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地域語の経済と社会 第187回「いいじゃんくまもと」の方言借用 Dialect borrowing in “Ii-jan Kumamoto”
2012年 2月 4日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第187回「いいじゃんくまもと」の方言借用
Dialect borrowing in “Ii-jan Kumamoto”
羽田からのモノレールで、方言広告に気が付きました。
「いいじゃん天草 いいじゃんくまもと いいじゃん阿蘇」
と書いてあります。以下のような事情で、広告の原図が手に入りました。今は見られませんから、特別にお目にかけます【写真1】。
さて、「じゃん」は山梨(または愛知県三河)起源とされ、横浜から東京に伝わり、今全国に広がっています。広島では「ええじゃん広島」をキャッチフレーズにしていました【第27回】。「じゃん」はついに熊本にまで達したのかと思いました。
思いついて熊本県観光課をネットで探して、問い合わせました。熊本市シティプロモーション課で広告を出したことを教えてくれました。そこに以下のようなメールを出しました。
《「じゃん」を使ったのは、熊本で使っているからでしょうか、それとも羽田に近い横浜の方言として有名だと判断したのでしょうか。》
すぐに返事が来ました。
《主に首都圏で使われる表現ということで使用致しました。あえて当地域の方言を使用せず、広告を掲出する地域の方の共感を誘う手法を用いておりますため、首都圏の皆さまに向けて「いいじゃん」という表現を使用した次第です。》
広告などで別の地域の方言を借用する例は、この連載第153回、第175回でも扱われています。また、『日本語学』(2009年1月号)のエッセイ「ことばの散歩道」128回でも九州の「うまかんべ」と千葉の「うまか」を報告しました。
「方言リアリズム」が崩れたわけです。そういえば広島県宮島で「これは うまいじゃ しゃもじ」というお菓子を見つけました【写真2】。買ったあと店の人に聞いたら、「うまいじゃ」とは言わないそうです。でも広島めかした言い方だと考えればいいし、食べてみたらおいしかったから、許しましょう。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第182回 方言聖書(山浦訳)とグロータース神父 Dialect translation of The Bible (by Dr Yamaura) and Reverend Willem A. Grootaers
2011年 12月 24日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第182回 方言聖書(山浦訳)とグロータース神父
Dialect translation of The Bible (by Dr Yamaura) and Reverend Willem A. Grootaers
『ガリラヤのイェシュー』という本が出ました。新約聖書の訳です。全国各地の方言を使い分けて、当時の多言語状況を、生き生きと写しています。このシリーズで扱っている「見える方言」のうちの、方言本(第48回、第53回)の一つです。聖書は、文語訳より口語訳が分かりやすいのですが、それよりもこの方言訳は、中身に納得が行きます。【写真】のマルコ伝では、街の人は京都弁で、キリストの弟子ペトロは岩手県大船渡付近のケセン語で話しています。肝心のイエスキリストも「ガリラヤの里言葉」としてのケセン語を話します。
発行はイー・ピックス出版という会社で、インターネットで注文できます。
»»http://www.epix.co.jp/book-yamaura.html
この会社では、『ケセン語訳聖書』を朗読CD付きで出しました。東日本大震災の津波で倉庫が水につかりましたが、包装されていた聖書は無事でした。「お水くぐりの聖書」としてテレビにも登場し、ほぼ完売したようです。
著者の山浦玄嗣(はるつぐ)さんは熱心なクリスチャンの医師で、大津波の被害にもめげず、被災者の診察で大活躍しました。
方言研究とキリスト教というと、もう一人思い浮かびます。グロータース(Willem A. Grootaers)さんです。カトリックの神父が本業ですが、日本にキリスト教以外に方言地理学(言語地理学)も広めました。2011年は生誕100年にあたりますが、まったく偶然に三つの異なった言語での紹介文が書かれました。神の采配でしょうか。日本語の紹介論文「新日本語学者列伝 グロータース」(沢木幹栄)は、雑誌「日本語学」11月号に載っています。
他はインターネットで読めます。一つは英語で、インターネットジャーナルDialctologiaに載ったものです。
»»”First dialectologists Willem A. GROOTAERS”. (PDFファイル〔89.8KB〕)
もう一つはオランダ語で、以下で見られます。画像が多いので、中身の見当がつきます。オランダ語で書いてあっても理解できたという、満足感にひたれます。
»»Auwera (2011) “Belgische taalkundigen in de wereld”. (powerpoint2010ファイル〔7.7MB〕)
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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
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井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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地域語の経済と社会 第177回 沖縄方言カレンダー「琉球暦」
2011年 11月 19日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第177回 沖縄方言カレンダー「琉球暦」
Okinawan dialect calendar (Ryukyu-goyomi)
サンフランシスコの日本町に行ったら、沖縄物産の店があり、琉球暦(りゅうきゅうごよみ)を売っていました。これまで沖縄県では見たことがありません。このチャンスを逃したら入手不可能と考えて買いました。変わったアメリカみやげになりました。
日めくりですので、毎月繰り返し楽しめます。ところで沖縄方言の言い回しでポピュラーなものは、Tシャツなどでもよく見られるので、次のものだと思います。【写真1】
「なんくるないさぁー」
(なんとかなるさ)
支払いに追われる月末にふさわしいのは確かですが、31日なのは残念です。1年間に、大の月の7回しか目にしないわけですから。
ことばについての言い回しもいくつかあります。その一つは象徴的です。【写真2】
「うまれじまの くとぅば わしんねー くにん わしゅん」
(生まれ島の言葉忘れたら国も忘れる)
今まさに沖縄で起こっている現象で、若い人は方言を使えず、学校で復活運動をやっているくらいです。かつては琉球王国だったという意識は、もう消えているでしょう。
ほかにさまざまなことわざや警句が沖縄方言で書いてあります。共通語訳もついていますから、くらべながら読むと、勉強になります。沖縄方言は母音の数が少なく、また文法もかなり違うが、語順は本土方言と変わらないことも、見当がつきます。方言集だと単語だけなので、文全体がどれくらい違うのかが分からないのですが、このカレンダーは沖縄方言の特徴全般を知るのに役立ちます。
カレンダーの最後をよく見たら連絡先が書いてありました。アメリカに行って買う必要はありません。
日本ビジネスサポート 0120-338-633
ryukyugoyomi@nbiz-support.jp
また以下のページでも紹介されています。http://www.rakuten.co.jp/ryukyu-goyomi/
なお方言カレンダーは大阪のもあります。イタリアのは第122回で紹介しました。
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井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
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「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
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地域語の経済と社会 第172回 関西弁「はんなり」のグーグルインサイト世界分布
2011年 10月 15日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第172回 関西弁「はんなり」のグーグルインサイト世界分布
Global distribution of Kansai dialect “hannari” by Google insights
「はんなり」は京都弁として有名になりました。本来は「落ち着いたはなやかさ」を表わすことばだそうです。インターネットの「グーグルマップ」Google mapsの機能を活用して、アルファベットの“hannari”で検索すると、関西だけでなく全国各地で使われることが分かります。
【図1】には出ていませんが、沖縄にもう1箇所あります。また範囲を世界に広げると、アメリカの店名や、「hannari tofu」で使われていることが分かります。関西方言が今や海外の店名などに進出しているのです。「OKINI」「MAIDO」も海外で使われます(第127回参照)。
「グーグルインサイト」Google insightsは、もっと強力です(第167回参照)。使われ方が色の濃さで出るだけでなく、グラフに最近数年間の推移が出るのです。アルファベットの“hannari”で検索すると、【図2】のように日本とアメリカの使用がくっきり出ます。また【図2】上のグラフで、青線の“hannari”が2007年に現れ、2008年に急増したことが分かります。赤線のひらがなの「はんなり」も2008年に急増しました。最近の方言進出が示されています。
国内の分布を見るグーグルマップは「鳥の目図」(鳥瞰図)といえますが、過去までさかのぼり未来まで予測するグーグルインサイトは「魔女の目図」といえます。
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井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
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井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第167回 グーグルインサイトによる「キャンディーバー」と「チョコレートバー」―英語の世界的方言差の活用―
2011年 9月 10日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第167回「グーグルインサイトによる「キャンディーバー」と「チョコレートバー」―英語の世界的方言差の活用―」
“Candy bar” and “chocolate bar” by Google insights―Utilization of global dialectal differences of English language―
アメリカ英語とカナダ英語の違いについての発表がありました。その一語についてグーグルインサイトGoogle insightsで世界地図を作ってみました【図】。発表のとおり、アメリカでは“candy bar”が多く、カナダでは“chocolate bar”が多いのですが、実は世界的な差で、アメリカ英語とイギリス英語の違いだと分かりました。
また画面左上の折れ線グラフで近年の使われ方を見ると、“candy bar”が減って、二つの言い方の線が近づいています。ただし将来予測としては“chocolate bar” が衰えるように読み取れます。
グーグルマップでも世界地図を作りました。店の写真で、店名に活用されていることが分かります。グーグルストリートビューに飛ぶと、町並みも見えます。また“Candy bar girls”というイギリスの女性タレントグループが最近売り出したようです。アメリカ英語的な言い方を活用したわけです。
ただ用心が必要です。インターネットで画像を検索すると、実物が違います。“chocolate bar” では、板チョコの写真が出ます。一方“candy bar” では、キャンディーが出ます。
インターネットを上手に使うと、世界の方言差が分かります。グーグルインサイトの説明は、以下にあります。
http://www.google.com/insights/search/
グーグルインサイトの活用例は第162回、グーグルマップの使い方は第127回に出ています。また以下の論文もあります。井上史雄「Google言語地理学入門 Introduction to Google Linguistic Geography」『明海日本語16』(リンク先はPDF)
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井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
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地域語の経済と社会 第162回 「ザンギ」のグーグルインサイト全国分布
2011年 8月 6日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第162回「「ザンギ」のグーグルインサイト全国分布」
Nationwide distribution of “zangi” according to Google insights
ザンギは北海道特有で、「鶏カラ揚げ」のことです。2010年に某ファストフードでザンギバーガーのセールをやっていました【写真】。

【写真】
全国の使われ方を見るには、グーグルインサイトが便利です。下図のように、全国地図が県別で出て、ザンギが北海道に多いことが分かります。また、使われ方の変化も折れ線グラフに出ます。少しずつ増えて、2010年秋に急に増えたのが分かります。
グーグルインサイトは方言調査の新手法です。方言差があるか気になることばを検索すると、すぐに地図が出ます。世界地図も作れます。面白い地図が多すぎて、公表の機会が追いつきません。検索で使われたことばのデータなので、よく使われる言い方でないと方言地図が出ないのが難点です。
グーグルインサイトの使い方は、以前に紹介したグーグルマップとほぼ同様です。グーグルマップの使い方は第127回に、活用例は第132, 137, 142, 154, 157, 159回に出ています。また以下の論文にも載っています。
井上史雄「Google言語地理学入門 Introduction to Google Linguistic Geography」『明海日本語16』(リンク先はPDF)
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「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
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地域語の経済と社会 第157回 勧誘・もてなしの方言「なんしょ」のグーグルマップ全国分布
2011年 7月 2日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第157回「勧誘・もてなしの方言「なんしょ」のグーグルマップ全国分布」
Nationwide distribution of performative expressions “nansho” by Google maps
このシリーズ第155回長野県の「もてなしの方言」には見覚えがあります。グーグルマップで調べました。「なんしょ」を引くと、まずその名の店が出ます。図1左の例をよく読むと、クチコミの使用例が多く、東京付近では「なのでしょう」を縮めた「なんしょ」が使われ、関西では「何しよる」の変化「なんしょん」が使われます。この際無視しましょう。もてなしの方言の「おいでなんしょ」や「~てくなんしょ」は、長野県南部以外に、福島県と九州の一部で使われていると、分かりました。
似た言い方の「らんしょ」のグーグルマップ日本分布図をみると(井上2011「Google言語地理学入門 Introduction to Google Linguistic Geography」『明海日本語16』PDF)、福島から静岡にかけてで、使用地域はやや狭いです。

【図2 図1左の例部分の拡大】
日本語の歴史をみると、①古代には目上にも目下にも動詞の命令形を使っていました。②中世に目上に動詞の敬語の命令形を使うようになり、③今は「てください」「てもらえませんか」などを付けた、長い間接的な表現が使われます。「なんしょ」は、②の敬語の命令形で、古い言い方が方言に残ったものです。店や施設で人を呼び込むための表現として、各地でこの類の方言が再活用されています。勧誘・もてなしの方言も、全国を見渡し、日本語の歴史とからめると、新たな位置づけができます。
グーグルマップで、日本中、世界中のことばの使い方が分かります。グーグルマップの活用法は第127回に、活用例は第132, 137, 142, 154, 159回に出ています。
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地域語の経済と社会 第152回「台湾方言(閩南語)の書き方2種」Two ways of writing Taiwanese dialect
2011年 5月 28日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第152回「台湾方言(閩南語)の書き方2種」
Two ways of writing Taiwanese dialect
台湾の言語事情は複雑です。電車(台北捷運MRT)の車内アナウンスの4言語が象徴的です。①「国語」としての中国語(北京語)のほかに、②閩南(ミンナン、ビンナン)語(福建語・ホーロー語とも)、③客家(ハッカ)語、④英語が使われているのです。録音を聞いてください。善導寺(Shandao temple)駅です。
北京語は戦後国民党政権がもたらしました。閩南語が一番多く使われ、「台湾語」とも呼ばれます。客家語は中国南部から移住した人々のことばです。北京語が標準語・共通語だとすると、閩南語は、台湾の代表的方言と言えます。北京語と発音が違っていて、漢字で表わせないことばもあります。
そこで書き方に工夫をこらしているのですが、その一つがアルファベットの活用です。【写真1】のように、中華料理店のメニューや八百屋の値札には「A菜」と書いてあります。食べたらすなおな味でした。漢字で書けば“萵仔菜”で、台湾の方言では「エ・ア・ツァイ」のように発音するのですが、北京語で発音した「Aツァイ」のほうが日常生活でよく使われているそうです。
また屋台の看板に「Q」「QQ」などと書いてあります。日本語の「しこしこ」「きゅっきゅっ」(弾力のある食感)にあたる擬態語です。また台北駅付近には「K書中心」という施設があります。クーラー付きの自習室です。「K書」は勉強、がり勉という意味で、啃書(ken shu)または看書(kan shu)からきているそうです。
次に、台湾語を表すのに、注音字母を使うこともあります。カタカナに見かけが似た文字で、子音と母音と声調を示します。【写真2】のメニュー末尾の注音字母は「バブ」と読んで、アイスクリームを売るときのラッパの音を表したものだそうです。台湾風アイスクリームの意味です。これはまだ食べていません。
このように、民衆の話しことば、台湾語(方言)は文字に記され、街角でも見られるようになりました。近年は台湾独立運動の波に乗って、台湾語をローマ字で表わす動きもあります。これからの変化が楽しみです。
なお台湾の方言については第89回「海外の方言事情(台湾語の看板)」でも取り上げられています。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
* * *
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
地域語の経済と社会 第147回 方言店名の盛衰―石垣島のテレビ効果
2011年 4月 23日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第147回「方言店名の盛衰―石垣島のテレビ効果」
Rise and fall of dialect shop names — TV effect in Ishigaki Island
東日本大震災による地震、津波と原発事故という「三重苦」で、被害を受けた方々をお見舞い申し上げます。津波といえば、石垣島で1771年に高さ85メートルの山肌まで達したと伝えられる大津波があり、住民の半数近くが亡くなりました。今回の東日本大震災でも、石垣市からは多くの義援金が寄せられました。
その石垣市では方言が元気で、店の名前で方言が目立ちます。アーケード街の商店名簿の方言店名は、20年前の3店(89店中)から、2011年には13店(102店中)に増えました。
隣の繁華街にも方言店名があります。南山舎という地元の出版社の『やえやまGUIDE BOOK』にはこの美崎地区の地図があります。尋ねて行って、最初の版から、地図のコピーをいただきました。現地と照合し、電話帳で調べ、統計ソフトに入力して整理したら、21世紀に入ってから方言店名が増えたと読み取れました。グラフをごらんください。

【グラフ 石垣市美崎 方言店名店舗数の推移】
地元の人の話では、NHK連続テレビ小説の『ちゅらさん』のおかげということです。グラフに放送の年(続編を含む)を記しました。観光客数の増加(沖縄県八重山支庁による八重山入域観光客統計概況のPDFへ)とも関係します。
方言店名については、このシリーズの第127回、第132回で世界の分布を扱っています。『明海日本語』16号にも論文が載っています(『明海日本語』のページに論文のPDFが公開されています)。大阪市の方言店名は1980年代に増えたようです。全国の動き、そして世界の動きはどうでしょう。実はUNESCOでは、石垣島を含む沖縄県南端のことばを、絶滅の危機に瀕した言語と扱っています(UNESCO Atlas of the World’s Languages in Dangerのページへ)。だとすると、世界各地の言語復興運動と連動していると、みることができます。
これから方言店名がどうなるか、追跡したいところです。新たに生まれた方言店名は、住宅地図で探せます。今の店がいつまでもつかは、インターネットの電話帳で分かります。
そんな趣味の方のために、2011年現在の石垣市美崎町の方言店名(計25種)を(掲載年の古いものから)リストにしました。
【1.今も存在する店名15】 ゆうな マーミヤ ぐるくん亭 まーさん道 ゆくい スブンテ ゆんた ゆらてぃく てぃーだ やいま日和 tilla earth(ティーラアース) ニーランカーナン やーちゅー ふがらっさ SANSIN
【2.今はない店名6】 ばがー島 かりゆし ウムッシャ とーい なんくる亭 やいま
【3.南山舎から「ある」とご教示いただき、インターネットの住宅地図にもあるが、インターネットの電話帳で出ない店名(集計表に算入)2】 美ら島屋 花ぐるむ
【4.新たに見つけた店名(集合ビルのスナックなど)2】 マヤマヤ にいにい
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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。
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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第142回 勧誘表現「らっしぇ」「らっせ」の方言差
2011年 3月 19日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第142回「勧誘表現「らっしぇ」「らっせ」の方言差」
Dialectal differences of Solicitation expressions “rasshe” & “rasse”
人に誘いかける言い方は、方言差が豊かでした。今は使われなくなったその勧誘表現が、新たな価値を持って、商品名や施設の名などに使われています。
伊豆半島の稲取温泉には、「くわっせ」というお菓子があります。「食べなさい」の意味です。一方この地域のパンフレットなどでは「こらっしぇ」という言い方が使われます。インターネットのGoogle mapで検索すると、稲取温泉の店の宣伝やクチコミ以外に、他の地域でも使われることが分かります【下図参照】。
またGoogle mapでは、似た言い方の「らっせ」「らんしょ」などの分布も分かります。このような表現は、方言集にはあまり出ませんが、インターネットで集められるのです(Google地図の保存方法については、第127回をご覧ください)。
これまでのシリーズでも、第13回と第143回で東北や九州の施設で似た発想の方言が使われていることが指摘されています。また第39,44,49,54,59,64,69回で扱われた各地の「もてなしの方言」にも、似た表現が混じっています。
商品名やクチコミの用例でなく、店名施設名として確立した勧誘表現は、電話帳で分かるはずです。様々なインターネット全国電話帳を見ましたが、Yahoo電話帳http://phonebook.yahoo.co.jp/が便利で、全国の店名が一覧できます。
「らっしぇ」を使っている施設名は、福島県の一つでした。
JA会津みなみ藤の郷直売所よらっしぇ
それにひきかえ、「らっせ」は、あちこちの施設で使われています。「道の駅 らっせぃみさと そばの郷」は、岐阜県恵那市三郷町にあります(ホームページhttp://www.rassei.com/)。
他に以下の店が見つかりました。
宇都宮餃子「来らっせ」【池袋餃子スタジアム】
こらっせ新庄(山形県)
インターネットを使うと全国(ときには全世界)の様子が分かります。これは面としての情報で、鳥瞰図にあたります。研究者が偶然目にする、または足を運んで確かめるという調査法は、点としての情報で虫瞰図と言えます。
今回の東日本大震災の津波被害は、立体航空写真の撮影技術を持った民間機と自衛隊機と自治体が連携すれば、被害の様子が全地域総なめで分かるはずです。これも鳥瞰図のレベルの情報です。
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2007年









