三省堂辞書の歩み 辞林
2013年 5月 8日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第16回
辞林
明治40年(1907)4月1日刊行
金沢庄三郎編/本文1637頁/四六判(縦187mm)
本書は、普通語、古語、俚語方言、外来語のほか、学術用語も多く収め、見出し語数は約8万2000。明治29年刊行の『帝国大辞典』を2万5000語も上回った。
現代的な言葉を載せる目的で編纂され、専門用語には哲学・仏教・心理学・論理学・教育学・法律・経済・動物学・植物学・生理学・鉱物学・物理学・化学・数学(増補再版で天文学・地理学を追加)の区別を示している。また、『帝国大辞典』と同じく、見出しの上には古語・俚語方言・字音語を表す記号が付けられた。俚語方言を表す「{ 」は、語釈の文頭にも付いている。
見出しは歴史的仮名遣いだが、促音「っ」だけは小書きが使われた。音引き「ー」は「あ」の前に配列したため、「アーチ」~「アール」の後に「ああ」がくる。巻末には「発音索引」「字音索引」があって、歴史的仮名遣いでの引きにくさを助けている。また、四十四年版には「難訓索引」も付いた。
『帝国大辞典』では出典付きの用例を掲載していたのだが、本書では作例がわずかに載っている程度となった。そのかわり、語数が増えただけではなく、語釈も改善されている。編集には、『漢和大字典』(明治36年)に続いて足助直次郎が尽力した。金沢庄三郎は、東京帝国大学で指導下の学生だった金田一京助たちに原稿を書かせていたという。
明治42年(1909)刊行の増補再版は本文の頁数に増減なく、四十四年版(明治44年)では本文が24頁増加した。その後、3段組を4段組に変えた縮刷版を大正7年(1918)に、中形版を大正12年に刊行している。
●最終項目
をんをん[温温](名、副) 「をんぜん」(温然)に同じ。
●「猫」の項目
ねこ[猫](名) ①【動】食肉類中猫科に属する小獣、多く人家に飼養せらる、頭円く尾長し、体駆は狭長にして屈伸自在なり、毛色種々あり、夜間は瞳円大なれども日中には竪針状となる、よく鼠を捕ふ。②{芸者の異称。③{知りて知らぬさまをなすこと。又、其人。④{本性をつゝみかくして平凡をよそほふこと。又、其人。⑤{土製の「アンくわ」の称。(東京地方の方言)。
●「犬」の項目
いぬ[犬](名) ①【動】哺乳類中肉食類に属する獣、世界至る所に家畜として飼養せらる、性怜悧にして、視官は鈍けれど、聴官と嗅官とは最も鋭敏なり。②まはしもの。諜者。
◆辞書の本文をご覧になる方は
辞林(初版):
辞林(四十四年版):
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。
三省堂辞書の歩み 国漢文辞典
2013年 4月 10日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第15回
国漢文辞典
明治39年(1906)10月5日刊行
三省堂編輯所編/本文1758頁/四六判半裁(縦125mm)
「国漢文」という書名のとおり、国文と漢文の両方をミックスした辞典。本文には、漢字1字の字音項目が豊富にあり、熟語は独立した項目による五十音順である。書名に「国語漢文」を冠した辞典は、すでに他社から刊行されていたが、例言に「前人未発の編纂法を取りたる創作の新字典なり」とある。ただし、この辞典は「前人」「未発」を掲載していない。
本書の三分の一は、中等教科書にある難解な単語、熟字、古語、俚諺、格言、専門用語を載せた。そして、読書・作文に必要ない俗語、方言、漢字などは採録しなかったという。そのせいで、「犬」はあっても「猫」の項目はないのである。
巻頭に漢字索引(計177頁)があり、読み方が分からない漢字が引けるようになっていることは、当時の五十音引き辞典になかった工夫だ。また、字音便覧(71頁)もあって、字音の仮名遣いが分かるようになっている。たとえば、「コー」と発音する字音の歴史的仮名遣いは「かう、こう、かふ、こふ、くわう」があり、紛らわしくて覚えにくい。さらに、それぞれを呉音・漢音・慣用音に分けて掲載してあるから、同じ字に複数の字音仮名遣いがある理由がはっきりする。
簡便な辞典として好評だったため、大正7年(1918)には3段組に変えた縮刷版(本文782頁)が刊行された。
●最終項目
をんわ〔温和〕①気象のおだやかに、落ち付きてあること、すなほにおとなしきこと。②気候の暖かにして、のどかなること、寒熱其の中を得ること。
●「猫」の項目
不掲載
●「犬」の項目
いぬ〔犬 狗〕①獣の名、家に飼養し、善く人に馴る、其の種類甚だ多し。②まはしもの、間者。
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
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三省堂辞書の歩み 新式日英辞典
2013年 3月 13日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第14回
新式日英辞典
明治38年(1905)4月19日刊行
新渡戸稲造、高楠順次郎共編/本文1186頁/三五判変形(縦149mm)
明治29年刊行の『和英大辞典』をもとに編集しなおした学生向けの小型和英辞典。『和英大辞典』と同じ形式だが、書名は「和英」とせずに「日英」とした。重要語にはアクセントをほどこし(下記の引用では省略した)、間違えやすい語にはウェブスター式の発音が示されている。
実質的な編集は入江祝衛が担当していた。入江は明治35年に『日本俗語文法論』、翌36年に『独和会話編』を刊行しているが、もともとは英語を勉強して英語教師にもなっていた。その後、英語辞書の出版に専念し、明治40年から大正15年にかけて数冊の刊行がある。
なお、『新式日英辞典』をさらに簡約化した『袖珍新式日英辞典』も明治38年に出版されている。
●最終項目
Zūzūshii, a. presumptuous; impudent; audacious [-dā-].
── yatsu, a presumptuous fellow.
●「猫」の項目
Neko(猫), n. ①Cat; Felis domestica. ②“Singing girl.”
── ni koban, throwing pearls before a swine; ── wo kaburu, to assume an air of innocence, modesty, or honesty[on-].
●「犬」の項目
nu(犬), n. A dog.
── wo keshikakeru, to set a dog on; ── mo arukeba bō ni ataru, 犬モ歩ケバ棒ニ当ル, [even a dog, if it roams, comes in contact with a stick]=even a trifling profit cannot be realized by sitting idly at home.
◆辞書の本文をご覧になる方は
新式日英辞典:
⇒明治学院大学図書館『新式日英辞典』のページへ(本文16頁まで)
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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三省堂辞書の歩み 漢和新字典
2013年 2月 13日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第13回
漢和新字典
明治37年(1904)3月24日刊行
重野安繹、三島毅、服部宇之吉監修、三省堂編輯所編纂/本文1452頁/四六判半裁(縦126mm)
前年に刊行した『漢和大字典』の内容を簡約化した小型漢和辞典。監修者などの名義は変わらず、語義分類の方法もおおむね同じだが、若干変えた箇所も見られる。また、音や韻が異なっていて字義も異なる場合に同じ親字を別に載せ、熟語は末の字が親字と同じものを掲載しているのも『漢和大字典』と同様である。
小型化するにあたっては親字数を減らし、用例を大幅に削っている。さらに、熟語の数もかなり減らし、改行せずに●印を付けて追い込んだ。前付には「目次」(部首索引)、「検字」(画数順)、「弁似」を載せ、後付はない。
読書・作文に必要な漢字や熟語を掲載した学生向けの小型漢和辞典として『漢和大字典』の1年後に刊行され、大正2年(1913)には14版が出ている。しかし、明治39年以降に他社からも漢和辞典が相次いで出版され、ほかはすべて熟語の頭の字が親字と同じ形式だった。そのためか、大正4年の広告でも14版のままになっていて、『漢和大字典』よりも短命に終わったようだ。
●最終項目(クリックで拡大)
●「猫」の項目(クリックで拡大)
●「犬」の項目(クリックで拡大)
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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三省堂辞書の歩み 漢和大字典
2013年 1月 16日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第12回
漢和大字典
明治36年(1903)2月22日刊行
重野安繹、三島毅、服部宇之吉監修、三省堂編輯所編纂/本文1746頁(修正増補版は1766頁)/菊判(縦220mm)
本書は、日本最初の漢和辞典である。これ以前の漢字の字典は、和玉篇(わごくへん)と言われるもので、漢字の音や訓を羅列しただけだった。わずかに熟語を載せた例もあったが、語義分類をしたり、出典を載せたりしたものはなかった。三省堂編輯所の斎藤精輔は、英和辞典を手本にして漢語と和語の画期的な対訳辞典を創出したのである。
収録した漢字は3万0732字、熟語は5万4862語。当時、活字メーカーが標準的に製造していた漢字は1万字ほどだから、三省堂印刷部の存在が大きかった。現在でも、『大漢和辞典』(大修館書店)は5万字あるが、1冊ものの漢和辞典では1万字前後が普通で、多くても2万字程度。そのためか、本書の熟語にはかなり小さな活字が使われている。
前付には「索引」(部首順)、「検字」(画数順)、「弁似」を載せ、後付には「国訓」「国字」「篆文」を載せた。本文はほとんど現在の漢和辞典と同じ形式ながら、大きく違う点がふたつある。ひとつは、音や韻が異なっていて字義も異なる場合、同じ親字を載せて区別していること。もうひとつは、熟語は末の字が親字と同じものを掲載していることである。この熟語は、中国の『佩文韻府』という漢詩のための韻書を手本にしている。
実質的な編集は、斎藤と同郷で読売新聞社にいた足助直次郎を招き入れ、深井鑑一郎・福田重政とともにあたらせた。そして、監修と編纂の名義を区別したのも最初だった。
大正4年には修正増補版の刊行があり、本文は20頁の増加。さらに、後付に「首部総画索引」「首部字音索引」「字音系統漢字便覧」の計212頁が追加されている。
●最終項目(クリックで拡大)
●「猫」の項目(クリックで拡大)
●「犬」の項目(クリックで拡大)
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漢和大字典:
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
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三省堂辞書の歩み 新訳英和辞典
2012年 12月 12日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第11回
新訳英和辞典
明治35年(1902)6月1日刊行
神田乃武、横井時敬、高楠順次郎、藤岡市助、有賀長雄、平山信共編/本文1136頁/三五判変形(縦149mm)
三省堂編修所の斎藤精輔は、明治29年に『和英大辞典』が完成したあと、やりかけだった『ウヱブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』(明治21年・1888)の大改訂を本格的に再開した。そして、学術専門語の充実を図り、いっそうの近代化による新たな形で完成したのが『新訳英和辞典』である。
見出し語にウェブスター式の発音を表す記号が付けられている点は同じだが、訳語は大幅な変更を行い、格段に詳細となった。また、熟語などは子項目にして親項目に追い込まれ、慣用句などの用例は少なめである。その一方、訳語には主として雅語を用い、漢字カタカナ交じり文のため外国地名は漢字で表記するなど、保守的な部分も残っている。
編者の神田乃武は『和英袖珍新字彙』(明治23年)に続く登場。高楠順次郎は、東京外国語学校の第3代校長(初代は神田乃武)で、東京帝国大学の教授を兼務しいていた。横井時敬は農業、藤岡市助は電気学、有賀長雄は法律・政治・経済・外交・哲学・心理・教育・美術、平山信は天文学の訳語を担当したという。
●最終項目
Zyxomma, n.(動)一種の蜻蛉(トンボ).
●「猫」の項目
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●「犬」の項目
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新訳英和辞典:
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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三省堂辞書の歩み 日本新辞林
2012年 11月 14日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第10回
日本新辞林
明治30年(1897)10月15日刊行
林甕臣、棚橋一郎共編/本文1875頁/四六判半裁(縦128mm)
『帝国大辞典』(明治28年)をもとに小型版として改訂され、収録語数は約4万6000。『帝国大辞典』の半分足らずの大きさだが、活字は小さくせず、1万項目あまりの減少にとどめている。語釈や用例を簡潔にしたうえ、接尾語によって品詞が異なる語形や復合語を子項目として追い込むことで、行数を節約する工夫がほどこされた。
たとえば、「いたずら」の項目は、以下のようになっている。
いたづら[名](徒)むだなるあそび、小児などのたはむれ、むだごと、無益なること、(悪戯)。 ──なる[形]。 ──に[副]。 ──いね[活名](徒寝)あだね、むだにねること。 ──ごと[名](徒言)むだぐち、無益なる言語。 ──ごと[活名](徒事)いたづらなるしわざ。 ──じに[活名](徒死)むだ死、死にても其のかひなきこと。 ──ね[活名](徒寝)いたづらぶし、只だひとり寝ること。 ──びと[名](徒人)何の益にもたゝぬ人。 ──ぶし[活名](徒臥)いたづらね。 ──もの[名](徒者)①役にたゝぬもの、悪戯をなすもの。②ねずみの異名。 ──こ[名](徒子)いたづらをする小児。
『日本新辞林』では14行だが、『帝国大辞典』ではそれぞれが独立した項目で28行(「いたづらなる」の項目はない)だった。前者は1頁46行、後者は1頁93行だから、行数から見るとほぼ同じ割合になっていることが分かる。
その他は『帝国大辞典』とほとんど同じ形式で編集された。見出し項目の掲載順も、わ行の後に促音の「ッ」を置き、最後に「ん」の順である。
目立った違いは、簡略化した語釈を補うため、小活字で同義語を掲げたこと。また、古典による用例も小活字で、頭に「☞」の記号を使っているのが珍しい。そして、漢字表記が複数ある場合は、代表的な表記を語釈の前に、ほかの表記は語釈の末尾に置かれた。
さらに、品詞の表示にも「形動」「形名」「活名」などが新たに使われているが、その説明は載っていない。なお、近代デジタルライブラリーの『日本新辞林』では、巻頭2ページ分の「例言」が欠落している。
●最終項目
をんわ[名](温和)①気象のおだやかに落ち着きてあること、すなほにおとなしきこと。②気候の暖かにしてのどかなること、寒熱其の中を得ること。
●「猫」の項目
ねこ[名](猫)①人家に飼養する獣、人に馴れ易く、よく鼠を捕るもの。②旧幕時代の末より芸妓の異名。
●「犬」の項目
いぬ[名](犬)家に飼養する獣の名、(狗)。
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日本新辞林:
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境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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三省堂辞書の歩み 和英大辞典
2012年 10月 10日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第9回
和英大辞典
明治29年(1896)10月12日刊行
ブリンクリー、南条文雄、岩崎行親、箕作佳吉、松村任三共編/本文1687頁/菊判(縦219mm、7版以降は縦187mm)
ヘボンの『和英語林集成』(慶応3年初版、明治5年再版、明治19年三版)に比肩しうる本格的な和英辞典。見出しになっている項目は、当時の国語辞典にまだ載っていないような日常語もある。また、動植物名を豊富に掲載し、ラテン語の学名を載せた。用例には、『和英語林集成』と同様にローマ字表記があり、巻頭では英文で23ページにわたって日本語を解説してあるなど、外国人の利用に適している。それでも大正3年(1914)まで13版が出ていて、1963年にはアメリカでリプリント版が刊行された。『和英語林集成』の影響を色濃く残しながら、それを超えるべく口語や類義語に力を注ぎ、現代性を追求した点が最大の特徴である。
編者のブリンクリーは、英字新聞を発行していたジャパン・メイル社の社主・主筆だった。南条は文学博士、岩崎(札幌農学校出身)は農学士。箕作(東京帝国大学教授)は理学博士で動物学の項目を担当、松村(東京帝国大学教授)は理学博士で植物学の項目を担当。さらに、動物学の項目には岸上鎌吉・波江元吉らの協力があった。そして、数学の項目では藤沢利喜太郎の『数学用語英和対訳字書』(明治22年)を参照したという。
●最終項目
Zūzūshi, -i, -ki, ずうずうし, a. [coll.] Audacious; impudent; presumptuous; venturesome.
Zūzūshii yatsu, ズウズウシイ奴, a presumptuous fellow.
●「猫」の項目
Neko, ねこ, 猫, n. ①[Zoöl.] Cat, Felis domestica. ②[coll.] Singing girl (so named in derision, from their musical instrument samisen being made with cat’s skin).
Neko wo kaburu, 猫ヲ被ル, [coll.] to put on a mask; to assume an air of innocence, modesty, or honesty; Neko ni katsubushi, 猫ニ鰹節, [coll.] [Prov.] like showing dried fish to a cat (said of an object of irresistible temptation); Neko ni koban, 猫ニ小判, [coll. prov.] [lit.] giving a gold coin to a cat (so valueless to the receiver); throwing pearls before swine.
●「犬」の項目
Inu, いぬ, 犬, 狗, n. [Zoöl.] A dog, Canis familiaris.
Inu mo arukeba bō ni ataru, 犬モアルケバ棒ニ当ル, [coll. Prov.] [lit.] even a dog, if it roams comes in contact with a stick; i.e. even, a trifling profit cannot be realized by sitting idly at home; Inu wa mon wo mamoru, 犬ハ門を守ル, the dog watchesthe gate; Inu wo keshikakeru, 犬ヲ嗾ケル, to set a dog on; Kai inu ni te wo kamaru, 蓄犬ニ手ヲ噬マル, [lit.] to have the hand bitten by one’s own dog; [fig.] to be betrayed by one’s own dependent.
◆辞書の本文をご覧になる方は
和英大辞典:
⇒明治学院大学図書館『和英大辞典』のページへ(本文16頁まで)
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
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三省堂辞書の歩み 帝国大辞典
2012年 9月 12日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第8回
帝国大辞典
明治29年(1896)10月7日刊行
藤井乙男、草野清民共編/本文1407頁/菊判(縦226mm)
三省堂による初めての国語辞典。古語から現代語(隠語・方言)までの和語、漢語、外来語を集め、見出し語数は約5万7000。当時としては、『和漢雅俗いろは辞典』(明治21~22年初版、明治25~26年増訂二版)に次ぐ多さである。
我が国の近代的国語辞典の出版は明治21年(1888)から始まり、まだ10点を越えていない状況にあった。物集高見の『ことばのはやし』『日本大辞林』、高橋五郎の『和漢雅俗いろは辞典』、大槻文彦の『言海』、山田美妙の『日本大辞書』といった、現在と同じ形式の内容を有する、活版印刷による国語辞典がさかんになり始めた時期である。
本書は、『日本大辞書』(明治25~26年)の改訂原稿を買い取って、先行辞書を参考にしながら短期間に編集された。『日本大辞書』との相違点は、活用語の見出しの活用部分も平仮名にしたり、アクセント表示をやめたり、語釈は片仮名主体を平仮名主体にしたうえ文語体に改めている。つまり、他の多くの辞書と同じ方式が採用された。また、見出しを引く助けとして、ページの下に五十音を掲げる工夫がある。ただし、「ゐ」「ゑ」をヤ行に入れた頁が多くあり、後に訂正された。当然、『日本大辞書』との類似点もあり、特に「ん」を「む」と別に扱って五十音順の最後とした点が先見的な特徴である。
●最終項目
をんをん 副詞 (温温) 気象のやさしくあるをもいふ。
●「猫」の項目
ねこ 名詞 (猫) ①人家に飼養する獣にて、人に馴れ易く、よく鼠を捕る、形ち虎に似て小く、性質睡りを好み、寒を畏る、毛色は種々あり、其眼は、朝円く次第に収縮し、正午は、針のごとく、午後はやがて旧に復す。②旧幕時代の末より芸妓の異名をいふ。
●「犬」の項目
いぬ 名詞 (犬、狗) 家に飼養する獣類なり、性質極めて人に馴れ易く、怜悧にして主に忠なり、体に大小あり、毛色も亦ひとしからず、今時、洋犬を飼養するもの多し、性質和犬よりも猛烈にして狩猟に馴れたり、種類甚だ多し、かりいぬ、むくいぬ、すぱにえる、かめ、などいふ。 ○[慈鎮和尚]「おもひぐまの人はなかなか、無きものを、あれにいぬの主を知りぬる」。
◆辞書の本文をご覧になる方は
帝国大辞典:
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。
三省堂辞書の歩み 独和新辞林(袖珍独和新辞林)
2012年 8月 8日 水曜日 筆者: 境田 稔信三省堂辞書の歩み 第7回
独和新辞林(袖珍独和新辞林)
明治29年(1896)9月19日刊行
高木甚平、保志虎吉共編/本文1539頁/袖珍判(縦91mm)
三省堂による初めての独和辞典の出版は、仏和辞典より10年も後だった。我が国のドイツ語辞書の出版も、英語辞書やフランス語辞書より遅れ、明治5年から始まる。その後の出版点数も、やはり英和や仏和より少なかった。
本書は、他社との差別化を意識した袖珍サイズ(厚さは4cm前後)で小さな七号活字を使い、英語の辞書編集によって蓄積されたノウハウを駆使している。原稿は、三省堂の斎藤精輔が多くのドイツ辞書を参照しながら独英辞典を翻訳して完成させたという。
ドイツ語にはドイツ文字(亀の甲文字)が使われ、複合語は主となる語の項目に集めてある。語釈は原義を先に、転義を後に掲載し、異なる語義を番号で区別した。分野別の表示をして、漢語と和語、雅語と俗語の両方を用いるように努めている。また、ラテン語やフランス語、英語などの外国語にも表示を設け、人名・地名などには英語を付記してある。
なお、本書の表紙や扉の書名には「袖珍」が付かないが、本文の最初にある内題には「袖珍」が付き、出版当初から両用していた。国会図書館所蔵本は扉や序文・判例などの前付けが欠落しているため、内題を書名としたようだ。
●最終項目
zyfelmaus, f.〔動〕.ヤマネ(日光方言)又フクネヅミ
●「猫」の項目 Katze
●「犬」の項目 Hund
◆辞書の本文をご覧になる方は
独和新辞林:
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【筆者プロフィール】
境田稔信(さかいだ・としのぶ)
1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。
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【編集部から】
昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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2007年









