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地域語の経済と社会 第112回 北アイルランドの方言みやげ

2010年 8月 14日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第112回「北アイルランドの方言みやげ」
Dialect souvenirs of Northern Ireland

 第107回のスコットランドの方言についての補いですが、スコットランドの方言ではwikipediaも作られています。方言版wikipediaは珍しいです。つづりが標準英語と違いますから、解読にチャレンジしてみてください。
 http://sco.wikipedia.org/wiki/

【写真 北アイルランドの方言絵はがき】
【写真 北アイルランドの方言絵はがき】
(クリックで拡大します)

 前回はスコットランドの方言の写真は載せず、代わりにTシャツの写真を載せました。実は北アイルランドのベルファストのK教授のおみやげです。国際会議でちょっとしたジョークを交わしたのがきっかけで親しくなり、次の会で会ったときに現物をいただいたのです。そのときに、北アイルランドの方言絵はがきもいただきました。

 Beefed to the oxters (slightly overweight)
 と書いてあります。
 Oxterというのは「わきの下」armpitで、英国北部(北イングランド、スコットランド、北アイルランド)とアイルランドで使われています。Beef は動詞で、「(牛を)太らせる」の意味から、「増強する」などの意味に変わったようです。つまり「わきの下まで肉付きがいい」というひゆ的な方言表現なのです。絵に哺乳瓶が見えますから、若いお母さんなのでしょう。( )の中の英語は「ちょっと太りすぎ」ですが、「ちょっと」どころか堂々たる体格です。

 スコットランドと北アイルランドの英語は、イングランドからのちに広がったので、よく似ています。アイルランドは、20世紀はじめにイギリスから独立したのですが、北アイルランドは、イギリスに残りました。それがかつてのアイルランド紛争の原因だったのです。ことばが似ていても仲間意識は生まれないようです。

 数年前にアイルランドの首都ダブリンに行ったときに、英語の方言みやげや方言表示を探したのですが、見当たりませんでした。今回インターネットで検索しても、成功しませんでした。英語はアイルランドの本来の言語ではないので、英語の方言みやげは売れないのかもしれません。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第107回

2010年 7月 10日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第107回「スコットランドの英語方言と赤いヒース」
English dialect in Scotland and red heath

 1990年イギリス滞在中に、イギリス各地の方言についての資料を集めました。スコットランド方言のカセットテープが目についたので、発行元Scotsounを訪問することにしました。尋ねあてたら、住宅地の一角の個人の家でした。いろいろ話をうかがい、「経済的に成り立ちますか」と尋ねたら、「興味深い質問です」と答え、具体的な説明をしませんでした。個人の資金をつぎ込んでいるだろうと判断しました。

 お別れの記念にヒースの赤い花をくれました。『嵐が丘』でも登場するヒースの花は、実物を確かめたかったのですが、もう季節を過ぎていて、車窓からは見えませんでした。単純に喜んで、ありがたく頂戴し、「赤いヒースは珍しい。大事に飾る」と言ったら、説明してくれました。赤いヒースを手にした人はもう一度その地を訪れることになるそうです。でもその後スコットランドに足を伸ばす機会はありませんでした。

 今インターネットでScotsounを検索すると、組織は大きくなり、Scots Language Societyのホームページ(Hame Page)の中にあります。ScotsounはScot soundの方言風のつづりです。解説文のつづりもスコットランド英語を写しています。
   http://www.lallans.co.uk/audio_cds.html

 たくさんのCDが出て、しかもマークのあるCDをクリックすると、スコットランド方言の音声が聞けます。例えば下のページです。
   Largo by Sydney Goodsir Smith, read by Neil MacCallum (from SSC 142)
   http://www.lallans.co.uk/sscd%20069%20-%20Lang%20Syne%20in%20the%20East%20Neuk.html

 Scotsounのホームページの中に人物写真がありました。その人に見覚えがあります。20年後にインターネット経由でその地を訪れたわけです。一方的ですが……。

 ちなみに、スコットランドの方言みやげも、Googleで“Scottish dialect”と入力して「画像」をクリックすると、実例が見られます。ティータオル、コースター、マグカップ、エプロンなど色々あります。

 スコットランドの方言グッズは手元に適切なものがないので、代わりに北アイルランド、ベルファストのTシャツをお目にかけます。全体と拡大版です。

北アイルランド、ベルファストのTシャツ 北アイルランド、ベルファストのTシャツ イラスト部分の拡大

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明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第102回

2010年 6月 5日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第102回「ハワイの英語ピジン方言をみる」
Watching English Pidgin dialect in Hawaii

 ハワイの英語はアメリカ本土の英語と違います。地元ではハワイで発達した独特の英語をPidginと呼びます。言語学では厳密な定義のもとに術語として使っていますが、ハワイでは現在の英語ハワイ方言の名称なのです。1970年にWilliam Labovがハワイに滞在して、若い世代の談話の録音を試みましたが、大研究には発展しませんでした。その後大きな変化があり、今は研究グループが活躍しています。ホノルルの短期滞在の間にそのPidgin Coupの研究会があるというので、参加して、情報を交換しました。ホームページでも、基本情報が得られます。

   http://www.hawaii.edu/sls/pidgin.html

 今のハワイの若い世代のふだんのことばは、アメリカ本土の英語と、文法も発音も単語も違います。インターネット経由でそのピジン英語を聞く(見る)こともできます(会員の古川さんのご教示によります)。

(1) Talking Story about Pidgin: Exploring the creole language of Hawai‛i
   http://sls.hawaii.edu/Pidgin/
高校の社会科の先生を対象にした授業補助を目指して構築中のウェブサイト。
“Pidgin in Public”では、街角のハワイピジンの写真が見られます。

(2) Ha Kam Wi Tawk Pidgin Yet? 1 of 3
   http://www.youtube.com/watch?v=NesfQ2oNBcA
ワイアナエ高校の生徒が作成したドキュメンタリー。他の番組もYou Tubeで見られます。

【図1】ピジン英語のグリーティングカード
【図1】ピジン英語のグリーティングカード
(クリックで拡大します)
【図2】Da Kine(ダカイン)
【図2】Da Kine(ダカイン)
(クリックで拡大します)

(3) Pidgin: The voice of Hawai‛i
   http://pidginthevoiceofhawaii.com/buy-the-dvd/
昨年発表されたドキュメンタリー作品を注文できます。

 また街にはちゃんと方言みやげもありました。グリーティングカードがピジン英語で書かれています。【図1】

 店とそのブランドの名前でもDa Kineというのがあります。The Kindのピジン発音「ダカイン」を写したもので、日本語のアレとかナニのように、思いつかないことばを仮に言うときに使います。【図2】

 ハワイのピジン方言は、日本の方言と同じように、撲滅、記述、娯楽の三段階を経ました。人々の見方が変わると、同じ方向に動くのでしょうか? 方言グッズを手がかりにすると、世界のことばの動きが分かります。

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『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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地域語の経済と社会 第97回

2010年 5月 1日 土曜日 筆者: 井上 史雄

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第97回「ハワイで見た日本語方言」
Japanese dialects observed in Hawaii

【図1】アンダギ
【図1】(クリックで拡大します)

 またハワイに行きました。ハワイの日本語は、日本国内のことばと様々な点で違っています。目に見える日本語の方言としてアンダギを写真に撮りました。サーターアンダギーと書くこともあります。沖縄方言で「砂糖油揚げ」を発音するとこうなるのです。ハワイで出版された沖縄語辞典 Okinwan-English Dictionary には、saataa’ andaagii と書いてあります。ドーナツと同じ材料をゴルフボールのような丸い玉の形に揚げたものです【図1】。

【図2】ダンゴ、マンジュー、モチ
【図2】(クリックで拡大します)

 他にも、共通語と同じ名の「ダンゴ、マンジュー、モチ」などが売られていますが、中身は東京人が考えるものと違います【図2】。

 これらの材料の一つがモチコです。かつてハワイの日本語の語彙集を作ったときには現地の人の解説をもとに「もち米の粉」と書いておきました。

(注)ハワイ方言語彙集 Glossary of Hawaiian Japanese は、インターネットの以下のサイトから印刷できます。http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/

 そのころ、モチコは大辞典にも方言辞典にも出てきませんでした。しかし今はインターネットで検索できます。下のホームページによると、「もち粉」は「白玉粉」と材料が同じで、製造の手間の少ないものをいうようです。モチコは広島の方言かと思ったのですが、日本国内では専門語、ハワイでは日常語なのです。ラーフル(黒板消しの専門語、鹿児島などの日常語)と似ています。
 http://siratamako.com/Q_siratama/index.html

 ハワイのモチコについては次のページにも詳しく書いてありました。ほかにも大勢がハワイのモチコチキンなどについて書いています。こんなに情報が得られるとは、便利な世の中になったものです。
 http://www.pacificresorts.com/webkawaraban/shokutaku/051201/

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地域語の経済と社会 第92回

2010年 3月 27日 土曜日 筆者: 井上 史雄

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第92回「“ウザイ”新方言のコマーシャル」
Commercial messages of a new dialect expression by “uzai”

(クリックで拡大します)
稲城方言カルタの箱
稲城方言カルタ「りょうけんに…」絵札
稲城方言カルタ「りょうけんに…」読み札
【稲城方言カルタ】

 新方言「ウザイ」を使ったテレビコマーシャルに気づきました。インターネットで情報をさぐったら、パソコンに表示されることが分かりました。以下をクリックするとたどりつけます。
 http://www.pizzahut.jp/more/cm/special/
 ピザハットのテレビコマーシャルで、動画も出ます。字幕にも「ウザイほど美味しい。」と出ます。

 「ウザイ」の前身は東京多摩地区の昔からの方言「ウザッタイ」(うっとうしい、不快だ)です。1980年代に現地調査で確認しました。30年で語形も意味も使用場面も使用地域も大きく変化しました。4月1日から始まるNHKテレビ木曜夜の「みんなでニホンGO!」でも取り上げられます。その後「ウザッタイ」は新方言として全国に広がり、歌でも使われます。歌詞ナビで検索したら、以前は「じれったい愛」だけでしたが、今は9曲に増えていました(2010/02/24)。

 「ウザッタイ」の短縮形「ウザイ」は、1980年代に東京氷川の中学生の作った方言集に載っていました。http://triaez.kaisei.org/~yari/Newdialect/nddic.txt

 ところが、もっと古い例が見つかりました。多摩地区では以前から「ウザイ」を使っていたらしく、「稲城方言カルタ」(1994)にも「りょうけんに ひねえ 頭がうぜえから」(考えがなかなかまとまらない、頭が悪いから)とあります【写真】。このかるたを作った人に問い合わせたら、色々な人に確かめてくださいました。明治・大正生まれの人が使っていたそうです。今の若者のウザイとは意味が違いますが、ずいぶん昔からあった言い方です。

 

余談
 「おいしい」「うまい」の方言は第84回で取り上げられました。共通語形は、このコマーシャルによれば、「おいしい」なんでしょう。全国の方言分布は、国立国語研究所のホームページの「日本言語地図」第6集291図で確かめられます。
http://www6.kokken.go.jp/siryokan_data/drep_siryokan/laj_map/LAJ_291.pdf

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地域語の経済と社会 第87回

2010年 2月 20日 土曜日 筆者: 井上 史雄

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第87回「方言切手と方言詩」
Dialect postage stamps and dialect poem

 2009年にCD付き方言切手が発行されたというニュースがありました。切手といっても「フレーム切手」で、個人でも作れるものです。切手カタログにも載りません。ただ郵便局のホームページに通し番号がついた全リストがあります。方言切手の一覧表を作りました(末尾参照)

 4種類の実物の画像はインターネットのあちこちのサイトで見られますので、リンクをはりました。下線のついた部分をクリックするとそのページに飛びます。

  1. 新潟弁切手第1集  http://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_06_04_609021801.pdf
  2. 新潟弁切手第2集(秋・冬) http://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_06_04_609081901.pdf
  3. 津軽弁切手「津軽弁でしゃべる」CD付きhttp://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_02_04_209102201.pdf
  4. 富山弁切手「富山弁でいかんまいけ!」http://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2010/document/3001_07_04_710011401.pdf

 1の新潟弁切手第1集はスタマガネット(株式会社郵趣サービス社 http://www.yushu.co.jp/shop/)の通販で注文しました。2の新潟弁切手第2集と、3の津軽弁切手、4の富山弁切手は、通信販売はしないそうで、それぞれ地元の人に頼みました。料金に比べて高いものを買い、送料を払い、しかも退蔵するわけですから、郵便局株式会社にはかなりの貢献をしたことになります。

 ところで「津軽弁でしゃべる」切手は、あの小さな切手にどんなふうにCDを付けるんだろうと、心配したのですが、切手ケースにCDが1枚付いているものでした。地元出身のタレント伊奈かっペいさんの方言漫談が入っています。

 CDの最後に面白い試みが吹き込んであります。津軽の方言詩は有名ですが、他地方の人には分からないという不利・不平等があります。それを克服するために、津軽弁が分かるかどうかに左右されない方言詩を、作ったそうです。方言による芸術に関心のある人は、ぜひとも聞くべきです。しかし、実はせっかく買って聞いても、無意味です。どこの人にも誰にもまったく意味不明の単語を並べた詩を、唱えているのですから…。

郵便局株式会社 支社企画のフレーム切手 方言編
番号 発行日 名称 発行部数
シート
販売期間
(終了日)
販売地域
299 2009.3.2 新潟弁 2,000部+3,000部
オリジナル
2009.8.31 新潟市内の計115局
535 2009.9.1 新潟弁(秋・冬) 2,500部
オリジナル
2010.3.31 新潟市、五泉市、阿賀野市、新発田市、胎内市、東蒲原郡、北蒲原郡内の計171局
682 2009.11.13 津軽弁でしゃべる 8,000部
オリジナル
2010.2.12 青森県内の全局と仙台中央局
711 2009.12.11 富山弁でいかんまいけ! 1,500部+500部
大型
2010.3.10 富山県内の全212局

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地域語の経済と社会 第82回

2010年 1月 16日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第82回「新潟弁の方言カルタ ― 新方言「なまら」の使い方」

 方言は色々な形で楽しまれています。正月にふさわしい遊びのかるたにも、方言を生かしたものがあります。2009年暮れにかつての教え子が新潟弁の新しいカルタを送ってくれました。読み札に方言が使ってあって、小さな字で意味が書いてあります。

 新潟弁といえば、前から気になっていたことがありました。北海道の若者の新方言として、「なまら」が「大変」の意味で使われるのですが、離れた新潟県でも同じ言い方をするのです。さっそく新潟弁かるたの読み札をめくりました。ありました!

 「なまらでねんて 金銀財宝 掘り当てた」【写真1】

【写真1 新潟弁かるた】
【写真1】
(クリックで拡大)

 と書いてあります(ふり仮名が余分についているのはサービスと考えましょう)。意味は「ものすごい」です。「大変」の意味の「なまら」は、新潟から北海道に伝わったのだという説があります。このかるた、新潟弁起源の証拠になるでしょうか。

 ところで、インターネットで検索すると、「全国郷土かるた資料館」が出てきます。なんと数百点の「全国の郷土かるた」が、県ごとにリストアップされています。丹念にダウンロードして、方言をテーマにしたものを数えたら、2010.1.1版で計72点もありました。

 方言を使うかるたは、東北と九州に多くて関東に少なく、37都道府県に見られます。平成期になって多くなったようです。2009年に各地の民間放送局などで出したものが目立ちます。失われつつある方言をいとおしむ気持ちが強くなったことが、底流にあるのでしょう。最近のいくつかはCD付きですので、ランダム再生の機能を使えば、一人でも遊ぶことができます。少子化の時代にはありがたい技術です。

 なおこのシリーズでも、第33回 「方言かるた」あれこれ第35回「方言かるた(おまけ)」でとりあげています。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

* * *

【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。

地域語の経済と社会 第77回

2009年 12月 5日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第77回「イギリスの方言みやげ ― ヨークとニューキャッスルの訛り」
Dialect souvenir in England ― Accent of York and Newcastle

 外国の方言みやげは、これまでいくつか紹介されました(第12回「外国の方言みやげ」第19回「韓国の方言事情」第67回「リトアニアの方言区画」第74回「ドイツの方言(ベルリン編)」)。今回は英語の例をお見せします。1989年にイギリスで方言みやげを見つけました。いずれもイギリス(イングランド)北東部の、訛りがきつい地域のものです。

【写真1 ヨークシャ方言のテーブルクロス】
【写真1 ヨークシャ方言のテーブルクロス】
(クリックで拡大)

 【写真1】はヨークで手に入れたテーブルクロスです。「ヨークシャ方言」は有名です。単語や短文で訛った発音を示そうとしています。

ニューキャッスルの方言エプロン
【図2 ニューキャッスルの方言エプロン】
(クリックで拡大)

 【写真2】はジョーディーGeordie方言のエプロンpinnyです。同じデザインのテーブルクロスもあります。ジョーディーというのは、タインTyne川流域ニューキャッスルの方言のことです。こちらも綴りを変えて発音の違いを示し、面白おかしいことを書いています。

 方言みやげは、人々の意識を反映します。英語の訛りの強さは、イギリス(イングランド)の北のほうに際立ちます。これについての英語の論文の一つは、インターネットでダウンロードして読めますし、印刷もできます。English Papers by Fumio Inoueで検索すると出てきます。V章19b論文 “Subjective dialect division in Great Britain” の167ページの地図で場所が分かります。また170ページのグラフで学生の意識が分かります。

 実はEnglish Papers by Fumio Inoueは三省堂のサーバーで見ることができます。学術論文を探すには、Google Scholarが便利で、またCINIIやGENIIも役立ちます。でも上の論文は今のところ検索されません。

 日本で英語の本を出版しても、高くついて、一部の人しか(だれも?)買いません。インターネットで公開したので、無料配布と同じ効果があります。でもサービスしてくれた三省堂の人は「出版社としては複雑な気持ちだ」と言っていました。せめて三省堂のほかの本が売れるといいのですが。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第72回

2009年 10月 31日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第72回「韓国の官製方言グッズ――民俗文化の年と方言大会」

李崇寧(1967)の方言区画
【図1 李崇寧(1967)の方言区画】
方言ハンカチ(韓国の「にら」の方言分布)
【図2 方言ハンカチ
(韓国の「にら」の方言分布)】
(クリックで拡大)

 今回はお隣韓国の方言グッズ関連情報をお伝えしましょう。韓国語の方言は、【図1】のように、1 西北方言(旧平安道)、2 東北方言(旧咸鏡道)、3 中部方言(京畿道)、4 西南方言(全羅道)、5 東南方言(慶尚道)、6 濟州方言の6つに区画されます。 韓国では1945年の解放以後は国民の円滑な意思疎通のために標準語政策が国家規模で行われました。しかし近年になって、地域方言を守ろうという意識も芽生えました。各地域の方言を保存しようという動きもあり、国家的な事業として地域語調査が行われました。【図2】は、韓国国立国語院で調査謝礼用などに作った大型の方言ハンカチで、韓国の「にら」の方言分布を表しています。全部で4種類作られました。

 ところで、濟州島の方言は、本土の言葉とだいぶ違っていますが、最近濟州方言が話せる人が減ってきました。そこで濟州地域の研究者が中心になって濟州方言を守ろうという運動が始まり、韓国民俗博物館と濟州道が協力関係を結んで、2007年を「濟州民俗文化の年」と制定しました。学術大会、民俗公演などの様々な行事が行われ、 一般人や学生が参加する「濟州方言競演大会」も開かれました。

慶北民俗文化の年方言大会ハンカチ
【図3 慶北民俗文化の年方言大会ハンカチ】
(クリックで拡大)

 続いて2008年には全羅北道が選ばれ、「全北民俗文化の年」となりました。同じく競演大会が 井邑(ジョンウプ)で開かれて、一般人や中学生が流行の歌謡曲の歌詞を方言に変えて歌ったり、大学生が演劇を方言でやったり、お話を方言で披露しました。

 2009年は「慶北民俗文化の年」で、9月12日に古都慶州で「方言競演大会」が開かれました。【図3】がそのときの方言ハンカチです。官製方言グッズとでもいいましょうか。大会のスローガン「와카노, 와 이카노? (ワカノ、ワイカノ/どうして?どうしたの?)」が書かれています。ソウルの標準語なら「왜 그래, 왜 이러는 거야? (ウェグレ、ウェイロヌンゴヤ?)」です。来年度は忠淸南道が選ばれて、「忠南民俗文化の年」になります。どうぞいらしてください。

(以上、韓国の知り合いの研究者金順任(きむ すにむ)さんに伝えていただきました。なお韓国の方言グッズについては、第19回 山下暁美さん「お隣の国、韓国の方言事情」でも扱われています。)

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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
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(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『その敬語では恥をかく!』(PHP新書)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)、監修に『方言と地図』(フレーベル館、最新刊)などがある。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
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地域語の経済と社会 第67回

2009年 9月 26日 土曜日 筆者: 井上 史雄

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第67回「世界唯一の方言チョコレート―リトアニアの方言区画」
The world’s only dialect chocolate — Dialect division of LITHUANIA (LIETUVA)

(画像はクリックで拡大します)
リトアニアのチョコレート(ケース)
【写真1 チョコレートのケース】
リトアニアのチョコレート(中身)
【写真2 チョコレート(中身)】

 方言研究についての小さな国際会議がありました。3年ごとに開かれているので、前に会った人と再会して近況を報告しあうのも楽しみの一つです。2009年の開催地はスロベニアという、かつてのユーゴスラビアの北西の独立国です。初日の休憩時間に、見覚えのある女性がにこやかに近付いて来て、「リトアニアの方言区画のチョコレートです」と言って、板チョコをくれました。LIETUVAと書いてある箱をみると、地図の形のチョコレートは5個の地域に区切られていて、それぞれに名前が付いています。方言区画の地図はいくつかの国で市販されていますが、みやげもののチョコレートでは初めてです。【写真1、2】

 6年前のリトアニアでの国際会議のときに方言区画に関係する発表をし、また主催者たちに小さなみやげものを持って行ったのを、覚えてくれていたのでしょう。G. Kaciuskieneさんでした。

 幸いに日本の方言みやげが、ホテルに置いてありました。直前に札幌に行って、「とうきびチョコレート」を買っておいたのです。「標準語のトウモロコシを北海道ではトウキビと言って、それをみやげものの名前にも使っている」と書いて(口で言っても通じないからですが)、次の日にお返しに渡しました。

 そのあとでチョコレートの箱の裏の説明をよく見たら、「歴史的な地域によって分割したリトアニアの地図」と書いてあります。日本からの他の研究者に言ったら、「現在の学問的な方言区画とは違うのではないか」とケチを付けられてしまいました。女性からチョコレートをもらって舞い上がってはいけないと、さとす意図もあったのでしょう。でもリトアニアの方言の専門家が言うのですから、歴史的な地域は国民の方言区画の意識と一致するのでしょう。

 一般人の方言意識は、昔の政治的領域に支配されるようです。例えば日本でも青森県の人は「南部弁と津軽弁は違う」と言い、実際に江戸時代の旧藩の違いが影響を与えています。愛知県でも古い国の区分を使って「三河と尾張は違う」と言うし、広島県でも「備後弁と(安芸の国の)広島弁は違う」と言います。ドイツの方言の違いも中世の封建国家や、さらに昔のゲルマン民族の支配地域と結び付けて説明されます。リトアニアのチョコレートも、民衆の方言区画の意識を示すものと考えていいでしょう。

 だとすると今のところ世界唯一の方言区画チョコレートという貴重品です。冷蔵庫で永久保存すべきでしょうか?

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明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
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「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『その敬語では恥をかく!』(PHP新書)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)、監修に『方言と地図』(フレーベル館、最新刊)などがある。

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