三省堂辞書の歩み 英和袖珍新字彙・和英袖珍新字彙

2012年 5月 9日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第4回

英和袖珍新字彙

明治23年(1890)12月12日刊行
F. W. イーストレーキ、棚橋一郎共編/本文775頁/袖珍判(縦91mm)

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上左:【英和袖珍新字彙】42版(明治35年)
上右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、明治17年(1884)刊行の『英和袖珍字彙』に続く姉妹編として出版された。編者の名義は明治21年(1888)刊行の『ブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』と同じで、内容もかなりの部分を同書に基づいた編集になっている。ライバルである大倉書店の辞典編者島田豊を引き抜き、斎藤精輔と協力して作られたという。

 初学者向けに本のサイズを『英和袖珍字彙』の半分としたため、収録語数は減っているが好評を得て20年以上増刷が続いた。印刷は、新設の三省堂活版所によって行われている。

●最終項目

Zymotic, a. 醱酵ニテ生ジタル

●「猫」の項目

Cat, n.〔動〕猫──v.t.〔航〕錨ヲ錨拮ニ引上ゲル

●「犬」の項目

Dog, n. 犬;小人;鉄架;狼星──v.t. 追尾スル,附纏フ

和英袖珍新字彙

明治24年(1891)5月28日刊行
F. W. イーストレーキ、神田乃武共編/本文904頁/袖珍判(縦91mm)

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上左:【和英袖珍新字彙】14版(明治29年)
上右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、明治21年(1888)刊行の『和英袖珍字彙』に続く姉妹編として出版された。『英和袖珍新字彙』と同様に、20年以上増刷が続くロングセラーである。

 編者の神田乃武は当時、正則予備校で創立者のひとりとして教鞭を執っていた。のちに東京帝国大学の教授、東京外国語学校の初代校長となる。

 初学者向けのため、内容は『和英袖珍字彙』より簡略になっているが、前書にはなかった「字彙」が載っている。また、最終項目も「ずずだま」(じゅずだま)の後に「ずうずうしい」が加わった。見出しは和英辞典で初めてをボールド体を使い、目立つように工夫がされている。

●最終項目

Zūzūsii, 図々敷, coll. a. Bold, fearless, daring, audacious, impudent.

●「猫」の項目

Neko, 猫, n. A cat; also, coll. a singing girl.

●「犬」の項目

Inu, 犬, n. A dog.

* * *

【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

*

【編集部から】

昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。


三省堂辞書の歩み ウブスター氏新刊大辞書 和訳字彙

2012年 4月 11日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第3回

ブスター氏新刊大辞書 和訳字彙

明治21年(1888)9月19日刊行
初版=F. W. イーストレーキ、棚橋一郎共編/本文1277頁/菊判半裁(縦152mm)
大増補版=F. W. イーストレーキ、棚橋一郎共編、南条文夫増補/本文1280頁、補遺275頁/四六判(縦175mm)

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上左:【ウブスター氏新刊大辞書和訳字彙】初版
上右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)
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上左:【ウブスター氏新刊大辞書和訳字彙】大増補版
上右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)
下:【補遺1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、三省堂が初めて単独で刊行した辞書である。アメリカのウェブスター大辞典(1864年)の翻訳をもとにして作られ、実質的な編者は斎藤精輔だった。彼は明治20年から参加し、明治24年の三省堂編輯所(のちに編修所)設立以降、昭和初期まで辞書編集の中心的な存在となる。

 収録語数は約11万、熟語は約2万を掲載。見出し語には発音を表す記号が付けられ、図版を約1200点載せたと記されているが実際は半数ほどか。この発音表記や図版はウェブスター大辞典に倣っている。また、明治21年1月の大倉書店から刊行された『附音挿図 和訳英字彙』が同じウェブスター大辞典から作られていたためか、図版も訳語もかなり似通っていた。

 両書はライバル関係にあり、互いに増補や改訂を繰り返している。『ウブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』は、明治24年(1891)の14版で「附音人名字類」171頁を追加し、15版では「補遺」275頁を加えた。さらに、図版を描き直したり、本文にも改訂を加えたりして、1274頁以降(X・Y・Z)は3頁増えている。その結果、20年以上も増刷が続くロングセラーとなり、三省堂の躍進を支えるものになったのである。

(注)「○版」は増刷回数を表していて、三省堂が現在のように増刷を「○刷」と奥付に記載するようになったのは昭和40年代から。

●最終項目(初版)

Zythum, n. 麦芽及ビ小麦ニテ製シタル麦酒

●最終項目(大増補版)

Zythum, n  麦酒ノ一種

※原本は「n」の後のピリオドが抜けている。

●最終項目(大増補版の補遺)

Zythem, n.  Zythumヲ見ヨ

●「猫」の項目

Cat, n. 〔動〕猫;〔航〕石炭運搬舩、錨ヲ錨止ニマデ引上ル滑車;〔隠〕貴女ノ暖手筒、[当時刑杖ト云フ語ニモ用ユ]
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●「犬」の項目

Dog, n. 狗、人ヲ罵ル詞、鉄架(ゴトク)、鋸匠(コビキ)ノ鉄鉤;〔天〕狼星;〔機〕鉤索(カギナハ)、制動機
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◆辞書の本文をご覧になる方は

ウェブスター氏新刊大辞書和訳字彙:
近代デジタルライブラリーの『和訳字彙 ウェブスター氏新刊大辞書』のページへ

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。


三省堂辞書の歩み 仏和辞書

2012年 3月 14日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第2回

仏和辞書

明治19年(1886)12月刊行
中村秀穂編/本文406頁/四六判

『仏和辞書』 『仏和辞書』本文
上左:【仏和辞書】国際交流基金情報センターライブラリー所蔵
上右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)

 本書は、長崎の英学者岡田好樹が仏英辞典を翻訳した『官許仏和辞典』(明治4年・1871年)の内容を踏襲し、小型・簡約化を図ったものである。編者は中江兆民の仏学塾に入ってフランス語を学んだのち、神田猿楽町でフランス語塾を開いていた。本書刊行の翌年には『仏文典独学』を翻訳出版している。

 仏和辞典の出版は、本邦初の洋装・活版(印刷は上海)となる『官許仏和辞典』から15年空白が続き、明治19年以降さかんになり始める。本書は高橋泰山訂正『仏和辞典』に3か月の遅れをとったものの、その先陣を争うものである。日進堂・十字屋・桃林堂・開新堂などの5社と共同の出版だった。

●最終項目

Zythum, sm. 苦味ナキ麦酒

●「猫」の項目

Chat, m. chatte, f. 猫

●「犬」の項目

Chien, sm. chienne, f. 犬、鶏頭

 Entre chien et loup. 黄昏

 ─ dent. 草ノ名

 ─ marin. 海犬

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◆辞書の本文をご覧になる方は

仏和辞書:
近代デジタルライブラリーの『仏和辞書』のページへ

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。


三省堂辞書の歩み 英和袖珍字彙・和英袖珍字彙

2012年 2月 8日 水曜日 筆者: 境田 稔信

三省堂辞書の歩み 第1回

英和袖珍字彙

明治17年(1884)3月刊行
西山義行編、露木精一訂正/本文638頁/四六半截判

『英和袖珍字彙』 『英和袖珍字彙』本文
上左:【英和袖珍字彙】
上右:【本文1ページめ】(クリックで拡大)
下:【本文の拡大】
『英和袖珍字彙』本文

 十字屋・開新堂・桃林堂の3社と共同で、三省堂が出版した最初の辞典。縦12cm余りの袖珍本ながら、約3万語を収録している。当時は、まだ日本語の文章を横に組むことが珍しく、横組みの外国語辞典では縦に組んだ日本語を横に倒す形式が普通だった(下記の引用では便宜上横組み)。また、漢字を使わずにカタカナだけで訳語を表記したのは、明治4年刊行の『浅解英和辞林』以来、小型英和辞典ではよく見られた。漢字を使う場合でも漢字・カタカナ交じり文が普通で、英和辞典がひらがな交じり文になるのは明治30年代のことである。

 本書は、イギリス人のナットールがジョンソン英語辞書を学生用に小型化した辞典をもとにして、『附音挿図英和字彙』(日就社・明治6年・1873、明治20年に三省堂より翻刻出版)から熟語を補ったりしている。内容は簡素なものであるが、小型で収録語数が多かったため、増刷が間に合わなくなるほどの売れ行きだったという。明治16年に出版事業を始めてから3点目の出版物だった本書が三省堂の地歩を固めたのであった。

●最終項目

Zythum, s. シホトコムギヨリコシラヘタルノミモノ

●「猫」の項目

Cat, s. ネコ(ケモノ)

●「犬」の項目

Dog, s. イヌ(ケモノヽ)。ヒトヲイヤシムコトバ。ゴトク。カギナハ。ラウセイ(ホシノナ)

 A hunting dog. カリイヌ

 A wild dog. ノイヌ

 A fierce dog. タケキイヌ

 To givi to the dog. ウチステル  

 To go to the dog. ブンサンスル

「givi」は「give」の誤り

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和英袖珍字彙

明治21年(1888)4月27日刊行
高橋五郎編/本文437頁/四六半截判

 編者はヘボン編『和英語林集成』三版(明治19年・1886)の編纂を補佐した経験があり、本書の訳語はそれと共通するものが多い。見出しの日本語は、同じ意味の類語を省きつつも、他の和英辞典より活字を小さくして収録語数を増やす工夫がされている。なお、序文や凡例・奥付は縦組みだが、本の開き方に合わせて左から右へ行が並べてある。小型の和英辞典がまだ少なかった時期に、十字屋・開新堂などの5社と共同で出版した。

●最終項目

Zuzudama, ヅヅダマ, n. Job’s tears, coix lachryma.

●「猫」の項目

Neko, 猫, n. A cat.

●「犬」の項目

Inu, 犬, 狗, n. A dog. カリイヌ, a hound; イヌジニ, useless death.

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◆辞書の本文をご覧になる方は

英和袖珍字彙:
近代デジタルライブラリーの『英和袖珍字彙』のページへ

和英袖珍字彙:
近代デジタルライブラリーの『和英袖珍字彙』のページへ
(※リンク先は開新堂の明治33年刊のもの)

◆『和英語林集成』については

ウェブ上では明治学院大学図書館『和英語林集成』デジタルアーカイブスや、近代デジタルライブラリー『和英語林集成』などがあります(※近代デジタルライブラリーでは2版の公開)。

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【筆者プロフィール】

境田稔信(さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

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【編集部から】

昨年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。


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