください。
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地域語の経済と社会 第63回
2009年 8月 29日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第63回 宮崎県椎葉村に見る方言表示
先だって、大分市から車で宮崎県の椎葉村を訪ねました。その際に見かけた「方言看板」などの事例を紹介しましょう。
宮崎県東臼杵郡椎葉村(ひがしうすきぐん・しいばそん)は県の北西部、九州山地の奥深くに位置し、昔から「秘境・椎葉」と言われ、平家の落人が都から落ち延びて隠れ住んだという伝説のあるところです。
宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町から、山あいを縫うように走る国道265号線を南下して椎葉村に入ると、旅人を歓迎する方言看板が出迎えてくれました。【写真1】
これにある「ひえつき(稗搗き)節」は、平家の残党の追討に都から派遣された武士・那須大八郎と、地元の鶴冨姫との悲恋を歌った民謡で、全国的に広く知られています。
♪ 庭の山椒の木に… と始まりますが、「山椒」は「さんしょう」ではなく、「にわ~のさん~しゅう~の~き~ぃに…」と、方言的に歌われます。
なお、宮崎県にはもう一つ、これまた全国区で有名な、高千穂地方の「刈り干し切り唄」があります。これを「切り干し刈り唄」だと思っていた人に出会ったことがありますが、「切り干し」は冬場に大根を千切りにして干した食べもの。一方「刈り干し」は冬の間の牛馬の餌にするために、晩秋、山の斜面に生えている草を「刈って干し」て保存しておくこと。その刈り取り作業のときの労働歌が「刈り干し切り唄」ですから、まったくの別物です。
ともに同じ宮崎県の産物で、ちょっと似た響きの語ですから、頭の中で混線してしまったのかもしれません。
町の商店のドアには、「飲酒運転をやめましょう!」と呼びかける、宮崎県警察のポスターが貼ってありました。「(飲酒運転で命を落としたら)母ちゃんが泣くぞ、子供が泣くぞ。飲んで乗ったら終わりだぞ!」と方言を活かしたアピールになっています。【写真2】
村内を走っていたら、道路脇の土手に、今は使われなくなった大きな甕を伏せ、それに「かてーりの里」と白い字で大書した、非常に目立つ“看板”がありました。【写真3】
「かてーり」とは、地元の方言で「助け合い」という意味だそうで、この地区の公民館(集落センター)の前にも、「かてーりの館」と書いた甕がで~んと置かれていました。
その他にも、要所要所に、案内標識としてこの甕が利用されており、うまい活用法だと感じました。
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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第58回
2009年 7月 25日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第58回 「関西弁」の英訳対照本
日本語諸方言の中でも、「関西弁」は、その知名度、認知度、理解度…など、どれをとっても、いちばん勢力のある方言だといっていいでしょう。
その関西弁を、日本語の共通語とではなく、英語と対照し、対訳をつけた本が何冊も出ています。今回はそれを取り上げてみましょう。
現在、私の手元にあるものだけでも、以下のようなものがあります。刊行年順に…
① 大阪弁英会話読本(大阪弁研究会編、七賢出版、1993.2)
② KANSAI JAPANESE The Language of Osaka, Kyoto, and Western Japan(CHARLES E.TUTTLE COMPANY 1993)
③ How to speak Osaka Dialect (大盛堂書房、1995.7)
④KINKI JAPANESE THE DIALECTS & CULTURE OF THE KANSAI REGION(DC Palter & Kaoru Horiuchi CHARLES E.TUTTLE COMPANY 1995)
⑤ COLLOCUIAL KANSAI JAPANESE まいど! おおきに! 関西弁(DC Palter & Kaoru Slotsve TUTTLE PUBLISHING 1995)
⑥ 阪神タイガースファンのための英文法(鈴木明子、文芸社、1999.11)
⑦ 英語で阪神タイガースを応援できまっか?(シャノン・ヒンギス著、朝日新聞社、2002.3)
⑧ 関西弁を英語で喋れまっか?(シャノン・ヒンギス著、宝島社、2004.3)
例えば、④の中では、京都方言と関西方言について、次のような例が挙げてあります。
KYOTO KANSAI TOKYO ENGLISH shiihin しいひん sēhen せえへん shinai しない don’t do kiihin きいひん kēhen けえへん konai こない don’t come dekihin できひん dekehen でけへん dekinai 出来ない can’t do
なお、これに関連する本として、⑨『旅の指さし会話帳』~国内編(2) 大阪~(金成由美・津銘保郎 情報センター出版局、2003.11)、がありますし、また⑩『旅の指さし会話帳 KYOTO』(浅井康江、2005.10)もあります。(また、このシリーズではその前に、沖縄の方言を取り上げた⑪『旅の指さし会話帳』~国内編 (1) 沖縄~(嘉手川 学、2003.6)もありました)。
⑨では、指差しで会話を進めるために必要なイラストがふんだんに使ってあり、各項目は漢字表記の他に、その読みがカタカナでも表記され、さらにアクセントまで付けられています。
こうやって見てくると、これらは、関西弁と、最も汎用性のある外国語=「英語」とを比較対照させることによって、当地の方言に対する理解度アップをめざしたもので、そういう必要や需要が多くなっており、「関西弁」の価値がいっそう高まっていることの表れだと見ることができそうです。
近年、経済連携協定 (Economic Partnership Agreement / EPA)に基づいて、すでにインドネシア(2008.8)とフィリピン(2009.5)から、日本で看護師・介護福祉士として活躍することをめざして多くの人たち(候補者)が来日していますし、このあと、国家試験に合格すれば、日本各地の医療現場・福祉現場で働く外国人専門職の姿が見られるようになります。
こういった人たちは、特に地域社会で現場に立った場合、地元の人たちとより親密なコミュニケーションを図ろうとすれば、必ず地元のことば=「方言」の問題と直面するはずです。特にその土地で生まれ育った高齢者の場合、方言あるいは方言混じりの会話で彼(女)たちに語りかけるケースが少なくないと思われます。
そのときに、少しでも役に立つようなサポートがあったら、日本の医療・福祉の利用者にとっても、またそれを支えようという外国人の皆さんにとっても、大きなバックアップになるでしょう。
今後も、こういった方言と外国語との比較対照本、対訳本は、関西弁以外の方言についても試みられ、各地に広がっていくのではないかと思われます。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第53回
2009年 6月 20日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第53回 「日本国憲法」の方言翻訳本

【憲法を方言に訳した本】
前回(=第48回)の、有名作品の「方言翻訳本」に続いて、今回は日本国憲法を各地の方言に翻訳した例を見てみましょう。
刊行されているのは「日本国憲法」の「前文」や、戦争の放棄を謳った第9条に関するもので、いずれもCD付きで出ています。
①『おくにことばで憲法を』(青森、岩手、愛知、京都、大阪、広島、福岡、長崎、沖縄の方言で。大原穣子、新日本出版社、2004.4)、②『方言で読む日本国憲法』(大阪弁・広島弁で。大原穣子、五月書房、2004.4)、③『全国お郷(くに)ことば・憲法9条』(47都道府県の方言で。坂井 泉、合同出版、2004.5)などがあり、それぞれ各地の方言に訳されています。
②『方言で読む日本国憲法』によると、「前文」の広島弁訳は、こうなるとのことです。
わたしらあ日本国民は、選挙の時に汚なあこたあしません。候補者の話される政策をよう聞いて、自分の頭で考え、自分の意見をしっかりもって、自分のして欲しいと願うとることを、実現させてくれる候補者に一票を投じます。ほいで、その議員さんらが、わたしらのいうことをよう聞いて、国会でああでもなあこうでもなあと議論して決めんさった事で毎日暮らしていくん。……
①『おくにことばで憲法を』の、第9条の青森(津軽)方言訳は……、
ワダシダヂ、日本の国民(こぐみん)、オジサ、オバサ、オドサマ、オガサマ、アンサマ、アネサマ、ワラシコ、オボコ、皆して正義ゴト大切(だいじ)にして、アンヅマシグ暮らすにいい世の中ごとつくりてど、心底、願っていすてす。
その為に戦争ごとさね、みっつの約束(やくそぐ)、決めすてす。……
③『全国お郷(くに)ことば・憲法9条』の、長崎(西彼杵郡)方言訳の場合だと、こうなるそうです。
オイだち日本国民はさ、だいっちゃ(だれでも)、まともか考えば持っとんモンばっかいおっけんさ、世の中んヒチャガチャしてずんだるっことののーして(だらしないことのない)、安心して住まるっ世界がなんちゅうたっちゃよかさて思うとっとって。そいけん、国と国のすったもんだして「いっちょんすかん(大嫌い)」って言いおうたっちゃさ、そこにまたしゃっちが(わざわざ)出て行ってさ、持っとる武器ばつこうて相手ばくらして、黙らすっごたっことは絶対せんことに決めたっさな。……
これらも、前回同様に、ふだんなかなかじっくりと読んでみることのない、日本国憲法に盛り込まれた理念や理想に、非常に身近な「方言」というフィルターを通して迫り、改めて見つめなおすという作業をした結果です。
ただ、原文である日本国憲法は、当然のことですが「書きことば」によって書かれていますが、それを本来「話しことば」である「方言」に置き換えてみようというわけですから、きっと様々な困難を伴ったことだろうと思われます。
③の『全国お郷(くに)ことば・憲法9条』は約3か月の募集期間に全国から400を超える応募があり、その中から選ばれたものだということですが、巻末には、大分市の小学生25人が取り組んだ方言訳の試みや、12の外国語に翻訳したものも載せられています。
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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第48回
2009年 5月 16日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第48回 方言翻訳の妙味と効果
有名な文学作品などを、もし自分にお馴染みの「方言」で読んだり聞いたりすることができたとしたら、どんな気分になるでしょうか?
近代文学の作品はもちろん、古典文学、漢詩、さらにはお経、聖書などが、各地の方言に訳されて本になったり、中にはCD付きで刊行されたりしています。
漱石の「我輩は猫である」の冒頭を沖縄方言に訳すと、次のようになるといいます。
宜志政信訳『吾んねー猫どぅやる』(新報出版、2001.11)によると……、
吾(わ)んねー猫(まやー)どぅやる。
名前(のー)じぇーなーだ無(ねー)らん。
何処(まーん)じが生まりたらむさっとぅ分からん。
だそうですが、読みながら、思わず「さっぱり分からん」とつぶやきたくなりました。
「百人一首」の有名な歌も、宮崎の方言に訳すと、こうなります。
佐伯恵達『宮崎方言版 小倉百人一首』(鉱脈社、1994.11)では……、
田子ん浦かり ながめちみッと まっしるゥ
富士のちョッぺんにャ 雪(ゆっ)かふっちョる
芭蕉の『奥の細道』の冒頭を山形県の「尾花沢弁」に翻訳すると……。
上川謙市編『思いっきり山形 んだんだ弁! おぐのほそ道(みづ)』(彩流社、2008.7)の冒頭部分「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」は、
何(ない)だがよぉ、考えでみっどな、月日(つぎし)なの俺達(おらだ)が
生まっで来るしょっでんがら、ずーっと旅すてるみでぇなもんだなゃ。
漢詩も『関西弁で愉しむ漢詩』(桃白歩実、寺子屋新書、子どもの未来社、2005.1)によると、有名な陶淵明の「帰りなんいざ……」の「帰去来辞」の冒頭は……、
さぁ帰ろ
さぁ 帰ろか~ イナカの田畑は荒れ放題や
これは帰らなアカンやろ 心が自由ちゃう世界で
何をウダウダせなアカンねん ……
となって、飾らない本音が、しっかり伝わってきます。
お経も、「阿弥陀経」を名古屋弁に訳した、船橋武志『名古屋弁訳 仏説阿弥陀経』(ブックショップ マイタウン、1985.4)では……、
仏説阿弥陀経 お釈迦さまが説かれた(ときゃーた)阿弥陀経 如是我聞 私(わし)(阿難)はよー、次のよーに聞いとるがね。 一時仏在舎衛國 あるときよー、お釈迦さまが在舎衛國の、 祇樹給孤獨園 祇園精舎とゆーとこにおりゃーたときによー、 與大比丘衆 沢山(ぎょーさん)のお弟子さんたちと一緒だったわなも。
何だか、近所の人からお釈迦様の噂話を聞いているような気分になります。
『聖書』を大阪弁に訳すと、こうなるそうです。『コテコテ大阪弁訳「聖書」』(ナニワ太郎&大阪弁訳聖書推進委員会、データハウス刊、2000.11。愛蔵版は2004.3)の「第1章 イエス・キリストはんが生まれはりましたで~の巻」では……、
イエス・キリストはんの誕生の次第は次のようやった。
母マリアはんは、ヨセフはんと婚約しとったけど、二人がいっしょにならはる前に、精霊はんによって身ごもってはることがわかったんや。
これまた、事情に詳しい人からじかに話を聞くような印象があります。
こうやって見てくると、とかく堅苦しい印象を持たれがちな原作品が、その方言を日頃使っている人たちにすると、非常にわかりやすく、かつきわめて身近な響きで迫ってきて、「な~んだ、そうか~ぁ。そういうことだったのかぁ」と、改めてそのもののもつ意味あいをより深く理解できることになります。
その効果のほどは、つまり、「方言」という卑近なフィルターを通すことによって、それまで遠くにあると思っていたものを強力に身近に引き寄せ、“神秘のベール”をはがして、いわば自分と“等身大の存在”としてしっかり眺めなおすことができるようになる、といったらいいでしょうか。(もちろん翻訳者の技量にも負うところが大ですが……)
これまでにも、各地の方言を比較・対照する目的で、昔話の「桃太郎」や、夏目漱石の「坊ちゃん」など、読者にすでにお馴染みのストーリーを、全国の方言に訳して対比したものが方言概説書などによく載せられていましたが、今後も、こういった試みは多様な作品を素材にして、各地で続くのではないかと思われます。
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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第43回
2009年 4月 11日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第43回 自転車を「降りチャリ、押しチャリ」
北九州市のJR小倉駅のすぐ近くで、道路に描かれたおもしろい標示を見つけました。
線路の下のガードを通り抜ける「公共連絡通路」の片側を利用して、有料の自転車置き場が設けられています。その出入り口【写真1】とガード内の路面上に、【写真2】のような注意事項が描かれています。
曰く、①「降りチャリ」、②「押しチャリ」と……。出入り口には①②が並んで描かれており、ガード内の路面には②が点々と描かれていて、利用者に協力を呼びかけています。
「チャリ」はカタカナで書いてありますが、これは言うまでもなく「自転車」を意味する(若者)ことば「ちゃりんこ」の短縮形で、もちろん「(ここでは)自転車から降りてください。押してください」という意味です。
ところが、実はこれにはもうひとつ別な意味がかけてあります。
「~シチャリ」は「~してやりなさい」という意味の、この地方の方言です。「押してやり(なさい)」がここの方言では「押しちやり」となりますが、それがさらに「押しちゃり」と変化したもので、「降りチャリ」も同様です。
「(ここでは自転車での通行は禁止ですよ。歩く人のために)自転車から降りて、押して通りましょう」というわけですが、ことば遊びのユーモアがあって、思わず気分がほぐれます。なかなか効果的な呼びかけのメッセージだといえるでしょう。
方言で交通安全を呼びかける掲示や看板は、最近あちこちで見かけますが、共通語の場合に比べると、より印象的でインパクトがあります。それにさらにちょっとひねったユーモアがあると、いっそう効果的です。この小倉の場合もなかなかおもしろく、秀逸な例だと思います。
壁に貼ってあるポスターには「自転車マナーアップキャンペーン / 少しは、考えチャリ / 平成17年 交通モラル・マナー回復運動元年 福岡県警察」という1枚と、「自転車マナー守っチャリ運動 /1 降りチャリ押しチャリ 2 避けチャリ 3 点けチャリ / 小倉北区交通安全推進協議会・小倉北交通安全協会・小倉北警察署」という1枚が並んでいました。【写真3】
なお、そこから100mほど離れた小倉駅構内にも自転車での通行禁止を示す標示が通路上に描かれていますが、これには③「ここは歩道です。自転車の方は、降りて通行してください。小倉駅長」とあり、ごくふつうの共通語です。
先の駐輪場を利用するのは地元の人で、駅構内は旅行者など地元以外の人も利用するから……というわけでしょうか? しかし、考えてみると自転車を利用するのはまず地元の人でしょう。(長距離サイクリングでたまたま来たというケースもなくはないでしょうが……)
つまり、これは管轄する機関の違いで、北九州市(福岡県警)の①②「方言版」とJRの③「共通語版」とがすぐ近くに並んでいると見るべきでしょう。それにしてもおもしろいコントラストです。
さらに見て回ったら、もうひとつ、小倉駅の構内にも、中を横切る公共通路があり、そこにも先の①②と同じ標示が路面に描かれていました。ここもJRの管轄のはずですが……。
「あれぇ? ここもJRの管轄のはずだろうに……」と思って駅に聞いたところ、「駅の構内ではあるが、この通路の管轄は北九州市です」とのことでした。
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2007年









