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地域語の経済と社会 第113回 土佐の『龍馬からの恋文』トイレットペーパー

2010年 8月 21日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第113回 「土佐の『龍馬からの恋文』トイレットペーパー」

 NHKの大河ドラマ『龍馬伝』が大変な人気で、全国各地の坂本龍馬ゆかりの地は歴史ファンや観光客で大変にぎわっていると聞きます。

 関連グッズも続々と登場していますが、そのひとつ、地元・高知では、坂本龍馬からの「恋文(らぶれたー)」を印刷したトイレットペーパーが発売され、話題になっています。

(クリックで拡大表示)
【写真1 『龍馬からの恋文』】
【写真1 『龍馬からの恋文』】
【写真2 その手紙の文面(一部分)】
【写真2 その手紙の文面(一部分)】

 中国語で「手紙」とはトイレットペーパーのことだというのはよく知られた話ですが、まさに龍馬からの手紙がトイレットペーパーになって登場した、というわけです。

 これを作ったのは、家庭用の紙製品の製造・加工・販売をしている、高知県土佐市の望月製紙です。

 同社によると、NHKの大河ドラマで『龍馬伝』が放送されることが決まった2009年3月、何か龍馬に関するものを開発しようと社内からアイディアを募集。その中から浮かび上がったのが、主力商品の1つであるトイレットペーパーに「龍馬からの手紙(恋文)」を書くことだった由。社の内外に「自分が龍馬になったつもりで「恋文」を書いてください」と呼びかけ、およそ200点ほど集まった応募作の中から、人気投票によって決まったのが、製品化された4作品だったということです。

 2010年1月のドラマの放送開始に合わせて販売を始め、現在、高知県内や龍馬ゆかりの長崎県の観光みやげ品売り場などを中心に販売されており、そのユニークさ、おもしろさもあって、旅の記念に、またプレゼント用などに、人気は上々だとのことです。

 文面は、まず龍馬が「おー 今日も待ちよったぜよ、まあ、ゆっくりしていきや」とトイレで迎え、そのあと利用者へのメッセージがあり、最後は

悩みがあるがか?  悩みがあるのか?
何でもゆーたらえいがよ  何でも言ったらいいよ
ここには誰もおらんき  ここには(他に)誰もいないから
ほんで 後は水に流したら  そして 後は(すべて)水に流したら
えいがやき  いいんだから

と励ます内容の文面4連が、連綿と繰り返されています。参考までに、共通語訳を付けておきます。

 全部を読むと、個室での人生相談の趣きがあります。「恋文」というよりも、龍馬からの「人生の応援歌、処世訓、激励」といったほうがいいでしょうか……?

 この手紙のおおむね2連ごとに点線状の切れ目が入っています。
 そのように、人生の悩みにも適宜ふんぎりをつけ、うまく切り離されたトイレットペーパーといっしょに、不運や憤懣はすっきり水に流して解消できるといいですねぇ……。

《参考》「望月製紙」のホームページは、http://www.soft1010.com/company/index.html を参照。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第108回

2010年 7月 17日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第108回 大分のローカルヒーロー「PCO」

 現在、全国各地で、地域にねざしたローカルヒーローが登場し、祭りやイベントなどに出演して地元の人たちに愛され、活躍しています。(この連載シリーズの第26回「方言キャラクター」も参照)

 大分にも「パワーシティオーイタ」(略称、PCO)というローカルヒーローがおり、その仲間やライバル(敵)などとしてすでに40体を制作。その中には方言で名前がつけられたキャラクターもいます。

【写真1】パワーシティオーイタ
【写真1】パワーシティオーイタ

 このPCOを生み出したのは、H.A.C.(HEROS ATTRACTION CREATIVE)というグループで、2000年にヒーロー好きのメンバーが集まって発足しました。
 キャラクターショーを中心とした様々なボランティア活動を展開し、「元気ある大分」をアピールしようと活動しています。

 主なキャラクターと、大分の方言にちなんだ名前の登場人物や技などを挙げましょう。

 ホームページによると「PCOは、大分を愛するみんなの心が集まって発生したエネルギー体「キョードアイ」が大分の為に頑張る人に宿り誕生したスーパーヒーローで、必殺技の「真羅神拳(しらしんけん)」は大分のみんなの「しらしんけん」な心を体に集中させて敵に叩き込む。大分の平和を乱すどんな困難な敵も打ち砕く」とあります。
 「しらしんけん」は大分の方言で、〔一生懸命に〕の意味で広く使われています。

【写真2】敵役のダークシティオーイタ
【写真2】敵役のダークシティオーイタ

 PCOの最大の敵、永遠のライバルは、大分の悪い心が合体して誕生した「ダークシティオーイタ」(略称、DCO)で、大分の特産物をダークチェンジさせることで怪人に変えてしまい(例:後述のカサワクドン)、大分を悪の心で満たそうとたくらんでいます。

 「蒼邪拳(そうじゃけん)」は彼の繰り出す必殺技。PCOの真羅神拳に匹敵する非常に強力なパワーを持っています。「そうじゃけん」〔そうだから〕という大分弁に由来します。

 悪役の1人「ジョーカーレイ」が繰り出す光線技が「EBC(イービーシー)」で、大分弁の「いびしい」〔古語「いぶせし」の変化した語。気味が悪い、ゾッとする、汚らしい〕にちなんでの命名。EBCとはイビル・ブースト・セルの略で、悪意増幅細胞(あくいぞうふくさいぼう)という細胞を敵に植え込み「悪い心」にさせるという恐ろしい技です。

 「ハニーレディオーイタ」は、PCOの仲間のヒロインです。その得意技は「レディシャーネンカー」で、大分弁の「しゃーねーんか」〔仕方ないのか〕に由来し、傷ついた体や体力を回復させる能力を持っています。

【写真3】ショックン(左)とパックン(右)
【写真3】ショックン(左)とパックン(右)
(以上、写真提供:H.A.C.)

 大分の(自称)ヒーローに「ショックン」と「パックン」がいます。田舎から出てきたカエルタイプの2人組で、大分弁でカエルを意味する「ショックン、バックン」に由来します。(方言ではバックン(Ba-)ですが、ヒーローの名前はパックン(Pa-)です)

 その他にも、悪役に「カサワクドン」がいますが、実は先のパックンがダークシティオーイタの手によって怪人に変えられた姿です。
 カサワクドンは、大分弁の〔ヒキガエル〕を意味する「カサワクド」に由来します。
 シイタケ怪人「ナバロン」は、大分の名産〔しいたけ〕の方言「ナバ」に由来します。

 こんなふうに、地元・大分の方言にちなんで命名することによって、見る人たちに、よりいっそう親近感を持ってもらいたいという、H.A.C.のメンバーの思いが伝わってきます。

《参考》「パワーシティオーイタ」の公式ホームページは、http://pcoxhac.web.fc2.com/
NHK大分放送局のテレビ番組「ししまるテレビ」(平成22年2月5日(金)放送)の中で、PCOのファンの子供たちが、ショーに出てくるキャラクターや技の名前で大分の方言を知り、方言を見直すきっかけになっていることが紹介されました。
※ 実は「ししまるテレビ」は「んけん、まるごと、大分を取り上げるテレビ」という番組のねらいを縮めた語だそうで、これも方言にちなんだ命名です。
 また『大分合同新聞』平成22年3月20日(土)夕刊1面でも、PCOのことが大きく取り上げられました。

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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第103回

2010年 6月 12日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第103回 『方言検定本』~鹿児島と出雲~

 近年、地元のことを、楽しみながら、より深く確かに知ってほしいと、「ご当地検定」が各地で実施されていることは、以前、この連載の第68回でも紹介しました。

 そのうち、「方言」に絞った検定用の本(問題集と教科書)が、私の知る限りでは、鹿児島県と出雲(島根県)で出ています。

 第1回「鹿児島弁検定」は平成21年8月16日に開催され、小学生から90代までの幅広い世代の650人が受検し、特に若い女性が多かったとのこと。(それに先立ち、3月には270人が受検して模擬検定も行われました)

 『鹿児島弁検定問題集』は、それを踏まえて発行されたもので、鹿児島弁検定実行委員会の編集・発行で、ことし平成22年1月に出版されています。

 検定は初級・中級・上級に分かれており、初級は「鹿児島弁の楽しさを感じてもらう」、中級は「鹿児島弁のすばらしさを感じてもらう」、上級は「鹿児島弁の奥深さを感じてもらう」ことをねらいとし、それぞれ70点以上が合格で、合格率は、初級の「学士」が92%、中級の「修士」が73%でしたが、上級の「博士」は難関で11%しか合格しなかった由。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】『鹿児島弁検定問題集』と『出雲弁検定教科書』
【写真1】『鹿児島弁検定問題集』と
『出雲弁検定教科書』
【写真2】第2回鹿児島弁検定の案内チラシ
【写真2】第2回鹿児島弁検定の案内チラシ

 初級の問題は、寸劇を見て鹿児島弁の意味を共通語になおす(20問)、いかにも鹿児島弁らしい語を記す(20問)、鹿児島弁の語の意味を選択する(60問)、共通語の会話文を鹿児島弁になおす(5問)、鹿児島弁の俗謡「茶碗蒸しの唄」を共通語訳する、など。

 中級は、ビデオを見て鹿児島弁の会話を共通語に訳す(21問)、いかにも鹿児島弁らしい語を記す(20問)、鹿児島弁の語の正しい意味を選択する(50問)、適切な擬声語・擬態語を書く(11問)、「シンデレラ物語」を鹿児島弁で書く(10問)、など。

 上級は、ビデオを見て鹿児島弁の会話を共通語訳する(30問)、鹿児島弁の語の正しい意味を選択する(20問)、鹿児島弁の語源を書く(15問)、鹿児島弁のことわざの意味を書く(10問)、鹿児島弁に関する本や人物などに関する説明の中から正しいものを選ぶ(10問)、など。

 以上のように、各級のねらいや難易度に合わせて、多彩な問題が出題されています。

 同書から、そのうちのいくつかの問題を紹介しましょう。【 ⇒ 解答は後述

初級:次の鹿児島弁の意味を書きなさい。
とぜんね(    )、はんとくっ(    )、あばてんね(    )
中級:鹿児島弁らしい擬声語・擬態語を書きなさい。
「のろのろ歩く」、「頭がくらくらする」、「この魚はぴちぴちしている」
上級:次の鹿児島弁の語源を書きなさい。
「がんたれ、ぐらしい、きらす、ひやなっ、…」

 ことしの第2回検定は、今月6月の下旬に行われます。詳しいことは、鹿児島弁検定協会のホームページ http://kagoshimaben-kentei.com などを参照してください。

 もう1冊、島根県では『出雲弁検定教科書』(有元光彦・友定賢治 編集、宍道・出雲弁保存会 協力)という本が、CD付きで、平成20年10月に発行されています。

 が、これは方言研究者による出雲弁の解説書とでも言うべきものです。その理解度と学習の成果を確認する意味で、第3章に「出雲弁検定試験」の問題が載せられています。

 ですから、こちらは一般の人々を対象にして、実際に「出雲弁検定試験」が行われているというわけではありません。

 なお、インターネット上には、「北海道方言検定、北海道弁検定、あきた(弁)検(定)、山形弁検定その1・その2・その3、方言けんてー栃木編、方言検定栃木県の方言、千葉県方(言)[房州弁]けんてー、房州弁検定だっぺ、新潟弁検定、名古屋弁検定、名古屋(方言)検定、方言で奇面組検定[名古屋弁?]、三河弁検定、関西弁検定!・同02!、難解?私の地元の言葉[山陽山陰]検定、岡山弁検定・同2、広島弁検定、山口県の方言(検定)、伊予弁検定、土佐弁検定、博多弁検定、(福岡県)八女弁検定、佐賀(弁)検定、鹿児島(弁)検定、難解方言~鹿児島弁~検定、おきなわ(弁)検定、沖縄語けんてい、沖縄の方言(検定)、宮古島検定方言編」の、都合33件があります。問題数は3問から10問までの間です。
   注:平成22年6月7日現在。( )や[ ]はわかりやすくするために補足しました。

 全国的に見ると、北海道(2)、東北(4)、関東(4)、中部(5)、関西(2)、中国(5)、四国(2)、九州(5)、沖縄(4)という数で、関西と四国がやや少ないと言えるでしょうか?
 今後、あちこちでさらに増えそうです。

 《参考》『出雲弁検定教科書』については、http://oneline.main.jp/oneline.htm を参照。インターネット上にある各種の検定を知るには、「けんてーごっこ」http://kentei.cc/ で、また全国各地で実施されている多様な「ご当地検定」は、「ご当地検定の森」http://www.1gotouchi.com/ などで検索することができます。

【「鹿児島弁検定」の解答】
初級:とぜんね(寂しい)、はんとくっ(転倒する)、あばてんね(たくさん)
中級:「(ノロンクヮラン)あるっ!」「びんたが(クランクラン)すっ!」「こん魚は(ピッチンピッチン)しちょい!」
上級:(粗悪品=贋垂れ、不憫=業らしい、おから=切らず、花火=火柳)

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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第98回

2010年 5月 8日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第98回 若い女性が方言で愛を告白『方言CD』

 若い女性が自分の思いを方言で告げる、ちょっとユニークなCDが発売されています。

(画像はクリックで拡大します)
『方言CD』の表の面
【写真1】『方言CD』の表の面
裏の面
【写真2】裏の面

 日本全国の北から南まで、北海道、福島、群馬、東京、京都、大阪、岡山、徳島、長崎、沖縄の、10の都道府県の方言で、①「好きです。付き合ってください」などと愛の告白をする「甘口バージョン」と、②「もうキライ、大キライ!」などとまったく逆のお叱り「辛口バージョン」の2種類が、2枚のCDに収められています。

 制作したのは、Ciffon というレーベルで「妄想ボイスCD」や「お名前CD」などのシリーズを発売している、イベント企画・映像制作・音楽制作などを手がける東京の会社「NRプロ」。

 甘口版・辛口版ともに、せりふには共通の基本形(各30の例文)があり、それを各県の方言にしたもの=都合600の表現が、感情をこめて語られています。

 声の主は、いずれも各地域出身の若い女性の声優だとのこと。

 例文は、例えば「今日はいろんな所に行こうね。○○○と○○○がおすすめ。あなたと一緒に行きたかったの」という文の○○○の個所には、地元の人たちにはおなじみの、各都道府県の代表的なデートスポットが入れられています。「えっ、○○県のお土産を買ってきて欲しい? じゃあ○○○○を買ってきてあげるね」(以上「甘口」)、「○○○○に連れて来てあげたのに感動しないなんて、変なの。信じられない。ちょっと頭おかしいんじゃないの!」「あ~お腹いっぱい。はぁ? 残したの! 私が作った○○○○を残すなんて、絶対許さない!」(以上、辛口)なども、同様に、○○には各地の代表的な場所やおみやげ、食べ物などが入っています。

 ただし、方言は同じ県内でも地域によって違いがあるので、ジャケットには「方言は現在進行形で変化している上、同じ方言圏内でも市町村単位で微妙に異なるため、分類は便宜的なものと捉えてください。このCDでの方言は、あくまでもキャラクター表現の一部としてお聴きください」と、わざわざ断わり書きがしてある念の入れようです。

 また、帯には「「故郷の方言が聞きてえ!」「可愛い方言で告白されたい! 叱られてみたい!」など、方言に興味がある方、特別な想いを抱いている方に最適。家族や友人に全国の方言を披露して自慢することもできます。まさに一枚で二度おいしい。」とあります。

 「方言」は、気取らず飾らずの、地域社会の毎日の暮らしのことば、本音のことばだと言われます。

 まして女性のほうから「好きです!」などと打ち明けられたことのない大多数の男性にとって、これは“一見の……”、否、“一聴の価値がある”はず!

 はやる気持ちを押さえつつ、全編を聴いた率直な感想は……。
 全体にいわゆるアニメ声と言われるもので、そういった発声に慣れた人にはおなじみでしょうが、そうでないオジサンには、実際に若い女性から告白されたり叱られたりするというリアリティーよりは、やはり作品世界での告白を聞いている、という印象のほうがより多く残りました。

 期待がちょっと大きすぎたのでしょうか……。「現実は甘くない!」「過ぎたるは及ばざるがごとし……?」

 (なお、感想はあくまでも個人的なものであり、作品の効能を云々するものではありません。また甘口バージョンよりも辛口バージョンのほうが身につまされる度合いが大きかったことを告白します)

 《参考》「NRプロ」の公式サイトは、http://www.nrpro.co.jp/。また、このCD発売の発表イベント(秋葉原で22年1月22日)の模様は、共同通信の「47(よんなな)NEWS」http://www.47news.jp/video/akiba/post_665.php で見ることができます。

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地域語の経済と社会 第93回

2010年 4月 3日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

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第93回 『大分合同新聞』の「方言連載」

 地方新聞は、地域に取材した記事を豊富に掲載し、読者に地元の情報をきめ細かく提供して地域密着を図っています。

(画像はクリックで拡大します)
「連載の予告記事」平成22年1月31日 朝刊
【写真1】「連載の予告記事」
平成22年1月31日 朝刊

 この2月1日から、大分県の『大分合同新聞』は、「方言の連載」を始めました。
 毎日1語ずつ、朝刊の紙面トップの第1面に、カラーの枠囲みで「教えて! ぶんぶん 大分方言」として出題し、「どのページかな? こたえを探してね」と呼びかけ、別の面に、これも必ずカラーの扱いで「こたえ(意味・用法)」を載せています。

 日によって「こたえ」の載っている面は異なりますから、どこに載っているかを探す過程で、できれば他の記事にも目を留めて読んでほしいという、編集者の願い(ねらい?)も伝わってきます。
 ごく小さい記事ですが、カラーで枠囲みですから、それだけに目を引き、関心を持たれやすい工夫だといっていいでしょう。

 「ぶんぶん」というのは、『大分合同新聞』のイメージキャラクターのミツバチです。
 「新聞」の「ぶん」でもあり、大分県の旧国名「豊前・豊後」の「ぶん」でもあり、県内をあちこち飛び回って密(話題や情報)を集めてくるはたらき蜂のように、人と人とをつなぐメディアとして、地域の人たちにとってなくてはならない存在でありたいという思いを込めて命名されたものだということです。

 問題の出題者は、毎年10月に豊後高田市で開催されている「大分方言まるだし弁論大会」(この連載の第73回で紹介)の昨年の優勝者・糸永隆章さん(私立高校校長)です。

「出題」と「回答」の例(2月18日)
【写真2】「出題」と「回答」の例(2月18日)

 読者もこの連載を楽しみにしている人が多いようで、早速「読者の声」欄(2月13日朝刊)において、「「方言コーナー」楽しみ」という題で、由布市の73歳の女性からの「方言は親しみ深く、上品な言葉より懐かしさがあり、方言で話していると笑顔も絶えません。大分方言で私も力づけられ、新聞に載る明日の方言は何かなと、楽しみにしています」という投書が紹介されました。

 方言の見直しと再確認に、こういった形での連載は、なかなか効果がありそうです。

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地域語の経済と社会 第88回

2010年 2月 27日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第88回 高知県四万十市の「あきついお」

 このほど“日本最後の清流”として知られる高知県の四万十川に出かけ、四万十市内にある博物館「あきついお」を訪ねました。

「あきついお」(四万十川学遊館)
【写真1】「あきついお」(四万十川学遊館)

 「あきついお」とは……? ちょっと変わった名前ですが、実は、「あきつ」と「いお」からなり、四万十川流域を中心とした、昆虫のトンボと、川魚とを集めた学習・観光施設です。

 「あきついお(四万十川学遊館)」という名前と表記からもわかりますが、楽しく遊びながらしっかり学んでもらいたいという思いが込められています。

 設立者は「社団法人・トンボと自然を考える会」です。四万十川流域には約90種のトンボと、約200種の魚がいるということですが、「あきついお」には日本はもとより、海外まで含めてトンボの標本1000種、3000点、魚300種、2000点が展示されています。

 トンボのことを、日本では古くは「あきづ」(蜻蛉、秋津)、のちに「あきつ」(中古以降)と言ったことが知られています。

 トンボを意味する方言は、『日本方言大辞典』(徳川宗賢ほか編、小学館、平成元年=これまでに全国各地で発行された方言集や方言辞典、およそ1000冊を集大成し、約20万語もの方言での言い方を収録した、日本で最大の方言辞典)によると、全国でこれまでに知られているだけでも、実に189種類にものぼります。

 この辞典をベースにして、共通語形から引けるようにしたのが『標準語引き 日本方言辞典』(佐藤亮一監修、小学館、平成16年)ですが、同書によると、トンボのことを「あきつ、あけず」などと言う(言った)地域は、主に北の東北地方と、遠く離れた南の九州・沖縄です。「ゐなかには、いにしへの言の残れること多し」(本居宣長『玉勝間』)と言われる、その例のひとつです。

 国立国語研究所編『日本言語地図』(全6巻)にもこの項目があり、その一般向けの簡略版ともいうべき『日本の方言地図』(徳川宗賢、中公新書)にも全国の分布図と解説があります。

 インターネットの「Web水族館 全国水族館ガイド」には「高知県の言葉で「あきつ」はトンボ、「いお」は魚で、「あきついお」の名称となっている」とありますが、『高知県方言辞典』(土居重俊)には、「いお」(=魚)はありますが、「あきつ」は見られません。

 そうなると、館名の「あきついお」は、古語+方言と見るべきでしょうか。

「いおワールド」(鹿児島市)
【写真2】「いおワールド」(鹿児島市)

 なお、同様の命名をしたのが、鹿児島市にある「いおワールド かごしま水族館」です。魚を意味する「いお」と、その多様な世界=「ワールド」を見てもらおうと名づけられたものです。

《参考》高知県四万十市の「あきついお」はhttp://www.gakuyukan.com/index2.html、鹿児島市の「いおワールド」はhttp://www.ioworld.jp/ の、各ホームページを参照。

写真提供:「あきついお」、「いおワールド」

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第83回

2010年 1月 23日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第83回 NHK宮崎放送局の「いっちゃがTV」

 全国各地の放送局には、地元の方言を活かしたユニークで個性的な番組があります。

 NHK宮崎放送局には、平日夕方の地域情報番組「いっちゃがTV(テレビ)」があり、番組名が方言で名付けられています。

【「いっちゃがTV」の番組タイトル】
【写真1】「いっちゃがTV」の番組タイトル

 平成12年4月から放送されており、まもなく丸10年。県内各地の多様で多彩な情報が得られると好評を博しています。(総合テレビ、月~金、午後5:05~6:00放送 )

 「いっちゃが」とは〔いいんだよ〕という意味あいの語で、「いい」+「と」+「じゃ」+「が」の変化したものです。共通語の「良い+の+だ+よ」に相当します。

 メインキャスターは宮崎市出身の百野 文(ひゃくの・あや)さんで、彼女が番組内で使うことばは基本的には共通語ですが、相手や状況に応じて、宮崎の方言も交えて話せるのが強みです。明るいキャラクターとも相まって、番組発足以来、キャスターを続けて、番組を支えています。

 「宮崎県民を愛し、宮崎県民に愛される番組をめざす」というのがこの番組のねらいで、毎回その話題にゆかりの人たちが生放送のスタジオに……。毎年、800人から1000人近い人がこの番組に登場するということです。

 番組で取り上げている代表的なトピックとしては、宮崎の旬の食材、話題の人物インタビュー、大学・商店街めぐり、中学校紹介、町おこしの話題、手芸・園芸講座、ライブ演奏、カルチャー情報、医療情報、県内各地のイベント紹介……などがあり、バラエティーに富んでいます。

 「方言」関係では、月に3回、水曜日には「宮崎弁研究所」というコーナーがあり、西都市出身の寺原重次さん(宮崎県語り部の会会長)が宮崎方言の魅力や意味・用法などについて解説をしています。

【「宮崎弁研究所」の一場面】
【写真2】「宮崎弁研究所」の一場面

 またその研究員で、劇団「いもがら」の役者、中所美紀(なかじょ・みき)さん(日南市出身)が宮崎方言を駆使して「げなラップ」を作り、振り付けも考えて、保育園・幼稚園の子供たちから、友人どうし、家族そろって、職場のメンバーなど、番組でいっしょに踊るグループを募集し、画面で紹介しています。

 「げな」はひとから聞いたこと=伝聞を表す〔~だそうだ〕という意味です。

 また、第1~3木曜日放送の「てげてげ休日」というコーナーは、暮らしを豊かにする趣味や実用に関するノウハウを紹介しています。

 「てげてげ」は第78回で取り上げた「てげてげ運転」と同様です。「あくせくせずに、のんびりほどほどに、楽しく休日を過ごしましょうよ」という提案と呼びかけの意味あいが込められています。

 以上のように、番組名や各コーナーに方言でネーミングをし、また話題としても方言を取り上げることによって、地元の視聴者によりいっそう身近に感じ、親しみを持ってもらおうという意図が伝わってきます。

《参考》NHK宮崎放送局のホームページに「いっちゃがTV」の概要が写真入りで紹介されています。中所さんが踊っている「げなラップ」の動画も見ることができます。
写真提供:NHK宮崎放送局

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第78回

2009年 12月 12日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第78回 宮崎県警の「てげてげ運転」追放運動

【「てげてげ運転」追放を呼びかける電光掲示】
【写真1 「てげてげ運転」追放を
呼びかける電光掲示】

 宮崎県の道路を、夜、車で走っていたら、道路の上に「交通安全」を呼びかけるメッセージが電光掲示板に表示され、目に飛び込んできました。

 そのひとつ、県北・日向市の国道10号線で見かけたものが、【写真1】です。

 「てげてげ運転 追放運動 実施中」とありますが、「てげてげ」は宮崎県の方言です。共通語に訳すなら、〔いいかげん、適当、ほどほど、まあまあ、そこそこ、…〕といった意味あいのことばです。
 ですから、「てげてげ運転」とは、言うならば、「慎重運転」「きびきび運転」の反対語に当たります。

 同じ掲示板には、その他に「みんなで なくそう 交通事故」「ストップ! 脇見 ぼんやり運転」という警告もあり、これらが一定の時間ごとに次々に点灯してメッセージを送り、運転者に注意を呼びかける仕組みになっています。

 「てげ」は「大概」の変化したもので、宮崎の方言では「てげ ぬきー」〔非常に暑い〕、「てげ しんきなー」〔非常にイライラする(じれったい、くやしい)〕といったように、〔非常に〕という強調の意味で使われる代表的なことばです。(同様な語として「大概には」の転じた「てげにゃ」「てげな」もありますが、同じ意味です)

 ところが、それが2回繰り返されて「てげてげ」となると意味が変わり、先のような意味あいに転じます。

 この「てげてげ」は、宮崎県人の県民性を表現するときにもしばしば引き合いに出されます。宮崎県は、夏、毎年のように台風に襲われることを除けば、気候も温暖で、農産物や水産物も多く、暮らしやすい土地柄だけに、あくせく汲汲とすることなく、のんびりほどほどに暮らせばいいではないか、という気風が強いと言われます。その気分にぴったりなのが、この「てげてげ」だというわけです。

 「だろう運転」ということばがあります。「このまま進んでも大丈夫だろう」「たぶん相手のほうが避けてくれるだろう」「黄色信号でも何とか通過できるだろう」といったように、自分に都合のいいように考え、楽観的に行動してしまう、そういう運転態度のことですが、宮崎県の「てげてげ運転」はまさにそれと軌を一にします。

 が、それでは交通違反や交通事故はなくならない! そう考えた宮崎県警察本部が、てげ頑張って呼びかけているのが、「てげてげ運転 追放!」というわけです。

《参考》Wikipedia「だろう運転」=自動車の運転において、事故に繋がるような楽観的予測に基づいた運転を戒める日本語の慣用句。(中略)日本の自動車教習所や警察などでは「だろう運転」という言葉で総称し、運転者に対してより注意深く予測や行動を行うことを啓蒙している。
(引用:2009.12.7 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A0%E3%82%8D%E3%81%86%E9%81%8B%E8%BB%A2

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地域語の経済と社会 第73回

2009年 11月 7日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

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第73回 大分県豊後高田市の「方言まるだし弁論大会」

 大分県の北部、丸く突き出た国東半島の付け根に、豊後高田市があります。
 最近は、「昭和の町」=古い町並みと外観がそのまま残る市内中心部の商店街=が、観光地として有名になってきています。

第25回「大分方言まるだし弁論大会」の一場面
【第25回「大分方言まるだし弁論大会」の一場面】
(画像はクリックで拡大します)

 ここに、毎年10月に開催され、名物行事になっている方言のイベントがあります。
 「なんでんかんでん言うちみい 大分方言まるだし弁論大会」がそれで、昭和58年にスタート。ことしは10月18日(日)に開催され、数えて第25回。四半世紀の歩みを重ねてきました。(途中、“充電”のために2回ほど休んだ期間がありましたが…)

 国東半島は、「六郷満山」と言われ、「仏の里」とも呼ばれて、仏教関係の史跡や観光スポットの多い地域ですが、地元の若者たちが、暮らしのことば=方言を活かして何か面白いことをやろうではないか、と“よだって”〔企画して〕始めたのがこの大会でした。

 弁士1人の持ち時間は5分で、高校生以上なら誰でも応募できます。まずは発表する内容の要旨を400字詰め原稿用紙1~2枚に書いて応募し、原稿審査のうえ、毎年10人程度が本選に出場し、壇上に上ります。

 420人を収容する市内でいちばん大きな会場=中央公民館は、早くから詰め掛けた人・人・人で、超満員。大ホールに入りきれない人のためにロビーのテレビモニターにも同時中継し、そこでもまた大勢の人が画面を見つめます。

 審査のポイントは大きく分けて2つあり、「表現力」と「方言力」。弁論大会ですから、各自の言わんとする論旨を聴き手にわかりやすく訴えて、なるほどとうなずかせる「表現力」と「説得力」が必要なのは当然のことですが、この大会は「方言」の弁論大会です。従って、とりわけ「方言力」とその「活用力」が求められます。

 いくら共通語でいいことを主張しても高い評価は得られません。さりとて方言は確かにふんだんに出てきたが何を言いたいのかよくわからない、というのではこれまた高い得点にはなりません。方言ならではの持ち味を十分に活かしながら、説得力のある話をしなければいけないわけで、「方言」をベースにしつつ、そのバランスを取るのがひと苦労です。

 出だしは方言でスムーズに話し始めて快調に進んだものの、話が佳境に入るといつの間にか共通語になってしまい、ハッと気づいて慌てて方言に戻そうとするがうまく切り替えられずに四苦八苦。会場の爆笑を誘うシーンもまま見られますが、それもご愛嬌。
 次々に登壇する弁士による、熱のこもった方言での弁論が続きます。

 この大会は、暮らしのことば=方言のもつユーモアやバイタリティー、気取らず飾らず、本音を率直に吐露するリアリティーなど、ふだんあまり意識することのない「方言」の持ち味や特長を、改めて見直す、得がたい機会になっています。

《参考》豊後高田市公式ホームページの「今日の出来事」 = http://www.city.bungotakada.oita.jp/dekigoto/hougenmarudasibenron_20091018.jsp
に写真入りで紹介されています。

 

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地域語の経済と社会 第68回

2009年 10月 3日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

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第68回 「津軽ひろさき検定」と方言

 近年、全国各地で「ご当地検定」が盛んに行われており、人気を博しています。

(画像はクリックで拡大します)
【「津軽ひろさき検定」の受験要項】
【写真1 「津軽ひろさき検定」の
受験要項】

 そのひとつ、青森県の「津軽ひろさき検定」では、“シンボルキャラクター”として、「おべさま」という方言が活用されています。【写真1】
 「おべさま」は地元の方言で、〔もの知り〕という意味で、「さま」という敬称が付くことからもわかるように、尊敬の意味あいがあり、こういうご当地検定の合格者を言うには大変ふさわしい方言といっていいでしょう。

 津軽人の性格や傾向を評した「津軽の三ふり」は、よく引き合いに出されます。
 「えふり〔=いいふりをする。見栄っ張り〕、あるふり〔=お金などがないのに、あるふりをする〕、おべだふり〔=よく知らないのに、知ったふりをする〕」の「おべだふり」には〔知ったかぶり〕という非難のニュアンスがありますが、「おべさま」はそれとは意味あいが異なります(「おべ」は「覚え」、「おべだ」は「覚えた」の転でしょう)。

 「おべさま」は、弘前公園の桜として全国的に有名な、桜の花びらをベースに図案化してあり、もの知りの人のイメージを重ねて、ひげを蓄え、眼鏡をかけています。

【おべ博士のキャラクター】
【写真2 おべ博士のキャラクター】

 ことしは第3回で、前回の第2回からは「中級」ランクもスタート。中級の合格者は「おべ博士」と呼ばれますが、これには角帽がのり、さらに立派なあごひげも加わっています。【写真2】

 検定は、個人参加の他、4人ひと組のチーム戦(おべさまカップ)もあり、会場も、地元弘前の他に、東京会場も設けられています。また、合格回数積算制度もあって3回合格者は「おべさまマスター」に認定されるなど、参加しやすいよう、また何度でもチャレンジする意欲を引き出すよう、工夫や配慮がなされています。

 この試験に備えるための『公式テキスト』も刊行されていますが、ことしからはさらに『津軽ひろさき・おべさま年表』も発行されるとのことです。
 初級(=おべさま検定)の試験終了後、検定問題に関する地域や施設などを巡り、検定の答え合わせをし、弘前を再発見する半日のツアーも用意してあります。

 また、この検定合格者の知識をさらに有効に「観光ボランティアガイド」にも活用しており、そのうち、女性だけのボランティアグループの名前は「アパ・テ・ドラ」という由。
 一見、外国語のようですが、実は「アパ」は津軽の方言で〔奥様〕、「テドラ」は〔お手をどうぞ〕という意味だとのこと。ここでも方言がしっかり活用されています。

 主催者によると、ゆくゆくは、子供たちを対象にした「ジュニア検定」や「上級」ランクの構想もあるとのことです。
 より詳しくは、「弘前観光コンベンション協会」電話0172-35-3131、URL http://www.hirosaki.co.jp などを参照してください。

 

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