著者ごとのアーカイブ

地域語の経済と社会 第89回

2010年 3月 6日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第89回「海外の方言事情(台湾語の看板)」

 台湾では、1980年頃から原住民の間でもともとの文化を絶やしてはならないという機運が高まりました。それと時を同じくして台湾人も台湾語(閩南語・みんなんご)を復活させようという活動が展開されました。台湾の教育には、北京語が国語として使用されています。北京語が国語だとすると、台湾語は、方言の一種と考えることができます。

 楊盈璋(ヤン・インザン)さん(明海大学博士後期課程1年在学)は、台湾の南にある屏東(ピンドン)市出身ですが、北京語の普及政策のため小学生の頃(1972年頃)は、台湾語で話すと罰金箱に1元入れるという制度があったそうです。その罰金で学級の備品をいろいろ購入したそうです。方言札はなかったそうです。楊さん(楊家19代目・先祖は清の時代に中国大陸の福建省から移住したそうです)は、客家(ハッカ)族ですので、家では客家語、近隣の人たちとは台湾語(閩南語)、学校では、北京語(国語)という生活を送りました。客家語も台湾語も文字を持ちません。台湾語には、北京語の漢字を当てました。現在、街角で見受ける看板は、ほとんどが北京語ですが、いくつか台湾語の例を見つけたので紹介します。取材をしたのは、台北から列車で約2時間南へ下った苗栗市(ミャオリー市)です。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

 最初にとりあげるのは、「旺伯」「古早味」【写真1】です。「(親しみをこめて呼ぶときの)旺おじさん」の店、「昔の味」という意味です。「旺伯」は、北京語では「ワン・ポォ」ですが、台湾語では「オン・ペア」と発音します。「旺」には、「縁起が良い、繁栄」の意味がありますが、年配の男性の名前です。「古早味」は、台湾語で「グー・ザォ・ウェ」ですが、北京語にはこの表現がありません。このお店では、冷たい緑茶や紅茶を売っていて、20元(約60円)で300mlくらいの大きな容器に入ったお茶がテイクアウトで飲めます。

 「日昇百貨行」【写真2】の「百貨」は、北京語では、「バイ・ホー」と発音しますが、台湾語では、「パー・フォエ」と言います。台湾に残存する日本語とも考えられます。いろいろな品物を扱う店という意味です。「行」(ハン)は、日本語で「果物屋」などに使う「~屋」を意味します。北京語では、「行號」です。

【写真3】【写真4】
(左)【写真3】 (右)【写真4】

 次の「培元文具行」【写真3】の「行」も「日昇百貨行」の「行」と同じ意味です。文房具店の看板ですが「文具」は、北京語では「ウォン・チュ」、台湾語では「ブング」です。台湾語は、基本的に呉音に由来するので、日本語の発音にたいへん近いのですが、台中、台南に住む方の話では、日本語から取り入れた可能性もあるとのことです。

 写真4の看板の最初の漢字は、「しょうが」(生姜)という意味の古い漢字です。台湾語で「キュン・ボア」と言いますが、生姜で煮た鴨の料理です。冬食べると体が温まる台湾独特の冬の料理です。このように台湾語を北京語に当てはめて表記する看板の多くは、台湾ならではの産物であることを強調する効果をねらっています。

 今回は、臨時号として海外の方言事情、台湾語を取り上げました。真理大學助理教授の郭碧蘭さんにもご意見をいただきました。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第84回

2010年 1月 30日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第84回「おいしい方言(静岡県)」

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1】「うめえら!」
【写真2】
【写真2】「ふんとにうみゃあぜ
 飲んでみにゃん」

 今回からしばらくは、方言みやげなどに登場する「おいしさ」にまつわる表現について、何回かに分けて紹介していきます(ただし、筆者が担当する回について)。まずは、静岡県伊豆半島で見つけた方言です。“しぞーか”弁(静岡を地元では、“しぞーか”と呼びます)です。

 「うめえら!」(おいしいだろう!)【写真1】の「ら」は、推量の助動詞で、共通語の「だろう」の意味です。静岡県伊豆地方だけでなく、愛知県渥美半島、岐阜県美濃、長野県中部地方などにも分布しています。伊豆地方では、「あそこにあるら」(あそこにあるだろう)、「あしたは、雪んふるらなー」(あしたは雪がふるだろう)のように「ら」を使います。

【写真3】【写真4】
(左)【写真3】「う宮(ウミャー)」
(右)【写真4】「チョックラ 飲んで
 みらっしぇ」

 「ふんとにうみゃあぜ 飲んでみにゃん」(ほんとにおいしいよ 飲んでみて)【写真2】の「ふんとに」は、「ほ」が「ふ」に置きかわって、「ほんとうに」という意味です。「ふんと、ふんと」などと、うなずきながら繰り返したりします。「うみゃあ」(おいしい)は、「う宮(ウミャー)」のように富士宮市でも用いられている例があります【写真3】。

 「チョックラ 飲んで みらっしぇ」【写真4】の「チョックラ」は、「ちょっと」の意味です。「ちょっくらちょいと」の形でゴロ合わせで使われることもあります。「ちょっと飲んでみなさいよ」といった意味です。

 写真4は、昼時の混みあうマリンセンターで見つけたのですが、インフルエンザの予防のためマスクをしていました。「飲んでみらっしぇ」というので、試飲するためには、マスクをはずさなければなりません。また、聞こえた方言はしっかり書きとめたり、録音しなければならないし、筆記用具、マスク、試飲用のコップ、カメラと手一杯の取材となりました。何事も「ちょっくら」とはいかないのです。

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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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地域語の経済と社会 第79回

2009年 12月 19日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第79回「『京ことば』で綴る写真展」

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【写真1】
【写真1】「きしゃ、ごっついな~」
【写真2】
【写真2】
「よろしゅう おたの申します」

 今回は10月に行われた「第39回京都写真家協会主催『京ことば』で綴る写真展」の会場を訪問したときの話をします(またまた予定を変更して申し訳ないのですが)。パンフレットに会長のあいさつが掲載されています。その中で、会長は、その土地の言葉を例えば、東京弁、九州弁、大阪弁、名古屋弁と呼びますが、当地、京都のことばは、「京都弁」とは呼ばず、「京ことば」と呼ぶ理由について述べています。それは、ともすれば、関西弁に飲みこまれようとする危機から「京ことば」を守る義務を感じるからにほかならないと。写真展では、その思いがじゅうぶん伝わる作品が紹介されていました。

 方言は、字づらだけでは伝わらなかったり、ほかのことばでは、ぴったりした表現に言い換えができないことが多くてもどかしい思いをすることがあります。その表現を写真で見ると「ああ、そうだ。な~るほどネェ。」と簡単に理解できます。ここで紹介する写真は、出品した写真家の許可を得て、しろうとの筆者が会場で撮影し、編集したので、元の写真は、もっと美しくすばらしい写真です。

 「きしゃ、ごっついな~」(汽車、大きいね【写真1】)と題された、機関車を見ている子どもの写真です。肩車をしてもらっているちいさな子どもの背中と「ごっつい」機関車が対照的です。驚いている子どもの顔が見えるようです。

【写真3】
【写真3】「さぶがりやな~」
【写真4】
【写真4】「はんなり」

 「よろしゅう おたの申します」(よろしくお願いします【写真2】)は、京都の街角でよく見受ける光景です。挨拶をする場面での人と人との距離の保ち方、視線、腰の折り方までちゃんと見る人に伝わります。人に頼みごとをするときは、「こうでなくっちゃ!」という手本が示されています。

 てぬぐいをかぶった年配の婦人が路地ですぐき漬けを売っています。若い女性に「さぶがりやな~」(寒がりだね)と言っています【写真3】。ジャケットを着た若い女性は、寒そうに肩を丸くして手を前に組んでいます。すぐき漬けというのは、千枚漬けと同じく、京都を代表する漬け物で、冬が旬で初物が売られる頃は、とても寒いのです。

 最後は、「はんなり」【写真4】です。写真で表現された「はんなり」です。「はんなり」は、「明るく、華やかなさま」を言います。暗闇で舞うほたるが非常にきれいに写しだされています。水面にうつる月の光も華やかさをそえています。第29回「“ほっこり”なべに“はんなり”豆腐でまったりする」でも紹介しましたので、参考にしてください。

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明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第74回

2009年 11月 14日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第74回「ドイツの方言(ベルリン編)」

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】
【写真3】
【写真3】

 「おいしい方言」と題して味覚に関わる各地の方言の使用例をとりあげ、連載する予定と前回お約束しましたが、少しお待ちいただいて、今回は、夏訪れたベルリンのドイツ方言をご紹介します。第12回「外国の方言みやげ」第19回「韓国の方言事情」第67回「リトアニアの方言区画」に次ぐ海外の方言情報です。

 “ICK BIN EEN BERLINA”(僕は、ベルリンっ子だよ)“DA KIKSTE WA, IS WAT?”(君、何見てんの?それ何?)と書かれています【写真1】。標準ドイツ語だと、“ICH BIN EIN BERLINER”“WAS GUCKST DU, IST WAS”となります。“ICH”(わたし)が“ICK”になるのは、ベルリン方言の特徴です。このシールを車や部屋などに貼って楽しむのだそうです。

 “ALLET JUTE ALTER”【写真2】は、男性に送るカードで「おめでとう。おやじ(おまえ)」という意味です。“ALLET JUTE”は、標準語では“ALLES GUTE”です。“S”が“T”に、“G”が“J”に変化しています。「よい」にあたる“gutes”(標準語)が“jutet”(ベルリン方言)、「向かいに」という意味の“gegenüber”(標準語)が“jejenüba”(ベルリン方言)に変化するなどの例が見られます。“g”が“j”に変化する理由として、音声がやわらかく伝わる、口の奥を閉めなくても発音できるなどの理由があげられます。“ALTER”(old)は、男性が親しい友人に対して言うときの表現で、“mein Freund”(わたしの友)という意味ですが、冗談めかして“ALTER”などと呼びかけることがあるそうです。

【写真4】
【写真4】
【写真5】
【写真5】

【写真3】は、ベルリン方言の豆辞書で、ほかにヘッセン地方などを含む7つの地方の辞書があります。約5000語の標準ドイツ語の見出し語で、ベルリン方言が例といっしょに紹介されています。言葉の愛好家や休暇を地方で過ごす人のために発行されたそうです。

【写真4】は、Heinrich Zille(ハインリッヒ・ツィレ・芸術家1858-1929)による社会風刺の絵本です。1900年代のドイツ社会を描いた絵本ですが、ベルリン方言で書かれています。

【写真5】は、世界の英語方言という視点から見た資料です。ドイツ人が英語を話すと、“HAPPY BIRTHDAY TO YOU”は、“HÄPPY BÖRSDI TU JU”だと皮肉っているカードです。このように世界各地の英語方言をカードにしたらおもしろいでしょうね。同じアイディアが日本語方言でももっと採用されることを期待しています。

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山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
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著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第69回

2009年 10月 10日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第69回「もてなしの方言(北東北地方)」

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

 今回は、「もてなしの方言」のシリーズ最終回になります。次回から「おいしい方言」と題して、味覚に関わる各地の方言の使用例をとりあげ、連載する予定です。楽しみにしてください。

 さて、北東北地方で、とりあげる最初の例は、「来さまい!下北共和国」(かさまい!・来てください・第37回参照【写真1】で)す。A4判のむつ市の宣伝冊子の左上に小さく書かれていた方言です。小さくてほとんど気付かない大きさで研究者泣かせです。私の古いカメラで撮った(腕はいいはず?)ものをやっと拡大してご紹介します。下北には、ほかにも「来てください」にあたる言い方があって、「来さまい」「来さいん」「来せ」の順に丁寧度が下がります。

 次の例は、弘前市を訪れた際、津軽絵作者の山内和人さんじきじきに買った絵葉書に書かれていた方言です。ご本人から承諾を得たこともあってご紹介します。「来いへ来いへ福の神 来いへ来いへイイものみんな こっつぁ 来いへ」(おいで おいで 福の神 おいで おいで 良いものは みんな こっちに おいで【写真2】)と書かれています。良いものは、みんな「来いへ」とまねいているのでとりあげました。相手に丁寧に求める言い方で、「見でけへ」(見てください)のような例もあります。

【写真3】【写真4】
左:【写真3】 右:【写真4】

 「きてたんせ」(来てください【写真3】)は、秋田県わか杉国体支援協議会2007が作成した宣伝の文句です。秋田県では、「ごめんして、たんせ」(訪問先で帰るときの挨拶)や、「見てたいや」(見てください)など、「ください」の意味を表す「たい」と、そこから派生した「たんせ」が使われます。

【写真5】
【写真5】

 「きてけろ」(来てください【写真4】)は、モリアオガエルのキテケロ君が八幡平の見どころを案内しています。岩手県盛岡市の例です。「けろ」は、「ける」(くれる)が元の形ですが、「けな」(やるな)、「けない」(やらない)などの言いかたがあります。「おでゃんせ」【写真5】(岩手県)はすでに、田中宣廣さんが第31回41回など数回にわたって書いています。けれどもその表現、表記は、驚くほどバラエティーに富んでいます。

 北海道は、未発見です。

 

もてなしの方言(北東北地方)
写真1 来さまい! むつ市 青森県
写真2 来いへ 弘前市
写真3 きてたんせ   秋田県
写真4 来てけろ 盛岡市 岩手県
写真5 おでゃんせ
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地域語の経済と社会 第64回

2009年 9月 5日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第64回「もてなしの方言(南東北地方)」

(写真はクリックで拡大します)
【写真1】【写真2】
左:【写真1】 右:【写真2】

 今回は、南東北地方(福島県、山形県、宮城県)のもてなしの方言をとりあげます。

 福島駅構内には、「コラッセふくしま」【写真1】というショッピングセンターがあります。「こらっせ」については、第13回でさらに詳しくとりあげられています。福島市から南東に約20キロ足をのばすと「しみもち」がおいしい川俣に着きます。道の駅には、「こらんしょ川俣」【写真2】と書かれた、からりこフェスティバルのポスターが貼られています。「こらっせ」と「こらんしょ」、どちらも「いらっしゃい」の意味ですが、「こらっせ」は、同僚や友達に、「こらんしょ」は、目上に用いられ、「こらんしょ」のほうが「こらっせ」より新しい形とされています。古くは、「こっせ」という言い方があったそうです。

【写真3】
【写真3】
【写真4】
【写真4】
【写真5】
【写真5】

 「ゴジャーレ」(いらっしゃい【写真3】)と大きく地域の宣伝をしているのは、山形県村山市です。「ござる」(「御座ある」の縮約形、「行く」・「来る」の尊敬語)が「ござれ」(命令形)になって「ゴジャーレ」と変化したのです。「ござる」(尊敬語)は、山形県、宮城県、福島沿岸地方と、以南の日本海側を中心に広く分布しています。

 宮城県登米市には、「登米の街へ“ほっ”としに来てけらぃん」【写真4】というもてなしの言葉があります。「けらぃん」は、「くださいね・ちょうだいね」という意味です。「けらい」が元の形で、「けらぃん」は、やさしさをこめた表現です。白石市には、もてなしの言葉で「よーぐござったない」(ようこそおいでくださいましたね【写真5】)があります。「な」の変化した形「ない」がついています。「~ぃん」も「~ない」もやさしさの表現です。

 紙面の都合でご紹介できなかった写真資料は、「遊びに来てけやれ!!」(福島県南会津町)、「よらんしょ! こらんしょ! 喜多方へ」(会津若松市)、「来てみらんしょ 居てみらんしょ 住んでみらんしょ」(会津若松市)、「よってがんしょ」(西会津町)、「こらんしょ横丁」(福島市)、「んめぇ! おもしぇ! ござへぇ! 庄内」(山形県庄内町)、「よぐござったなぁ。ありがどさま~。」(最上郡)、「あがらっしゃれ」(新庄市)、「庄内ってこげだんよ」(庄内)、「よぐござったなぁ。ありがどさま~。」(最上郡)です。

もてなしの方言(南東北地方)
写真1 こらっせ 福島市 福島県
写真2 こらんしょ 川俣市
写真3 ごじゃーれ 村山市 山形県
写真4 来てけらぃん 登米市 宮城県
写真5 よーぐござったない 白石市
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山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
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著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第59回

2009年 8月 1日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第59回「もてなしの方言(九州地方)」

 「もてなしの方言」のシリーズでは、都道府県会館や都内のアンテナショップなどで収集したパンフレットやチラシをご紹介しています。現物を頼りに方言のニーズを地域経済や観光産業と照らし合わせて考えようというのが、この連載の趣旨です。

【写真1】
【写真1】(クリックで拡大します)
【写真2】
【写真2】(クリックで拡大します)

 さて、今回ご紹介するのは、九州地方における「もてなしの方言」です。第14回「一日で全国の方言を聞く方法」で紹介しましたが、九州地方は方言グッズが多い地域で、筆者の手元にある資料件数を見ても沖縄県、鹿児島県は、群を抜いています。宮崎県、長崎県、熊本県があとに続きます。いずれも観光資源が豊かな地域だと言えましょう。いくつかを選択してご紹介することにします。沖縄県の「めんそーれ」は第32回で紹介されていますので、ここでは省略します。

 鹿児島県には、いろいろな「もてなしの方言」があります。あまり聞きなれない方言として、まず、「もいんしょれ」(徳之島【写真1】)があります。「いらっしゃいませ」という意味です。「きやんせ」(甑島・こしきじま【写真2(上)】)も、「いらっしゃい」の意味です。

 「おじゃったもんせ!」(おいでください・鹿児島県【写真2(下)】)の「おじゃる」は、「いる」「行く」「来る」の尊敬語で、「オ(いで)アル」が元の形です。現在、この形が鹿児島県と東北地方に残っていることから、京都で昔使われていた形と考えられています。「たもんせ」は、「たもんす」が元の形で、「たもる(賜る)」(補助動詞・~てください)がついた形です。「おいでになってください」つまり、「いらっしゃいませ」という意味になります。「きょうは、ゆくさおじゃったもした」(きょうはようこそおいでくださいました)などと言います。

もてなしの方言(九州地方)
写真1 もいんしょれ 徳之島 鹿児島県
写真2(上) きやんせ 甑島
    (下) おじゃったもんせ!
写真3 来てみらんね 日南市 宮崎県
写真4 待っとるばい 長崎市 長崎県
【写真3】【写真4】
左:【写真3】 右:【写真4】
(クリックで拡大します)

 「来てみらんね」(来てみませんか)(宮崎県【写真3】)の「みらん」の「~ん」は、否定の表現で「食べん」「行かん」などと言います。「ね」は「さー食べんね」のように、「どうぞ食べてください」とていねいに勧めるときに使います。「みない」というと、共通語では否定の意味ですが、宮崎県では「~ない」が命令の表現で「見ない」「食べない」が「見なさい」「食べなさい」の意味になります。

 「待っとるばい」(待っているよ・長崎市【写真4】)の「~ばい」は、「よ」にあたり、軽い念おしの感情を表現しています。

 現物があるのに紹介できなかったのは、「来てんしゃい」(福岡市)、「行っとかんば」(佐賀県杵島郡)、「遊びにこんね」(佐賀市)、「来(こ)んね、住まんね」(宮崎県)、「のみんきね」(宮崎県日南市)、「きなっせ」(熊本県山鹿市)、「よう来なはったな」(熊本市)、「来なっせ」(長崎県東彼杵郡)、「きやんせ」(鹿児島県川内市)などです。実に豊かな表現が用いられている地域であることがわかります。

* * *

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第54回

2009年 6月 27日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第54回「もてなしの方言(中国・四国地方)」

 今回は、中国・四国地方の「もてなしの方言」をご紹介します。

【写真1】
【写真1】(クリックで拡大します)

 岡山県では、客をもてなすとき、「おいでんせえ」(いらっしゃい)、「よーおいでんさった」(よく いらっしゃいました)などと言います。「おいでんせえ岡山」というキャッチフレーズもあります。「おいでる」は、「オ+イデル」で、「行く」「来る」「居る」の尊敬語です。「おいでる」(いらっしゃる)から「おいでん」(おいでなさい・来てください)が派生したと考えられます。「おいでませ」(山口県)も同様です。「おいでんされました」(山口県岩国市)は、「おいでる」に「~される」(尊敬語)が二重になった形と考えられます。「~される」は、西日本を中心に分布する形で「先生が来んさった」(いらっしゃった・島根県)などにも使われます。

 「おいでんかな」(岐阜県・第39回)、「おいでん!豊田」(愛知県・第39回 ※「おいでんバス」が走っているそうです。)、「おいでなんしょ」(長野県・第44回)、「おいでやす」(京都府・第24回、滋賀県・第49回)、「よぐおでんした」(岩手県・第37回第41回)などがこのシリーズですでに紹介されています。「おいでんか」(愛媛県・未発見)、「おいでるかえー」(大分県・未発見)があることから、「おいでる」は、本州・四国・九州に広く分布していることがわかります。

【写真2】
【写真2】(クリックで拡大します)

 ほかに、中国・四国地方には、「来てみんさいやぁ」「来てみい~!!」(広島県)、「きてなぁ」(香川県)、「来なソンソン!」(徳島県)、「早よぉ来んさい」(山口県・※写真省略)があります。

 「来てみんさいやぁ」(広島県)の「~(し)んさい」は、「~(し)なさい」の意味で、「はよう、食べんさい」「遊びに来んさい」のように用いられます。

 これまで、手元の方言資料をできるだけ多く皆さんにご紹介したいと思って、記事といっしょに1枚ずつ写真を掲載したのですが、ウェブを開くとき、軽量であることが大切であるとの考えから、ちょっと見にくいのですが、集合写真になりました。

もてなしの方言(中国・四国地方)
写真1 おいでんせえ   岡山県
まあ、いっぺん来てみんさいやぁ 三原市 広島県
えっと福山来てみい~!! 福山市
お日和もようて、まあようおいでんされました 岩国市時代工房 山口県
おいでませ  
写真2 かがわにきてなぁ   香川県
見に来なソンソン! 美馬市 徳島県
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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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地域語の経済と社会 第49回

2009年 5月 23日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第49回「もてなしの方言(北陸・近畿地方)」

(写真はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1】
【写真2】 【写真3】
左:【写真2】 右:【写真3】
【写真4】 
【写真4】
【写真5】 【写真6】
左:【写真5】 右:【写真6】
【写真7】 
【写真7】
【写真8】 
【写真8】

今回は、「もてなしの方言(北陸・近畿地方)」をご紹介します。富山県立山の「来られ」(こられ【写真1】)は、第42回(高岡市)でも紹介されています。

 日本海側を南にくだった石川県には、「ゆっくりしていきねーね」【写真2】、「いらっし みまっし」【写真3】という表現があります。「ゆっくりしていきねーね」は長年、加賀市山中温泉のキャッチコピーとして親しまれているもので、「いきねーね」の「ねー」は南の福井県に連続する、相手にやさしく「~なさい」と勧める文末助詞「ねー」(「ない」の変化形)が動詞のマス形に接続した形です。

 「まっし」は丁寧な命令形とされ、「いらっしゃい みてごらんなさい」と相手に勧める表現です。

 店頭に「寄りまっし」(寄っていらっしゃい)と書かれているのを見かけます。五段動詞は、もともと「寄るまっし」でした。一段動詞がマス形に接続していることと、東京語の「お寄りなさい」が「寄る」のマス形に接続する影響を受けて、「寄りまっし」に変化したとされています。外出する身内に対して「いってらっし」(いってらっしゃい)と言います。

 「のらんけバス」(石川県輪島市【写真4】)は、「のりませんか、バスに」という意味です。「ケ」はぞんざいに聞こえますが、石川県の方言では親しみをこめた誘いの表現です。疑問の文末助詞「か」にあたる「ケ」です。

 福井県嶺北地方では、「きねの」【写真5】は、「またきねの」(またいらっしゃい)、「寄ってきねの」(寄っていらっしゃい)のように勧める場合に使われます。「~ねの」の「ね」は加賀市の「いきねーね」の「ねー」と同じです。

 「おいでやす」【写真6】は、滋賀県湖北地方の木之本の例です。大きなかぶら大根に墨で書いてあります。滋賀県で用いられる「きーな」「きてな」「きゃんせ」(第34回参照)、「きてや」などより少し丁寧な表現で、「いらっしゃい」の意味です。「よーおいでやす」「よーおこしやす」など滋賀県全域で用いられ、この表現は京都府に及びます。京都府から大阪府に入ると「はよ、きてや」が「はよ、きてんか」となります。京都ことばについては、第24回を参照してください。

 「やぶちゃつれもっていこら!」【写真7】は、発音してみると、奈良の大仏もひっくり返るほどの迫力のある表現に聞こえます。いにしえの都のイメージから遠い感じがします。「やうち」(三重)、「やぶち」(長野)、「やぶちゃ」(三重)は、「やぶちゃ出かけてる」(みんな出かけている)のように「みんな」という意味です。「いこら!」は「行こう!」という意味です。「ら」は勧誘、意志形を受けて「~しとこらの」(~しておきましょうよね)のように、複合の形で用いられることもあります。

 「和歌山の温泉に浸かりに来てけ~よ~!」【写真8】の「け~よ~」は、「来てね」の意味です。

 方言グッズが見つからないことでは、奈良県は、滋賀県と並んで有名です。こんなによい表現があるのですから、ぜひ、奈良みやげに使っていただきたいものです。

 本稿の石川県・福井県の方言について金沢大学教授、加藤和夫先生にご助言をいただきました。紙面を借りてお礼申し上げます。

もてなしの方言(北陸・近畿地方)
写真1 立山に来られ 立山 富山県
写真2 ゆっくりしていきね~ね 加賀市 石川県
写真3 いらっし みまっし 白山市
写真4 のらんけバス 輪島市
写真5 きねの(いらっしゃい) (嶺北地方) 福井県
写真6 おいでやす 木之本 滋賀県
写真7 やぶちゃつれもっていこら!
(みんな、一緒に行こう!)
川上 奈良県
写真8 和歌山の温泉に浸かりに来てけ~よ~!
(和歌山の温泉に浸かりに来てね!)
  和歌山県

 (※写真5は手拭い番付による「きねの(西方前頭)」)

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著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第44回

2009年 4月 18日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第44回「もてなしの方言(関東・甲信越地方)」

(写真はクリックで拡大します)
【写真1】 
【写真1】
【写真2】 
【写真2】
【写真3】 
【写真3】
【写真4】 
【写真4】
【写真5】 
【写真5】
【写真6】 
【写真6】
【写真7】 
【写真7】
【写真8】 
【写真8】
【写真9】 
【写真9】

 第39回では、「もてなしの方言(東海地方)」について、か弱い足か細いとはいいにくいです!)で集めたパンフレットや広告をご覧にいれながら紹介しました。引き続き今回も関東・甲信越地方について、もてなしの方言を紹介しようと思います。

 栃木県宇都宮市、千葉県銚子市には、「来(き)らっせ」(写真6・宇都宮)、「きらっせ」(写真8・銚子)があります。「きらっしょ」も栃木では使われています。丁寧語の「いらっしゃい」「来てください」の意味です。地理的に両県は、関東地方に属していますから共通語化が進んでいると思われますが、まだまだ方言ががんばっています。千葉県に隣接する茨城県の方言にも「きらっしゃい」「きらっさい」「きらっせ」があります。茨城県神栖市では、夏「きらっせ祭り」が開かれます。「きらっせ」は、東北方言の影響を受けたともいわれています。埼玉県の一部では、共通語の「来(こ)ない」を「来(き)ねえ」と言います。新潟の「ようきなった」(写真4)、「来(き)なれて」(第37回・新潟)なども同じ流れをくむものでしょう。

 「おいでなんしょ」(写真5・長野)は、「おいでる(「来る」の尊敬語)」からきたことばで、「おいでんか(いらっしゃいませんか)」(富山)、「おいでたか(いらっしゃったか)」(高知)、「おいでちおくれんなんしー(いらっしゃってください)」(大分)など広く分布する形です。

 「いかざあ」(写真1・山梨)は、「行こう」という意味ですが、少し古めかしい方言です。

 「いくべ(いきましょう・写真9・千葉)」は、「行ぐべー」「行ぐだんべー」「行くんべえ」の形で埼玉でも使われています。推量の助動詞「べし」で、話し手の意志を表す、また、相手を誘う意味があります。「原稿書き終えたら花見にいくべ!」のように使います。茨城の若者は「いぐっぺ」「いくっぺ」「来んべ」を使っています。福島でも「ライブ、いくべか」です。千葉でも、「仕事をやっぺ」など、方言から若者言葉への影響が見られます。

もてなしの方言(甲信越・関東地方)
写真1 いかざあ (※甲州方言番付表) 山梨県
写真2 来てみねか 十日町市 新潟県
写真3 来ねえかね 新潟県央
写真4 ようきなった 新潟市
写真5 おいでなんしょ 天竜村 長野県
写真6 来らっせ 宇都宮市 栃木県
写真7 よってかねえーかい 秩父郡 埼玉県
写真8 きらっせ 銚子市 千葉県
写真9 いくべ 銚子市

 (※山梨についてはパンフレットではなく方言番付表に基づいています。)

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山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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