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地域語の経済と社会 第344回 読み聞かせる方言

2015年 12月 26日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第344回 読み聞かせる方言

 方言使用には,観光客向けと地元向けがあります。観光客向けは,経済を反映したグッズやみやげ品,ポスターなどです。一方,地元向けは文化の継承のためとも言うべきもので,絵本やまんが,かるたなどです。若者世代(第98回,214回,328回)や子ども世代(31回,216回)が自らの地元文化を楽しみ,地域の結束力やアンデンティティを確認する働きがあります。

 というわけで今回,紹介するのは,関西弁の絵本です。岡田よしたか著『はずかしがりやのバナナくん』(株式会社PHP研究所)【写真1】です。著者の岡田さんは,大阪生まれの絵描きさんで,絵も文も岡田さんによるものです。

 この絵本は,地の文は共通語で,会話文は関西弁で書かれています。つまり,知的情報は共通語で,情的な会話は方言です。方言による会話によって,登場するバナナくんやくしカツのおじさんの気持ちが,生き生きと伝わってきます。

【写真1】 【写真2】
左:【写真1】 右:【写真2】(画像はクリックで拡大表示)

「よっしゃ どんどん いくでー」【写真2】
「うわー,やったら できるねんなあ!」
「これも みんな くしカツさんの おかげや。 そうや くしカツさんも いっしょに うたお!」

といったぐあいです。

 岡田さんからのメッセージです。

 アニメなどを見ているとアクションも派手で,過激な内容が多いです。この絵本を子どもたちに読み聞かせて,大人も子どももいっしょになってジワッとクスッとくる静かなおもしろさを味わってほしいです。

 「関西弁のアクセントやイントネーションが難しい」という声を聞くことがありますが,そんなときは,読み手は,出身地のことばやもっとしっくりくることばに置き換えて,読んでくださったらいいと思います。そうすれば話のニュアンスが子どもたちに伝わり,一層絵本が大好きになります。

 絵本のなかでは,関西弁が「ジワッとクスッとくる静かなおもしろさ」に一役かっています。子どもたちが,読み聞かせの中で聞いた方言を,家庭内や友達との会話に使って楽しめば大成功です。なお,関西弁を使った絵本は,ネットで調べるとたくさん出て来ます。方言えほん,方言かるた(第33回),方言トランプ(第208回)などは,観光客向けというより,地元向け文化グッズと言えます。地元の方言で読み聞かせる絵本は,方言を通して郷土の文化を子どもたちに伝えます。

第98回 若い女性が方言で愛を告白『方言CD』
第214回 「胸キュン方言」
第328回 若者向けの方言作品,オンパレード
第31回 方言ネーミング,方言看板・ポスター,方言メッセージの注意点
第216回 子ども向けの方言の拡張活用
第33回 「方言かるた」あれこれ
第208回 『方言トランプ』あれこれ

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『魅せる方言 地域語の底力』『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』山下暁美(やました・あけみ)
元明海大学教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは,海外の日本語の変化,談話分析による待遇表現,福祉の言語学。街角の言語表示,災害時の『命綱カード』などに関心がある。著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著・アルク),『海外の日本語の新しい言語秩序』(三元社),『スキルアップ日本語表現』(おうふう),『スキルアップ文章表現』(共著・おうふう),『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(国書刊行会),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第334回 ダブル経済効果と方言使用

2015年 8月 8日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第334回 ダブル経済効果と方言使用

 北陸新幹線開業後とNHK朝の連続ドラマ「まれ」の舞台によるダブル経済効果と方言使用の状況を追ってみました。北陸鉄道株式会社の話によると,首都圏をはじめ各地から石川県を訪れる観光客は増加しているそうです。そして,輪島など奥能登へ足を延ばす人々のために観光バスが増発されました。(新幹線開通前については第310回「北陸新幹線開業と方言活用」を参照)

(画像はクリックで拡大表示)
【写真1】のらんけバス(停留所の看板)
【写真1】のらんけバス(停留所の看板)
【写真2】スタンプ「きのどくな」
【写真2】スタンプ「きのどくな」

 観光バス「わじま温泉郷号」では,輪島弁地元ガイド『あかり人』が案内します。『あかり人』は現在31名いますが,岸野欣一さんにお話を伺いました。『あかり人』になるための講習会は第2期を終えたそうで,岸野さんは,第1期生です。

 講習会は5日間で,テキストを使用し,能登の里山里海についての歴史,観光のポイント,方言などについてそれぞれの分野の専門家の話を聞きます。方言使用については,「日常生活のままの言葉で案内する」ことを原則としているそうです。苦労する点は,相手が非輪島弁話者なので,観光客から方言で話してくださいと改めて言われるとかえって出てこなくなることだそうです。普段どおりの言葉で話しながら旅情を味わってもらうのがねらいですが,まったくわからないと言われることはないそうです。

 能登方言は,口能登方言と奥能登方言に分けられ,ドラマ「まれ」で使用される輪島弁は奥能登方言に属します。能登地方では文末詞として「け」「わいね」「げん」などが使われます。また,文節の切れ目や文末が伸びてゆすりイントネーションと言われる「あの~」「ほやさけ~」〔だから〕などが見られます。

 輪島市コミュニティーバスの名称は「のらんけバス」〔乗りませんか〕【写真1】です。輪島に来たら「のらんけ!」というわけで5つのコースを走っています。能登祭りのシンボル「キリコ」に「きのどくな」〔ありがとう〕【写真2】と書かれたスタンプも売られています。能登弁講座のシリーズとして6種類のスタンプが用意されています。

 『月刊北国ACTUS(アクタス)』No.311(2015年6月号)に「まれ」にみる能登弁大研究が特集されています。記事によると方言目当てで輪島に来るファンもいるそうです。視聴者からの声は能登弁が「かわいい」「どこか懐かしい」と好評です。

 インターネット上では「アナと雪の女王」で歌われる歌の方言による替え歌が全国各地で盛んに作られていますが,能登弁版は女王もひっくり返るほどの迫力のある男声です。

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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『魅せる方言 地域語の底力』『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』山下暁美(やました・あけみ)
元明海大学教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは,海外の日本語の変化,談話分析による待遇表現,福祉の言語学。街角の言語表示,災害時の『命綱カード』などに関心がある。著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著・アルク),『海外の日本語の新しい言語秩序』(三元社),『スキルアップ日本語表現』(おうふう),『スキルアップ文章表現』(共著・おうふう),『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(国書刊行会),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂)などがある。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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地域語の経済と社会 第324回 『災害時命綱カード(方言訳付)』について

2015年 3月 21日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第324回 『災害時命綱カード(方言訳付)』について

 災害時における方言の役割や多言語社会における言語支援など,「福祉の言語学」という視点からさまざまな研究と実践が行われています。地域社会に暮らす人々の中には,方言がわからない外国人も含まれます。

(画像はクリックで拡大表示)
【写真1】災害時命綱カード(方言訳付)3地域分
【写真1】災害時命綱カード(方言訳付)
3地域のカードを開き、上下に並べたもの
【写真2】『災害時命綱カード(方言訳付)』宮城方言「健康関連」の箇所
【写真2】『災害時命綱カード(方言訳付)』
宮城方言のカードから「健康関連」の箇所

 そんな外国人を対象に作成されたのが,『災害時命綱カード(方言訳付)』【写真1・2】です。このカードには,災害時に必要となる語彙が掲載されています。これまでに岩手(盛岡)方言訳付,宮城方言訳付,福島方言訳付が発行されました。名刺サイズ,3つ折り,両面印刷で常にポケットに持ち歩き,災害時に必要な語彙とその地方の方言の学習ができるようになっています。災害時に必要な語彙は,現象関連,健康関連,事後行動関連,環境関連に分けられています。ほかに英語訳,中国語訳,韓国語訳が併記されています。

 例を見てみましょう。健康関連の「病気」の方言訳は,「ヤメァ/ヤメ/ビョーギ」(岩手盛岡),「ビョーギ/アンベァワリ」(宮城),「アンベワリー」(福島)となっています「病気」は,カ行,タ行が濁音化することから「ビョーギ」となっています。「ヤメァ/ヤメ」は「病(やまい)」ということばを知っていれば類推ができるかもしれませんが,「病」は,日本語能力試験(JLPT・Japanese-Language Proficiency Test)で2級出題で,日本語学校で1年半くらい学習しないと習わない語彙です。「アンベァワリ/アンベワリー」については,「塩梅(あんばい)」を語源としているわけですが,この語彙は級外で外国人にとってとても難しい語彙です。

 第318回「新潟県長岡市の方言ネーミング」でも述べられていますが,地元の人たちに訴える力が強いのは何と言っても「方言」です。このカードに託された使命は,災害時に自分自身にふりかかっている危機を地元の人に方言で訴える,母語の異なる外国人同士が地元の方言で通じあい,助け合う,そして,地元の人の方言による訴えを理解し協力して困難な災害時をともに乗り越えることです。

 

 『災害時命綱カード(方言訳付)』(平成25年度版)は,科学研究費基盤研究(C)「命綱としての日本語―緊急時コミュニケーションの社会言語学的総合研究―」(研究代表者 山下暁美・明海大学)によって制作されました。岩手(盛岡)方言担当者(敬称略),竹田晃子(国立国語研究所),宮城方言武田拓(国立仙台高等専門学校),小林初夫(宮城教育大学)の協力を得ました。

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 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『魅せる方言 地域語の底力』『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは,海外の日本語の変化,談話分析による待遇表現,福祉の言語学。街角の言語表示,災害時の『命綱カード』などに関心がある。著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著・アルク),『海外の日本語の新しい言語秩序』(三元社),『スキルアップ日本語表現』(おうふう),『スキルアップ文章表現』(共著・おうふう),『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(国書刊行会),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第314回 マスメディアが後押し(山梨県の方言)

2014年 10月 25日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第314回 マスメディアが後押し(山梨県の方言)

 山梨県甲府市出身の村岡花子を主人公とする『花子とアン』が,2014年度上半期のNHK朝の連続テレビ小説で放送されました。村岡はL.M.モンゴメリ著『Anne of Green Gables(赤毛のアン)』の翻訳で知られています。『花子とアン』の平均視聴率は関東地区22.6%で,過去10年で最高だったそうです(ビデオリサーチ調べ)。

 甲府市内には「花子とアン」推進委員会が作成した「やまなしへようこそ。わたしたち「こぴっと」します!」と書かれた幟が立っています〔「こぴっと」=シャキッと,しっかり〕。今年は,以前訪れたとき(2009年1月)より,甲府市内の方言のポスターやパンフレットの数がかなり増えていると感じました。

(画像はクリックで全体表示)
【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

 【写真1】は,同推進委員会が行っている「甲州弁No.1決定戦投票」です。推進委員会のホームページの結果(中間発表)によると「こぴっと」,「いいさよぉ」〔いいんだよ〕,「てっ」〔えっ,あら〕が上位を占めています。「いいさよぉ」も「てっ」も,なぐさめの表現やあいづちとしてコミュニケーションを取りやすくするための表現です。「こぴっと」は地域の人の心情を束ねるいわば合言葉の方言と言えます。どの表現も人々の心をつなぐ作用をする表現です。同じことばを使うことで集団の所属意識が強まります。価値観の多様化の中で,世代を超えて方言が活躍しています。

 これに関連して,南巨摩郡(みなみこまぐん)の山梨県立峡南高等学校では,おもてなしのための「こぴっと!! 6種類」甲州弁コースターを作成販売しています【写真2】。同校の「もてなすプロジェクト」の一環です。その目的を,「お客様とのコミュニケーションを取りやすくする」,「山梨に興味をもってもらう」と説明しています。

 ほかに『おもてなしブック』(第28回国民文化祭山梨県実行委員会2013),「甲州弁トークショーこぴっといくじゃん」〔シャキッといこうよ(「――じゃん」は意志や勧誘の文末表現)〕(2014年9月開催)などでも,国中地方の方言が取り上げられています。

 山梨県では,富士山の世界文化遺産登録をはじめ,甲府市新庁舎,山梨県庁舎防災新館の落成など,まちづくりのハード面が充実しました。山梨県防災新館の1階に配置された「情報発信・賑わい創造」が目的の「やまなしプラザ」の運営など,ソフト面も充実してきています。このような状況にあって,まちづくりに郷土色を添えるのが方言です。方言はマスメディアの追い風に乗って人々の心と心をつなぐ役割を果たしています。

 これまでの記事では,「第21回 テレビの方言活用」,「第230回 週末は山梨にいました。―山梨の方言グッズ事情2012―」,「第256回 「じぇじぇ!」」,「第288回 NHK仙台放送局の方言活用」などが関連しています。

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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第304回 山形県4地方の方言

2014年 6月 14日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第304回 山形県4地方の方言

 山形県は,地理区分が4つになっています。これら4地区間では,方言の違いも顕著です。今回は,そういう山形県内の同じ意味の方言が地域ごとに並べられているポスター【写真1】の歓迎方言メッセージを紹介します。

(画像はクリックで全体表示)
【写真1】4つの地域の歓迎方言メッセージ
【写真1】4つの地域の歓迎方言メッセージ
【写真2】山形方言グッズ(定規)
【写真2】山形方言グッズ(定規)

 山形市の観光情報センターに,「よくいらっしゃいました」を,4地区各々の方言で表したポスターが4枚並べて貼られていました。1番左は最上(もがみ)地方「よぐきてけったにゃー」です。2番目は庄内(しょうない)地方「よぐきたの~」です。3番目は村山(むらやま)地方「よぐござったなっす」です。1番右は置賜(おきたま)地方「きとごやっておしょうしな〔おこしくださりありがとうございます!〕」です。置賜地方だけ他の3地方と異なる構成になっているのは,この地方の中心地,米沢(よねざわ)の方言で「よくいらっしゃいました」は「ヨクゾ ゴザッタナッシ」で,村山地方との差があまりないからだと推定されます。「おしょうしな」については,第71回「『天地人』は米沢に」を参照してください。

 山形県内の4地方の区分について,山形県民や出身者は,基本的に理解しています。
 庄内地方:鶴岡(つるおか)市と酒田(さかた)市を中心とする“県北西部=日本海沿岸”
 最上地方:新庄(しんじょう)市を中心とする“県東部”
 村山地方:山形市を中心とする“県中央部”
 置賜地方:米沢市を中心とする“県南部”
です。特に,庄内と内陸側の3地方(最上,村山,置賜)との差が大きいのです。庄内地方と,最上~村山地方との間には,東北地方の方言を地理的に大きく南北に分ける境界線が走っています。東北地方6県のなかでも,岩手県と並んで県内の方言差が著しい県です。これら4地方間で異なるのは,方言に関することだけではありません。天気予報の地区区分もこのまま表現します。

 これに関連して,山形県の方言グッズを制作している株式会社尚美堂社長の逸見良昭さんに,お話を伺いました。同社では,貯金箱,卓上カレンダー,ペン立て,扇子,定規【写真2】手ぬぐい,ボールペン,ストラップなど18種を作っています。商品を作るにあたって気をつけていることが二つあるそうです。第1は,最近子供たちが昔ながらの方言を話さなくなってきていることを憂慮し,身の回りで使えそうな方言を入れるようにしていること,第2は,県内4地方の方言をなるべく均等に使うようにしていることです。

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研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第299回 “Gafas(メガネ)”は鼻の上にある?

2014年 4月 5日 土曜日 筆者: 山下 暁美

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第299回 “Gafas(メガネ)”は鼻の上にある?

 「メガネを探していたら、鼻の上にあった」というとぼけた話があります。鼻にひかかっているということに由来する言い方がスペイン語で“gafas”です。“gafa”には物をひっかけるかぎの意味があります。日本に現存する最古のめがねも16世紀の物とされ鼻にのせるタイプです。国内での使用例は、秋田のメガネ屋さん“Palacio de Gafas(パラシオ・デ・ガファス「メガネの館」)”があります。店長の伊藤健さんの話によると1997年開店のとき、店の名前を決めるにあたっていろいろな言語で「メガネ」を意味することばを並べてみて、直感で一番気に入ったのがGafasだったそうです。

 ところでスペイン語で「メガネ」を意味することばは大まかに4つあります。“gafas(ガファス)”、“anteojos(アンテオホス)”、“lentes(レンテス)”、“espejuelos(エスペフエロス)”です。“anteojos”は“ante(まえ)”と“ojos(眼球)”で、目の前にあるものという意味です。

 もともとレンズは、太陽の光を集めて火をおこす道具として使われていました。レンズという名前は、レンズ豆という小さな豆の形に似ていることから付けられたと言われています。紀元前8世紀ごろに物を拡大して見ることに使われるようになりましたが、“lentes(レンテス)”も、つるにはめこまれているレンズが物を拡大するだけでなく、意味も拡大してメガネを指すようになりました。“espejuelos”は“espejo(鏡)”と語源を同じくするものと思われます。

(画像はクリックで拡大)
【写真2】
【図1】“lentes(緑)” “gafas(赤)”“anteojos(青)”“espejuelos(橙)”の推移

【図2】
【図2】
【図3】
【図3】

 Google books Ngram Viewer で “lentes”、“gafas”、“anteojos”、“espejuelos”の1800年から2000年までの推移を見てみますと1800年の頃にはレンズやメガネの普及とあいまって“lentes”が優位でした。ついで多かったのは“anteojos”です。ところが1990年以降“gafas”が“lentes”についで優勢です。“lentes”がトップである理由は、「メガネ」のほかに「レンズ」そのものを指す場合にも用いられるからです。

 Google books Ngram Viewerの結果を裏付ける図があります。【図2】と【図3】をご覧ください。“gafas”と“anteojos”を比べると、かつてスペインで使われていた“anteojos”は“gafas”に地位を譲っています。言語地図の赤○は「使っている」、青○は「使わない」、黄色は「準備中」です。移民たちが持ち込んだ古い形の“anteojos”が中南米に残っていることがわかります。(言語地図はA.Ruiz Tinoco2002-2014 VARILEXによるものです。)

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『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第294回 カレンダー2種(京都とミラノ)

2014年 3月 1日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第294回 カレンダー2種(京都とミラノ)

 今回は京都方言とミラノ方言のカレンダーを紹介します。どちらも方言をイメージしてレトロ調です。

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【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

 京都方言のカレンダー(株式会社第一紙行発行)は昨年末文具屋さんで見つけたものです。このカレンダーは、謄写印刷のようにかすれ、ムラを生かしたカレンダーです。1か月に一つ方言が紹介されていますが、小文字でその表現を用いた会話もあります。

 【写真1】は今年の5月で「どないしょ」です。下の隅に〈「どうすればいい?」を意味する京言葉。もちろん逡巡や挫折の質疑表現ではあるが、むしろ自問に近い。解決法は見えているが、その方法を採りたくないときに使う。〉と説明書きがあります。常識的な訳に加えて京都人の心理を説明しています。

 制作者は、『京都人だけが知っている』『京〈KYO〉のお言葉』などの著者入江敦彦氏です。シェークスピアの作品「ハムレット」の台詞で“To be or not to be, that is the question…”は有名な独白ですが、入江氏は「どないしょー、どないしょかなぁ。…どないしょォ?」と京都語(入江氏による)に訳しています。京都語には幅があり、また曖昧で、相手に解釈を預けてしまう言葉であると述べています(『イケズの構造』新潮社より)。5月がなぜ「どないしょ」なのかは「京都人だけが知っている」のでしょう。

 イタリアの方言カレンダーについては、第122回でトリノ周辺のピエモンテ方言の例がとりあげられました(『魅せる方言』三省堂 p.194)。【写真2】は、イタリアの輸入品を扱っている店で買ったものです。今回紹介するのはトリノから東へ約120キロ離れたミラノ(トリノから特急で1時間半)のロンバルディア方言のカレンダーです。

 イタリア語は大きく6つの方言に大別され、ミラノで話されている言葉はロンバルディア方言と呼ばれています。ロンバルディア州とトリノのあるピエモンテ州は隣接していますが、カレンダーを見比べると異なった点が見られます。第238回では10月がとりあげられていますので比較するためにロンバルディア方言のカレンダーも10月にしました。

 曜日の呼び方などに違いがあります。標準イタリア語(以下(標))で日曜日は、“Domenica”ですが、ロンバルディア方言(以下(ロ))では、“Domenega”, ピエモンテ方言(以下(ピ))では“Dumìnica”です。同様に水曜日は、“Mercoledì(標)” “Mercoldi’(ロ)” “Mèrcor(ピ)”、土曜日は、“Sabato(標)” “Sabet(ロ)” “Saba(ピ)”です。

 カレンダーの上の左から2つ目のコラムは10月にちなんだことわざです。 そういえば、沖縄の日めくりカレンダーにもことわざが書かれていました。“Se fà bell el di’ de san Gall, el fà bell finn’a Natal.(10月16日St.Galloの日がよい天気ならクリスマスまでよい天気が続くだろう)”と書かれています。

 カレンダー関連の記事は、第238回第205回第177回第170回にあります。

 ミラノのことばについて、浦安市の山口瑠美さんに情報をいただきました。お礼を申し上げます。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。

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この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第289回 手書きに見える“外来語”の地域差

2014年 1月 25日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第289回 手書きに見える“外来語”の地域差

 今回は、“外来語”の発音について地域差があるという話です。なかなかふだんは気づかないのですが、手書きの表示を見ると“外来語”をどのように発音しているかがわかります。ハンドバッグを例にあげて見ていくことにしましょう。

(画像はクリックで拡大)
【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

 浅草にある「ほそいハンドバック店」は80年続いているバンドバッグの専門店です。ほそいハンドバック店に入ると、【写真1】のような表示があります。店主直筆とのことです。ご主人に伺ったところ昭和初期に創業したとき「ハンドバック」という言い方が一般的で、今もそれを引き継いでいるとのことでした。

 実際に各地をまわってみると、「ハンドバック」の表示は、東京都内では、下町とその周辺を含む浅草や上野【写真2】などに多く、山の手は「ハンドバッグ」が多いです。住宅地に隣接して発展した比較的歴史のある商店街にも見られます。東京ミッドタウンと五つ星ホテル6か所のブティックには「ハンドバック」の表示はありませんでした。山手線の外側の新興地域で駅構内の臨時キオスク、ショッピングモールの中にある小売店で「ハンドバック」を見かけることもあります。

 【図1】は、「ハンドバック」と「ハンドバッグ」の表示について、地方公共団体のホームページ(lg.jp)で調べた結果です。「ハンドバック」と「ハンドバッグ」は、消費生活相談、遺失物届け、ひったくりなどの犯罪情報、防虫剤、インターネットとりひきによるトラブル、求人などさまざまな記事の中で使われています。

 東京都内の「ハンドバック」の使用率は、山の手の地域に少なく、その周辺の地域に多くなっています。ここで言う下町は、山手線の外の東側を中心とした地域です。戦後住宅地として広がった山手線の外の西側は、北部と南部に分けると特徴が見えます。山の手ことばと下町ことばの意識は、地域的にもはっきり分かれています(『東京都言語地図』)。【図1】を見ると、山手線西側には、下町の言語意識に通じるものがあると考えられます。

 地方公共団体のホームページ(lg.jp)については、『ことばの散歩道』(井上史雄著 明治書院、2013)を参照しました。

【図1】地方公共団体のホームページによる「バンドバック」と「ハンドバッグ」の地域的比率
【図1】地方公共団体のホームページによる「バンドバック」と「ハンドバッグ」の地域的比率

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『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第284回 ブラジルの日本語(Japanese in Brazil)

2013年 12月 14日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第284回 ブラジルの日本語(Japanese in Brazil)

 今回は、海を渡った日本語の話です。「ブラジルの日本語」もグローバルに見れば「方言」に入ります。日系人社会で継承されている日本語は「コロニア語」と呼ばれ、表記、意味、文法などに特徴が見えますが、ほとんどが買えない方言(第202回参照)です。

(画像はクリックで拡大)
【写真1】
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【写真2】
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【写真3】
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【写真4】
【写真4】
【写真5】
【写真5】
【写真6】
【写真6】

 「バーガあります」【写真1】はハンバーガーの話ではありません。ポルトガル語の“vaga(ヴァガ)”は「空き(vacancy)」の意味で、つまり「空室があります」という意味です。街の通りを歩いていると“aluga-se vagas(アルガセ ヴァガス)(rent the vacancy)”などという表示も見られます。

 ブラジル日本文化協会を訪れると身分証明書の提示を求められます。身分証明書は、日系人の間では「ドクメント」【写真2】です。日本語の外来語では「ドキュメント(document)」ですが、ポルトガル語の“documento(ドクメント)”を日本語に借用しています。

 次の例は「ペンソン(pensão)」【写真3】です。日本語ではペンション(pension)です。西洋風の安宿あるいはゲストハウスを意味します。「ペンサオ」と表示されることもあります。“são”のポルトガル語の発音は「ソン」より「サオ」に近いのですが、「サオ」と表示すると日系人の中でわからない人がいると思われます。一方、「ソン」は「サオ」に比べると「ション」に近いので「ペンソン」に落ち着いたのでしょう。

 以上は「ブラジルの日本語」が日本の日本語と違った例です。次は日本語のおかげでブラジルのポルトガル語がポルトガルのポルトガル語と別になった例です。

 ハロウィーン(Halloween)といえばかぼちゃですが、ブラジルのかぼちゃは“Cabotia(カボチャ)”【写真4】と表記されます。これは日本人移民が日本種を持ち込んで生産率をあげた証の一つとのことです。ポルトガル語で「かぼちゃ」を意味する“moranga(モランガ)”や“abóbora(アボボラ)”も併用されています。本来のブラジルのかぼちゃはすいか(大)のように大きいので、日本人移民が持ち込んだ品種と異なります。“Cabotia”の写真【写真5】を参考にご覧ください。これなどは、新しい物と名前がそのままポルトガル語に借用された例です。

 “KIOTO(京都)”【写真6】は、サンパウロの土産物店兼不動産屋ですが、オーナーは日系人です。Google Ngram Viewerで英語表記について見ると、“KIOTO”という表記は、1881年をピークに1970年代以降はほとんどなくなっています。一方、“KYOTO”は、1890年代から徐々にはじまって1932年をピークに現在に至っています。英語の表記では“KIOTO”のほうが古い表記です。スペイン語では「京都」は、“KIOTO”と表記されます。ポルトガル語で“QUIOTO”と表記されることもあります。

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『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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地域語の経済と社会 第279回 English in Sri Lanka(スリランカの英語)

2013年 11月 9日 土曜日 筆者: 山下 暁美

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第279回 English in Sri Lanka(スリランカの英語)

 スリランカでは日常的に多くの言語が併用されています。スリランカの公用語は、シンハラ語とタミル語ですが、教育機関、行政機関などでは、英語が使用されています。アジアの英語は、アメリカ英語の影響が強い地域と、イギリス英語の影響が強い地域に区分されます。スリランカは、1796年から1948年までイギリス領の時代を経て独立しました。そのためスリランカの英語は、イギリス英語の影響を強く受けた方言と考えることができます。

【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】
【写真3】
【写真3】

 今回は、車に関連することばを集めてみました。最初の例は三輪自動車 (three-wheeled vehicle)を指すことばです。“three wheeler (スリーウィラー)”、トゥクトゥク、オートリクシャと呼ばれます。コロンボには“Metered Taxi【写真1】”もあります。なかには“Air Meter Taxi”と表示しているものもありますが、“Meter”を強調している点で共通しています。窓がないわけですから、“Air”が示すとおり十分すぎるほど外気(?)を顔面にあびることになります。スリランカで、ドア付、窓付、冷房付きの四輪タクシーは、タクシーと呼ばれています。

 なぜ“Metered”をつけるのかについてはわけがあります。このタイプの乗り物は、乗る前に料金交渉が必要で、交渉のじょうず、へたによって料金が異なります。メーターをつけて公正な料金で走ることを強調し、庶民の交通機関として生き残りをかけていると考えられます。

 タイでは、トゥクトゥク(tuk tuk)、サムローと呼ばれています。トゥクトゥクは、エンジン音が「トゥクトゥク」と聞こえたことから名付けられたと言われています。インドでは、オートリクシャ(auto-rickshaw)と呼ばれるなど、各地で呼び名が変わります。リクシャは日本語「人力車」が語源とされています。日本ではオート三輪と呼んで、1950年代まで貨物用に使われていました。

 “Filling Station【写真2】”は、ガソリンスタンド(和製英語)です。アメリカ英語ではgas stationです。地元の人の話によると、スリランカで“Filling Station”と呼ばれるガソリンスタンドは、国産のガソリンを扱う古くからある有人ガソリンスタンドです。外資系のガソリンを扱っている比較的新しいところは、gas stationと言うことが多いとのことでした。

  “Car Park【写真3】” は、駐車場を意味することばです。主にイギリス英語で用いられています。Google maps やGoogle trendsで見ると“Car Park”はイギリス、“Parking Lot”はアメリカを中心に分布していて、波及の状況を確認することができます。日本では、東日本で「パーキング」、西日本の一部で「モータープール」と呼んでいます(第132回参照)。駐車場を意味する世界の英語には、car park, park, parking area, parking lot, motor poolなどがありますから、語形をもとに世界言語地図を描くことができます。

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『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
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専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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