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地域語の経済と社会 第86回

2010年 2月 13日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第86回「方言看板・ポスター『類』」

 この連載で紹介している,方言の拡張活用の種類について,第31回で整理しました。その⑥を,道徳啓発のための非営利的な方言の利用の「方言看板・ポスター」としました。この種のものはほとんどが,看板やポスターを伝達媒体としているからです。

 この連載でも,これまで5回,紹介しています。第8回(交通安全:大分)第24回(自転車・バイクの通行/歩きたばこ禁止:京都)第43回(自転車の通行:福岡)第63回(飲酒運転防止:宮崎)第78回(安全運転:宮崎)です。

【写真1】レシートの裏のメッセージ
【写真1】レシートの裏のメッセージ
(クリックで全体を表示)

 そういうなか,看板やポスター以外による道徳啓発の方言活用の例がありました。今回は,まず,これを紹介します。

 岩手県で不正軽油防止を呼びかける「絶対わがね! 不正軽油」です【写真1】。ガソリンスタンドの「レシートの裏面」を利用しています。レシートは,幅5.6cmの,スーパーなどでも使っているごく普通のものです。小さいですが,そのメッセージが一人一人に行き渡りますね。

 メッセージのうち,「わがね」のところが,岩手県盛岡市あたりの方言です。意味は「ダメ」です。

 元は,「わからない」です。東北地方の方言で,「ダメ」の意味でよく使われる表現です。

 それがこの方言の音韻の特徴(詳細はここでは省きます)により,[ワガンネァー]から[ワガネ]と変化したものです。

【写真2】自殺防止キャンペーンのポスター
【写真2】一人じゃありませんよ。
(クリックで全体を表示)

 今回,レシートを伝達媒体とする方式が確認されましたので,「看板・ポスター」に『類』を加え,この種のものを,「方言看板・ポスター類」と呼ぶことをあらためて提案します。

 岩手の「方言看板・ポスター類」には,最近(2009年12月)出たものがあります。道徳啓発としては少々重いテーマですが,自殺防止キャンペーンのポスターです【写真2】。

 メッセージは「おめはん 一人じゃながんすべ」で,岩手県盛岡市あたりの方言です。意味は「あなたさん,一人じゃありませんよね(あるいは)一人じゃないんでしょ」です。

 「おめはん」は「お前さま」の転で,岩手の方言では,丁寧語また尊敬語の第二人称代名詞です。「ながんす」は「ない」の丁寧表現です。「がんす」は岩手の丁寧表現法として,第21回第66回第61回の〔補遺〕),第81回で紹介しています。「べ」は「べー」で,ここでは確認の用法です。この方言の音韻の特徴により短音化しています。

 自殺防止での方言利用は,方言で語りかけることが,人の心を解きほぐす効果が特に大きいからですね。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第81回

2010年 1月 9日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第81回「ケセン語メッセージ」

 あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

 さて,岩手県の太平洋沿岸地帯の南端部は,以前,「気仙(けせん)郡」でした。現在の行政区域では,釜石市唐丹(とうに)町・気仙郡住田町・大船渡市・陸前高田市です。場所を地図で確認してください。

よくいらっしゃったねぇ
【写真1】よくいらっしゃったねぇ
またいらっしゃいよ
【写真2】またいらっしゃいよ

 今回は「ケセン語メッセージ」を紹介します。

 「ケセン語」とは,大船渡市の医師で方言研究家の山浦玄嗣(やまうらはるつぐ)さんによる,この地域の方言の呼び方です。日本語の中の「気仙方言」ではなく,別言語というわけです。この文章も,山浦先生の呼び方に合わせます。

恋し浜
【写真3】恋し浜
(クリックで全体を表示)
遠野の「~がんせ」
【写真4】遠野の「~がんせ」

 ケセン語メッセージは,三陸鉄道に2例あります。「三陸さぁ よぐきゃんしたねぇ!」(三陸に,よくいらっしゃったねぇ)【写真1】と「三陸さぁ まだきしゃっせんよ!」(三陸に,またいらっしゃいよ)【写真2】です。

 「三陸」と言っても広いのですが,ここでは「気仙地域」を指しています。三陸鉄道には,ケセン語の地域を走る「南リアス線」のほか「北リアス線」がありますが,この両メッセージは,北リアス線の地域では聞かれない,ケセン語の表現です。南リアス線の一部の車両に掲示され,両方とも大船渡市の国立公園内の有名な景勝地の写真が使われています。

 また,大船渡市の「恋し浜」(こいしはま)駅にもあります。「寄ってがっせんやぁ~ 恋し浜駅」(寄ってらしてくださいな 恋し浜駅)【写真3】です。

 「がっせん」は「ございませ」(「ございます」の命令表現)に由来します。同じ由来から,日本語(?)岩手県盛岡方言や遠野方言では「がんせ」【写真4】,岩手県宮古方言では「がん/がーん」となります。

 「がんせ」の終止形が「がんす」で,第21回の「がんすけどん」のもとです。

駅誕生のとき詠まれた短歌
【写真5】
(クリックで拡大)

 なお,「恋し浜」駅は,以前は「小石浜」駅でしたが,駅名(表記)を昨年2009年7月20日に改めました。新しい表記は,駅誕生のとき(1985年),それを祝って地元住民が詠んだ短歌「三鉄の 愛(藍)の磯辺の 小石(恋し)浜 かもめとまりて 汐風あまし」【写真5】にちなんだものだそうです。

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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

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地域語の経済と社会 第76回

2009年 11月 28日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第76回「出雲弁」

「だんだん」=ありがとう(松江市)
【写真1】「だんだん」=ありがとう(松江市)
思い出に「だんだん」(奥出雲町)
【写真2】思い出に「だんだん」(奥出雲町)
(クリックで他の例も表示)
「レンタカーあーよ」(松江市)
【写真3】「レンタカーあーよ」(松江市)
「八百万の神にも出雲弁で」(出雲市)
【写真4】「八百万の神にも出雲弁で」(出雲市)
「方言菓子『だんだん』」
【写真5】「方言菓子『だんだん』」
(クリックで他の例も表示)
「松江市営『出雲弁バス』」(松江市)
【写真6】「松江市営『出雲弁バス』」(松江市)
(クリックで他の面も表示)

 今年は,松本清張生誕100年です。清張の長編小説『砂の器』は,現在の島根県奥出雲町の方言が被害者の手がかりとして使われました。(ただし,注意すべき部分もあります)

 島根県の出雲弁における言語の商業的利用についてご紹介しましょう。

[1]「だんだん」。
NHKの朝の連続テレビ小説の題名にもなりました。「ありがとう」の意です。第71回の「おしょうしな」も「ありがとう」でした。この意味の方言は,商業的利用がしやすいようです。たくさんありました。メッセージ【写真1】はもちろんのこと,方言ネーミング【写真2】にも多く使われています。

※「奥出雲古民家暖々」では,案内の方から「ヨージンシテ」(お気を付けてどうぞ)と出雲弁で送られました。直接話していただいて「だんだん」という気持ちです。

[2]方言メッセージ(「だんだん」以外のもの)。
松江駅前のレンタカー営業所の「レンタカーあ~よ 借りに来ないやぁ」【写真3】と,出雲大社の「知っちょなはーますか?」(知っていらっしゃいますか?)【写真4】です。文によるものなので,この方言の感じが伝わりますね。

[3]方言菓子。
各地にある,方言の印字された菓子です。クッキーとまんじゅうです【写真5】。クッキーには8種の方言が印字され,共通語訳も付いています。

 えなげな(へんな),おんぼらと(ほのぼのと),たばこする(休けいする),だんだん(ありがとう),ちょんぼし(少し),ばんじまして(夕方になりました),ほんそご(かわいい子),まめなかね(元気ですか)

[4]松江市営“出雲弁”バス。
「だんだん」のほか,車体の左右と後方に,方言がたくさん書かれてあります。圧巻です【写真6】。

 

《謝辞》今回の【写真4】は,樋渡登先生(都留文科大学教授)よりご提供いただきました。ここに記しまして感謝の意を表します。

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コアラのマーチ
【写真7】(クリックで拡大)

〔補遺〕

 第66回「世界最小の方言グッズ」の関連する例を補足します。

 ロッテ「コアラのマーチ」です。

「おおきに」と書かれて【写真7】,箱の差込(外からは見えない)に解説が付けられてあります。

 ちなみに,どの箱にも入っているのでなく,なかなか出逢えません。(私の場合,5箱目に2箇入っていました。差込とも関連はしていないようです)

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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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地域語の経済と社会 第71回

2009年 10月 24日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第71回「『天地人』は米沢に」

おしょうしな-1
【写真1】おしょうしな-1
(クリックで他のも表示)
おしょうしな-2
【写真2】おしょうしな-2
(クリックで他のも表示)
「そんぴん」焼酎
【写真3】「そんぴん」焼酎
(クリックでラーメンも表示)

 今年のNHK大河ドラマ『天地人』の主人公・直江兼続が仕えた上杉家は,2度の領地替えで,現在の山形県米沢に移りました。直江の有名な「愛」の兜の甲冑も米沢市の上杉神社内に保存されています。

 今回は,その米沢での方言の商業的利用の,代表的なものを少し紹介します。

[1]「おしょうしな」。「ありがとうございます」の意で,商店の方言メッセージなど,米沢の街の中に多く使われています【写真1】【写真2】。

 語源は「お・笑止・な」です。相手に素晴らしいことをしていただき,「恐縮で笑いなど出ない」という意識からでしょう。「お」は丁寧の接頭辞,「な」は終助詞です。

 「笑止」は,一つの語源からいろいろな意味になった例です。新潟や東北では「恥ずかしい」の意で使用され,「ショーシー」「ショシー」「オショシー」「ソースー」その他の語形があります。米沢でもこの意味で「ショーシー」と言います。

 江戸時代の京都方言で「ショーシ」は,「気の毒な」「かわいそう」の意味でした。

上:伝國の「あがやえ」/下:「べこや」新ロゴ
【写真4】上:伝國の「あがやえ」/
下:「べこや」新ロゴ
(クリックで「べこや」旧ロゴも表示)

[2]「そんぴん」。語源は「損貧」で,損をしても貧しくなっても自分の意志を変えない「頑固」の意です。上杉武士の気質を表す語です。焼酎やラーメンに使われています【写真3】。ラーメンでは,米沢は内陸部で海から遠いのに,海産物をトッピングし,「頑固」転じて『へそ曲がり』ということです。

[3]『米沢牛』(高級ブランド牛として有名)のお店2軒【写真4】。

[3-1]「あがやえ」。上杉神社前の焼肉店「伝國」のメッセージで,「召し上がれ」の意です。店名は,第9代藩主上杉鷹山の『伝國の辞』(3ヵ条の藩主心得)が元です。

[3-2]「べこや」。米沢駅前の焼肉店の店名。「べこ」は牛のことで,方言ネーミングの店名です。今年,お店はリニューアルし,ロゴも変わりました。

あいべ
【写真5】あいべ
(クリックでメッセージも表示)
方言のれん
【写真6】方言のれん
(クリックで方言番付も表示)

[4]「あいべ」。施設名の方言ネーミングです。「あいべ」【写真5】は,「(いっしょに)行こう」の意で,名まえ自体が誘いのことばになっています。東北の他地方では,似た語形・意味で「あべ」などと言います。この施設には,「負けてはならぬ……気合いだべ」「よってってくだい」の方言メッセージもあります。

[5]方言みやげ他。米沢方言の,方言のれん,方言手ぬぐいがあります。米沢駅には,方言番付がありました。【写真6】

《謝辞》米沢観光物産協会におかれましては,「おしょうしなガイド」の取材に関して特別のご厚誼を賜りました。ここに記しまして感謝の意を表します。

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『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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地域語の経済と社会 第66回

2009年 9月 19日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第66回「世界最小の方言グッズと方言メッセージ」

(画像はクリックで拡大します)
大阪弁おみくじ綿棒
【写真1】大阪弁おみくじ綿棒
東北弁綿棒
【写真2】東北弁綿棒

 方言をグッズやメッセージに出すとき,たいていは方言を大きく示します。そういうなか,今回は,大かたとは異なる発想からの,小さいものに小さく示す,方言グッズと方言メッセージを紹介します。

 一つめは,方言グッズ「方言綿棒」です。株式会社山洋(大阪府富田林市)の製品で,「大阪弁おみくじ」【写真1】と「東北弁」【写真2】です。綿棒1本1本の全部に方言が記載されています。綿棒の長さは7.8cm(軸は5.5cm),軸の直径は2mmです。この小ささから「世界最小」としました。両方とも1筒110本入りです。

 1回使い切りで,第51回第56回で紹介した「方言日用品」の仲間でもあります。

 「大阪弁おみくじ」は,42種類の大阪弁の表現が「おみくじ」の吉凶度に合わせてあります。10種類ここで紹介します。42種類全部は,ぜひ現物でご覧ください。

超吉:あんた今日は最高の日やで!/大大吉:調子のりまっせ!いきりまっせ!/大吉:ごっつうええやん!/中吉:おおきに!おおきに!/小吉:こんぐらいが一番やねん/小吉:たのむでしかし!/吉:ぼちぼちでんな~/凶:あきまへんわ!/大凶:えらいこっちゃ!/大大凶:さぶいぼ(鳥肌)たってきた!

 「東北弁」は,28種類(青森,岩手,山形,福島:各5,秋田,宮城:各4)の方言の文に県名と共通語訳が付いています。各県から1種類ずつ紹介します。( )内は「軸に書いてある『標準語』」です。

青森:な、どさえぐ?ゆさ(あなたどこへ行くの?お風呂にいってくる)/岩手:てづびんで、めーおじゃっこ飲めじゃ(南部鉄でおいしいお茶はいかがですか?)/秋田:泣ぐごはいねぇが~(泣く子はいないか~〔なまはげ〕)/宮城:歯にとうきび詰まっていずいなや(歯にとうもろこしが詰まって違和感があるなぁ)/山形:あんめぐて、んめさくらんぼ(あまくておいしいさくらんぼ)/福島:めんこい赤べご いんねいがい。(ユラユラかわいい赤べこ欲しいでしょう)

おこしやす
【写真3】おこしやす

 もう一つ方言メッセージで,箸帯(日本料理店で箸を束ね結ぶ紙)に出された「おこしやす」【写真3】です。京料理の店,美濃吉(みのきち)のものです。「おこしやす」は,「いらっしゃいませ」(注)の意味です。箸の幅と比べて考えますと,その小ささが分かり,やはり「世界最小」としました。小さくても,お客様に必ず見てもらえますね。

 (注)京都のお店のなかには,迎えのあいさつを,常連客には「おこしやす」,初めての客には「おいでやす」として,区別しているところもあると言われます。

 今回紹介した「東北弁綿棒」は,私のゼミの学生が見つけて教えてくれたものです。

 皆さんも,小さい方言グッズを見つけましたら,どうぞ,私たちに教えてください。

《謝辞》
株式会社山洋におかれては,製品の提供に特別の便宜を計ってくださいました。深く感謝の意を表します。

駅長さんから
【写真4】駅長さんから

〔補遺〕
 第61回アップ後に記録した「みちのくの夏のメッセージ」を付け足します【写真4】。「しゃっけぇ麦茶っこ どうぞ飲んでがんせ」,意味は「冷たい麦茶,どうぞ飲んでください」です。場所は,岩手県の遠野駅です。待合室に置かれた冷水サーバーに大きく書かれています。

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地域語の経済と社会 第61回

2009年 8月 15日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

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第61回「みちのくの夏」

(画像はクリックで拡大します)
「馬こ」(上)と「さんさ」(下) 盛岡弁うちわ
左:【写真1】「馬こ」(上)と「さんさ」(下)
右:【写真2】盛岡弁うちわ
宮古駅の「氷柱」 宮古弁大漁旗
左:【写真3】宮古駅の「氷柱」
右:【写真4】宮古弁大漁旗

 歓迎の方言メッセージには,季節ごとのバージョンもあります。第41回の岩手県JR盛岡駅の「よぐおでんした」は,ちゃぐちゃぐ馬こ(6月),さんさ踊り(8月)でディスプレーを変えます【写真1】。

 そのなかで今回は,夏だけに出す方言メッセージを紹介します。

 盛岡駅では,駅ビル「フェザン」2階入り口のうちわ【写真2】です。メッセージは「よぐおでんした」で,朝顔そして風鈴とともに出され,夏らしさを演出しています。

 もう一つは,岩手県JR宮古駅待合室の,夏の名物,夏の花(日替わり)入り「氷柱」【写真3】です。下の方に「みやこにようおでんした」(宮古によくいらっしゃいました)と方言メッセージがあります。

 なお,JR宮古駅には,一年中出されていますが,見る人には「海」→「夏」を思わせる歓迎メッセージがあります。大漁旗【写真4】です。もちろん,このメッセージのために特別に作ったものです。駅の各所に掲げられ,デザインやメッセージは皆異なり,見る人を飽きさせません。

 皆さんのお住まいの地方にも,季節ごとのメッセージがありましたら,どうぞ,私たちに教えてください。

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地域語の経済と社会 第56回

2009年 7月 11日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第56回「方言付きの食品」

 第51回で,「日用品の方言グッズ」つまり「みやげ」でない「方言グッズ」(ティッシュとトイレットペーパー)を紹介しました。今回は,その親戚のような商品を紹介します。

(画像はクリックで全体を表示)
「べごっこコーヒー」(宮城県~岩手県) 納豆「彩黄金(あやこがね)」(宮城県) 「これが博多の餃子たい」(福岡県)
左:【写真1】「べごっこコーヒー」(宮城県~岩手県)
中:【写真2】納豆「彩黄金(あやこがね)」(宮城県)
右:【写真3】「これが博多の餃子たい」(福岡県)

 それは,方言が付けられた食品です。みやげではない,日常の食卓に上がるもので,いくつもあります。今回は3点紹介します。

 コーヒー牛乳「べごっこコーヒー」(宮城県~岩手県)【写真1】,納豆「彩黄金(あやこがね)」(宮城県,萬歳食品)【写真2】,餃子「これが博多の餃子たい」(福岡県,八洋食品)【写真3】です。これらが「みやげ」でないことは,製品の性質からすぐに分かりますね。

 「べごっこコーヒー」の「べごっこ」は牛のことです。納豆はパッケージの中央に「おばんです」(こんばんは)のメッセージがあります。両方とも,東北の有名な方言ですね。餃子は商品名自体が博多弁であるとともに「これしかなかろうもん!」のメッセージも入っています。

 なお,納豆と餃子は,私の専属研究助手(妻:第51回でも登場)が見つけてきたものです。

「いぎなりうまい棒」(宮城県)「盛岡冷麺物語三品味くらべ」(岩手県)
左:【写真4】「いぎなりうまい棒」(宮城県)
右:【写真5】「盛岡冷麺物語三品味くらべ」(岩手県)
「いぎなり」は「とても」。『突然に』ではない「おあげってくなんせ」(めしあがってください)
左:【写真6】「いぎなり」は「とても」。『突然に』ではない
右:【写真7】「おあげってくなんせ」
(めしあがってください)

 東北地方の「方言みやげ」の食品も2点紹介しておきましょう。両方とも,観光みやげとしてパッケージされています。スナック菓子「いぎなりうまい棒」(宮城県)【写真4】と,「盛岡冷麺物語三品味くらべ」(岩手県)【写真5】です。「いぎなり」(とても)は,外箱に説明があります【写真6】。冷麺には,表の他,裏にも「おあげってくなんせ」(めしあがってください)のメッセージが入っています【写真7】。

 謝辞:株式会社サトーフード(岩手県盛岡市)におかれては,「盛岡冷麺物語三品味くらべ」を無償で提供してくださいました。ここに記して深く感謝の意を表します。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,諸方言の形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第51回

2009年 6月 6日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第51回「日用品の方言グッズ」

 この連載も前回が50回,今回から新たな50回となります。できるだけ回を重ねることができるよう,精一杯頑張りますので,みなさん,よろしくお願いします。

 さて,今回の話題は,「みやげ」でない「方言グッズ」です。

  この連載の題名(副題)のように,私たちは「みやげ」と「グッズ」の二つをひとまとめにして,「方言みやげ・グッズ」と呼んでいます(第1回また第31回で説明)。その理由の一つに,「みやげ」と「グッズ」の区別が付けにくい,ことがあります。

「とうほくのことば」ティッシュペーパー側面
【写真1】「とうほくのことば」
ティッシュペーパー側面
(クリックで全体を表示)
「とうほくのことば」ティッシュペーパー底
【写真2】「とうほくのことば」
ティッシュペーパー底
(クリックで全体を表示)
「とうほくのことば」トイレットペーパー
【写真3】「とうほくのことば」
トイレットペーパー
(クリックで全体を表示)

 そういうところ,私の専属研究助手~世間では「妻」と呼ばれます~が,「みやげ」でない「方言グッズ」を見つけてきました。

 「nacre」ブランドの,「とうほくのことば」と題されたティッシュペーパーとトイレットペーパーです。発売元は三菱製紙(家庭紙事業室,所在地:岩手県北上市)です。

 ティッシュペーパーは,『箱』の「側面」と「底」に東北地方の方言がたくさん載っています。このティッシュペーパーは,5箱1パックで,「側面」は5箱の長辺側の2面つまり10面に,各面3例ずつ計30例の方言が載せてあります【写真1】。

 また,「底」には,5箱共通で,東北地方6県各々の代表的な方言が,各県5例ずつ計30例,共通語の意味とともに一覧になっています【写真2】。

 トイレットペーパーは,12巻1パックで,そのパックのビニール外袋の2面に,1面6例ずつ計12例の方言が示してあります【写真3】。

 さらに,各県の象徴のイラストもあわせて載せられています。青森:リンゴ・ホタテ,岩手:南部鉄瓶・わんこそば,秋田:なまはげ・きりたんぽ,などです。

 これらは日用の消耗品ですし,また,上で述べたとおり,かなり『かさ』の張る商品ですから,製造者に,観光地でのおみやげにする意図はなく,地元の人に『ふるきよきふるさと』を思い出してもらいたい目的で製作されたものだというのはすぐに分かります。他社製品との差別化,という販売戦略のなかで,方言が採用されたのですね。

 「方言グッズ」には,こういう日用品もあるわけです。

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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,諸方言の形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

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地域語の経済と社会 第46回

2009年 5月 2日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第46回「『かきくけこ』―5文字で完結する観光の方言メッセージ―」

 ここ数回(第31回第32回第36回第37回第39回第41回,他)で観光の方言メッセージについてお話ししています。今回もこの話題です。

【写真1】
【写真1】「かきくけこ?」
(クリックで「ふるさとCM大賞」のページへ)

 今回取り上げるのは,「かきくけこ」【写真1】です。

 このたった5文字が,観光の方言メッセージになっています。

 発信元は岩手県山田町で,目的は観光客の「誘致」です。

 「かきくけこ」は,昨年からテレビCMで放映され,2008年度「ふるさとCM大賞」に輝きました。岩手朝日テレビウェブサイト内『ふるさとCM大賞』「2008年度受賞作品」のページ【写真1】(http://www.iat.co.jp/FurusatoCM/2008prize.html)から『実物』を見ることができます。年配の人たちが,「カキー,クーケーコー」と一部の音を延ばして発音して女の子(みさきちゃん)を呼びます。

【写真2】
【写真2】「カキまつり」のポスターに採用
【写真3】
【写真3】「カキまつり」のポスター(全体)
(クリックで拡大)

 その「かきくけこ」の意味は次のとおりです。

 「かき」は,牡蠣です。山田町は,岩手県の太平洋沿岸地帯の中部に位置し,牡蠣の養殖が盛んです。牡蠣や帆立の養殖棚で一面が覆われた山田湾は,なかなかに壮観です。

 「く」=「クー」は,(牡蠣を)「食う」ですね。

 「け」=「ケー」は,理由の「から」です。山田町や宮古市,久慈市など岩手県の太平洋沿岸部で使われる語法です。正確な発音は[ケァー]で,普通の[ケー]よりも広く口を開けます。

 「こ」=「コー」は,「来い」です。東北地方の太平洋側(岩手県・宮城県・福島県)で使われます。例えば,「コッツァコー」(こっちに来い)などと使います。

【写真4】
【写真4】山田町の基本型メッセージ(A)
(クリックで拡大)
【写真5】
【写真5】山田町の基本型メッセージ(B)
(クリックで拡大)

 以上より「かきくけこ」は,「(今から)牡蠣を食べるから,(あなたも一緒に食べに)来い」であることが分かります。

 CMでも,牡蠣を焼いている場面に「カキ食うけぇ来お(カキを食べるからおいで)」との解説も併せて入ります。

 また,つい最近も,「三陸山田かき祭り」のポスター【写真2】【写真3】(全体)に採用されています。

 「かきくけこ」は,私の担当回(第31回第36回第41回)で説明している,観光の方言メッセージの構成方式つまり『型』では,『応用型』です。

 なお,山田町は『基本型』もきちんと押さえてあります。2例紹介します~【写真4】【写真5】。いずれも,JR山田線「陸中山田」駅に掲示されている歓迎メッセージです。

 おめぁさんがど,いつど,やまださ きなさんせ。
 (みなさん,一度,山田へ いらしてください)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,諸方言の形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

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地域語の経済と社会 第41回

2009年 3月 28日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第41回「観光の方言メッセージの応用型・発展型」

 ここ数回(第31回第32回第36回第37回第39回,他)で観光の方言メッセージについてお話ししています。

 そのなかで私の回では,構成方式つまり『型』の観点から分類して見ていっています。

【写真1】
【写真1 馬っこと駅長さんが盛岡弁で歓迎】
(クリックで全体を表示)
【写真2】
【写真2 バスの「あねっこガイド」】
(クリックで全体を表示)

 第31回では,「いらっしゃいませ」もしくは「いらっしゃいました」の意の方言と,「地名」または「地名+『-へ』の方言」で構成されるメッセージを,『基本型』だと紹介しました。全国至る所で見ることができます。私どもで記録した例はおびただしい数にのぼっています。

 第36回では,第32回でも紹介された,観光の方言メッセージの原型「おいでませ山口へ」による各地の『基本型』について考えてみました。

 復習のため今回も例を示しましょう。岩手県のJR盛岡駅新幹線コンコースの歓迎メッセージ【写真1】は,典型的な例ですね。また,あねっこバスガイドの前掛け「よぐおでんすた」(岩手県盛岡市,「お」は手で隠れています)【写真2】は使い方のおもしろい例です。

【写真3】
【写真3 長いけど心が休まります】
(クリックで全体を表示)
【写真4】
【写真4 方言で全体を締めています】
(クリックで全体を表示)

 今回は,第36回で予告したとおり,観光の方言メッセージの“他の構成型”について考えます。

 『基本型』以外の,“他の構成型”には大きく分けて二つの種類があります。

 一つは,基本型をもとに,「他の内容」が多く加えられたものです。『応用型』と呼びましょう。「よぐ来たなはん ついでに、あちこちよく見でくなんせ」(よくいらっしゃいました。この機会にあちこちよく見てくださいな,掲示場所:岩手県JR盛岡駅新幹線コンコース)【写真3】などです。この例では「ついでに」以降の部分が,多く加えられた「他の内容」です。

【写真5】
【写真5 ちょー横長です】
(クリックで全体を表示)

 今一つは,「いらっしゃい」と「地名」による『基本型』とは根本的な組み立てが異なるものです。『発展型』と呼びましょう。「いってっみんべー」(行ってみよう,発信元:山形県天童市,掲示場所:山形県山形市山寺駅)【写真4】,「温泉さ入つて心も体もぬぐだまつぺえす」(温泉に入って心も体も温まりましょう,掲示場所:岩手県JR宮古駅,現地発音は[オンセンサ ヘァーッテ コゴロモ カラダモ ヌグダマッペァース])【写真5】などです。

 こう見てきますと,メッセージの『型』と目的は関連していることが判ります。『基本型』と『応用型』は,観光客の誘致と歓迎のどちらにも使っていますね。「いらっしゃいませ」の意のことばが両方に使えるからですね。掲示地点が,発信元から離れた地点なら誘致,発信元の現地なら歓迎になります。

 それに対して,『発展型』は勧誘また宣伝の目的になるようです。

 それと,「温泉さ…」の例は,第31回でお話しした《方向》の点で珍しいものです。この掲示は,先のとおりJR宮古駅にあり,発信元は,掲示地点の岩手県宮古市にある旅行業者です。宮古市は,陸中海岸国立公園の中心地ですが,この掲示は,そこを訪れた観光客への歓迎メッセージではありません。ここが珍しいところです。JR宮古駅を利用する《地域住民に向けたメッセージ》で,東日本や北海道各地の温泉地への旅行を勧誘しているのです。それを,宮古の方言で表現しています。

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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,諸方言の形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞

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