地域語の経済と社会 第90回

2010年 3月 13日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第90回「よう来てくったっせ―手作りポスターでお出迎え(新潟県村上市)―」

 昨秋から今冬にかけて、JR村上駅の待合室や駅前の観光案内所などに、村上の方言を紹介するポスターが掲示されました。

 制作は、新潟県村上地域振興局の職員の方々5名による手作り。

 単語を一覧にした「村上ことば」は、バックの柄を変えて2種類作られ、お持ち帰り用のA4サイズも設置されました。

村上ことばポスター1村上ことばポスター2
(画像はクリックで拡大表示)

 さらに、「村上ことば その1~5」と題して、会話文を示したポスターも5種類作られました。

①「村上にはうんめもんがふっとつあるすけ、腹くっちょなるまで食べていげっしゃ。」
訳:村上にはおいしいものがたくさんあるので、お腹いっぱい食べていってください。

②「村上によう来てくったっせ。まず、上がってねまれっしゃ。」
訳:村上によく来てくださいました。まず、上がって座ってください。

③「そろそろ帰ります。」「おおきにはや、また村上にけぇ。」
訳:そろそろ帰ります。どうもありがとう。また村上に来てください。

④「村上はいいところですね。」「だーまた、そうらっせ。山もあるし、海もあるし、また遊びにこいっしゃ。」
訳:村上はいいところですね。もちろんそうですよ。山もあるし、海もあるし、また遊びに来てください。

⑤「さあっす、電車に乗り遅れたなあ。」「おらこに泊まればいいすけ、あんじことないっせ。」
訳:さあ大変。電車に乗り遅れてしまった。私のところに泊まればいいから、心配することないですよ。

 こちらも、地元の方々との会話を楽しんでもらいたいとの思いが込められた力作です。

 ところで、村上の「うんめもん」となると、まず鮭に注目したいところですが、いただく前に、「イヨボヤ会館」に足を運んで、しっかり勉強もしておくと、味わいが深まるのでは。

 鮭を「イヨボヤ」と称する村上方言では、鮭に関する方言が「カナ」[雄鮭]・「メナ」[雌鮭]・「アソビザケ」[正月過ぎにくる鮭]など、20語以上もあって、鮭に本当に親しんでいることがわかります。

 3月に開催される「人形さま巡り」に向けて、村上地域振興局の職員の方々の間では、あらたにポスター制作や方言のテープ吹き込みも予定されているとの由。

 春休みは、村上に「行こかね~」。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

大橋敦夫先生監修の本大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

* * *

この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。


地域語の経済と社会 第89回

2010年 3月 6日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第89回「海外の方言事情(台湾語の看板)」

 台湾では、1980年頃から原住民の間でもともとの文化を絶やしてはならないという機運が高まりました。それと時を同じくして台湾人も台湾語(閩南語・みんなんご)を復活させようという活動が展開されました。台湾の教育には、北京語が国語として使用されています。北京語が国語だとすると、台湾語は、方言の一種と考えることができます。

 楊盈璋(ヤン・インザン)さん(明海大学博士後期課程1年在学)は、台湾の南にある屏東(ピンドン)市出身ですが、北京語の普及政策のため小学生の頃(1972年頃)は、台湾語で話すと罰金箱に1元入れるという制度があったそうです。その罰金で学級の備品をいろいろ購入したそうです。方言札はなかったそうです。楊さん(楊家19代目・先祖は清の時代に中国大陸の福建省から移住したそうです)は、客家(ハッカ)族ですので、家では客家語、近隣の人たちとは台湾語(閩南語)、学校では、北京語(国語)という生活を送りました。客家語も台湾語も文字を持ちません。台湾語には、北京語の漢字を当てました。現在、街角で見受ける看板は、ほとんどが北京語ですが、いくつか台湾語の例を見つけたので紹介します。取材をしたのは、台北から列車で約2時間南へ下った苗栗市(ミャオリー市)です。

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

 最初にとりあげるのは、「旺伯」「古早味」【写真1】です。「(親しみをこめて呼ぶときの)旺おじさん」の店、「昔の味」という意味です。「旺伯」は、北京語では「ワン・ポォ」ですが、台湾語では「オン・ペア」と発音します。「旺」には、「縁起が良い、繁栄」の意味がありますが、年配の男性の名前です。「古早味」は、台湾語で「グー・ザォ・ウェ」ですが、北京語にはこの表現がありません。このお店では、冷たい緑茶や紅茶を売っていて、20元(約60円)で300mlくらいの大きな容器に入ったお茶がテイクアウトで飲めます。

 「日昇百貨行」【写真2】の「百貨」は、北京語では、「バイ・ホー」と発音しますが、台湾語では、「パー・フォエ」と言います。台湾に残存する日本語とも考えられます。いろいろな品物を扱う店という意味です。「行」(ハン)は、日本語で「果物屋」などに使う「~屋」を意味します。北京語では、「行號」です。

【写真3】【写真4】
(左)【写真3】 (右)【写真4】

 次の「培元文具行」【写真3】の「行」も「日昇百貨行」の「行」と同じ意味です。文房具店の看板ですが「文具」は、北京語では「ウォン・チュ」、台湾語では「ブング」です。台湾語は、基本的に呉音に由来するので、日本語の発音にたいへん近いのですが、台中、台南に住む方の話では、日本語から取り入れた可能性もあるとのことです。

 写真4の看板の最初の漢字は、「しょうが」(生姜)という意味の古い漢字です。台湾語で「キュン・ボア」と言いますが、生姜で煮た鴨の料理です。冬食べると体が温まる台湾独特の冬の料理です。このように台湾語を北京語に当てはめて表記する看板の多くは、台湾ならではの産物であることを強調する効果をねらっています。

 今回は、臨時号として海外の方言事情、台湾語を取り上げました。真理大學助理教授の郭碧蘭さんにもご意見をいただきました。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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地域語の経済と社会 第88回

2010年 2月 27日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第88回 高知県四万十市の「あきついお」

 このほど“日本最後の清流”として知られる高知県の四万十川に出かけ、四万十市内にある博物館「あきついお」を訪ねました。

「あきついお」(四万十川学遊館)
【写真1】「あきついお」(四万十川学遊館)

 「あきついお」とは……? ちょっと変わった名前ですが、実は、「あきつ」と「いお」からなり、四万十川流域を中心とした、昆虫のトンボと、川魚とを集めた学習・観光施設です。

 「あきついお(四万十川学遊館)」という名前と表記からもわかりますが、楽しく遊びながらしっかり学んでもらいたいという思いが込められています。

 設立者は「社団法人・トンボと自然を考える会」です。四万十川流域には約90種のトンボと、約200種の魚がいるということですが、「あきついお」には日本はもとより、海外まで含めてトンボの標本1000種、3000点、魚300種、2000点が展示されています。

 トンボのことを、日本では古くは「あきづ」(蜻蛉、秋津)、のちに「あきつ」(中古以降)と言ったことが知られています。

 トンボを意味する方言は、『日本方言大辞典』(徳川宗賢ほか編、小学館、平成元年=これまでに全国各地で発行された方言集や方言辞典、およそ1000冊を集大成し、約20万語もの方言での言い方を収録した、日本で最大の方言辞典)によると、全国でこれまでに知られているだけでも、実に189種類にものぼります。

 この辞典をベースにして、共通語形から引けるようにしたのが『標準語引き 日本方言辞典』(佐藤亮一監修、小学館、平成16年)ですが、同書によると、トンボのことを「あきつ、あけず」などと言う(言った)地域は、主に北の東北地方と、遠く離れた南の九州・沖縄です。「ゐなかには、いにしへの言の残れること多し」(本居宣長『玉勝間』)と言われる、その例のひとつです。

 国立国語研究所編『日本言語地図』(全6巻)にもこの項目があり、その一般向けの簡略版ともいうべき『日本の方言地図』(徳川宗賢、中公新書)にも全国の分布図と解説があります。

 インターネットの「Web水族館 全国水族館ガイド」には「高知県の言葉で「あきつ」はトンボ、「いお」は魚で、「あきついお」の名称となっている」とありますが、『高知県方言辞典』(土居重俊)には、「いお」(=魚)はありますが、「あきつ」は見られません。

 そうなると、館名の「あきついお」は、古語+方言と見るべきでしょうか。

「いおワールド」(鹿児島市)
【写真2】「いおワールド」(鹿児島市)

 なお、同様の命名をしたのが、鹿児島市にある「いおワールド かごしま水族館」です。魚を意味する「いお」と、その多様な世界=「ワールド」を見てもらおうと名づけられたものです。

《参考》高知県四万十市の「あきついお」はhttp://www.gakuyukan.com/index2.html、鹿児島市の「いおワールド」はhttp://www.ioworld.jp/ の、各ホームページを参照。

写真提供:「あきついお」、「いおワールド」

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
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地域語の経済と社会 第87回

2010年 2月 20日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第87回「方言切手と方言詩 Dialect postage stamps and dialect poem 」

 2009年にCD付き方言切手が発行されたというニュースがありました。切手といっても「フレーム切手」で、個人でも作れるものです。切手カタログにも載りません。ただ郵便局のホームページに通し番号がついた全リストがあります。方言切手の一覧表を作りました(末尾参照)

 4種類の実物の画像はインターネットのあちこちのサイトで見られますので、リンクをはりました。下線のついた部分をクリックするとそのページに飛びます。

  1. 新潟弁切手第1集  http://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_06_04_609021801.pdf
  2. 新潟弁切手第2集(秋・冬) http://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_06_04_609081901.pdf
  3. 津軽弁切手「津軽弁でしゃべる」CD付きhttp://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2009/document/3001_02_04_209102201.pdf
  4. 富山弁切手「富山弁でいかんまいけ!」http://www.jp-network.japanpost.jp/notification/pressrelease/2010/document/3001_07_04_710011401.pdf

 1の新潟弁切手第1集はスタマガネット(株式会社郵趣サービス社 http://www.yushu.co.jp/shop/)の通販で注文しました。2の新潟弁切手第2集と、3の津軽弁切手、4の富山弁切手は、通信販売はしないそうで、それぞれ地元の人に頼みました。料金に比べて高いものを買い、送料を払い、しかも退蔵するわけですから、郵便局株式会社にはかなりの貢献をしたことになります。

 ところで「津軽弁でしゃべる」切手は、あの小さな切手にどんなふうにCDを付けるんだろうと、心配したのですが、切手ケースにCDが1枚付いているものでした。地元出身のタレント伊奈かっペいさんの方言漫談が入っています。

 CDの最後に面白い試みが吹き込んであります。津軽の方言詩は有名ですが、他地方の人には分からないという不利・不平等があります。それを克服するために、津軽弁が分かるかどうかに左右されない方言詩を、作ったそうです。方言による芸術に関心のある人は、ぜひとも聞くべきです。しかし、実はせっかく買って聞いても、無意味です。どこの人にも誰にもまったく意味不明の単語を並べた詩を、唱えているのですから…。

郵便局株式会社 支社企画のフレーム切手 方言編
番号 発行日 名称 発行部数
シート
販売期間
(終了日)
販売地域
299 2009.3.2 新潟弁 2,000部+3,000部
オリジナル
2009.8.31 新潟市内の計115局
535 2009.9.1 新潟弁(秋・冬) 2,500部
オリジナル
2010.3.31 新潟市、五泉市、阿賀野市、新発田市、胎内市、東蒲原郡、北蒲原郡内の計171局
682 2009.11.13 津軽弁でしゃべる 8,000部
オリジナル
2010.2.12 青森県内の全局と仙台中央局
711 2009.12.11 富山弁でいかんまいけ! 1,500部+500部
大型
2010.3.10 富山県内の全212局

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
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『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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地域語の経済と社会 第86回

2010年 2月 13日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第86回「方言看板・ポスター『類』」

 この連載で紹介している,方言の拡張活用の種類について,第31回で整理しました。その⑥を,道徳啓発のための非営利的な方言の利用の「方言看板・ポスター」としました。この種のものはほとんどが,看板やポスターを伝達媒体としているからです。

 この連載でも,これまで5回,紹介しています。第8回(交通安全:大分)第24回(自転車・バイクの通行/歩きたばこ禁止:京都)第43回(自転車の通行:福岡)第63回(飲酒運転防止:宮崎)第78回(安全運転:宮崎)です。

【写真1】レシートの裏のメッセージ
【写真1】レシートの裏のメッセージ
(クリックで全体を表示)

 そういうなか,看板やポスター以外による道徳啓発の方言活用の例がありました。今回は,まず,これを紹介します。

 岩手県で不正軽油防止を呼びかける「絶対わがね! 不正軽油」です【写真1】。ガソリンスタンドの「レシートの裏面」を利用しています。レシートは,幅5.6cmの,スーパーなどでも使っているごく普通のものです。小さいですが,そのメッセージが一人一人に行き渡りますね。

 メッセージのうち,「わがね」のところが,岩手県盛岡市あたりの方言です。意味は「ダメ」です。

 元は,「わからない」です。東北地方の方言で,「ダメ」の意味でよく使われる表現です。

 それがこの方言の音韻の特徴(詳細はここでは省きます)により,[ワガンネァー]から[ワガネ]と変化したものです。

【写真2】自殺防止キャンペーンのポスター
【写真2】一人じゃありませんよ。
(クリックで全体を表示)

 今回,レシートを伝達媒体とする方式が確認されましたので,「看板・ポスター」に『類』を加え,この種のものを,「方言看板・ポスター類」と呼ぶことをあらためて提案します。

 岩手の「方言看板・ポスター類」には,最近(2009年12月)出たものがあります。道徳啓発としては少々重いテーマですが,自殺防止キャンペーンのポスターです【写真2】。

 メッセージは「おめはん 一人じゃながんすべ」で,岩手県盛岡市あたりの方言です。意味は「あなたさん,一人じゃありませんよね(あるいは)一人じゃないんでしょ」です。

 「おめはん」は「お前さま」の転で,岩手の方言では,丁寧語また尊敬語の第二人称代名詞です。「ながんす」は「ない」の丁寧表現です。「がんす」は岩手の丁寧表現法として,第21回第66回第61回の〔補遺〕),第81回で紹介しています。「べ」は「べー」で,ここでは確認の用法です。この方言の音韻の特徴により短音化しています。

 自殺防止での方言利用は,方言で語りかけることが,人の心を解きほぐす効果が特に大きいからですね。

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『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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地域語の経済と社会 第85回

2010年 2月 6日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第85回「もてなしの方言(長野・新潟/落穂ひろい)」

(画像はクリックで全体を表示)
おいでなしておでやれ
左:【おいでなして】 右:【おでやれ】

 JRグループが各地の観光関係者と協力して進めている「デスティネーションキャンペーン」。2010年の今年一年は、新潟県から長野県へ、バトンが渡ってきました。昨秋から、前ぶれとしてのチラシを見かけるようになり、年が改まってからは、駅構内のPRを見ると、いよいよ力が入ってきた感じがします。

 そこで、JR線の各駅をフィールドワークの対象にし、さらに地域の観光案内パンフレット等を集めてみました。

ちょっ蔵おいらい館
【ちょっ蔵おいらい館】
*は、方言名の施設(第13回参照)。
※は、関連のある表現。
1 おいでなして 長野市 長野
2 おでやれ 長野市鬼無里
3 *ちょっ蔵おいらい館 長野市
4 ※歩いてみましょ 松本市
5 来てくんないね 上越市直江津 新潟
6 *キナーレ 十日町市
歩いてみましょ
【歩いてみましょ】

 1「おいでなして 長野」は、ながの観光コンベンションビューローが関係する催しのポスターの壁紙として、使われています。同ビューローでは、PR上、長野市内を善光寺・松代・飯綱・鬼無里・戸隠の5地域に分け、そのブランド化を進めており、2009年は、「鬼無里イヤー」にあわせ、2「おでやれ 鬼無里」をキャッチコピーにしたとのことです。

 なお、長野市内には、江戸時代の商家を展示ギャラリーに利用した3「ちょっ蔵おいらい館」(長野市立博物館付属施設)があります。「ちょっとお出でください」の語呂合わせによる命名です。

 また、JR松本駅にある駅スタンプを置いた机には、4「さあ、ずくだして歩いてみましょ」の標語を掲げた地図が無料配布でおかれ、松本平の方言も数語紹介されています。「ましょ」は、敬意を込めた勧誘です。(「ずく」は第5回参照)。

来てくんないね
【来てくんないね】

 5「直江津の祇園祭にも来てくんないね」は、直江津地区連合青年会作成の案内パンフレットに掲げられています。

 6「越後妻有交流館キナーレ」は、温泉付観光施設。十日町の方言で、この場所に来てくださいという意味の「来なされ」と、地域の特産品である着物を着てくださいという意味である「着なされ」とをかけて名づけられたそうです。

 取り急ぎ第44回の落穂ひろいをしましたが、まだまだ、見つけられそうな気もします。

 今年は、ぜひ信州においでなして!

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上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

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地域語の経済と社会 第84回

2010年 1月 30日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第84回「おいしい方言(静岡県)」

(画像はクリックで拡大します)
【写真1】
【写真1】「うめえら!」
【写真2】
【写真2】「ふんとにうみゃあぜ
 飲んでみにゃん」

 今回からしばらくは、方言みやげなどに登場する「おいしさ」にまつわる表現について、何回かに分けて紹介していきます(ただし、筆者が担当する回について)。まずは、静岡県伊豆半島で見つけた方言です。“しぞーか”弁(静岡を地元では、“しぞーか”と呼びます)です。

 「うめえら!」(おいしいだろう!)【写真1】の「ら」は、推量の助動詞で、共通語の「だろう」の意味です。静岡県伊豆地方だけでなく、愛知県渥美半島、岐阜県美濃、長野県中部地方などにも分布しています。伊豆地方では、「あそこにあるら」(あそこにあるだろう)、「あしたは、雪んふるらなー」(あしたは雪がふるだろう)のように「ら」を使います。

【写真3】【写真4】
(左)【写真3】「う宮(ウミャー)」
(右)【写真4】「チョックラ 飲んで
 みらっしぇ」

 「ふんとにうみゃあぜ 飲んでみにゃん」(ほんとにおいしいよ 飲んでみて)【写真2】の「ふんとに」は、「ほ」が「ふ」に置きかわって、「ほんとうに」という意味です。「ふんと、ふんと」などと、うなずきながら繰り返したりします。「うみゃあ」(おいしい)は、「う宮(ウミャー)」のように富士宮市でも用いられている例があります【写真3】。

 「チョックラ 飲んで みらっしぇ」【写真4】の「チョックラ」は、「ちょっと」の意味です。「ちょっくらちょいと」の形でゴロ合わせで使われることもあります。「ちょっと飲んでみなさいよ」といった意味です。

 写真4は、昼時の混みあうマリンセンターで見つけたのですが、インフルエンザの予防のためマスクをしていました。「飲んでみらっしぇ」というので、試飲するためには、マスクをはずさなければなりません。また、聞こえた方言はしっかり書きとめたり、録音しなければならないし、筆記用具、マスク、試飲用のコップ、カメラと手一杯の取材となりました。何事も「ちょっくら」とはいかないのです。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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地域語の経済と社会 第83回

2010年 1月 23日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第83回 NHK宮崎放送局の「いっちゃがTV」

 全国各地の放送局には、地元の方言を活かしたユニークで個性的な番組があります。

 NHK宮崎放送局には、平日夕方の地域情報番組「いっちゃがTV(テレビ)」があり、番組名が方言で名付けられています。

【「いっちゃがTV」の番組タイトル】
【写真1】「いっちゃがTV」の番組タイトル

 平成12年4月から放送されており、まもなく丸10年。県内各地の多様で多彩な情報が得られると好評を博しています。(総合テレビ、月~金、午後5:05~6:00放送 )

 「いっちゃが」とは〔いいんだよ〕という意味あいの語で、「いい」+「と」+「じゃ」+「が」の変化したものです。共通語の「良い+の+だ+よ」に相当します。

 メインキャスターは宮崎市出身の百野 文(ひゃくの・あや)さんで、彼女が番組内で使うことばは基本的には共通語ですが、相手や状況に応じて、宮崎の方言も交えて話せるのが強みです。明るいキャラクターとも相まって、番組発足以来、キャスターを続けて、番組を支えています。

 「宮崎県民を愛し、宮崎県民に愛される番組をめざす」というのがこの番組のねらいで、毎回その話題にゆかりの人たちが生放送のスタジオに……。毎年、800人から1000人近い人がこの番組に登場するということです。

 番組で取り上げている代表的なトピックとしては、宮崎の旬の食材、話題の人物インタビュー、大学・商店街めぐり、中学校紹介、町おこしの話題、手芸・園芸講座、ライブ演奏、カルチャー情報、医療情報、県内各地のイベント紹介……などがあり、バラエティーに富んでいます。

 「方言」関係では、月に3回、水曜日には「宮崎弁研究所」というコーナーがあり、西都市出身の寺原重次さん(宮崎県語り部の会会長)が宮崎方言の魅力や意味・用法などについて解説をしています。

【「宮崎弁研究所」の一場面】
【写真2】「宮崎弁研究所」の一場面

 またその研究員で、劇団「いもがら」の役者、中所美紀(なかじょ・みき)さん(日南市出身)が宮崎方言を駆使して「げなラップ」を作り、振り付けも考えて、保育園・幼稚園の子供たちから、友人どうし、家族そろって、職場のメンバーなど、番組でいっしょに踊るグループを募集し、画面で紹介しています。

 「げな」はひとから聞いたこと=伝聞を表す〔~だそうだ〕という意味です。

 また、第1~3木曜日放送の「てげてげ休日」というコーナーは、暮らしを豊かにする趣味や実用に関するノウハウを紹介しています。

 「てげてげ」は第78回で取り上げた「てげてげ運転」と同様です。「あくせくせずに、のんびりほどほどに、楽しく休日を過ごしましょうよ」という提案と呼びかけの意味あいが込められています。

 以上のように、番組名や各コーナーに方言でネーミングをし、また話題としても方言を取り上げることによって、地元の視聴者によりいっそう身近に感じ、親しみを持ってもらおうという意図が伝わってきます。

《参考》NHK宮崎放送局のホームページに「いっちゃがTV」の概要が写真入りで紹介されています。中所さんが踊っている「げなラップ」の動画も見ることができます。
写真提供:NHK宮崎放送局

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
 大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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地域語の経済と社会 第82回

2010年 1月 16日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第82回「新潟弁の方言カルタ ― 新方言「なまら」の使い方」

 方言は色々な形で楽しまれています。正月にふさわしい遊びのかるたにも、方言を生かしたものがあります。2009年暮れにかつての教え子が新潟弁の新しいカルタを送ってくれました。読み札に方言が使ってあって、小さな字で意味が書いてあります。

 新潟弁といえば、前から気になっていたことがありました。北海道の若者の新方言として、「なまら」が「大変」の意味で使われるのですが、離れた新潟県でも同じ言い方をするのです。さっそく新潟弁かるたの読み札をめくりました。ありました!

 「なまらでねんて 金銀財宝 掘り当てた」【写真1】

【写真1 新潟弁かるた】
【写真1】
(クリックで拡大)

 と書いてあります(ふり仮名が余分についているのはサービスと考えましょう)。意味は「ものすごい」です。「大変」の意味の「なまら」は、新潟から北海道に伝わったのだという説があります。このかるた、新潟弁起源の証拠になるでしょうか。

 ところで、インターネットで検索すると、「全国郷土かるた資料館」が出てきます。なんと数百点の「全国の郷土かるた」が、県ごとにリストアップされています。丹念にダウンロードして、方言をテーマにしたものを数えたら、2010.1.1版で計72点もありました。

 方言を使うかるたは、東北と九州に多くて関東に少なく、37都道府県に見られます。平成期になって多くなったようです。2009年に各地の民間放送局などで出したものが目立ちます。失われつつある方言をいとおしむ気持ちが強くなったことが、底流にあるのでしょう。最近のいくつかはCD付きですので、ランダム再生の機能を使えば、一人でも遊ぶことができます。少子化の時代にはありがたい技術です。

 なおこのシリーズでも、第33回 「方言かるた」あれこれ第35回「方言かるた(おまけ)」でとりあげています。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

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皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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地域語の経済と社会 第81回

2010年 1月 9日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第81回「ケセン語メッセージ」

 あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

 さて,岩手県の太平洋沿岸地帯の南端部は,以前,「気仙(けせん)郡」でした。現在の行政区域では,釜石市唐丹(とうに)町・気仙郡住田町・大船渡市・陸前高田市です。場所を地図で確認してください。

よくいらっしゃったねぇ
【写真1】よくいらっしゃったねぇ
またいらっしゃいよ
【写真2】またいらっしゃいよ

 今回は「ケセン語メッセージ」を紹介します。

 「ケセン語」とは,大船渡市の医師で方言研究家の山浦玄嗣(やまうらはるつぐ)さんによる,この地域の方言の呼び方です。日本語の中の「気仙方言」ではなく,別言語というわけです。この文章も,山浦先生の呼び方に合わせます。

恋し浜
【写真3】恋し浜
(クリックで全体を表示)
遠野の「~がんせ」
【写真4】遠野の「~がんせ」

 ケセン語メッセージは,三陸鉄道に2例あります。「三陸さぁ よぐきゃんしたねぇ!」(三陸に,よくいらっしゃったねぇ)【写真1】と「三陸さぁ まだきしゃっせんよ!」(三陸に,またいらっしゃいよ)【写真2】です。

 「三陸」と言っても広いのですが,ここでは「気仙地域」を指しています。三陸鉄道には,ケセン語の地域を走る「南リアス線」のほか「北リアス線」がありますが,この両メッセージは,北リアス線の地域では聞かれない,ケセン語の表現です。南リアス線の一部の車両に掲示され,両方とも大船渡市の国立公園内の有名な景勝地の写真が使われています。

 また,大船渡市の「恋し浜」(こいしはま)駅にもあります。「寄ってがっせんやぁ~ 恋し浜駅」(寄ってらしてくださいな 恋し浜駅)【写真3】です。

 「がっせん」は「ございませ」(「ございます」の命令表現)に由来します。同じ由来から,日本語(?)岩手県盛岡方言や遠野方言では「がんせ」【写真4】,岩手県宮古方言では「がん/がーん」となります。

 「がんせ」の終止形が「がんす」で,第21回の「がんすけどん」のもとです。

駅誕生のとき詠まれた短歌
【写真5】
(クリックで拡大)

 なお,「恋し浜」駅は,以前は「小石浜」駅でしたが,駅名(表記)を昨年2009年7月20日に改めました。新しい表記は,駅誕生のとき(1985年),それを祝って地元住民が詠んだ短歌「三鉄の 愛(藍)の磯辺の 小石(恋し)浜 かもめとまりて 汐風あまし」【写真5】にちなんだものだそうです。

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言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

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