人名用漢字の新字旧字:「和」と「咊」

2017年 10月 5日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第142回 「和」と「咊」

142harmony-old.png新字の「和」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「咊」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「和」は出生届に書いてOKですが、「咊」はダメ。どうしてこんなことになったのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、口部に新字の「和」が収録されていました。新字の「和」が収録されていたのは、禾部ではなく口部で、その一方、旧字の「咊」は標準漢字表には含まれていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも新字の「和」だけが含まれていて、旧字の「咊」は含まれていませんでした。

昭和21年4月27日、国語審議会に提出された常用漢字表1295字には、口部に新字の「和」が含まれていて、旧字の「咊」は含まれていませんでした。国語審議会が11月5日に答申した当用漢字表でも、新字の「和」だけが含まれていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「和」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には新字の「和」が収録されていたので、「和」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「咊」は、子供の名づけに使えなくなってしまいました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表1945字には、新字の「和」が収録されていましたが、旧字の「咊」はカッコ書きにすら入っていませんでした。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「和」は常用漢字になりました。その一方で旧字の「咊」は、常用漢字にも人名用漢字にもなれなかったのです。

平成16年4月1日、法務省民事局は『戸籍手続オンラインシステム構築のための標準仕様書』を通達、合わせて戸籍統一文字を発表しました。戸籍統一文字は、電算化戸籍に用いることのできる文字で、当初の時点では、漢字は55255字が準備されていました。この55255字の中に、「和」と「咊」が含まれていたのです。つまり、コンピュータ化された戸籍の氏名には、「和」も「咊」も使えるよう、システム上は設計されているのです。けれども法務省は、出生届には新字の「和」しか許しませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、新字の「和」と旧字の「咊」を含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「和」に加えて、旧字の「咊」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「和」はOKですが、旧字の「咊」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「毘」と「毗」

2017年 9月 21日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第141回 「毘」と「毗」

新字の「毘」は人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「毗」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「毘」は出生届に書いてOKですが、「毗」はダメ。どうしてこんなことになったのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したものでしたが、新字の「毘」も旧字の「毗」も含まれていませんでした。国語審議会は、昭和21年11月5日に当用漢字表を答申しましたが、やはり「毘」も「毗」も収録されていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「毘」も「毗」も収録されていませんでした。昭和23年1月1日、戸籍法が改正され、子供の名づけは当用漢字1850字に制限されました。この時点で、新字の「毘」も旧字の「毗」も、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

半世紀後の平成12年12月8日、国語審議会は表外漢字字体表を答申しました。表外漢字字体表は、常用漢字(および当時の人名用漢字)以外の漢字に対して、印刷に用いる字体のよりどころを示したもので、1022字の印刷標準字体が収録されていました。この中に、新字の「毘」が含まれていました。印刷物には、旧字の「毗」ではなく、新字の「毘」を用いるべきだ、と、国語審議会は文部大臣に答申したのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「毘」は、全国50法務局のうち1つの管区で出生届を拒否されていて、JIS第1水準漢字で、出現頻度数調査の結果が1302回だったので、人名用漢字の追加候補になりました。旧字の「毗」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第3水準漢字で、出現頻度数調査の結果が26回でした。平成16年6月11日、人名用漢字部会は、新字の「毘」を含む578字の追加案を公開しました。旧字の「毗」は、人名用漢字の追加候補になりませんでした。

その一方で、翌週6月18日に名古屋家庭裁判所が、新字の「毘」を子供の名づけに認める審判を下しました[平成16年(家)第1118号]。出生届を拒否された親の訴えに対し、名古屋家庭裁判所は、新字の「毘」を「常用平易」だと認めたのです。この審判を受けて、平成16年7月12日、法務省は戸籍法施行規則を改正し、「毘」「瀧」「駕」の3字を人名用漢字に追加しました。法制審議会の答申が出ていないにもかかわらず、新字の「毘」を人名用漢字に追加したのです。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「毘」に加えて、旧字の「毗」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「毘」はOKですが、旧字の「毗」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「挟」と「挾」

2017年 9月 7日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第140回 「挟」と「挾」

新字の「挟」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「挾」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「挟」は出生届に書いてOKですが、「挾」はダメ。「侠」と「俠」とは逆ですね。どうして、こんなことになったのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したものでしたが、新字の「挟」も旧字の「挾」も含まれていませんでした。国語審議会は、昭和21年11月5日に当用漢字表を答申しましたが、やはり「挟」も「挾」も収録されていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「挟」も「挾」も収録されていませんでした。昭和23年1月1日、戸籍法が改正され、子供の名づけは当用漢字1850字に制限されました。この時点で、新字の「挟」も旧字の「挾」も、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

昭和52年1月21日、国語審議会は新漢字表試案を発表しました。新漢字表試案は、当用漢字に83字を追加し33字を削除する案で、1900字を収録していました。この追加案83字の中に、新字の「挟」が含まれており、さらに「挟」の康熙字典体として、旧字の「挾」がカッコ書きで添えられていました。つまり、「挟(挾)」となっていたわけです。昭和56年3月23日、国語審議会は常用漢字表1945字を答申しました。この常用漢字表にも、「挟(挾)」が含まれていました。

これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「挟」は常用漢字になりました。この時点で、新字の「挟」は、子供の名づけに使えるようになりました。しかし、旧字の「挾」は人名用漢字になれませんでした。旧字の「挾」は、常用漢字表のカッコ書きに入ってるけど当用漢字表に収録されてなかったからダメ、となったのです。

30年後の平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、13287字を収録していました。この13287字の中に、新字の「挟」と旧字の「挾」が、両方とも含まれていました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「挟」に加えて、旧字の「挾」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「挟」はOKですが、旧字の「挾」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「侠」と「俠」

2017年 8月 24日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第139回 「侠」と「俠」

新字の「侠」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「俠」は人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。「俠」は出生届に書いてOKですが、「侠」はダメ。どうして、こんなことになったのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の人部には、旧字の「俠」が収録されていましたが、新字の「侠」は収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「俠」だけが含まれていて、新字の「侠」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表で、国語審議会は、旧字の「俠」を削除してしまいました。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「侠」も「俠」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「侠」も「俠」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

半世紀後の平成12年12月8日、国語審議会は表外漢字字体表を答申しました。表外漢字字体表は、常用漢字(および当時の人名用漢字)以外の漢字に対して、印刷に用いる字体のよりどころを示したもので、1022字の印刷標準字体が収録されていました。この中に、旧字の「俠」が含まれていました。印刷物には、新字の「侠」ではなく、旧字の「俠」を用いるべきだ、と、国語審議会は文部大臣に答申したのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「侠」は、全国50法務局のうち12の管区で出生届を拒否されていて、JIS第1水準漢字で、出現頻度数調査の結果が0回でした。旧字の「俠」は、全国50法務局のうち2つの管区で出生届を拒否されていて、JIS第3水準漢字で、出現頻度数調査の結果が159回でした。

追加候補選定基準 漢字出現頻度数調査
200回以上 50~199回 1~49回
不受理の法務局数 11以上 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1・2水準
8~10 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1水準
6~7 JIS第1~3水準 JIS第1水準 JIS第1水準
0~5 JIS第1・3水準 - -

追加候補選定基準を厳密に適用すれば、新字の「侠」も、旧字の「俠」も、人名用漢字の追加候補とはならないはずです。しかし、人名用漢字部会は、新字の「侠」の出現頻度を無視し、「侠」を含む578字を人名用漢字の追加案として発表しました(平成16年6月11日)。ところが、人名用漢字部会は7月23日の会議で、この方針をさらに変更します。議事録を見てみましょう。

任侠の「侠」ですが,候補の例示字体が表外漢字字体表には掲げられてはおりません。ただし,異体字の手書きで書いておりますが,「俠」の方がJIS第3水準の漢字ですが,表外漢字字体表の印刷標準字体でございます。印刷標準字体の方は出現順位が3145位でございます。他方,今回パブコメに掲げた「侠」の字体は順位がついておりません。ということであれば,字体選択のよりどころを示した表外漢字字体表の趣旨を尊重するということからすれば,印刷標準字体の手書きの方を採用するのがいいのではないかと考えております。

人名用漢字部会は、新字の「侠」を追加候補から外し、代わりに、旧字の「俠」を追加候補に加えました。平成16年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申し、9月27日の戸籍法施行規則改正で、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、旧字の「俠」は人名用漢字になり、子供の名づけに使えるようになったのです。しかし、新字の「侠」は、人名用漢字になれませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、旧字の「俠」に加えて、新字の「侠」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、旧字の「俠」はOKですが、新字の「侠」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「蝉」と「蟬」

2017年 8月 3日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第138回 「蝉」と「蟬」

新字の「蝉」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「蟬」は人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。「蟬」は出生届に書いてOKですが、「蝉」はダメ。どうして、こんなことになったのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の虫部には、旧字の「蟬」が収録されていましたが、新字の「蝉」は収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「蟬」だけが含まれていて、新字の「蝉」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表で、国語審議会は、旧字の「蟬」を削除してしまいました。当用漢字表は「使用上の注意事項」で「動植物の名称は、かな書きにする」としており、このルールに従えば、新字の「蝉」も旧字の「蟬」も、当用漢字表には不要だと判断されたのです。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「蝉」も「蟬」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「蝉」も「蟬」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「蟬」は、JIS X 0213の第3水準漢字で、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、出現頻度数調査の結果が664回でした。新字の「蝉」は、JIS X 0213の第1水準漢字で、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、出現頻度数調査の結果が30回でした。この結果、旧字の「蟬」は人名用漢字の追加候補となり、新字の「蝉」は追加候補になりませんでした。

追加候補選定基準 漢字出現頻度数調査
200回以上 50~199回 1~49回
不受理の法務局数 11以上 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1・2水準
8~10 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1水準
6~7 JIS第1~3水準 JIS第1水準 JIS第1水準
0~5 JIS第1・3水準 - -

平成16年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申し、9月27日の戸籍法施行規則改正で、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、旧字の「蟬」は人名用漢字になり、子供の名づけに使えるようになったのです。しかし、新字の「蝉」は、人名用漢字になれませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、旧字の「蟬」に加えて、新字の「蝉」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、旧字の「蟬」はOKですが、新字の「蝉」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「𪚲」と「𪚮」

2017年 7月 20日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第137回 「𪚲」と「𪚮」

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新字の「𪚲」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「𪚮」も、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。『国字の字典』は、月部に新字の「𪚲」を収録していて、日本の国字(和製漢字)だとみなしています。一方、『説文解字』は、龜部に旧字の「𪚮」を収録していて、秦の時代以前から存在する漢字だとみなしているようです。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表には、新字の「𪚲」も旧字の「𪚮」も収録されていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「𪚲」も「𪚮」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、新字の「𪚲」も旧字の「𪚮」も、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「𪚲」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第4水準漢字で、出現頻度数調査の結果が0回でした。この結果、新字の「𪚲」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。旧字の「𪚮」は、そもそもJIS第1~4水準漢字に含まれていないので、審議の対象になりませんでした。

その一方で、平成16年4月1日、法務省民事局は『戸籍手続オンラインシステム構築のための標準仕様書』を通達、合わせて戸籍統一文字を発表しました。戸籍統一文字は、電算化戸籍に用いることのできる文字で、当初の時点では、漢字は55255字が準備されていました。この55255字の中に、新字の「𪚲」と旧字の「𪚮」が含まれていたのです。つまり、コンピュータ化された戸籍の氏名には、新字の「𪚲」も旧字の「𪚮」も使えるよう、システム上は設計されているのです。けれども法務省は、出生届には、新字の「𪚲」も旧字の「𪚮」も許しませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、13287字を収録していました。この13287字の中に、新字の「𪚲」が含まれていたのです。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「𪚲」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「𪚲」も旧字の「𪚮」もダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「亀」と「龜」

2017年 7月 6日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第136回 「亀」と「龜」

昭和15年12月15日、国語協会は『標準名づけ読本』を発表しました。『標準名づけ読本』は、やさしくわかりやすい名前を子供につけることで国字運動の一翼を担おう、という意図のもとに編纂されたもので、端的に言えば、子供の名づけに用いる漢字を500字に制限しようとするものでした。この500字の中に、旧字の「龜」が含まれていました。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の龜部には「亀」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「龜」が添えられていました。「亀(龜)」となっていたわけです。簡易字体の「亀」は、旧字の「龜」に代えて一般に使用すべき漢字、ということになっていました。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表には、しかし、新字の「亀」も、旧字の「龜」も、収録されていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「亀」も「龜」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「亀」も「龜」も、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

昭和26年3月13日、国語審議会のもと発足した固有名詞部会では、子供の名づけに使える漢字を、当用漢字以外にも増やす方向で議論が進みました。固有名詞部会は『標準名づけ読本』の500字をチェックし、500字のうち75字が当用漢字に含まれていないことを確認しました。この75字の中に、旧字の「龜」が含まれていたのです。固有名詞部会は、この75字に17字を加えた92字を、追加すべき人名用漢字として国語審議会に報告しましたが、「龜」は簡易字体の「亀」で代えることにしました。これを受けて、国語審議会は昭和26年5月14日、人名漢字に関する建議を発表しました。翌週25日、この92字は人名用漢字別表として内閣告示され、新字の「亀」が子供の名づけに使えるようになりました。

一方、旧字の「龜」は、子供の名づけに使えない、と思われていました。これに対し、昭和36年12月15日、当時の栃木県今市市の戸籍事務担当者は、今市市長経由で宇都宮地方法務局長に対し、旧字の「龜」を名に含む出生届を受理してよいかどうか、照会をおこないました。法務省民事局長の回答(昭和37年1月20日)は、旧字の「龜」も受理してさしつかえないが、なるべく新字の「亀」で出生届を提出させるよう指導してほしい、というものでした。

ところが、昭和56年5月14日の民事行政審議会答申は、この回答を覆すものでした。子供の名づけには、新字の「亀」だけを認め、旧字の「龜」は使うべきでない、という答申だったのです。昭和56年10月1日の常用漢字表内閣告示と同時に、戸籍法施行規則が改正され、新字の「亀」だけが人名用漢字になりました。旧字の「龜」は、この日をもって子供の名づけに使えなくなりました。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、13287字を収録していました。この13287字の中に、新字の「亀」と旧字の「龜」が含まれていたのです。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「亀」に加え、旧字の「龜」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「亀」はOKですが、旧字の「龜」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「愛」と「㤅」

2017年 6月 22日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第135回 「愛」と「㤅」

135love.png新字の「愛」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「㤅」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「㤅」は、下部に夊がくっついて「𢙴」になり、上部の旡が変化して「𢜤」さらには新字の「愛」になった、と考えられていますが、細かいことはわかりません。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、心部に新字の「愛」が収録されていましたが、旧字の「㤅」は収録されていませんでした。文部省は12月4日に標準漢字表を発表しましたが、そこでも新字の「愛」だけが含まれていて、旧字の「㤅」は含まれていませんでした。

昭和21年4月27日、国語審議会に提出された常用漢字表1295字には、心部に新字の「愛」が含まれていて、旧字の「㤅」は含まれていませんでした。国語審議会が11月5日に答申した当用漢字表でも、新字の「愛」だけが含まれていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「愛」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には新字の「愛」が収録されていたので、「愛」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「㤅」は、子供の名づけに使えなくなってしまいました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表1945字には、新字の「愛」が収録されていましたが、旧字の「㤅」はカッコ書きにすら入っていませんでした。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「愛」は常用漢字になりました。その一方で旧字の「㤅」は、常用漢字にも人名用漢字にもなれなかったのです。

平成16年4月1日、法務省民事局は『戸籍手続オンラインシステム構築のための標準仕様書』を通達、合わせて戸籍統一文字を発表しました。戸籍統一文字は、電算化戸籍に用いることのできる文字で、当初の時点では、漢字は55255字が準備されていました。この55255字の中に、「愛」「𢜤」「𢙴」「㤅」が含まれていたのです。つまり、コンピュータ化された戸籍の氏名には、「愛」も「𢜤」も「𢙴」も「㤅」も使えるよう、システム上は設計されているのです。けれども法務省は、出生届には新字の「愛」しか許しませんでした。その結果、現在も、子供の名づけに新字の「愛」は使えますが、旧字の「㤅」は使えないのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「麺」と「麵」と「麪」

2017年 6月 8日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第134回 「麺」と「麵」と「麪」

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新字の「麺」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「麪」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「麺」と「麪」が、こういうややこしいことになってしまった一因には、俗字の「麵」の存在があるのです。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の麥部には「麺」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「麵」が添えられていました。「麺(麵)」となっていたわけです。簡易字体の「麺」は、俗字の「麵」に代えて一般に使用すべき漢字、ということになっていましたが、標準漢字表では、旧字の「麪」については触れられていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。この当用漢字表には、しかし、新字の「麺」も、俗字の「麵」も、旧字の「麪」も、収録されていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「麺」も「麵」も「麪」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「麺」も「麵」も「麪」も、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「麺」は、JIS X 0213の第1水準漢字だったものの、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、出現頻度数調査の結果が42回でした。俗字の「麵」は、JIS X 0213の第3水準漢字で、出生届を拒否された管区は無く、出現頻度数調査の結果が149回でした。旧字の「麪」は、JIS X 0213の第2水準漢字で、出生届を拒否された管区は無く、出現頻度数調査の結果が3回でした。この結果、「麺」も「麵」も「麪」も「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。

平成22年6月7日、文化審議会が答申した改定常用漢字表には、新字の「麺」が収録されていて、その直後に、カッコ書きで俗字の「麵」が添えられていました。「麺(麵)」となっていたわけです。平成22年11月30日に内閣告示された新しい常用漢字表でも、「麺(麵)」となっていました。この結果、新字の「麺」が、子供の名づけに使えるようになりました。しかし、俗字の「麵」や旧字の「麪」は、人名用漢字になれませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、「麺」に加えて「麵」も「麪」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「麺」はOKですが、俗字の「麵」や旧字の「麪」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「双」と「雙」

2017年 5月 25日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第133回 「双」と「雙」

新字の「双」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「雙」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「雙」は、漢の時代より以前から使われていましたが、新字の「双」は、せいぜい明の時代(14~17世紀頃)までしか遡れないようです。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の隹部には「双」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「雙」が添えられていました。「双(雙)」となっていたわけです。簡易字体の「双」は、「雙」に代えて一般に使用すべき漢字、ということになっていました。

昭和21年4月27日、国語審議会に提出された常用漢字表1295字には、隹部に「双」が含まれていて、その直後にカッコ書きで「雙」が添えられていました。「双(雙)」となっていたわけです。昭和21年11月5日に国語審議会が答申した当用漢字表でも、やはり「双(雙)」となっていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「双」は当用漢字になりました。

昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、新字の「双」が収録されていたので、「双」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。しかし、旧字の「雙」は、あくまで参考として当用漢字表に添えられたものなので、子供の名づけに使ってはいけない、ということになりました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、やはり「双(雙)」となっていました。これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「双」は常用漢字になりました。しかし、旧字の「雙」は人名用漢字になれませんでした。旧字の「雙」は、常用漢字表のカッコ書きに入ってるけど当用漢字表に収録されてなかったからダメ、となったのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、常用漢字や人名用漢字の異体字であっても、「常用平易」な漢字であれば人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「雙」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が50回でした。この結果、旧字の「雙」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。

その一方で、平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「双」に加え、旧字の「雙」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「双」はOKですが、旧字の「雙」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


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