広告の中のタイプライター(30):Brother Valiant JPI-121

2018年 4月 12日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『朝日ジャーナル』1964年4月26日号

『朝日ジャーナル』1964年4月26日号
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「Brother Valiant JPI-121」は、ブラザー工業が1961年に発売した「Brother Valiant JPI-111」の後継機にあたります。元々は輸出用に開発された「Brother Valiant JPI-111」ですが、日本国内でのタイプライター需要も高まってきたことから、改良型の「Brother Valiant JPI-121」を1962年に発売したのです。

「Brother Valiant JPI-121」は、44キーのフロントストライク式タイプライターです。プラテンの手前に44本の活字棒(type arm)が配置されていて、各キーを押すと、対応する活字棒がプラテンの前面を叩き、印字がおこなわれます。複数のキーを同時に押すと、複数の活字棒が印字点で衝突して引っかかってしまい、そのまま動かなくなるという欠点はあったものの、印字の強さを左端のレバーで設定(HはHeavy、LはLight)できるなど、小型の機械式タイプライターとしては、かなり高い性能を誇っていたようです。

「Brother Valiant JPI-121」のキー配列は、上の広告に見える英文標準配列が基本です。これに加え、ユニバーサル配列(英・独・仏語兼用)、ドイツ語配列、スペイン語配列、ローマ字配列、カナ英文コンビ配列なども、受注生産していました。中でもカナ英文コンビ配列は、カタカナ46字と濁点・半濁点・長音・句点・読点に加え、英大文字26字・数字8字・左カッコ・右カッコ・スラッシュからなる88字のキー配列で、日本国内での需要に合わせたものです。カナ英文コンビ配列の最上段は、シフト側がム23456789()-と、カタカナ側がメフアウエオヤユヨワホヘと並んでいます。次の段は、左端にマージンリリースキー、右端にバックスペースキーがあって、シフト側がQWERTYUIOP゚と、カタカナ側がタテイスカンナニラゼと並んでいます。その次の段は、左端にシフトロックキーがあって、シフト側がASDFGHJKLソ/と、カタカナ側がチトシハキクマノリレケと並んでいます。最下段は、両端にシフトキーがあって、シフト側がZXCVBNMヌロ,と、カタカナ側がツサヲヒコミモネル.と並んでいます。カナ英文コンビ配列では、数字の「1」は英大文字の「I」で、数字の「0」は英大文字の「O」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。

ブラザー工業は、1964年に開催された東京オリンピックのプレスセンターで、「Brother Valiant JPI-121」など約300台のタイプライターを、外国人記者たちに無償で提供しました。その後もブラザー工業は、新たなモデルの発表を続け、国産タイプライターのトップシェアを、維持し続けたのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


広告の中のタイプライター(29):Hartford Typewriter

2018年 3月 29日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Art Education』1895年4月号

『Art Education』1895年4月号
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「Hartford Typewriter」は、ハートフォード・タイプライター社が、1894年に製造・販売を開始したタイプライターです。当時、コネティカット州ハートフォードでは、アメリカン・ライティング・マシン社が「Caligraph No.2」を製造・販売していたのですが、同社にいたフェアフィールド(John M. Fairfield)が中心となって、新たなタイプライター会社であるハートフォード・タイプライター社を設立しました。そのため、ハートフォード・タイプライター社は、本社をニューヨークに置いていたものの、生産拠点はハートフォードにありました。

「Hartford Typewriter」のキーボードは、76個のキーが6段に並んでいます。キー配列は基本的にはQWERTYですが、大文字小文字それぞれに別々のキーが準備されています。キーボード最上段は“QWERTYUIOP()と並んでおり、次の段は&ASDFGHJKL:$/と、その次の段は2ZXCVBNM?_·6と、その次の段は3qwertyuiop78と、その次の段は4asdfghjkl;9と、最下段は5zxcvbnm,.’%と並んでいます。数字の0は大文字の「O」で、数字の1は大文字の「I」か小文字の「l」で、それぞれ代用したようです。

「Hartford Typewriter」の活字棒(type bar)は76本あり、それら76本が全て、プラテンの下に円形にぐるりと配置されていました。各キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。「Hartford Typewriter」は、いわゆるアップストライク式タイプライターで、印字の瞬間には、印字された文字を見ることができませんでした。

「Hartford Typewriter」の最大の売りは、50ドルという低価格にありました。当時のタイプライターとしては、破格ともいえる値段だったのです。しかも、次のモデルである「Hartford Typewriter No.2」においても、ハートフォード・タイプライター社は、この低価格路線を維持しました。ただし、資金繰りは非常に苦しく、開発費などを捻出できなかったのか、「Hartford Typewriter No.2」は「Hartford Typewriter」とほとんど同一の設計だったようです。

『Frederick News』1897年1月29日号

『Frederick News』1897年1月29日号
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【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(28):Royal Futura 800

2018年 3月 15日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Life』1958年10月号

『Life』1958年10月号
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「Royal Futura 800」は、ロイヤル・タイプライター社が1958年に発売したタイプライターです。「Futura」という名称は、ドイツのレンナー(Paul Friedrich August Renner)が1927年に発表した活字書体「Futura」にちなんでいて、「フトゥーラ」と発音するようです。ただし、「Royal Futura 800」に搭載されている活字は「Futura」ではなく、「Royal Typewriter Elite」とよばれる等幅(1インチあたり12字)活字です。

「Royal Futura 800」の印字機構は、フロントストライク式と呼ばれるものです。プラテンの手前に44本の活字棒(type arm)が配置されていて、各キーを押すと、対応する活字棒がプラテンの前面を叩き、印字がおこなわれます。複数のキーを同時に押すと、複数の活字棒が印字点で衝突して引っかかってしまい、そのまま動かなくなるという欠点はあったものの、印字の強さ(すなわちキーの重さ)を各個人に合わせて設定できる点など、機械式のタイプライターとして十分な利点があったようです。

「Royal Futura 800」のキー配列は、いわゆるQWERTY配列です。各キーにはそれぞれ2種類の文字が対応しており、キーボード最下段両端のシフトキーで、大文字小文字を打ち分けます。活字棒の先には、それぞれ2種類の活字が埋め込まれており、シフトキーを押すと、活字棒全体が下に沈んで、大文字が印字されるようになります。シフトキーを離すと、活字棒全体が上に戻って、小文字が印字されるようになります。これにより、44キーで88種類の文字が印字できるのです。なお、キーボード最上段の小文字側は1234567890-=と並んでおり、数字を他の文字で代用する必要はありません。

「Royal Futura 800」の最大の売りは、必要な数だけ設定できるタビュレーション機構にあります。フロントパネル右端の「TAB SET」ボタンを押すだけで、現在位置にタブ・カラムを設定できるのです。設定したタブ・カラムへの移動は、キーボード上段右端の「TAB」キーでおこないます。打っている最中に新たなタブ・カラムを追加設定することもできますし、逆に設定したタブ・カラムを解除するのは、フロントパネル左端の「TAB CLEAR」ボタンでおこなえます。端的には「TAB SET」と「TAB CLEAR」で、複数のタブ・カラムをその場その場で、自由に追加・解除できるのです。ちなみに、全てのタブ・カラムを解除するには、「TAB CLEAR」を押しっぱなしにしながら、「TAB」キーを解除すべき回数だけ押す、という操作で可能となっています。

これに加え、プラテン奥の両側(上の広告の❻)の赤い「Magic Margin」ボタンが、「Royal Futura 800」の特徴です。タブ・カラムと同様、現在位置にマージン・ストップ(印字位置の端)を設定できるのが、この「Margic Margin」ボタンです。すなわち、印字位置の左端は左側の「Magic Margin」ボタンで、右端は右側の「Magic Margin」ボタンで、それぞれ設定するのです。設定したマージン・ストップを、一瞬だけ超えなければならない場合は、キーボード中段右端の「MAR REL」(マージン・リリース)を押すことになります。

これだけ複雑な機構を、「Royal Futura 800」は全て機械仕掛けで実現していました。電気がなくても印字可能なポータブル・タイプライターという点で、「Royal Futura 800」は時代の最先端を行く機械だったのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(27):New Yost

2018年 3月 1日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Century Magazine』1892年10月号

『Century Magazine』1892年10月号
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「New Yost」は、ヨスト(George Washington Newton Yost)率いるヨスト・ライティング・マシン社が、1890年頃に発売したタイプライターです。アップストライク式に分類されるタイプライターですが、リバース・グラスホッパー・アクションと呼ばれる独自の印字機構を備えており、インクリボンは無く、インクを活字に塗布する点が特徴的です。

「New Yost」の78個のキーは、基本的にQWERTY配列ですが、大文字小文字にそれぞれ別々のキーが割り当てられていて、シフト機構はありません。標準的なキー配列では、最上段のキーは()%/_#“”と並んでおり、次の段は123456789$と、その次の段はQWERTYUIOPと、その次の段はASDFGHJKL’と、その次の段はZXCVBNM&;:と、その次の段はqwertyuiopと、その次の段は!asdfghjklと、最下段は?zxcvbnm,.と並んでいます。数字の「0」は、大文字の「O」で代用することが想定されていました。

78本の活字棒(typebar)は、中央の円筒の内側に、グルリと円形に配置されています。円筒内側の上端にはインクが塗られており、活字棒の先に埋め込まれた活字が、常にインクを補充する仕掛けになっています。キーを押すと、対応する活字棒が内側へと傾き、活字が円筒を離れます。活字は、いったん下方に下がったあと、中央のアライメント・ターゲットめがけて打ち上がります。活字棒の動きが、バッタの跳び方を上下逆にしたようなものであることから、リバース・グラスホッパー・アクションと呼ばれているのです。アラインメント・ターゲットを中心とするこの機構によって、紙に印字された文字がきれいに一直線に並ぶのです。ただし、印字は、プラテンの下に置かれた紙の下面におこなわれるので、印字した瞬間にはオペレータから見えません。プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。

「New Yost」は、リバース・グラスホッパー・アクションという巧妙な機構により、アラインメントの揃った美しい印字を実現していました。その反面、この機構は故障が多く、頻繁なメンテナンスが必要でした。また、円筒内側のインクも、常に補充が必要だったことから、「New Yost」それ自体の評価は、当時、必ずしも高くはなかったようです。

『North American Review』1897年6月号

『North American Review』1897年6月号
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安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(26):Underwood Golden Touch Electric

2018年 2月 15日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Life』1956年11月26日号

『Life』1956年11月26日号
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「Underwood Golden Touch Electric」は、アンダーウッド社が1956年に発売した電動タイプライターです。この当時、アンダーウッド社の主力製品は、「Underwood Golden Touch Portable」「Underwood Golden Touch Standard」「Underwood Golden Touch Electric」といずれもGolden Touchを売りにしていて、「Underwood Golden Touch Electric」は、その最上位機種にあたるものでした。

「Underwood Golden Touch Electric」の特徴は、各キーの形にあります。半月形というか、ハート型を少し丸めたようなキートップは、爪を長くしていてもキーにひっかからない、という考慮のもとでデザインされています。各キーのストロークは、かなり小さ目に設計されていて、その意味でも「指に優しい」タイプライターです。キー配列は基本的にQWERTYで、最上段のキーは、小文字側に234567890-=が、大文字側に“#$%*&’()_+が配置されています。すなわち「2」のシフト側に「」があり、その一方「@」は、キーボード中段の大文字側にASDFGHJKL:@と並んでいます。

「Underwood Golden Touch Electric」は、電動タイプライターですが、印字機構そのものはフロントストライク式です。プラテンの手前には、43本の活字棒(type arm)が扇状に配置されていて、各キーを押すと、対応する活字棒が電動でプラテンの前面を叩き、印字がおこなわれます。ただし、複数のキーを同時に押しても、活字棒は1本だけしか動かず、ジャミングは避けられるようになっていました。また、キーボードの左右の端には、キャリッジ・リターン・レバーがあり、電動でプラテンを戻す仕掛けになっていました。空白、タブ、バック・スペース、黒赤インク・リボンの切り替えなど、ほぼ全ての機構が電動だったのです。ただし、シフト機構に関しては、左右のシフトキーを押すことで、タイプ・バスケット全体が下がる仕掛けになっていました。

なお、翌1957年、アンダーウッド社は、GoldenとTouchの間にハイフンを入れ、「Underwood Golden Touch Electric」を「Underwood Golden-Touch Electric」に改称しています。ハイフン無しの「Golden Touch」では商標を登録できなかったらしく、下の広告も含め、これ以後「Golden-Touch」で統一したようです。

『Life』1957年4月1日号

『Life』1957年4月1日号
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【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(25):Rem-Sho Typewriter No.2

2018年 2月 1日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Typewriter World』1898年4月号

『Typewriter World』1898年4月号
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「Rem-Sho Typewriter No.2」は、シカゴのレミントン・ショールズ社が、1898年に製造を開始したタイプライターです。レミントン・ショールズ社は、レミントン(Philo Remington)の甥フランクリン(Franklin Remington)と、ショールズ(Christopher Latham Sholes)の息子ザルモン(Zalmon Gilbert Sholes)が率いるタイプライター会社で、1896年に「Remington-Sholes Typewriter」を発売しています。「Rem-Sho Typewriter No.2」は、その後継にあたるタイプライターで、上の広告にもあるとおり、販売をハウ・スケール社に委託していました。

「Rem-Sho Typewriter No.2」は、38キーのアップストライク式タイプライターです。タイプバスケットに円形に配置された38本の活字棒は、それぞれがキーにつながっており、キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。打った文字をその場で見ることはできず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。活字棒の先には、活字が2つずつ埋め込まれていて、キーボード左下の「CAP」キーを押し下げると、タイプバスケット全体が手前にシフトし、大文字が印字されるようになります。「CAP」キーを離すと、タイプバスケット全体が奥にシフトし、小文字が印字されるようになります。「CAP」キーのすぐ上には、「CAP」をロックするための小さなキーがあります。

「Rem-Sho Typewriter No.2」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。最上段のキーは、大文字側に“#$%_&’()が、小文字側に23456789-が、それぞれ配置されています。その次の段は、大文字側にQWERTYUIOPが、小文字側にqwertyuiopが配置されています。その次の段は、大文字側にASDFGHJKL:が、小文字側にasdfghjkl;が配置されています。最下段は、大文字側にZXCVBNM?.が、小文字側にzxcvbnm,/が配置されています。筐体の右側に見える七角形のノブには、「RLRLR」と記されています。このノブは、インクリボンの進行方向を変えるもので、「R」に合わせるとインクリボンは右へ、「L」に合わせるとインクリボンは左へ、それぞれ動いていきます。1本のインクリボンを、全部で5回(2往復半)使うための仕掛けです。インクリボンの幅は35mm(1インチ3/8)もあって、片道ごとに7mm幅ずつ使うよう、「RLRLR」で少しずつインクリボンの位置が前後にずれる仕組みになっています。

レミントン・ショールズ社は、レミントン・スタンダード・タイプライター社とは直接の関係がなく、しかも1901年には商標訴訟に負けています。その結果、レミントン・ショールズ社は、フェイ・ショールズ社に社名を変更し、「Rem-Sho Typewriter No.2」も「Fay-Sholes Typewriter No.2」に改称せざるを得なかったようです。

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安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(24):Ideal Schreibmaschine

2018年 1月 18日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Sport & Salon』1902年5月3日号

『Sport & Salon』1902年5月3日号
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「Ideal Schreibmaschine」は、ドレスデンのザイデル&ナウマン社が、1900年に発売したタイプライターです。このタイプライターは、ニューヨーク州グロトンのバーニー(Edwin Earl Barney)とタナー(Frank Jay Tanner)が発明したもので、アメリカ特許は、ユニオン・タイプライター社からモナーク・タイプライター社へと引き継がれ、一部は「Monarch Visible」にも使用されたようです。一方、ドイツでは、当初「Ideal Schreibmaschine」という名で発売されましたが、その後にザイデル&ナウマン社が「Ideal B」を発売したため、それ以前の「Ideal Schreibmaschine」は「Ideal A」と呼びならわされるようになりました。ただし、実は「Ideal A」は、コレクターたちの地道な調査によって、現在では少なくとも4種類の異なるモデルが知られており、上の広告のモデルは「Ideal A1」と、下の広告のモデルは「Ideal A3」と呼ばれています。

「Ideal Schreibmaschine」は、42キーのフロントストライク式タイプライターです。円弧状に配置された42本の活字棒は、各キーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、キーボード左右端にあるシフトキーを押した状態では、タイプバスケットが少し持ち上がると同時に、プラテンが少し下に移動することで、大文字が印字されるようになります。また、フロントパネルの左端にはシフトロックボタンがあって、シフトキーを押し下げたままの状態にできます。これに加え、特徴的なのがキャリッジリターン機構で、フロントパネル右側のレバーを右に倒すことで、キャリッジリターンと改行がおこなわれます。プラテンに手を伸ばす必要が無いのです。

「Ideal Schreibmaschine」のキー配列は、各国向けごとにバラバラです。下の広告のモデルはフランス向けらしく、いわゆるAZERTY配列です。すなわち、上段の小文字側がazertyuiop^で、中段がqsdfghjklmùで、下段がwxcvbn,;:=です。最上段は锑(-è_çà)と並んでおり、アクセント記号付きの小文字が準備されているのが特徴的です。なお、アクセント記号付きの大文字や「ÿ」等を打つ場合は、バックスペースキー(「Q」のすぐ左)を駆使して、シングルクォートやトレマ等と重ね打ちします。2~9の数字は、最上段のシフト側に配置されていて、数字の0は大文字の「O」で、数字の1は大文字の「I」で代用します。その一方、ドイツ国内向けの「Ideal Schreibmaschine」のキー配列は、基本的にQWERTZ配列でした。イギリスやアメリカ向けはQWERTY配列という風に、それぞれ各国向けのモデルを生産しており、さらには特注のキー配列も受注生産していたようです。

『Typewriter Topics』1907年8月号

『Typewriter Topics』1907年8月号
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安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(23):Smith Premier No.1

2018年 1月 4日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

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『Phonographic Magazine』1893年1月1日号

『Phonographic Magazine』1893年1月1日号
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「Smith Premier No.1」は、スミス(Lyman Cornelius Smith)率いるスミス・プレミア・タイプライター社が、1889年に製造・販売を開始したタイプライターです。スミスは、ニューヨーク州シラキューズで、L・C・スミス・ショットガン社を経営していましたが、ショットガンの特許と製造権をハンター・アームズ社に売却し、タイプライターの製造・販売に乗り出したのです。なお、上の広告の時点では、このタイプライターは「Smith Premier Typewriter」と呼ばれていましたが、その後「Smith Premier No.2」の発売に伴って「Smith Premier No.1」と呼ばれるようになりました。

「Smith Premier No.1」は、大文字も小文字も数字も記号も、全て一打で打つことができる、という点を売りにしていました。76本の活字棒(type bar)は、プラテンの下に円形にぐるりと配置されていて、キーボードの各キーにそれぞれ対応しています。各キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。「Smith Premier No.1」は、いわゆるアップストライク式タイプライターで、印字の瞬間には、印字された文字を見ることができないのです。

「Smith Premier No.1」のキーボードは76字が収録されており、大文字小文字が、全て別々のキーに配置されています。標準のキー配列では、キーボードの最上段は“QWERTYUIOP#と、その次の段は&ASDFGHJKL:$と、その次の段は2ZXCVBNM!?-6と、その次の段は3qwertyuiop7と、その次の段は4asdfghjkl;8と、その次の段は5zxcvbnm,.’9と、最下段は左右のスペースキーに挟まれて/()%と並んでいました。数字の「0」は大文字の「O」で、数字の「1」は大文字の「I」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。

1893年にスミスは、スミス・プレミア・タイプライター社の株式を、ユニオン・タイプライター社に売却しています。経営権はスミスに残されたことから、そのままスミス・プレミア・タイプライター社の経営を続けますが、結局スミスは1903年にスピンアウトし、新たにL・C・スミス&ブラザーズ・タイプライター社を設立しています。

『Phonographic World』1891年12月号

『Phonographic World』1891年12月号
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安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(22):Bar-Lock No.2

2017年 12月 21日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『The Author』1891年1月号

『The Author』1891年1月号
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「Bar-Lock No.2」は、スピロ(Charles Spiro)が発明したダウンストライク式タイプライターで、ニューヨークのコロンビア・タイプライター社が1890年に発売したものです。コロンビア・タイプライター社は、ヨーロッパへの輸出も精力的におこなっていて、上の広告の時点では、ロンドンのタイプ・ライター社を中心とする販売網を展開していました。この頃のコロンビア・タイプライター社の主力製品は、「Bar-Lock No.2」と「Bar-Lock No.3」だったのですが、「Bar-Lock No.3」はプラテンの幅が14インチで、本体幅より長いプラテンを搭載していました。その点を考えると、上の広告は「Bar-Lock No.2」を描いていると思われます。

「Bar-Lock No.2」の特徴は、プラテンの手前に屹立した72本の活字棒(type bar)にあります。活字棒は、それぞれがキーに繋がっていて、キーを押すと、対応する活字棒がプラテンの上面に打ち下ろされます(ダウンストライク式)。プラテンの上面には紙とインクリボンが置かれていて、印字の瞬間には、インクリボンごと活字棒が打ち下ろされるのです。打ち下ろされた活字棒は、バネの力で元の位置に戻ります。すなわち、プラテンの上面で印字がおこなわれるので、オペレータが少し上から覗き込めば、印字された文字が直接見えるのです。

「Bar-Lock No.2」のキーボードは、12字×6列=72字が収録されており、大文字小文字が、全て別々のキーに配置されています。標準のキー配列では、キーボードの最上段は2QWERTYUIO67と、その次の段は3ASDFGHJKL89と、その次の段は45ZXCVBNMP-£と、その次の段は&qwertyuio?;と、その次の段は()asdfghjkl_と、最下段は/’zxcvbnmp,.と並んでいました。数字の「0」は大文字の「O」で、数字の「1」は大文字の「I」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。

「Bar-Lock No.2」のプラテン幅は9インチ(23センチメートル)あり、筐体の高さもほぼ9インチです。筐体は全て鉄製で、重さは26ポンド(約12キログラム)もありました。そう考えると、上の広告に描かれている「Bar-Lock No.2」は、実際の大きさに較べると、少し小さ過ぎるように思えます。「Bar-Lock No.2」は、女性一人で持ち運ぶには、かなり重たいタイプライターだったのです。

『Business』1891年10月号

『Business』1891年10月号
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安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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広告の中のタイプライター(21):Monarch No.2

2017年 12月 7日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『International Studio』1910年7月号

『International Studio』1910年7月号
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「Monarch No.2」は、モナーク・タイプライター社が1905年頃に発売したタイプライターです。フロントストライク式タイプライターを開発すべく、ユニオン・タイプライター社の配下で創立されたモナーク・タイプライター社でしたが、売上においては非常に苦戦しており、この広告の時点では、製造部門をレミントン・タイプライター社と統合せざるを得なくなっていたようです。

「Monarch No.2」は、42キーのフロントストライク式タイプライターで、円弧状に配置された42本の活字棒(type arm)が、ライバルの「Underwood Standard Typewriter No.5」に酷似しています。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、キーボード最下段の左右端にある「SHIFT KEY」を押した状態では、タイプ・バスケット全体が持ち上がって、大文字が印字されるようになります。また、キーボード最上段の左端には「SHIFT LOCK」キーがあって、タイプ・バスケットを持ち上げたままにすることができます。

「Monarch No.2」のキー配列は、ユニオン・タイプライター社の標準であるQWERTY配列です。キーボードの最上段は、234567890-が小文字側に、“#$%_&’()¾が大文字側に並んでいます。次の段は、qwertyuiop½が小文字側に、QWERTYUIOP¼が大文字側に並んでいます。その次の段は、asdfghjkl;¢が小文字側に、ASDFGHJKL:@が大文字側に並んでいます。最下段は、zxcvbnm,./が小文字側に、ZXCVBNM,.?が大文字側に並んでいます。数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。最上段の右端には「BACK SPACE」キーがあり、そのさらに右上には「TAB KEY」と「MARGIN RELEASE」キーが配置されていました。

「Monarch No.2」は、赤黒2色のインクリボンに加え、タビュレーション機構や、タイプ・バスケットの上下によるシフト機構など、当時としては画期的なフロントストライク式タイプライターでした。しかしながら、先行する「Underwood Standard Typewriter No.5」のシェアを奪うには至らず、かなり苦戦を強いられていたようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


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