人名用漢字の新字旧字:「塲」と「場」

2017年 5月 11日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第132回 「塲」と「場」

旧字の「場」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。新字の「塲」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「塲」と「場」の新旧には議論があるのですが、ここでは、「塲」を新字、「場」を旧字ということにしておきましょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、土部に「場」を収録していましたが、新字の「塲」は収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「場」だけが含まれていて、新字の「塲」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、やはり旧字の「場」が収録されていて、新字の「塲」はカッコ書きにすら含まれていませんでした。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、旧字の「場」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には旧字の「場」が収録されていたので、「場」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「塲」は子供の名づけに使えなくなりました。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「塲」はJIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が1回で、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区はありませんでした。この結果、新字の「塲」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。

追加候補選定基準 漢字出現頻度数調査
200回以上 50~199回 1~49回
不受理の法務局数 11以上 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1・2水準
8~10 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1水準
6~7 JIS第1~3水準 JIS第1水準 JIS第1水準
0~5 JIS第1・3水準 - -

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、旧字の「場」に加え、新字の「塲」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、旧字の「場」はOKですが、新字の「塲」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「戸」と「戶」

2017年 4月 20日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第131回 「戸」と「戶」

131door-old.png新字の「戸」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「戶」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。でも実は、旧字の「戶」が、子供の名づけに使えた時期もあったのです。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、戶部に、旧字の「戶」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、 そこでも旧字の「戶」が収録されていました。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、旧字の「戶」が収録されていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、旧字の「戶」は当用漢字になりました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

字体の整理をおこなうべく、文部省教科書局国語課は昭和22年7月15日、活字字体整理に関する協議会を発足させました。活字字体整理に関する協議会は、昭和22年10月10日に活字字体整理案を国語審議会に報告しました。この活字字体整理案では、「戶」を「戸」へと整理することが提案されていました。

報告を受けた国語審議会では、昭和22年12月から昭和23年5月にかけて、字体整理に関する主査委員会を組織しました。この間、昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には旧字の「戶」が収録されていたので、「戶」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「戸」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「戸」が収録されていました。活字字体整理案に従った結果、新字の「戸」が当用漢字となり、旧字の「戶」は当用漢字ではなくなってしまったのです。当用漢字表にある旧字の「戶」と、当用漢字字体表にある新字の「戸」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「戶」も新字の「戸」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、旧字の「戶」も新字の「戸」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのです。

昭和56年3月23日に国語審議会が答申した常用漢字表では、新字の「戸」が収録されました。旧字の「戶」は、カッコ書きにすら入っていなかったのです。昭和56年4月22日、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを、子供の名づけに認めることにしました。旧字の「戶」はカッコ書きに入っていないので、今後は子供の名づけには認めない、と決定したのです。昭和56年10月1日、常用漢字表は内閣告示され、新字の「戸」は常用漢字になりました。同じ日に、旧字の「戶」は子供の名づけに使えなくなってしまいました。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、13287字を収録していました。この13287字の中に、新字の「戸」と旧字の「戶」が含まれていたのです。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「戸」に加え、旧字の「戶」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「戸」はOKですが、旧字の「戶」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「罪」と「辠」

2017年 4月 6日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第130回 「罪」と「辠」

130tsumi-old.png新字の「罪」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「辠」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「罪」と「辠」は、元々は別々の意味だったらしいのですが、秦の始皇帝が「辠」という字を嫌って、同じ音の「罪」という字に「つみ」の意味をなすりつけた、という伝説があるそうです。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、网部に新字の「罪」が収録されていましたが、旧字の「辠」は収録されていませんでした。文部省は12月4日に標準漢字表を発表しましたが、そこでも新字の「罪」だけが含まれていて、旧字の「辠」は含まれていませんでした。

昭和21年4月27日、国語審議会に提出された常用漢字表1295字には、网部に新字の「罪」が含まれていて、旧字の「辠」は含まれていませんでした。国語審議会が11月5日に答申した当用漢字表でも、新字の「罪」だけが含まれていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「罪」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には新字の「罪」が収録されていたので、「罪」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「辠」は、子供の名づけに使えなくなってしまいました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表1945字には、新字の「罪」が収録されていましたが、旧字の「辠」はカッコ書きにすら入っていませんでした。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「罪」は常用漢字になりました。その一方で旧字の「辠」は、常用漢字にも人名用漢字にもなれなかったのです。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、13287字を収録していました。この13287字の中に、新字の「罪」と旧字の「辠」が含まれていたのです。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「罪」に加え、旧字の「辠」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「罪」はOKですが、旧字の「辠」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「仐」と「傘」と「繖」

2017年 3月 23日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第129回 「仐」と「傘」と「繖」

129kasa-new.png新字の「仐」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「繖」も、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。こんな妙なことになってしまった原因は、俗字の「傘」が常用漢字になってしまったからなのです。なお、新字の「仐」と俗字の「傘」は、いわゆる象形文字ですが、旧字の「繖」は、サンという音を「散」で表した形声文字だと考えられます。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の人部には「傘」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「仐」が添えられていました。「傘(仐)」となっていたわけです。簡易字体の「仐」は、「傘」の代わりに使っても差し支えない字、ということになっていました。一方、旧字の「繖」は、標準漢字表のどこにも含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。ところが当用漢字表には、新字の「仐」も、俗字の「傘」も、旧字の「繖」も、収録されていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「仐」も「傘」も「繖」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「仐」も「傘」も「繖」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、俗字の「傘」が収録されました。新字の「仐」も、旧字の「繖」も、カッコ書きにすら入っていませんでした。10月1日に常用漢字表は内閣告示され、俗字の「傘」は常用漢字になりました。この結果、俗字の「傘」が、子供の名づけに使えるようになりました。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「繖」は、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が3回で、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区はありませんでした。新字の「仐」は、JIS第4水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が0回で、出生届を拒否された管区はありませんでした。この結果、旧字の「繖」も、新字の「仐」も、「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、俗字の「傘」に加え、新字の「仐」や旧字の「繖」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、俗字の「傘」はOKですが、新字の「仐」や旧字の「繖」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「弾」と「彈」

2017年 3月 9日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第128回 「弾」と「彈」

新字の「弾」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「彈」は人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。つまり、新字の「弾」も旧字の「彈」も、出生届に書いてOK。どうして、こんなことになったのでしょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、弓部に、旧字の「彈」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「彈」が収録されていました。

昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表にも、旧字の「彈」が収録されていました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

字体の整理をおこなうべく、文部省教科書局国語課は昭和22年7月15日、活字字体整理に関する協議会を発足させました。活字字体整理に関する協議会は、昭和22年10月10日に活字字体整理案を国語審議会に報告しました。この活字字体整理案では、「彈」を「弾」へと整理することが提案されていました。

報告を受けた国語審議会では、昭和22年12月から昭和23年5月にかけて、字体整理に関する主査委員会を組織しました。この間、昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、旧字の「彈」が収録されていたので、「彈」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「弾」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「弾」が収録されていました。活字字体整理案に従った結果、新字の「弾」が当用漢字となり、旧字の「彈」は当用漢字ではなくなってしまったのです。当用漢字表にある旧字の「彈」と、当用漢字字体表にある新字の「弾」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「彈」も新字の「弾」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、旧字の「彈」も新字の「弾」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのです。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、「弾(彈)」となっていました。これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、「弾」は常用漢字になりました。同時に「彈」は人名用漢字になりました。それが現在も続いていて、旧字の「彈」も新字の「弾」も、どちらも子供の名づけに使えるのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「吊」と「弔」

2017年 2月 23日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第127回 「吊」と「弔」

旧字の「弔」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。新字の「吊」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「吊」と「弔」は、そもそもは新旧の関係にあったらしいのですが、現代では「つる」と「とむらう」で使い分けるようです。

昭和21年11月5日、国語審議会は当用漢字表1850字を、文部大臣に答申しました。当用漢字表は、弓部に旧字の「弔」を収録していましたが、新字の「吊」は収録されていませんでした。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、旧字の「弔」は当用漢字になりました。

昭和22年9月29日、国語審議会は当用漢字音訓表を、文部大臣に答申しました。当用漢字音訓表は、当用漢字表1850字の音訓を定めたもので、「弔」には、「チョウ」と「とむらう」という音訓が付けられていました。この結果、「弔」を「つる」と読むことが、できなくなってしまったのです。

昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には旧字の「弔」が収録されていたので、「弔」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「吊」は、子供の名づけに使えなくなってしまいました。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「吊」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無かったものの、漢字出現頻度数調査の結果が949回で、JIS X 0213の第1水準漢字だったので、人名用漢字の追加候補となりました。

平成16年6月11日、人名用漢字部会は、578字の追加案を公開しました。この578字の中に、新字の「吊」が含まれていました。ところが、7月9日までおこなわれたパブリックコメントの結果、「吊」を人名用漢字に追加すべきでないというコメントが、15通も寄せられました。これを根拠に、人名用漢字部会は、「吊」を人名用漢字の追加候補から削除しました。平成16年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申しましたが、この中に「吊」は含まれていませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、旧字の「弔」に加え、新字の「吊」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、旧字の「弔」はOKですが、新字の「吊」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:「宝」と「寶」

2017年 2月 9日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第126回 「宝」と「寶」

新字の「宝」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「寶」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「宝」と「寶」の間には、「寳」や「寚」のような俗字があるのですが、これらの俗字も子供の名づけに使えません。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の宀部には「寶」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「宝」が添えられていました。「寶(宝)」となっていたわけです。簡易字体の「宝」は、「寶」の代わりに使っても差し支えない字、ということになっていました。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表では、宀部に「宝」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「寶」が添えられていました。「宝(寶)」となっていたのです。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「宝」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、新字の「宝」が収録されていたので、「宝」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「寶」や俗字の「寳」「寚」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、やはり「宝(寶)」となっていました。これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「宝」は常用漢字になりました。しかし、旧字の「寶」は人名用漢字になれませんでした。旧字の「寶」は、常用漢字表のカッコ書きに入ってるけど当用漢字表に収録されてなかったからダメ、となったのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、常用漢字や人名用漢字の異体字であっても、「常用平易」な漢字であれば人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「寶」は、全国50法務局のうち1つの管区で出生届を拒否されていて、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が87回でした。俗字の「寳」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が77回でした。この結果、「寶」も「寳」も「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。一方、俗字の「寚」は、そもそもJIS第1~4水準漢字に含まれていないので、追加対象になりませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、新字の「宝」や旧字の「寶」、さらには俗字の「寳」「寚」も含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「宝」に加え、「寶」も「寳」も「寚」も書けるようになりました。これに対し、日本人の子供の出生届には、新字の「宝」はOKですが、旧字の「寶」や俗字の「寳」「寚」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「无」と「無」と「𣠮」

2017年 1月 26日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第125回 「无」と「無」と「𣠮」

125nothing-old.png新字の「无」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「𣠮」も、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。こんな妙なことになってしまった原因は、俗字の「無」が当用漢字になってしまったからなのです。なお、「无」と「𣠮」の新旧には議論があるのですが、ここでは「无」を新字、「𣠮」を旧字としておきましょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、火部に俗字の「無」が収録されていましたが、新字の「无」や旧字の「𣠮」は収録されていませんでした。文部省は12月4日に標準漢字表を発表しましたが、そこでも俗字の「無」だけが含まれていて、新字の「无」や旧字の「𣠮」は含まれていませんでした。

昭和21年4月27日、国語審議会に提出された常用漢字表1295字には、火部に俗字の「無」が含まれていて、新字の「无」や旧字の「𣠮」は含まれていませんでした。国語審議会が11月5日に答申した当用漢字表でも、俗字の「無」だけが含まれていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、俗字の「無」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には俗字の「無」が収録されていたので、「無」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「无」や旧字の「𣠮」は、子供の名づけに使えなくなってしまいました。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「无」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が106回でした。この結果、新字の「无」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。一方、旧字の「𣠮」は、そもそもJIS第1~4水準漢字に含まれていないので、追加対象になりませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、新字の「无」と俗字の「無」を含んでいました。しかし、入国管理局正字にも、旧字の「𣠮」は含まれていませんでした。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、俗字の「無」に加え、新字の「无」も書けるようになりましたが、旧字の「𣠮」はダメなのです。これに対し、日本人の子供の出生届には、俗字の「無」はOKですが、新字の「无」や旧字の「𣠮」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


人名用漢字の新字旧字:「図」と「圖」

2017年 1月 12日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第124回 「図」と「圖」

旧字の「圖」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。俗字の「图」は、「圖」の「啚」の代わりに「冬」を入れた形声文字ですが、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。新字の「図」は、「图」がさらに省略されたと推測される文字ですが、常用漢字なので子供の名づけに使えます。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されていました。標準漢字表の囗部には「圖」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「図」が添えられていました。「圖(図)」となっていたわけです。簡易字体の「図」は、「圖」の代わりに使っても差し支えない字、ということになっていました。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表では、囗部に「図」が含まれていて、その直後に、カッコ書きで「圖」が添えられていました。「図(圖)」となっていたのです。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、新字の「図」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、新字の「図」が収録されていたので、「図」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。旧字の「圖」や俗字の「图」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和56年3月23日、国語審議会が答申した常用漢字表では、やはり「図(圖)」となっていました。これに対し、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字を子供の名づけに認めるかどうか、審議を続けていました。昭和56年4月22日の総会で、民事行政審議会は妥協案を選択します。常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを子供の名づけに認める、という妥協案です。昭和56年10月1日に常用漢字表は内閣告示され、新字の「図」は常用漢字になりました。しかし、旧字の「圖」は人名用漢字になれませんでした。旧字の「圖」は、常用漢字表のカッコ書きに入ってるけど当用漢字表に収録されてなかったからダメ、となったのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、常用漢字や人名用漢字の異体字であっても、「常用平易」な漢字であれば人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「圖」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無く、JIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が79回でした。この結果、旧字の「圖」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。一方、俗字の「图」は、そもそもJIS第1~4水準漢字に含まれていないので、追加対象になりませんでした。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、新字の「図」と旧字の「圖」を含んでいました。しかし、入国管理局正字にも、俗字の「图」は含まれておらず、「図」もしくは「圖」への書き換えが強制されました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「図」に加え、旧字の「圖」も書けるようになりましたが、俗字の「图」はダメなのです。これに対し、日本人の子供の出生届には、新字の「図」はOKですが、旧字の「圖」や俗字の「图」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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人名用漢字の新字旧字:干支と人名用漢字

2017年 1月 5日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

特別編:干支と人名用漢字

今年2017年の干支は、丁酉(ひのととり)。さて、干支すなわち十干十二支の漢字は、子供の名づけに使えるのでしょうか。

十干は、甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)の漢字が、10年周期で巡っています。十二支は、子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)の漢字が、12年周期で巡っています。これら22の漢字のうち、当用漢字表に含まれていたのは、甲・乙・丙・丁・己・辛・子・午・未・申の10字だけでした。1948年1月1日の戸籍法改正で、残りの12字(戊・庚・壬・癸・丑・寅・卯・辰・巳・酉・戌・亥)は、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。ちなみに、1948年の干支は戊子(つちのえね)でした。

1951年5月14日、国語審議会は人名漢字に関する建議を発表し、丑・寅・卯・辰・巳・酉・亥を含む92字を、子供の名づけに使えるよう提案しました。翌週25日、この92字は人名用漢字別表として内閣告示され、結果として、十二支の漢字のうち戌を除く11字が、出生届に書いてOKとなりました。ちなみに、1951年の干支は辛卯(かのとう)でした。

2004年3月26日、法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(2004年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(2000年3月)、全国の出生届窓口で1990年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。戊はJIS第1水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が260回でしたが、全国50法務局中で出生届を拒否された管区はありませんでした。庚は第1水準漢字で、頻度数が271回で、4つの管区で出生届を拒否されていました。壬は第1水準漢字で、頻度数が418回で、5つの管区で出生届を拒否されていました。癸は第2水準漢字で、頻度数が135回で、1つの管区で出生届を拒否されていました。戌は第2水準漢字で、頻度数が193回で、出生届を拒否された管区はありませんでした。

2004年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申しました。この488字には、戊・庚・壬が含まれていましたが、癸・戌は含まれていませんでした。癸と戌は「常用平易」だと認められなかったのです。9月27日の戸籍法規則改正で、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、干支の漢字22字のうち20字が、出生届に書いてOKとなりました。癸と戌は、現在も子供の名づけに使えません。癸戌(みずのといぬ)という干支が存在しないことが、不幸中の幸いと言えるでしょう。ちなみに、2004年の干支は甲申(きのえさる)でした。

なお、西暦から干支を計算する場合は、甲子(きのえね)は西暦を60で割った余りが4になる、ということを覚えておくと便利です。それはすなわち、十干が甲の年は西暦の末尾が4で、十二支が子の年は西暦を12で割った余りが4だということです。ただし、太陰暦と西暦はピッタリ一致しないので、その点は注意して下さいね。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


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