著者ごとのアーカイブ

地域語の経済と社会 第184回 広島の方言

2012年 1月 14日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第184回 広島の方言

 勢い良く自転車を走らせているのは、競輪のポスターです【写真1】。「ぶちカマシチャリんさい。」の広島弁の説明も書かれていたのでそれを参考にご紹介します。「ぶち」は「すごく、とても」など、強調の表現で「ぶちはがええ」(すごく腹が立つ)などと言います。

 「カマシ」はチャンスをねらって一気にスパートをかける戦法を意味します。また「~シチャリんさい」は「~してあげなさい」というやさしい命令形です。親しい相手を励ましているようです。「チャリ」(自転車・チャリンコの略・詳しくは第43回参照)と「~シチャリ」(~してやり)をかけています。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 「太平洋ぜよ」】【写真2 「のりんさいくる」】
左:【写真1 「ぶちカマシチャリんさい。」】 右:【写真2 「のりんさいくる」】

 「のりんさいくる」【写真2】もよく似た例です。「乗りんさい」(乗りなさい)と「サイクル」(自転車)に方言をじょうずに乗せています。

 さて、次の【写真3】はおみやげとして販売されていました。真っ赤な布にハートマークの鯉が泳いで、「恋じゃけえ」と書かれています。宮島のもみじも描かれています。広島弁は「じゃけえ」「じゃけん」「じゃけえの」(だから)などを文末に使います。

【写真3 「恋じゃけえ」】 【写真4 「はんざき」】
左:【写真3「恋じゃけえ」】(クリックで拡大) 右:【写真4「はんざき」】(クリックで全体を表示)

 「はんざき」【写真4】というのは「オオサンショウウオ」の別名ですが、広島市に日本一大きいオオサンショウウオの標本があることから、「はんざき」のいろいろな動作が広島の方言絵葉書で紹介されています。「はんざき」とは、からだを半分に裂いても生きていそうだからとか、からだが半分にさけるほど口が大きいなどという由来があります。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第179回 男の方言・女の方言

2011年 12月 3日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第179回 男の方言・女の方言

 昨年、NHK大河ドラマ「龍馬伝」が放送されました。福山雅治さん演じる坂本龍馬は、本物に比べると随分男っぷりがよくなりました。奥さんのおりょうさんもさぞ満足だったでしょう。教科書等でおなじみの龍馬は、小柄で痩せ型、ふところに右手を入れ、台にもたれかかっています。一説によると写真でふところに手を入れているのは、銃を持っていたからだと言われています。男優の福山さんが「団子屋でまっちゅうぜよ」などといえば、おりょうさんでなくても多くの女性が団子屋へ押しかけることうけあいです。「おー 今日も待ちよったぜよ。悩みがあるがか? 何でもゆーたらえいがよ」(第113回参照)などと言って日本中のふがいない男性の代弁をしてくれます。

 このように「龍馬伝」では、土佐方言が多く使われていました。昨年は、観光客も増加して市内では今も多くの方言が見うけられます(第176回参照)。例えば「心はいつも太平洋ぜよ」【写真1】と工事現場に貼られていました。高知県は太平洋に面していて、空港には「カツオやけん たべてみいや うまいけん」【写真2】とカツオの宣伝がありました。方言番付の扇子も見つけました【写真3】。龍馬のイメージにぴったりの「~ぜよ」【写真4】は、絵葉書になっています。左手に銃をかざした龍馬ですが、「I was born in Kochiぜよ。」と読むのでしょうか。なるほど方言と英語のコラボレーションです。とても男性的なイメージの強い方言です。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 「太平洋ぜよ」】【写真2 「うまいけん」】
左:【写真1 「太平洋ぜよ」】  右:【写真2 「うまいけん」】
【写真3 方言番付扇子】【写真4 「ぜよ。」】
左:【写真3 方言番付扇子】  右:【写真4 「ぜよ。」】

 このシリーズでは、これまでさまざまな方言グッズが紹介されてきました。その中から78の方言について、それぞれの方言を聞いたとして、話し手が男性をイメージするか、女性をイメージするか、関東出身の大学生14名に共通語訳をつけてたずねました。男性をイメージするという人が多かったのは、土佐方言の「うまいぜよ・待っちゅうぜよ」、大阪方言の「すんまへん・どないやねん・好っきゃねん・ええか・ごっついな」、石川方言の「乗らんけ」、宮崎方言の「どげんかせんといかん」などでした。一方、女性をイメージする方言の例は、京都方言の「おこしやす・そうどすえ・おいでやす」、山口方言の「おいでませ」、宮崎方言の「よう来たなせえ」などでした。茨城方言の「暑かっペ」や福島方言の「休んでいがんしょ」、山形方言の「なんじょだべ」(いかがですか)など、東北方言は、どちらともいえないという回答が多かったです。

 同じ男性をイメージする方言でも土佐方言は、志士にぴったりという印象を受けるのに対して、大阪方言は、どことなく腰の低い商人文化を思わせる一面があるようです。

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 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
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『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第174回 めげねぞ!! 福島

2011年 10月 29日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第174回 めげねぞ!! 福島

 東日本大震災から約7か月が過ぎました。各地で復興祭が行われています。福島県の復興に対する意気込みがようやく言語表現の形でも見られるようになりました。最近、福島県を訪れると、「めげねぞ!! 福島」(【写真1】めげないぞ)、「復興にむけてがんばっぺ」(がんばろう)、「応援ありがとう、がんばる福島」、など、将来を見つめる姿勢がうかがえるキャッチフレーズをみかけます。このように方言は、地元の人々の気持ちを強く束ねるのに威力を発揮します。また、強い主張にもパンチを添えます。

【写真1 めげねぞ!! 福島】【写真2 がんばっぺ!福島 いいとこいっぱいあっつぉい】
左:【写真1 めげねぞ!! 福島】 右:【写真2 がんばっぺ!福島 いいとこいっぱいあっつぉい】

 

 福島では、商店街を「福の島」と名づけて「がんばっぺ!福島! いいとこいっぱいあっつぉい」と呼びかけました。「いいとこいっぱいあっつぉい」は、「いいところがたくさんあるよ」の意味です。「おそぐなっつぉい」(おそくなるよ)、「おそぐなるぞい」など「ツォイ」「ゾイ」が共通語の終助詞「ゾ」や「ヨ」の役割を果たします。「ツォイ」は、奥羽地方に聞かれます。それに対して、「ゾイ」は、栃木県、石川県、岐阜県をはじめ四国地方でもよく聞かれます。

 ご当地を支援する物産展が開かれました。「がんばってっつぉい!」(【写真3】がんばってるよ!)に全国からの支援に応える気持ちがたくされています。

【写真3 がんばってっつぉい!】
【写真3 がんばってっつぉい!】

 

 118回146回156回159回166回171回にも関連記事があります。

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明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第169回 カナダの英語方言

2011年 9月 24日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第169回「カナダの英語方言」

 世界の共通語といわれる英語ですが、それぞれの地域によって英語にも方言があります。日本人が話す英語も方言なのです。地方色をいかして、堂々と話しましょう!!

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 LANDROMAT(カナダ)】
【写真1 LANDROMAT】
【写真2 COIN WASH(カナダ)】
【写真2 COIN WASH】
【写真3 WASHROOMS(カナダ)】
【写真3 WASHROOMS】
【写真4 CANAJAN, EH(カナダ)】
【写真4 CANAJAN, EH】

 今回は、カナダのオンタリオ州ロンドン市の英語方言を中心に紹介します。“laundromat”【写真1】は、コイン・ランドリー(和製英語)です。“laundro”は、“laundry”で、“mat”は“automatic”つまり オートマチックな洗濯屋というわけです。“coin wash”【写真2】という看板もありました。小銭のコインを洗ってくれる?と誤解して店をのぞいてみると、コイン・ランドリーでした。“coin wash”は、アメリカ東部でも使用されていますから、国境を越えて侵入したのでしょう。

 次の例は、モンゴル料理の店内で見つけた“washrooms”(お手洗い【写真3】)です。男女別に2部屋あるので複数形になっています。Google mapsで確認してみると、“washroom”(ヒット件数11266件・2011/9/8調べ)は、カナダのロンドン市を含むオンタリオ湖周辺、アメリカも東部カナダ国境近くに分布が集中しています。イギリスの中南部、マンチェスターやロンドン(イギリス)周辺に分布することから、イギリス英語の影響が考えられます。

 一方、“restroom”(ヒット件数104360件・同日調ベ)は、アメリカを中心として用いられ、イギリスでもカナダでも、あまり使用されないようです。Charles Boberg(2011)の研究によると、カナダにおける“washroom”の使用率は、51%とされています。

 次の【写真4】“CANAJAN, EH”は、ロンドン市(カナダ)の図書館で見つけた本の表紙です。“CANAJAN”(Canadian・カナダ人)は、カナダ人が話す英語の発音を表しています。“EH”は、“right?”“don’t you think so?”(でしょ?)の意味です。

 言葉は、遠くからのおおぜいの人の移動にともなって伝わる場合、遠隔地への飛び火、古語残存など、さまざまな方法で伝わります。

 

参照:Charles Boberg(2011)Methods in Dialectology 14 ハンドアウト

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地域語の経済と社会 第164回 いやしの方言(福島県)

2011年 8月 20日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第164回「いやしの方言(福島県)」

 今回は、福島県会津若松市の方言を中心に紹介します。福島県は、南北に走る山脈の地形から、言語の分布も、太平洋岸の浜通り、中央部の中通り、もっとも内陸部にある会津若松市の3つの地域に分けられます。会津若松市は、昔から城下町として栄えてきただけに、上下関係を表す敬語が発達しています。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 休んでいがんしょ】
【写真1 休んでいがんしょ】

 店先の二つ並んだいすに「休んでいがんしょ」(休んでいってください・依頼形【写真1】)と書いてあります。お店の人に聞いたところ、歩くのに疲れた人がひとときゆっくり休んでいくのだそうです。親しい間柄のときは、もう少し命令口調で「休んでいがっせぇえ」(休んでいきなさい・命令形)と動詞との間に促音が入った「っせ」の親愛の表現を使うこともあります。

 「~しょ」(~てください)は、軽い敬意をもって相手に求める言い方です。福島県、群馬県、茨城県、長野県など関東甲信越地方に分布しています(第44回「もてなしの方言(関東・甲信越地方)」第155回「もてなしの方言(長野・再び)」参照)。第157回では、「~しょ」のつく言いかたの地理的な広がりが地図で示されています。日本語史における歴史的な位置づけができます。一地点でみると、社会的な使い分けも見えてきます。

【写真2 おわいなはんしょ】
【写真2 おわいなはんしょ】
【写真3 よってがんしょ】
【写真3 よってがんしょ】

 いすに座って見あげると、「よぐきらったなし。おわいなはんしょ」【写真2】と書かれたのれんが下がっていました。「おわい」は、「おはいり」または「お上がり」の意味です。江戸時代に「おわいー、おわいー」と客人を呼びこんだ形が今に伝えられています。

 「なはんしょ」は、相手を敬う言いかたで「なさいませ」、つまり、「いらっしゃいませ」という意味です。

 「よぐきらったなし」は「よく来られましたねえ」という意味ですが、「~なし」は、「そうだなし」「そうだない」「そうだね」というぐあいに「~ない」、「~ね」などに変化しました。「なし」は、敬意の表現です。

 ゆっくり休んだところでいやしの方言に招かれて、お客は、そのまま店内に入っておみやげを買うというぐあいです。

 【写真3】の「よってがんしょ」も【写真1】の「休んでいがんしょ」と同様、「しょ」の例です。「寄ってください」という意味です。

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地域語の経済と社会 第159回 いたわりの方言「東日本 応援しまっせ~!」(大阪府)

2011年 7月 16日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第159回「いたわりの方言「東日本 応援しまっせ~!」(大阪府)」

 「東日本 おうえんしまっせ~!」【写真1】は、大阪でたまたま入ったたこ焼き屋さんの壁に貼られていたものです。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 おうえんしまっせ~!】
【写真1 おうえんしまっせ~!】

 今、街角では、「がんばろう」「きずな」「つながり」など、日本が元気を取り戻すために何かをしようと呼びかけるスローガンが、たくさん見られます。「応援しまっせ~!」も「いたわりの方言」(第149回)の一つです。売上金の一部を義援金として寄付すると書いてありました。同じ場所に、「ホントにありがとう!!」「ありがとう感謝です!!!」「大阪サイコー!!岩手サイコー!!」「本当にうれしかったです。ありがとうございます。がんばります。」などと、返事が書かれていました。のんきにたこ焼きなど食べに入ったのですが、(たこ焼きは全部平らげた上で)さわやかな気持ちで店を出ました。

【写真2 がんばっぺ(101件)】
【写真2 がんばっぺ(101件)】
【写真3 がんばれ(5564件)】
【写真3 がんばれ(5564件)】

 「がんばる」について、(ポライトネス理論でいう)心理的負担度から考えてみると、①「けっぱれ」(第156回・がんばれ)(命令形:被災地の方々にさせる)を、無念でつらい思いでいっぱいの被災地の方々に使うのは、無情というものでしょう。一方、②「がんばっぺ」(がんばろう)は、勧誘形で、自分も被災者もいっしょにがんばるという意味になります。③「応援しまっせ」は、自分がするから、被災地の方々は何もしないでいいという意味合いです。

 「おうえんしまっせ~!」に関連した表現をGoogle mapで調べると、①「けっぱれ」(23件・2011/06/21調べ)は、北海道、青森、東京、名古屋で、被災地の外側に分布しています。東京、名古屋は、青森豚そばなどの店の例です。②「がんばっぺ」(【写真2】101件・同日調べ)は、宮城県、福島県、茨城県、東京都で、被災地に分布しています。東京都はおそらく東北地方出身の方が書き込みなどされたのでしょう。共通語の①「がんばれ」(【写真3】5564件・同日調べ)は、全国的で、①「けっぱれ」②「がんばっぺ」と互いに補いあって重ならない地域に分布しています。

 被災地の方々には、③「応援しまっせ~!」が心理的負担度をもっとも軽減できるメッセージといえましょう。大阪から「がんばれゆうな、みんな、がんばっとんねん」という声が聞こえてきそうです。阪神淡路大震災を経験した地域だからこそと思えます。しかし、最近の理論によると、言語表現に細やかな配慮を込める関西人だからこそ出る発想とも考えられます。

 第149回第151回第156回http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/author/nobu-nt/)にも関連記事が掲載されています。Google map関連データは、http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/author/innowayf/を参照してください。

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地域語の経済と社会 第154回「スペイン語の世界的方言差(地下鉄)」

2011年 6月 11日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第154回「スペイン語の世界的方言差(地下鉄)」

 アルゼンチンの鉄道の歴史は、中南米ではもっとも古く、1857年頃イギリスの技術を導入して、フェロカリル・オエステ(Ferrocarril Oeste・西鉄道)が敷設されたと言われています。ちなみに日本の鉄道の開通は、1872年の新橋―横浜間が最初です。

 1913年にアルゼンチンのブエノスアイレスで地下鉄が開通したとき、スペイン本国に地下鉄はまだ存在しませんでした。アルゼンチンでは、「鉄道」の“ferrocarril”との区別が必要になって、“subte”(スブテ)としました。“subte”は、Google mapでは、アルゼンチンを中心に分布しています(【写真1】2011/04/26現在、以下のmapも同日)。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1 subte(1150)】

 もともと“subte”は、“subterráneo”の略称で、“sub-”は、「下」という意味の接頭辞、“terráneo”は「地面」です。

 スペイン語の“metro”(地下鉄)は、アルゼンチンの“subte”開業から6年後にスペイン本国(1919年)で採用されました。Google map【写真2】では“metro”の使用度数(29,774,925)は、“subte”(1,150)にくらべて非常に高く、英語圏、フランス語圏、スペイン語圏などで用いられています。「地下鉄」以外の喫茶店やホテル、通りの名前などにも使われます。

【写真2】
【写真2 metro(29,774,925)】

 “metro”は、地下鉄が世界ではじめてイギリスで開通(1863年)したことと関係があります。イギリスでは、メトロポリタン鉄道会社が、蒸気機関車だったので、吹き抜けトンネルのような構造の地下鉄をロンドンに作りました。1900年にパリ万博にあわせてパリ市内に地下鉄ができたとき、「メトロポリタン」(語源は、ギリシャ語の“metropolis”大都市)を、フランス語訳(métropolitaine)し、短くして「メトロ」(“Métro”)としました。それが世界に広まったとされています。

 日本では、2004年に帝都高速度交通営団の民営化にともない、東京地下鉄と改名し、「東京メトロ」の愛称で呼ばれるようになりました。

 世界に先がけて地下鉄を走らせた老舗のイギリスでは、「メトロ」という呼びかたは、一般的でなく「アンダーグラウンド」、通称「ザ・チューブ」(the tube・管)と呼んでいます。

 「アンダーグラウンド」も「地下鉄」も“subte”も、地上を走る部分があれば、名前と一致しないことになります。「母、大」を語源にする“metro” にはこの矛盾が起こりません。Wiktionaryによると、世界の多くの言語で「メトロ」は「地下鉄」の意味で使われています。スペイン語圏における、南アメリカとヨーロッパの大きな方言差もこの反映なのです。

 なおGoogle mapの活用法は第127回に、活用例は第132137142回に出ています。

(参考web)http://www.uraken.net/world/wrail/wrai53.html
      http://www.tfl.gov.uk/modalpages/2625.aspx

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第149回 いたわりの方言(三重県)

2011年 5月 7日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第149回「いたわりの方言(三重県)」

 伊賀上野城を訪れたとき、ちょうど絵手紙展が開かれていました。地元の絵手紙の会が主催しているようでした。写真1と写真2はそのとき見かけた作品に書かれていたメッセージです。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】 【写真2】
右:【写真1】 左:【写真2】

 「無理せんときゃ ボチボチしい~や」(無理しないでね。ゆっくりしてね。【写真1】)は、三重県やその周辺地域でも聞かれます。心温まることばです。「~や」は、文末詞といって日本語に古くからある表現とされています。よびかけや勧誘、といかけ、命令などに使われます。「~や」から「~やん」「~やい」などが分岐したと考えられています。

 「ボチボチ」の典型は、「儲かりまっか(もうかりますか)」「ボチボチでんな(ゆっくり少しずつですね)」(大阪府)でしょう。

 「ありがとう。すまんなあ。(すまないね)」【写真2】の「すまん」は、「済まん」と表記しますが、気持ちがこのままではすまない、申しわけないと感じているという意味です。

【写真3】 【写真4】
右:【写真3】 左:【写真4】

 伊賀南部では、「えらい、すんまへんわー」、和歌山南部では、「すまんのら」、奈良吉野では「すまんだ」、滋賀湖西では「すまんこっとすなー」などがあり、ほかにも全国的にさまざまな形で用いられている表現の一つです。

 「また来てだ~こ(また来てください)」【写真3】は、三重県伊賀地方の方言とされています。街中のお店のはり紙にも「どうぞ持って帰ってダーコ(持って帰ってください)」【写真4】と書かれています。「いただく」という意味では、和歌山県や三重県の一部でも使われているようです。「いただく」という依頼の意味から派生したのかもしれません。

 伊賀上野では、「おいしいさかい、たくさんあがってだーこ(おいしいからたくさん召し上がってください)」、「ゆっくりしてだーこ(ゆっくりしてください)」などと言います。

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地域語の経済と社会 第144回 ハワイの日本語の方言

2011年 4月 2日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第144回「ハワイの日本語の方言」

 日本語教育史上にはじめてハワイの記事が登場するのは、1893年開校の日本語学校です。ハワイ島ハラワ公立学校の校舎を借りて発足しました。それより1年前の1892年には、ハワイ初の日系新聞「日本週報」が発刊されています。続いて、1895年にマウイ島クラのメソジスト教会で日本語学校が、1896年には、日本人小学校が設立されました。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 Chichi Mochi】
【写真1 Chichi Mochi】
【写真2 Taro】
【写真2 Taro】
【写真3 Hanapua】
【写真3 Hanapua】

 ハワイ大学に日本研究コースが開設されたのは、1909年でした。1923年には、ホノルル教育会編『日本語読本』が発行されています(詳しくは、山下暁美著『解説日本語教育史年表』国書刊行会をご覧ください)。

 このように、ハワイの日本人移民は、2世の日本語教育に熱心でしたが、1924年の排日移民法締結以後は、英語によるアメリカ市民育成の教育に重点が置かれるようになりました。2世、3世は、学校では標準語の英語、家では両親、祖父母とは日本語、兄弟とは英語と日本語という生活を送りました。しかし、ハワイの日常生活の英語は、ピジン英語といってハワイ語、中国語、ポルトガル語、日本語などの影響をうけた英語です。ですから、正確には3言語の生活です。

 日本語は、日本の教科書を基準に使用していましたから、読み書きは、日本語学校で学んだ標準語、話し言葉は、移民出身者の多い山口県、広島県、熊本県、福岡県など西日本の方言の影響を強く受けた共通語が使用されました。今日、ハワイを訪れると元気な2世、3世の方と日本語で移民の歴史や日系人社会についていろいろ聞くことができます。

 ハワイで使用されている日本語の中に、西日本の方言の影響を受けたことばのほかに、ハワイで新しく生まれた日本語があります。

 「Chichi Mochi(乳餅)」【写真1】は、その例の一つです。Chichi-Mochiは、乳白色の色をしたやわらかくて丸くて甘い餅です。台湾や北京には、乳餅が存在するようです。あんが入っています。

 次の「Taro(タロ)」【写真2】は、タロイモのポテトチップスです。日本で「タロ、ちょうだい」と言っても通じないでしょうね。タロイモと、さつまいも(Sweet Potato)と、Trio(タロイモ・サツマイモ・ジャガイモのミックス)はそれぞれ8ドル、シャガイモだけのポテトチップスは、6ドルで売られていました。Taroは、元々ポリネシア語でTaloと表記されていたもので、原産はどうも太平洋諸島のようです。日本のさといももその一種とされています。ハワイには、タロイモのパンケーキ、パラオのみやげには、タロイモ焼酎もあります。

 「Hanapua」【写真3】は、日本で花札と呼ばれるもので、ハワイ・フラワー・カード・ゲームと訳がついています。日本語の「Hana・花」とハワイ語の「Pua・花」で新語を作っています。

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地域語の経済と社会 第139回 いやしの方言(福井県)

2011年 2月 26日 土曜日 筆者: 山下 暁美

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第139回「いやしの方言(福井県)」

 これまで、方言グッズを「もてなしの方言」「おいしい方言」と分類して紹介してきました。今回は、「いやしの方言」を福井県のグッズを例にあげて紹介します。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1 】
【写真1 】
【写真2 】
【写真2 】
【写真3 】
【写真3 】
【写真4 】
【写真4 】(画像をクリックすると全体を表示します)

 「息子へ たまには連絡しねま! 心配してるんやでの。」(息子へ たまには連絡しなさい。心配しているからね。【写真1】)

 「お父さんへ あんまり無理せんとの。ぼちぼちでいいさけ。」(お父さんへ あまり無理をしないでね。ゆっくり少しずつでいいから。【写真2】)

 「ご飯食べてるか? 体に気をつけてがんばっての。」(ご飯、食べてる? 体に気をつけてがんばってね。【写真3】)

 【写真1】から【写真3】までを見てグッとこない人は少ないでしょう。共通語より、方言のほうがずっと感情を揺り動かす力があると思いませんか。心の琴線に触れる力です。自分の出身地の方言でなくても泣けてくるのは、どうしてでしょうか。

 かつて、テレビ番組で遠く離れたところに進学や就職をした息子や娘に、両親が作業中の田んぼから、テレビを通じて、地元ことばでメッセージを送るという企画があったのを思い出しました。あまりよく理解できない方言での呼びかけであっても、心なごむ思いをしました。

 Gooブログで検索すると方言の評判が出ています。話題にしている人は、女性が多いのですが、方言をポジティブ(プラス・好き)に評価している人は、76%でした。理由は、「かわいい」「いい」「おもしろい」「ささる」「ありがたい」というものです。「ささる」は、前述の「心の琴線に触れる力」にあたるものでしょう。最近、病院の治療や学校教育に方言の紙芝居や絵本を採用するところが広がっているとのことです。個別にみると、東北弁がポジティブと評価した人は、83%、九州弁78%、関西弁66%、東京弁56%でした。東京弁については、「上から目線に聞こえる」というネガティブな評価が見られました。東京からより離れた文化的距離にある方言ほど高く評価されているという傾向が見られます。

 福井県の方言手ぬぐい【写真4】の西方横綱に「だんね」(差し支えない)ということばがあります。借りたお金を返すのが来週になるときなど「来週でも差し支えないよ」と言われるより、「ああ、来週、だんね、だんね」と言ってもらうと許されてホッとします。

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著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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