三省堂辞書の歩み 類語活用必携

2016年 10月 5日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第53回

類語活用必携

昭和15年(1940)6月15日刊行
三省堂編輯所編/本文272頁/三五判(縦146mm)


左:【類語活用必携】1版(昭和15年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は三省堂における最初の類語辞典である。サイズは『用字用語必携』(昭和12年)と同じで、書名に「辞典」ではなく「必携」を用いたことも共通していた。

 日本語の近代的な類語辞典は、『日本類語大辞典』(晴光館、明治42年)から始まる。それを簡約化した『同意語二十万辞典』(北隆館出版部、明治43年)も出た。大正2年には、それぞれ版元や書名を変え、『国民必携類語大辞典』、『読書作文日本大辞典』として刊行されたが、昭和9年に『詩歌作文表現類語辞典』(交蘭社)が出るまで新たな類語辞典の刊行はない。

 ただし、類語を載せた辞典がなかったわけではなく、『類語類例新詞藻辞典』(東光社、昭和12年)のように、類語、類句、文例などを載せたものはあった。それらは、手紙文や作詩・作歌のための文例を主体にしていたのである。


【類語活用必携】1版のカバー
(クリックで拡大)

 本書は、類語に特化し、類書にないハンディーサイズという点に特色があった。附録には「書翰文便覧」62頁が加えられている。

 本書の見出しは発音通りの仮名遣いで、見出しの下に歴史的仮名遣いをカタカナで載せた。当時の国語辞典も、見出しは発音式が主流だったのである。『用字用語必携』は異なっていたが、見出しにも歴史的仮名遣いの語釈にも、小書きの仮名「っゃゅょ」を使っている点は同じである。

 戦後は、改訂された『類語活用必携』が昭52年に出て、現在は『必携類語実用辞典』(昭和55年初版、平成22年増補新版)となった。さらに、平成17年に『三省堂類語新辞典』、平成18年に『文章表現のための類語類句辞典』、平成27年に『新明解類語辞典』が刊行されている。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

われら〔我等〕 吾人(ゴジン)・吾輩(ゴハイ)・我輩(ガハイ)・吾曹・我曹・我儕・我徒・我們(ガモン)。

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

ねこ〔猫〕 女奴(ヂヨド)・猫児・似虎・鼠将。

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

いぬ 〔犬〕ケン。普通のイヌ。〔狗〕コウ・ク。犬と同じ。特に犬の子をいふこともある。〔尨〕バウ。ムクイヌ。毛の多い犬。彡は毛の長い意を示す。〔戌〕ジュツ。十二支のイヌ。

*

◆この連載のほかの回をお読みになる方は⇒「三省堂辞書の歩み」目次へ

* * *

【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

*

【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
不定期の水曜日の公開を予定しております。


三省堂辞書の歩み クラウン英和辞典

2016年 9月 7日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第52回

クラウン英和辞典

昭和14年(1939)3月30日刊行
三省堂編輯所編纂/本文1380頁/菊判(縦195mm)

左・中央:【クラウン英和辞典】修正100版(昭和16年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、昭和10年刊行の『学生英和辞典』の姉妹編にあたる。前書は旧制中学の2、3年生程度までが対象だったが、本書は全5学年を対象としたものである。巻末附録には「和英辞典」74頁があった。初年級の生徒にとっては大部で扱いにくくなる不便に配慮し、「英和和英小辞典」(600語)が別冊で付けられた。

 収録語数は、『学生英和辞典』の9650から3倍近い2万8050に増え、理解を助ける写真や図版を2560点掲載している。用例・文例は、教科書に出てくるものはもちろん、英米各種の辞書類からも補われた。

 語釈は漢字ひらがな交じり文で、口語体である。用例や和訳は適宜改行され、読みやすくなっている。

 「クラウン」の名称は、当時出版されていた三省堂の英語教科書『The New King’s Crown Readers』などに由来する。三省堂は、前年の昭和13年に中学教科書の売上げ第1位を達成していた。そして、戦後から現在に至るまで、英語の教科書とともに「クラウン」シリーズが発売され続けているのである。

『新クラウン英和辞典』昭和29年初版(1954)
『初級クラウン英和辞典』昭和34年初版(1959)
『カレッジクラウン英和辞典』昭和39年初版(1964)
『新クラウン英語熟語辞典』昭和40年初版(1965)
『新クラウン基本英語熟語辞典』昭和43年初版(1968)
『学習クラウン英和辞典』昭和49年初版(1974)
『キッズクラウン英和辞典』平成15年初版(2003)
『中学カラークラウン英和辞典』平成15年初版(2003)
『エースクラウン英和辞典』平成21年初版(2009)

●最終項目(画像はクリックで拡大)

Zutphen〔zútfən〕【名】オランダ中央東部に在る都会.1586年英軍とイスパニヤ軍とが戦つた古戦場.

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

cat〔kæt〕【名】猫.
  A cat may look at the king.
  猫だつて王様を見られる(卑賤の身にも幾分のチャンスはある).(諺)
  A cat has nine lives.
  猫には九つの命がある(中々死なぬ).(諺)
  Care killed the cat.
  心配事は(九生ある)猫さへも殺した(心配は身の大毒).(諺)
  It rains cats and dogs.
  土砂降りに雨が降る.
  When the cat’s away the mice will play.
  猫の留守に鼠は遊ぶ(鬼のゐない間に洗濯).(諺)
cat and dog 仲の悪い者同志.――lead(or live)a cat-and-dog life, live like cat and dog 猫と犬の様に仲の悪い生活をする,いがみ合つてばかりゐる.
bell the cat ☞bell.

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

dog〔dɔɡ〕【名】①犬.
  Every dog has his day.
  誰にも盛りの時はある.(諺)
 ②やくざ者;けしからぬ人間.
 ③(dogs)=fire-dogs.
die a dog’s death 哀れな(見苦しい)死に方をする.give(or throwto the dogs 棄てる.
go to the dogs 零落する.
lead a dog’s life 惨めな(苦労の多い)生活をする.
lead one a dog’s life 人に惨めな生活をさせる(苦労をかける).
rain cats and dogs 雨が土砂降りに降る.
【動】(犬の様に)後をつける,追跡する;くつついて来る.――dog a thief’s footsteps 泥棒の足跡をつけてゆく.

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

*

【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。


三省堂辞書の歩み 博物辞典

2016年 5月 25日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第51回 博物辞典

博物辞典

昭和13年(1938)2月15日刊行
藤本治・岡田弥一郎・三輪知雄編/本文895頁/菊判(縦226mm)


左:【博物辞典】1版(昭和13年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 明治以降、昭和初期(戦前)まで「博物」は小・中学校で教科のひとつだった。それ以前は、奈良時代に中国から伝わった「本草学」があり、江戸時代に盛んとなっている。

 「博物」は「博物学」の略で、『大辞林』第三版によると、
「自然物、つまり動物・植物・鉱物の種類・性質・分布などの記載とその整理分類をする学問。特に、学問分野が分化し動物学・植物学などが生まれる以前の呼称。また、動物学・植物学・鉱物学などの総称。自然誌。自然史。ナチュラル-ヒストリー。」

 日本における博物学の辞典は、以下のものが出版された。

  『博物新辞典』三余学寮編、田中宋栄堂、明治40年(1907)
  『博物学辞典』東京理科学会編、水野書店、大正元年(1912)
  『博物辞典』畠山久重著、科外教育叢書刊行会、大正7年(1918)
  『博物辞典』伊藤武夫ほか著、弘道閣、昭和7年(1932)

 本書は、中等教育に関する博物学の全般にわたる1万5000語余りを収録し、既刊の博物辞典を質・量ともに凌駕したものである。そして、これ以降に博物学の総合的な辞典は出版されていない。


カラー図版「園芸植物」

 編者は、藤本・岡田が東京高等師範学校教授の理学博士、三輪が東京文理科大学助教授だった。序文には、22人の協力者が挙がっている。

 見出しは発音仮名遣いとし、歴史的仮名遣いはルビで示された。動植物の学名はイタリック体になっている。

 既刊の辞典は4冊とも縦組だが、本書は欧文が頻出するため横組で、活字の大きさは6ポイントしかない。本文の途中にはカラー図版や写真などが別紙で39頁入っている。

 附録は184頁あり、詳細は以下のとおり。

  「植物分類表」12頁、「動物分類表」5頁、「鉱物分類表」3頁
  「火成岩分類表」1頁、「地質時代的分布表」4頁、「地質時代区分表」8頁
  「学校及び研究所」2頁、「学会・学術団体」2頁
  「雑誌・報告書」8頁、「参考書」15頁
  「全国高山植物採集一覧」6頁、「天然記念物指定に依る植物採集禁止地」3頁
  「欧文索引」81頁、「動植物名漢字索引」30頁

 本文の内容もさることながら附録の充実ぶりを見ると、むしろ大学生以上の研究者を対象にしたような印象があり、書名を「大辞典」にしてもよかったと思えるほどである。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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三省堂辞書の歩み 用字用語必携

2016年 4月 27日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第50回 用字用語必携

用字用語必携

昭和12年(1937)2月1日刊行
吉沢義則編/本文230頁/三五判(縦149mm)


左:【用字用語必携】8版(昭和12年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は三省堂における最初の用字用語辞典である。書名に「辞典」ではなく、「必携」が用いられた。本扉には「仮名遣・送仮名・同訓異義・漢字正俗・文法/便覧」とある。

 「必携」というのは、便覧やハンドブック類を表す。古くは『墨場必携』(天保7年〈1836〉序、明治13年〈1879〉刊)などがあった。

 「用字」を書名に使ったものは『万葉用字格』(文政元年〈1818〉)などがあるが、「用字用語」を使ったのは鳴海連著『用字用語辞典』(東宛書房、昭和11年)が最初だった。ただし、その内容は同訓異義のみを扱った辞典である。したがって、現在見られるような日本語表記のための総合的な内容を備えたものは、『用字用語必携』が最初と言えるだろう。

 編者の吉沢義則は、京都帝国大学を昭和11年に定年退官し、刊行当時は名誉教授だった。載録語彙の蒐集・編纂には、田巻素光(東京府立第七高等女学校教諭)の助力があったという。

 本書の見出しは歴史的仮名遣いだが、配列は発音通りの五十音順である。見出しの下に発音をカタカナで載せた。見出しにも語釈にも、小書きの促音・拗音「っゃゅょ」を使っている。

 各項目には、以下の5種類の○印がある。

*「送+○」
 送り仮名は、明治40年の文部省送仮名法に準拠し、前付に載せた「送仮名法」を適宜参照するようにしてある。

*「国+○」
 国語(和語)仮名遣いで「い・ひ・ゐ」「やう・よう」など、迷うものを挙げている。

*「音+○」
 字音仮名遣で「しゃう・しょう・せう・せふ」「いん・ゐん」など、紛らわしいものを挙げている。

*「異+○」
 同訓異義となる漢字の音や意味を挙げている。

*「文+○」
 活用の行・段を誤りやすい動詞の活用、助動詞の活用・接続・意味、助詞の接続・意味、接頭語・接尾語の意味を挙げている。

 なお、国語辞典に「ん」の項目が載るのはまだ珍しかった時代に、詳しい解説が載せられたのは注目に値する。

(画像はクリックで拡大)

左:「漢字正俗一覧」
右:「新旧対照新小学国語読本使用漢字解説」

【用字用語必携】30版(昭和14年)のカバー

 巻末には、附録として「漢字正俗一覧」57頁、「新旧対照新小学国語読本使用漢字解説」50頁がある。後者は、昭和14年の30版(30刷)から38頁増えて増訂版となった(版数は初版から連続している)。また、動詞・形容詞・形容動詞・助動詞の活用表もある。

 定価は、初版が50銭、増訂版が60銭だった。

 増訂版のカバーには、表紙側に「全国民に推薦す!!/学生に 実務家に 教育家に 政治家に 文筆に親しむ方に」とあり、裏表紙側に以下の文章を載せている。

 「用字用語の誤記は、その人の不注意を物語り、知らざるが故の筆不精は、事務の渋滞を招来し、延いては業務の進展をも阻害する結果となる。正しき日本語を用ひんとする士は是非本書を座右に備へて最大限度の御活用を賜へ。」

 戦後は新たに三省堂編修所編『用字用語必携』(昭和32年)が刊行され、改訂版(昭和37年)、第三版(昭和44年/改題して『新用字辞典』昭和45年)、第四版(昭和45年)、第五版(昭和48年)、第六版(昭和49年)、第七版(昭和52年)が出た。

 さらに、『必携用字用語辞典』(昭和54年)となり、第二版(昭和56年)、第三版(昭和61年)、第四版(平成4年)、第五版(平成17年)、第六版(平成24年)と続いている。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

ねこ 「異+○」(名)[猫]ベウ・メウ。[貓]猫と同じ。

●「犬」の項目

いぬ 「国+○」[犬](名)犬科の獸。
いぬ 「異+○」(名)[犬]ケン。普通のイヌ。[狗]コウ・ク。犬と同じ。特に犬の子をいふこともある。[尨]バウ。ムクイヌ。毛の多い犬。彡は毛の長い意を示す。[戌]ジュツ。十二支のイヌ。

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境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
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2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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三省堂辞書の歩み 日西大辞典

2016年 3月 23日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第49回 日西大辞典

日西大辞典

昭和12年(1937)7月10日刊行
ホアン・カルボ編/本文1427頁/四六判(縦188mm)


左:【日西大辞典】再版(昭和15年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は三省堂における最初のスペイン語辞書である。ただし、前付でもスペイン語で日本語を説明してあるなど、日本人向けの辞典とは異なっていた。

 編者は、在マニラのサント・トーマス大学の神学教授であり、日本には27年間住んでいた。序文には、編纂に約20年かかったと記されている。財団法人比律賓協会や外務省文化事業部の援助を得て刊行された次第である。

 フィリピンは、300年以上スペインに統治され、1898年の米西戦争以降にアメリカの統治となってからもスペインの影響は色濃く残っていた。

 日本語をスペイン語で解釈した最初の辞書は、1630年にマニラで刊行された『日西辞書』である。これは、ポルトガル語で書かれた『日葡辞書』をスペイン語に訳したものだった。

 日本国内では、明治後半になってスペイン語の会話書や単語集が作られ始め、大正になって和西辞典や西和辞典の刊行が始まる。そして、本格的なスペイン語辞書が登場するのは、昭和に入ってからのことである。

 本書は、スペイン語主体で書かれているとはいえ、当時の和西辞典としては最大を誇った。しかし、大辞典というほどの規模ではない。紙質や活字の大きさの違いで本が大きくなっていても、情報量が格段に多くなっているわけではなかった。

 例えば、語例数を見ると「大辞典」にしては物足りなさがある。「猫」の語例は、「猫を飼う」「三毛猫」「猫をかぶる」「猫かぶり」「猫足」の5つ。「犬」の項目の語例は、「犬がほえる」「犬にかまれる」「犬をけしかける」の3つ。

 大正11年(1922)の『袖珍コンサイス和英辞典』(本文821頁)と比較すると、「猫」では「猫も杓子も」「猫の目のやうに変る」「猫ばばを極める」「猫に鰹節を預ける」「猫に小判だ」「猫被り」「猫入らず」の7つ。「犬」では、「犬もあるけば棒にあたる」「あの二人は犬と猿のやうだ」「犬張子」「犬小屋」「犬殺」「犬走(堡塁の)」「犬死する」の7つ。いずれも、語例数は『日西大辞典』より多かった。

 それでも、昭和39年(1964)の9版まで増刷が続いたのだから、多くの日本人にも利用されていたことは間違いない。その後、三省堂によるスペイン語辞書の出版は20世紀中にはなかった。現在は、『クラウン和西辞典』(2004年刊行)、『クラウン西和辞典』(2005年刊行)、『デイリーコンサイス西和・和西辞典』(2010年刊行)がある。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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三省堂辞書の歩み コンサイス仏和辞典

2016年 2月 24日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第48回 コンサイス仏和辞典

コンサイス仏和辞典

昭和12年(1937)3月10日刊行
丸山順太郎編/本文1002頁/三五判変形(縦152mm)

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左:【コンサイス仏和辞典】29版(昭和16年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は三省堂における2冊目の仏和辞典で、『仏和辞典』(明治19年・1886)から50年ぶりの新刊だった。その間、大倉書店や白水社などから仏和辞典が出版されていたが、医学や軍事の分野別もあった独和辞典に比べると、点数は多くない。

 フランス語の学習は当初、文学・美術や外交方面が中心であったが、やがて哲学・社会学・言語学のみならず、数学・物理学・医学などの自然科学や政治・経済・法律などの諸方面にまで及ぶようになった。そのことが、新たな仏和辞典の編纂を動機づけた。

 「緒言」に挙げてある6つの特徴は、(1)万国音標文字による発音表示、(2)新語、新義を豊富に収載、(3)俗語を豊富に収載、(4)固有名詞とそれに関係ある形容詞を採録、(5)不規則動詞の変化形を見出しに掲出、(6)必要にして十分な用例の掲載。付録には「動詞変化表」が35頁ある。

 体裁は、前年に出た『コンサイス独和辞典』と共通点が多く見られる。語釈は漢字カタカナ交じり文で、外来語は平仮名書きだった。難読語における括弧に入れた2行割りの読み仮名も縦書きのままである。ただし、訳語に文語形は使われていない。

 編者の丸山順太郎(1882~1970)は、明治39年(1906)に共著でエスペラントの入門書を出版。大正9年(1920)にソルボンヌ大学を卒業。昭和2年(1927)に『白水社和仏辞典』を出し、フランス語関連の著書も多い。また、陸軍大学で教授を務めた。

 すでに白水社は、大正10年に『模範仏和大辞典』を、昭和6年に小型の『標音仏和辞典』を刊行していた。さらに、昭和12年には『新仏和中辞典』を出すのである。そのため、白水社で和仏辞典を出した丸山は、仏和辞典を三省堂で出すことになったのかもしれない。

 本書の協力者には、中平解、田辺貞之助、高山峻、土屋文吾、小関藤一郎、鈴木力衛がいた。昭和24年の改訂版では中平解の援助があったが、頁数は変わらず、奥付の版数も連続していて、次の新版(川本茂雄と共編、昭和33年)の奥付に改訂の履歴は載っていない。

 新版から漢字ひらがな交じりになり、第3版が昭和47年(1972)に、第4版が昭和53年(1978)に出たあと、平成5年(1993)に『新コンサイス仏和辞典』(川本茂雄・内田和博共編)となった。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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境田稔信(さかいだ・としのぶ)

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共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

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三省堂辞書の歩み 新撰漢和辞典

2016年 1月 27日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第47回 新撰漢和辞典

新撰漢和辞典

昭和12年(1937)2月1日刊行
宇野哲人・長沢規矩也編/本文1044頁/四六判(縦182mm)


左:手前から 【新撰漢和辞典】初版(昭和12年)
【新撰漢和辞典】(増訂版)50版(昭和14年)
【新撰漢和辞典】(補修版)163版(昭和20年)
【新撰漢和辞典】新修8版(昭和28年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書の編者は2名いるが、宇野哲人編『新漢和大字典』(昭和7年)をベースに、長沢規矩也の主導で成ったものと思われる。長沢の肩書きは「前第一高等学校教授」と記されていた。当時は法政大学の講師で、3年後の昭和15年に同大学の教授となる。

 『新撰漢和辞典』は、これまでの漢和辞典と比べると、異なる点がたくさんあった。まず、中等学校の生徒を対象としていたこともあり、字義・語釈が文語体ではなくなっている。凡例にいたっては、です・ます調で書かれていた。

 印刷所が三省堂印刷ではなく、共立社印刷所だったことは異例である。天・地・小口の三方を染めて色小口にしたことも、コンサイス判以外ではなかった。


投げ込みの部首索引(表)
(クリックで拡大)

 最大の特色は、部首の新設や統合、所属変更を行い、引きやすさに重点を置いたことだ。「木」の部首は位置によって、上・下・左・その他の4つに分けている。また、画数の数え方も簡単にした。例えば、本来は5画の「瓜」を6画にしている。なお、『新漢和大字典』から表紙の裏の見返し部分に部首索引が載り、本書ではさらに投げ込みの別紙による部首索引も付いていた。

 字音に関しては、四声が省かれた。さらに、『新漢和大字典』と同様に、漢音・呉音などの表示がなく、半切も載っていない。

 熟語は、国語・漢文の教科書から採用されたものが多い。漢語ばかりではなく、「一入(ひとしお)」といった和語もある。『新漢和大字典』で記号を付けてあった「国訓」(現代日本語)や「時文」(現代中国語)の表示はなくなった。

 熟語の配列は、五十音順ではなく、画数順にしてある。親字が下に付く熟語の一覧はないが、熟語の数は増えた。「猫」は1語から2語に、「犬」は5語から12語になっている。その代わり、出典・用例は減らされてしまった。

 附録には、「中華民国行政区劃表・世界主要国漢名表・世界主要都市漢名表・韻目表」4頁、「主要部首名称」1頁、「字音仮名遣簡表」12頁、「常用漢字表」7頁、「編纂ををはりて(長沢規矩也)」2頁、「音訓索引」110頁、「支那歴朝興亡表」1頁があった。

 初版刊行の翌13年に増訂版、16年に補修版、24年に新修版が出ている。補修版には「支那時文用語篇」56頁が加わった。次の新修版では附録が減って、「主要部首名称」1頁、「字音仮名遣簡表」12頁、「当用漢字表」7頁、「音訓索引」110頁だった。

 音訓索引は発音的仮名遣いで、「ゐ→い」「ゑ→え」「ぢ→じ」「づ→ず」としている。そのため、現代仮名遣い(昭和21年)になっても支障がなく、昭和33年まで増刷されていた。新たな長沢規矩也編『明解漢和辞典』(新版)が出るのは、翌34年のことである。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。


三省堂辞書の歩み 漢字林

2015年 12月 18日 金曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第46回 漢字林

漢字林

昭和11年(1936)11月25日刊行
テオドール・ゲッペルト編/本文283頁/A6判(縦153mm)

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左:【漢字林】初版(昭和11年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、日本語を学ぶ外国人のための漢字辞典である。表紙や扉・内題には「A Handbook for the Systematical study of Chinese-Japanese Characters」と記されている。編者名が「T. Geppert」となっているせいか、奥付には「テー・ゲッペルト」と載った。扉には、協力者として「P. Herzog and G. Voss」が挙がっている。また、土橋八千太(上智大学教授)の助力もあったと序文で述べられている。

 編者はドイツ出身のイエズス会神父であり、上智大学教授だった。最初の来日が1935年というから、本書出版の前年である。1937年にいったん帰国し、1940年に再来日。1954~61年は西江大学設立のため韓国に滞在したが、再び上智大学へ戻り、2002年に練馬区上石神井のイエズス会ロヨラハウスで天に召された(享年98)。

 本書は漢和辞典と同じ形式をとり、親字の字義と熟語の意味が英語で書かれている。しかし、部首順の配列ではない。基本的には画数順にしているものの、独自に9種のストローク(一・丨・ノ・乙など)で分け、さらに同じ部分をもつ漢字を続けて載せた。

 例えば、1画では、「一」の後は「閂・辷」、さらに関連性が強い「壹」を載せる。次の「乙」の後には、「軋・札」。2画では、「二・貳」、「十・什・汁・叶・計・針・辻」といったぐあいである。

 また、「木」は4画だが、その後には「床・李」しかない。「林」は8画にあり、「淋・焚・森」が続く。ところが、「禁」は13画にあり、「噤・襟」が続く。共通する部分を多く持っている漢字を優先し、ひとくくりにしたわけである。

 「犬」は4画にあり、「太・汰・駄」+「大」、「犬・吠・突」の順。「猫」は9画にあり、「苗・描・猫・錨」の順で載せている(草冠は「十十」で4画)。

 親字は、音をボールド体で太く示し、訓はイタリック体で載せた。熟語の読み方はすべてイタリック体になっている。

 親字として載せた漢字は3064字。それ以外に参考として掲載したものもある。例えば、「青」の後は「晴・清・精・請・情・錆・猜」が親字になっていて、「菁・靖・蜻・鯖」は「青」の欄に列挙してある。「睛」がないのは、日常的に使われているものではないからなのか。

 巻末には、「LIST OF PHONETIC ELEMENTS」という音を表す旁の部分の索引が6頁と、総画索引が22頁ある。

 定価は7円なので、同社の大型辞典よりも高かった。昭和25年にはエンデルレ書店から刊行され、21頁の音引き索引が加わった。

 

 《余談》筆者の手元には、内部用に製本された初版の『漢字林』がある。奥付に印紙が貼られていないことからも、非売品だったことは明らかだ。栞ひもが2本付いているのは違例だし、6頁以降には何も印刷されていない同質の紙が1枚ずつ入って、本の厚みは2倍。それでも装丁は正規本と同様である。挟み込まれた紙には、補足のための親字や熟語などが英訳とともにペンで書かれている。誰が書いたものかは不明だが、三省堂の関係者だったことは確かだろう。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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三省堂辞書の歩み ルビー英和辞典

2015年 11月 18日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第45回

ルビー英和辞典

昭和10年(1935)10月30日刊行
三省堂編輯所編/本文560頁/B7判変形(縦93mm)

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左:【ルビー英和辞典】1版(昭和10年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

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チリ(表紙の出っ張り部分の内側)にある装飾文様
(クリックで拡大)

 本書は、『ジェム英和・和英辞典』(大正14年初版、昭和9年改訂版)より縦が2cmほど小さく、横が1cmほど大きい。また、総革の表紙は4mm近い厚みがあって、表面にクッション性があることが珍しい。さらに、三方金のうえ、チリ(表紙が本文より出っ張る部分の内側)に装飾文様が施されているので、高級仕様と言えるだろう。

 『ジェム英和・和英辞典』改訂版は定価2円80銭、本文571頁の『ジェム英和辞典』は半額の1円40銭。本書は定価2円だったから、少し割高ではある。同年9月刊行の『学生英和辞典』と比べると、四六判ながら同程度のページ数で2円。また、『センチュリー英和辞典』(昭和8年)は本文1606頁で普及定価2円という安さだった。

 前年9月に出た同規模の『ジェム英和辞典』改訂版と内容を比較すると、少なからぬ違いがある。「cat」は、『ジェム』に載っている8つの熟語を『ルビー』ではすべて独立項目にし、新たに慣用句を2例載せた。ただし、「dog」では違いが少なく2 増2減で、それぞれ11ずつの熟語・慣用句を載せている。

 「ジェム」は宝石という意味だが、同種の寸珍本辞書を「ルビー」と名付けたのはなぜなのだろうか。すでに、経済雑誌を発行していたダイヤモンド社があったから、「ダイヤ」は避けたのかもしれない。本書には序文がなく、『三省堂の百年』では略年表に載るのみで、本文には出てこないから事情が全く分からない。

 『日本百科大辞典』第10巻(大正8年)の「ルビー」の項目には「美質のものは通常の金剛石の玉よりも高価なりとす」とある。現在の事典でも、安定した供給源がないためダイヤモンドより価格が高い、と記したものがある。ルビーは7月の誕生石だが、亀井忠一(創業者、当時顧問)は安政3年6月30日(新暦1856年7月31日)生まれ、斎藤精輔(初代編集長、当時監査役)は慶応4年7月11日(新暦1868年8月28日)生まれだった。

 出版や印刷の業界用語では、振り仮名を「ルビ」と称する。その語源は、イギリスの5.5ポイント活字が「ルビー」と呼ばれていたことによる。明治以降、日本の出版物に多く使われていた五号活字の本文の振り仮名が七号で、5.5ポイントに近かったことから「ルビ」と言われるようになったそうだ。しかし、本書の本文は5ポイントだから、活字の大きさは「パール」である(「ダイヤモンド」は4.5ポイント)。三省堂印刷所が5.5ポイント活字を完成させたのは、5年後の昭和15年だった。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目

●「犬」の項目

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
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三省堂辞書の歩み センチュリー英和辞典

2015年 9月 16日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第44回

センチュリー英和辞典

昭和8年(1933)2月5日刊行
三省堂編輯所編/本文1606頁/三六判変形(縦191mm)

センチュリー英和辞典 skid_44_a_s.png
左:【センチュリー英和辞典】25版(昭和9年)
右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、昭和3年刊行の『三省堂英和大辞典』より本文は1000頁ほど少なく、大正8年刊行の『模範新英和大辞典』に近い規模の辞典である。サイズは昭和4年刊行の『新訳和英辞典』(本文1502頁)にほぼ等しい。

 内容は、『三省堂英和大辞典』をもとに簡約化しているが、意味分類や用例などに手を入れ、分かりやすくなっている。例えば、「猫」の意味分類は9つから5つに減り、「犬」のほうは9つから8つとなった。熟語(慣用句)は、「猫」が33から17に、「犬」は29から15に減った。

 しかし、単純に減らしただけではなく、語釈に「備考」を設けたり、新たな熟語を加えたりもしている。また、動物の鳴き声、花ことばや宝石の石ことば(玉詞)が英語で掲げられた。

 発音記号は、三省堂の大型辞典として初めて国際音声記号(ジョーンズ式)を採用。語釈は、従来どおりカタカナ交じり文で表記されていて、外来語は平仮名にしている。

 付録には、「固有名一覧」30頁、「動詞ノ語形変化」7頁、「名詞ノ語形変化」3頁、「形容詞及副詞ノ比較」4頁、「常用略語解」12頁がある。

 定価は3円50銭、普及定価は2円だった。『三省堂英和大辞典』の定価7円、特価5円50銭に比べると、かなり割安な印象である。

 なお、「センチュリー」といえば、アメリカの『センチュリー辞典』(1889~91年、12巻)がある。イギリスの『オックスフォード英語辞典』(1884~1928、12巻)が完成するまでは、世界最大の英語辞典だった。書名の関連性について、序文では触れられていないが、当然知っていたうえで「センチュリー」を用いたものと思われる。

●最終項目(画像はクリックで拡大)

●「猫」の項目(画像はクリックで拡大)

●「犬」の項目(画像はクリックで拡大)

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
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