広告の中のタイプライター(21):Monarch No.2

2017年 12月 7日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『International Studio』1910年7月号

『International Studio』1910年7月号
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「Monarch No.2」は、モナーク・タイプライター社が1905年頃に発売したタイプライターです。フロントストライク式タイプライターを開発すべく、ユニオン・タイプライター社の配下で創立されたモナーク・タイプライター社でしたが、売上においては非常に苦戦しており、この広告の時点では、製造部門をレミントン・タイプライター社と統合せざるを得なくなっていたようです。

「Monarch No.2」は、42キーのフロントストライク式タイプライターで、円弧状に配置された42本の活字棒(type arm)が、ライバルの「Underwood Standard Typewriter No.5」に酷似しています。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、キーボード最下段の左右端にある「SHIFT KEY」を押した状態では、タイプ・バスケット全体が持ち上がって、大文字が印字されるようになります。また、キーボード最上段の左端には「SHIFT LOCK」キーがあって、タイプ・バスケットを持ち上げたままにすることができます。

「Monarch No.2」のキー配列は、ユニオン・タイプライター社の標準であるQWERTY配列です。キーボードの最上段は、234567890-が小文字側に、“#$%_&’()¾が大文字側に並んでいます。次の段は、qwertyuiop½が小文字側に、QWERTYUIOP¼が大文字側に並んでいます。その次の段は、asdfghjkl;¢が小文字側に、ASDFGHJKL:@が大文字側に並んでいます。最下段は、zxcvbnm,./が小文字側に、ZXCVBNM,.?が大文字側に並んでいます。数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。最上段の右端には「BACK SPACE」キーがあり、そのさらに右上には「TAB KEY」と「MARGIN RELEASE」キーが配置されていました。

「Monarch No.2」は、赤黒2色のインクリボンに加え、タビュレーション機構や、タイプ・バスケットの上下によるシフト機構など、当時としては画期的なフロントストライク式タイプライターでした。しかしながら、先行する「Underwood Standard Typewriter No.5」のシェアを奪うには至らず、かなり苦戦を強いられていたようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


広告の中のタイプライター(20):Munson No.1

2017年 11月 23日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『National Stenographer』1892年3月号

『National Stenographer』1892年3月号
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「Munson No.1」は、シカゴのサイフリード(Samuel John Seifried)とマンソン(Frederick Woodbury Munson)が、1890年に発売したタイプライターです。上の広告にもあるとおり、発売時点での「Munson No.1」は、単に「The “Munson” Type Writer」と呼ばれていましたが、後に「Munson No.2」や「Munson No.3」が発売されたことから、このモデルは「Munson No.1」と呼ばれるようになりました。

「Munson No.1」の特徴は、タイプ・スリーブ(type sleeve)と呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・スリーブには、90個(5+5個×9列)の活字が埋め込まれていて、30個の各キーに活字が3個ずつ対応しています。タイプ・スリーブと紙の間には、インクリボンと金属製スリットがあります。上段の各キーを押すと、タイプ・スリーブが左右に移動して、スリットの穴の位置に、押されたキーに対応する活字が来ます。その瞬間に、紙の背後からハンマーが打ち込まれ、紙の前面に印字がおこなわれるのです。中段のキーの場合は、左右移動に加えて、タイプ・スリーブが上に40度回転することで、穴の位置に対応する活字が来ます。下段のキーの場合は、左右移動に加えて、タイプ・スリーブが下に40度回転することで、穴の位置に対応する活字が来ます。さらに、「CAP.」(大文字)キーと「FIG.」(記号および数字)キーが、タイプ・スリーブをそれぞれ上下に120度回転することで、90個の活字を打ち分けられるようになっているのです。

「Munson No.1」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列に近いものの、30個のキーが独特の並びになっています。上段のキーは、小文字側にwertyuiop?が、大文字側にWERTYUIOP?が、数字側に1234567890が並んでいます。中段のキーは、小文字側にasdfghjklが、大文字側にASDFGHJKLが、記号側に$⅛¼½£’_/()が並んでいます。下段のキーは、小文字側にqzxcvbnm,.が、大文字側にQZXCVBNM,.が、記号側に%¢@#*&”:!;が並んでいます。さらに、上段の左端に「FIG.」キーが、中段の左端に「CAP.」キーが配置されています。

「Munson No.1」は、印字位置をプラテンの前面におくことで、打った文字がオペレータに即座に見えることを目指していました。ただし、タイプ・スリーブやスリットがあるために、打った直後の文字は、オペレータが覗き込んでも見えにくく、何文字か打った後で見えてくるというのが現実でした。また、ハンマーを背後から打ち込む、という機構だったために、印字の濃さが紙の厚みに左右される、という問題もあったようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(19):Smith-Corona Coronet

2017年 11月 9日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Ebony』1964年6月号

『Ebony』1964年6月号
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「Smith-Corona Coronet」は、SCMが1960年に発売したフロントストライク式の電動タイプライターです。上の広告にある「The quick brown fox」は、「THE QUICK BROWN FOX JUMPS OVER A LAZY DOG.」という文の一部です。タイプライターの教本に、ほぼ必ずと言っていいほど出てくるこの文は、A~Zを全て使うことから、キー配列を覚えるのに使われたり、あるいは、活字欠けやアラインメントのズレを見つけるのに使われたりする文です。ただ、この広告の「The quick brown fox has met his master」という文には、dもgもjもlもpもvもyもzも現れないので、そういう用途には使えないようです。

「Smith-Corona Coronet」のキーボードは、基本的にQWERTY配列ですが、最上段に数字が1234567890-=と並んでいて、そのシフト側に記号が!@#$%¢&*()_+と並んでいます。特に、「@」が「2」のシフト側にあるという点が「IBM Electromatic」の流れを汲んでいて、これが当時の電動タイプライターのキー配列の主流になりつつあったのです。なお「Smith-Corona Coronet」は44キーですが、ピリオドとコンマがシフト側にもダブっており、収録文字数は86種類でした。

「Smith-Corona Coronet」の特徴は、キーボード左端下の「COPY SET」ダイヤルにあります。通常は「1」にセットしておくのですが、数字を大きくすると、プラテンを叩く活字棒(type arm)の力が強くなります。これにより、カーボン紙を挟んだ複数枚の紙に対して、印字の濃さをコントロールできるようになっているのです。「COPY SET」ダイヤルの奥にあるのが「RIB REV」スイッチで、インクリボンの進行方向を逆転させるためのスイッチです。リボンのインクを無駄にしないよう、インクリボンを何往復も使えるようになっているのです。一方、キーボード右端下には「ON/OFF」のダイヤルスイッチがあり、その奥にはインクリボンの赤と黒を切り替えるスイッチがあります。最上段のキーのさらに奥には、「SET」と「CLEAR」の大きなキーがあり、マージン位置の設定と解除を、自由におこなえるようになっていました。

「Smith-Corona Coronet」は、電動タイプライターですが、印字機構はフロントストライク式でした。活字棒がプラテンの前面を叩くことで印字をおこなう、という点は、それ以前の機械式タイプライターと基本的に変わっておらず、印字機構を電動にしただけだったのです。ただし、複数のキーを同時に押しても、活字棒は1本だけしか動かず、ジャミングは避けられるようになっていたようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(18):Wellington No.2

2017年 10月 26日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Asa Gray Bulletin』1900年2月号

『Asa Gray Bulletin』1900年2月号
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「Wellington No.2」は、ボストンのキダー(Wellington Parker Kidder)が発明したタイプライターで、ニューヨーク州プラッツバーグのウィリアムズ・マニュファクチャリング社が、1896年頃に製造・販売を開始しました。コルビー(Charles Carroll Colby)率いるウィリアムズ・マニュファクチャリング社は、カナダのモントリオールにも生産拠点を持っていたのですが、そちらでは「Empire Typewriter」という名称で販売していたようです。

「Wellington No.2」の最大の特徴は、スラスト・アクションと呼ばれる印字機構にあります。各キーを押すと、対応する活字棒(type bar)が、まっすぐプラテンに向かって飛び出します。プラテンの前面には紙が挟まれており、そのさらに前にはインクリボンがあって、まっすぐに飛び出した活字棒は、紙の前面に印字をおこないます。これがスラスト・アクションという印字機構で、打った瞬間の文字を、オペレータが即座に見ることができるのです。

28本の活字棒には、それぞれ活字が上下に3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により80種類の文字が印字されます。「Z」の左側にある「Caps」を押すと、プラテンが沈んで、大文字が印字されるようになります。その左の「Figs」を押すと、プラテンがさらに沈んで、数字や記号が印字されるようになります。「Wellington No.2」のキーボードは、基本的にはQWERTY配列ですが、「V」と「B」の間に、逆T字形のスペースキーが入り込んでいます。上段のキーには、小文字側にqwertyuiopが、大文字側にQWERTYUIOPが、記号側に1234567890が、それぞれ配置されています。中段のキーには、小文字側にasdfghjkl,が、大文字側にASDFGHJKL,が、記号側に#$¢”?@-%&,が配置されています。下段のキーには、小文字側にzxcvbnm.が、大文字側にZXCVBNM.が、記号側に()/:’;_.が配置されています。28本の活字棒に、それぞれ3種類の活字が埋め込まれているので、最大84種類の文字を印字可能なのですが、コンマとピリオドがダブっているため、80種類となっているのです。

「Wellington No.2」は、日本では丸善(Z. P. Maruya & Co., Ltd.)が、輸入代理店となっていました。ただ、「Wellington No.2」のスラスト・アクションは故障が多く、かなり頻繁にメンテナンスを必要としたため、丸善ではタイプライター教室を開くとともに、メンテナンス指導もおこなっていたようです。

『學の燈』1900年10月号

『學の燈』1900年10月号
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安岡孝一(やすおか・こういち)

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広告の中のタイプライター(17):Daugherty Typewriter

2017年 10月 12日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Southern Magazine』1895年2月号

『Southern Magazine』1895年2月号
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「Daugherty Typewriter」は、ペンシルバニア州キッタニングのドーアティー(James Denny Daugherty)が、ピッツバーグで1893年頃から生産・販売を開始したタイプライターです。「Daugherty Typewriter」の特徴は、キーボードとプラテンの間に配置された38本のタイプ・アーム(type arm)にあります。タイプ・アームは、それぞれ対応するキーにつながっています。キーを押すと、プラテン側を支点として、タイプ・アームの先(キーボード側)が持ち上がり、プラテンの前面めがけて打ち下ろされます。タイプ・アームがプラテンに到達する直前に、インク・リボンが下からせりあがって来ます。タイプ・アームの先には、活字が2つずつ付いていて、通常の状態では小文字が、プラテンに挟まれた紙の前面に印字されます。キーを離すと、タイプ・アームとインク・リボンは元の位置に戻り、紙の前面に印字された文字が、オペレータから直接見えるようになります。つまり、打った文字がすぐ読めるのです。これが、フロントストライク式という印字機構で、「Daugherty Typewriter」が初めて実用化したものなのです。

「Daugherty Typewriter」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの最上段は、大文字側に“#$%_&’()が、小文字側に23456789-が配置されています。その次の段は、大文字側にQWERTYUIOPが、小文字側にqwertyuiopが配置されています。そのまた次の段は、大文字側にASDFGHJKL:が、小文字側にasdfghjkl;が配置されています。最下段は、大文字側にZXCVBNM?.が、小文字側にzxcvbnm,/が配置されています。「Daugherty Typewriter」では、スペースキーの左右にある「大文字キー」によって、大文字と小文字を打ち分けます。「大文字キー」を押すと、タイプ・アームとキーボード全体が少し手前に傾き、プラテンとの相対的な角度が変わることで、大文字が印字されます。「大文字キー」を離すと小文字が印字されます。プラテンを動かすのではなく、タイプ・アーム全体を傾けるという機構だったために、「Daugherty Typewriter」の「大文字キー」は、押すのが非常に重い、という問題がありました。

この重い「大文字キー」を正常に動作させるために、「Daugherty Typewriter」は、頻繁にメンテナンスをおこなう必要がありました。また、フロントストライク式そのものは良いアイデアだったのですが、結果として、複数のタイプ・アームが印字点でひっかかってしまう(いわゆるジャミング)現象が多発しました。「Daugherty Typewriter」のフロントストライク式は、最初から完成していたわけではなく、まだまだ改良を必要としていたのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(16):Densmore Typewriter No.2

2017年 9月 28日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Illustrated Phonographic World』1894年6月号

『Illustrated Phonographic World』1894年6月号
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「Densmore Typewriter No.2」は、デンスモア・タイプライター社が1893年に発売したタイプライターです。デンスモア・タイプライター社は、1891年にエイモス・デンスモア(Amos Densmore)が創業した会社ですが、彼は1893年10月14日に亡くなっており、上の広告の時点では、弟のエメット・デンスモア(Emmet Densmore)が後を継ぐとともに、ユニオン・タイプライター社の傘下に入っていました。

「Densmore Typewriter No.2」の特徴は、全てのキーと活字棒(type bar)の可動部分に、ボールベアリングが使われていることです。エイモス・デンスモアが、バロン(Walter Jay Barron)およびワーグナー(Franz Xavier Wagner)とともに発案したこの機構は、滑らかなキータッチを実現するという点で、デンスモア・タイプライター社の売りとなっていました。ただし、「Densmore Typewriter No.2」の印字機構は、いわゆるアップストライク式で、印字はプラテンの下に置かれた紙の下側におこなわれます。打った文字をその場で見ることはできず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。活字棒の先には活字が2つずつ埋め込まれていて、キーボード左下の「UPPER CASE」キーを押している間は大文字や記号が、離している間は小文字や数字が印字されます。

「Densmore Typewriter No.2」のキー配列は、いわゆるQWERTY配列で、42個のキーに84文字が収録されています。キーボードの最上段は、大文字側に“#$%_&’()◊が、小文字側に23456789-*が並んでいます。次の段は、大文字側にQWERTYUIOP+が、小文字側にqwertyuiop=が並んでいます。その次の段は、大文字側にASDFGHJKL:@が、小文字側にasdfghjkl;¢が並んでいます。最下段は「UPPER CASE」キーが左端にあり、大文字側にZXCVBNM?.§が、小文字側にzxcvbnm,/!が並んでいます。デンスモア・タイプライター社がユニオン・タイプライター社の傘下に入ったことから、「Densmore Typewriter No.2」のキー配列は、「Remington Standard Typewriter No.2」のキー配列を、ほぼ完全に踏襲していたのです。

なお、上の広告の「Densmore Typewriter No.2」は、フロントパネルに「No.2」の表記がありません。下に示す別の広告によると、この時点では、従来の76文字のモデルを「No.1」、新しい84文字のモデルを「No.2」と呼んでおり、上の広告の図が「Densmore Typewriter No.2」、下の広告の図が「Densmore Typewriter No.1」ということになります。

『Phonographic Magazine』1893年1月1日号

『Phonographic Magazine』1893年1月1日号
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安岡孝一(やすおか・こういち)

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広告の中のタイプライター(15):Remington Type-Writer No.2

2017年 9月 14日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Saint Louis Medical and Surgical Journal』1880年7月20日号

『Saint Louis Medical and Surgical Journal』1880年7月20日号
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「Remington Type-Writer No.2」は、E・レミントン&サンズ社が1878年に製造を開始したタイプライターです。発売当初は、ロック・ヨスト&ベイツ社が販売をおこなっていましたが、1878年7月にはE&T・フェアバンクス社に販売権が移っています。ただ、宣伝はE・レミントン&サンズ社が自らおこなっていて、上の広告もそうなっています。

「Remington Type-Writer No.2」の最大の特長は、大文字と小文字が両方とも打てる、という点にありました。ブルックス(Byron Alden Brooks)が発明したプラテン・シフト機構を搭載することで、38個のキーで76種類の文字を打ち分けることができたのです。上の広告では、キーが44個あるように見えますが、実際のキー数は、「Upper Case」と「Lower Case」を合わせても40個でした。「Remington Type-Writer No.2」のキー配列は、以下のようになっていて、アルファベットに関しては「Sholes & Glidden Type-Writer」を踏襲していました。

「Remington Type-Writer No.2」のキー配列

38本の活字棒(type bar)は、プラテンの下に円形に配置されています。活字棒はそれぞれがキーにつながっており、キーを押すと活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます(アップストライク式)。打った文字をその場で見ることはできず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。活字棒の先には、活字が2つずつ埋め込まれていて、プラテンの位置によって、大文字と小文字が打ち分けられます。「Upper Case」キーを押すと、プラテンが機械後方(オペレータから見て奥)へ移動し、その後は大文字や記号が印字されます。「Lower Case」キーを押すと、プラテンが機械前方(オペレータから見て手前)へ移動し、その後は小文字や数字が印字されます。なお、数字の「1」は小文字の「l」で、数字の「0」は小文字の「o」で、それぞれ代用することになっていました。

大文字と小文字の両方が打てるようになったことから、タイプライターの市場は大きく拡がりました。市場の大きな部分は速記者で、初期の段階ではタイプライターを速記の反訳に用いていたのが、やがて、直接、タイプライターで速記をおこなうようになりました。それとともに、速記専門学校でタイプライターを教えるようになり、「Remington Type-Writer No.2」は全米に拡大していったのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

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広告の中のタイプライター(14):Blickensderfer Electric

2017年 8月 31日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Typewriter and Phonographic World』1902年1月号

『Typewriter and Phonographic World』1902年1月号
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「Blickensderfer Electric」は、ブリッケンスデアファー(George Canfield Blickensderfer)が、1901年に発売した電動タイプライターです。これ以前にブリッケンスデアファーは、「Blickensderfer No.5」「Blickensderfer No.7」といった、タイプ・ホイール式の機械式タイプライターを製造していました。このアイデアをさらに推し進めるにあたって、ブリッケンスデアファーは、電動タイプライターに挑戦したのです。

「Blickensderfer Electric」の最大の特徴は、全ての動作が電動であるという点です。文字キーは全て電気スイッチであり、「叩く」というよりは、「クリックする」という感触です。印字をおこなうタイプ・ホイール(活字を埋め込んだ金属製円筒)も電動で、タイプ・ホイールの表面には、84個(28個×3列)の活字が埋め込まれています。このタイプ・ホイールが、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。

文字キーの配列は、ブリッケンスデアファー独特のもので、上段のキーがzxkgbvqjと、中段のキーが.pwfulcmy,と、下段のキーがdhiatensorと並んでいます。左端の「CAP」キーを押すと、タイプ・ホイールが持ち上がって、上段のキーはZXKGBVQJに、中段のキーは.PWFULCMY&に、下段のキーはDHIATENSORになります。「FIG」キーを押すと、さらにタイプ・ホイールが持ち上がって、上段のキーは-^_()@#:に、中段のキーは./’”!;?%¢$に、下段のキーは1234567890になります。また、キーボードの右端には「L」とだけ書かれたキーがあって、押すと、キャリッジ・リターンと改行がおこなわれました。もちろん、完全に電動です。「L」キーのすぐ下には「R」キーがあって、これはバックスペースを意味していました。

ただし、1901年当時、コンセントプラグは一般化しておらず、「Blickensderfer Electric」も電灯用ソケットからの給電でした。部屋の照明等の白熱電球を外して、代わりに「Blickensderfer Electric」の電源ケーブルを繋ぐのです。電球を外すと、当然、部屋が暗くなるので、明るい昼間ならまだしも、朝夕や雨の日には手元を照らすオイルランプが必要になる、という本末転倒な事態が起こりました。まだ、商用電源というものが十分に普及していない時代であり、その意味で「Blickensderfer Electric」は、時代の先を行き過ぎていたのでしょう。

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広告の中のタイプライター(13):Caligraph No.2

2017年 8月 10日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『American Railroad Journal』1882年1月7日号

『American Railroad Journal』1882年1月7日号
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「Caligraph No.2」は、ヨスト(George Washington Newton Yost)率いるアメリカン・ライティング・マシン社が、1882年に製造・販売を開始したタイプライターです。72キー(12個×6列)のキーボードに、大文字26種類、小文字26種類、数字8種類、記号12種類「($&):;’?”.,-」を配置しているのが特徴で、シフト機構なしに72種類の文字を打ち分けることができます。なお、数字の「0」は大文字の「O」で、数字の「1」は大文字の「I」で、それぞれ代用することになっており、スペースキーは、キーボードの左右に配置されています。

「Caligraph No.2」のキー配列

「Caligraph No.2」は、大文字も小文字も数字も記号も、全て一打で打つことができる、という点を売りにしていました。ただし、大文字のキー配列と小文字のキー配列は、互いにほとんど関係づけられておらず、どのキーがどこにあるのか覚えにくく探しにくい、という弱点がありました。また、活字棒(type bar)も72本あり、それら72本が全て、プラテンの下に円形にぐるりと配置されていました。各キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。「Caligraph No.2」は、いわゆるアップストライク式タイプライターで、印字の瞬間には、印字された文字を見ることができないのです。

72個のキーと72本の活字棒による、かなり巨大な印字機構にもかかわらず、可鍛鋳鉄で造られた「Caligraph No.2」は、全体の重さが20ポンド(約9キログラム)に抑えられていて、しかも値段は80ドルでした。値段を安く抑えたため、「Caligraph No.2」の売れ行きに較べて、経営は火の車で、ヨストは1885年にアメリカン・ライティング・マシン社を、コネティカット州ハートフォードのフェアフィールド(George Albert Fairfield)に売却してしまっています。ヨストの手を離れた後も、アメリカン・ライティング・マシン社は「Caligraph No.2」の製造・販売を続けており、少なくとも19世紀の終わりまでは、製造が続いていたようです。

【筆者プロフィール】

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広告の中のタイプライター(12):Crandall New Model

2017年 7月 27日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Scribner's Magazine』1888年12月号

『Scribner’s Magazine』1888年12月号(写真はクリックで拡大)

「Crandall New Model」は、クランドール(Lucien Stephen Crandall)が、1886年から1894年頃にかけて、ニューヨーク州グロトンで製造していたタイプライターです。ただし、クランドールは一夫多妻主義者で、グロトン以外にも複数の生活拠点があったらしく、「Crandall New Model」の注文販売は、ニューヨーク州ビンガムトンのアイルランド・ベネディクト社にまかせていました。「Crandall New Model」の特徴は、タイプ・スリーブ(type sleeve)と呼ばれる金属製の活字円筒が、プラテンのすぐ手前にそびえ立っていて、他には印字機構が見当たらない点です。タイプ・スリーブには、84個(14個×6列)の活字が埋め込まれていて、このタイプ・スリーブが、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。84個の活字は、最上列とその次の列が小文字、真ん中の2列が大文字、下の2列が数字と記号になっています。

キーボードも特徴的で、29個のキーが、上段に14個、下段に15個(空白を含む)、扇状に並んでいます。上段のキーはzprchmilfesdbkと並んでおり、下段のキーは真ん中に空白があってjvxunw. ,toagyqと並んでいます。各キーを押すと、タイプ・スリーブが回転し、対応する文字がプラテン側に来ると同時に、倒れ込むように叩きつけられて、印字がおこなわれます。前面右側の「CAP’S」キーを押し下げると、タイプ・スリーブが上がって、大文字が印字されます。ただし、ピリオド・空白・コンマは、そのままです。前面左側の「F&P.」キーを押し下げると、さらにタイプ・スリーブが上がって、上段のキーは12345&’-;67890に、下段のキーは!$¢_/#. ,:%”()?になります。この仕掛けにより、最大84種類の文字が印字できるのですが、通常はピリオドとコンマの活字を3個ずつ重複して埋め込んでおり、全部で80種類の文字となっていたようです。

「Crandall New Model」では、印字がプラテンの前面におこなわれることから、印字した文字が、すぐ直後にオペレータから見えるようになっています。また、タイプ・スリーブの交換は、オペレータが簡単におこなえるようになっており、別の種類の活字や字体に対応可能というのが、上の広告にもあるとおり「Crandall New Model」の売りでした。ただ、残念ながら「Crandall New Model」の印字機構は、高速な印字には向いておらず、調整もかなり面倒でした。それに加え、傷んだ活字だけを単独で交換することができず、タイプ・スリーブ全体を交換しなければいけなかったのです。独創的な印字機構が、むしろ「Crandall New Model」の寿命を縮めた、と言えるのかもしれません。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


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